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第33話 幸せにしたい
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実験の結果、現在の配送方法に加え、ロニー様の魔法を利用して、ザブンで採れた魚を配送することになった。
細かなことはロニー様とユリナーテ様で試行錯誤しながら決めていくそうだ。
氷魔法での配送は比較的近い地域へ。
ロニー様の魔法での配送は遠く離れた王都へ。
配送に問題がないか、『状態維持』魔法がバレないか確かめる為にも、しばらくはデリーノ伯爵家経由で魚を王都へ卸すことになった。
魚の卸しに携わるにあたり、責任者はケント様がつとめることに。
これからますますロニー様、ユリナーテ様とのやりとりが増える。
***
ロニー様、ユリナーテ様が帰っていき、しばらく経ったある日。
ケント様と私は、離れに呼ばれた。
「ケント、すまない。お前に婚約の申し込みがあった。今回ばかりは断れない」
アレン様がケント様に頭を下げた。
「やめてください。この家に生まれたからには政略結婚の覚悟はできています」
「相手はモリーヌ・ラザ-ニア公爵令嬢だ。お前に婿に来いと言ってる」
「えっ、僕はこの伯爵家の、デリーノ伯爵家の跡取りですよ?」
「ああ、そうだ。跡取りのお前に婿に来いと……しかもモリーヌ嬢は元タントン男爵令嬢だ」
「えっ…………モリーヌ様には婚約者がいましたよね?」
つい私まで口を出してしまった。
「彼女がラザーニア公爵に引き取られた後、婚約解消したそうだ」
「あなた、ラザーニア公爵家で何かあったんですか?どうしても断れないの?だって彼女のせいでケントは引きこもったんですよ?」
ジョセフィーヌ様も婚約話に反対らしい。
「公爵家跡取りであったギート様が事故に巻き込まれ……後を継げなくなったそうだ。詳しいことはわからない。
公爵は庶子であるモリーヌ嬢を引きとって婿をとるそうだ。子供がいないタントン男爵は公爵に頼まれ、自分の娘として彼女を育てていたらしい。婚約の申し込みは、ケントに婚約者がいない以上、伯爵家の我が家から断るのは難しい」
「そんなぁ……相手はあの彼女ですよ?」
ジョセフィーヌ様が崩れ落ち、セスに支えられ、部屋へと戻っていった。
「モリーヌと婚約?彼女とだけは絶対に無理です。それに僕はこれからザブンと共同で事業を始めるんです。デリーノからは動けません。動きたくない……本当にどうにもなりませんか?」
「リナさん、君はケントをどう思う?」
突然、アレン様に問われ、動揺する。
「えっ、どうとは……」
「ケントの嫁に、デリーノ次期伯爵夫人になってはもらえないだろうか?」
「父さんっ!!」
ケント様のアレン様を非難するような悲痛な叫びが。
「それしか、それしか方法はないんだ……ロニー様から聞いたよ。リナさんは〈神贈り人〉という特別な存在なんだって。君との婚約話があるのなら、公爵からの申し出も断れるはずなんだ。すぐに婚約しなくていい。話があるというだけでいいんだ」
「父上っ!!リナを巻き込まないでくれっ。彼女には彼女の幸せをみつけて欲しい。リナを巻き込むくらいなら、僕はモリーヌとの婚約話を受けるよ」
「アレン様、少し時間を、時間をいただけませんか?ケント様と2人で話す時間を」
「ああ、もちろんだ。リナさん、ケントの事をお願いします」
アレン様が私に向かって頭を下げる。
「父上……」
ケント様が悔しそうに拳を握るのが目に入った。
彼に『幸せをみつけて欲しい』と言われ、すごく、すごく、嬉しかった。
ケント様、私も同じ気持ちだよ。
誰かに強制されるのではなく、あなたにはあなたの幸せをみつけて、幸せになって欲しい。
その為なら私は……仮初の婚約者になっても構わない。
私がこの世界に飛ばされてからというもの、ずっと寄り添ってくれたケント様。
あなたが幸せになれるのなら……
アレン様が退室し、ケント様と2人残される。
「リナ、すまない。父の話はなかったことにしてくれないか?」
「ケント様は私が相手ではダメですか?私はあなたが幸せになれるのなら、仮初の婚約者になります。あなたが最愛をみつけるまで、私に時間稼ぎをさせてください」
「リナ……君って人は……、僕が君に幸せをみつけて欲しいと言ったのを聞いていたよね?」
「はい、その上での提案です。私は……私は……あなたが大切なんです。あなたが、あなたのことが好きなんだと思います。だから……」
「リナ、僕も君が好きだ……」
ケント様に手をひかれ、彼にガシッと抱き込まれる。強く、強く抱き締められて、ほんの少し息苦しい。
彼の胸を叩き、抗議する。
「ごめん……」
「いや、嫌なんじゃなくて、力が強くて息苦しくて……」
「じゃあ、これでいい?」
今度はふんわり優しく抱き締められる。
彼からドクドクドクと、心臓が早鐘を打つ音が聞こえる。
彼のぬくもりに包まれ幸せを感じる。
「リナ、仮初でなく、僕の本物の婚約者になってくれませんか?」
「ケント様……はい、はいっ、喜んで……」
またまた強く抱き込まれ、私はずっとここに居ていいんだ。彼の隣に居ていいんだ。
幸せで涙が溢れた。
その後、ケント様と2人でアレン様、ジョセフィーヌ様へ報告に向かう。
「そう、そうか……よかった。後のことは任せてくれ」
アレン様が力強く約束してくれる。
「よかった。本当によかった。リナさんがお嫁に来てくれるのね。ケント、良かったわね。リナさん、これからもケントのこと頼みますね」
ジョセフィーヌ様の頬を涙が伝う。
その涙に私もつられ、私も泣いてしまった。
「リナさんまで……あなたまで泣くなんて」
ジョセフィーヌ様が私の背を優しく撫でてくれる。
優しい人々に囲まれて……
私が飛ばされたのが、この地で、デリーノ伯爵家でよかったと思う。
知らない場所に来てしまい、どうなることかと思っていたけれど、私はここで幸せをみつけた。
私は彼と幸せになる。
彼は私が幸せにします!
私はそう心に決めた。
(第1章終わり)
細かなことはロニー様とユリナーテ様で試行錯誤しながら決めていくそうだ。
氷魔法での配送は比較的近い地域へ。
ロニー様の魔法での配送は遠く離れた王都へ。
配送に問題がないか、『状態維持』魔法がバレないか確かめる為にも、しばらくはデリーノ伯爵家経由で魚を王都へ卸すことになった。
魚の卸しに携わるにあたり、責任者はケント様がつとめることに。
これからますますロニー様、ユリナーテ様とのやりとりが増える。
***
ロニー様、ユリナーテ様が帰っていき、しばらく経ったある日。
ケント様と私は、離れに呼ばれた。
「ケント、すまない。お前に婚約の申し込みがあった。今回ばかりは断れない」
アレン様がケント様に頭を下げた。
「やめてください。この家に生まれたからには政略結婚の覚悟はできています」
「相手はモリーヌ・ラザ-ニア公爵令嬢だ。お前に婿に来いと言ってる」
「えっ、僕はこの伯爵家の、デリーノ伯爵家の跡取りですよ?」
「ああ、そうだ。跡取りのお前に婿に来いと……しかもモリーヌ嬢は元タントン男爵令嬢だ」
「えっ…………モリーヌ様には婚約者がいましたよね?」
つい私まで口を出してしまった。
「彼女がラザーニア公爵に引き取られた後、婚約解消したそうだ」
「あなた、ラザーニア公爵家で何かあったんですか?どうしても断れないの?だって彼女のせいでケントは引きこもったんですよ?」
ジョセフィーヌ様も婚約話に反対らしい。
「公爵家跡取りであったギート様が事故に巻き込まれ……後を継げなくなったそうだ。詳しいことはわからない。
公爵は庶子であるモリーヌ嬢を引きとって婿をとるそうだ。子供がいないタントン男爵は公爵に頼まれ、自分の娘として彼女を育てていたらしい。婚約の申し込みは、ケントに婚約者がいない以上、伯爵家の我が家から断るのは難しい」
「そんなぁ……相手はあの彼女ですよ?」
ジョセフィーヌ様が崩れ落ち、セスに支えられ、部屋へと戻っていった。
「モリーヌと婚約?彼女とだけは絶対に無理です。それに僕はこれからザブンと共同で事業を始めるんです。デリーノからは動けません。動きたくない……本当にどうにもなりませんか?」
「リナさん、君はケントをどう思う?」
突然、アレン様に問われ、動揺する。
「えっ、どうとは……」
「ケントの嫁に、デリーノ次期伯爵夫人になってはもらえないだろうか?」
「父さんっ!!」
ケント様のアレン様を非難するような悲痛な叫びが。
「それしか、それしか方法はないんだ……ロニー様から聞いたよ。リナさんは〈神贈り人〉という特別な存在なんだって。君との婚約話があるのなら、公爵からの申し出も断れるはずなんだ。すぐに婚約しなくていい。話があるというだけでいいんだ」
「父上っ!!リナを巻き込まないでくれっ。彼女には彼女の幸せをみつけて欲しい。リナを巻き込むくらいなら、僕はモリーヌとの婚約話を受けるよ」
「アレン様、少し時間を、時間をいただけませんか?ケント様と2人で話す時間を」
「ああ、もちろんだ。リナさん、ケントの事をお願いします」
アレン様が私に向かって頭を下げる。
「父上……」
ケント様が悔しそうに拳を握るのが目に入った。
彼に『幸せをみつけて欲しい』と言われ、すごく、すごく、嬉しかった。
ケント様、私も同じ気持ちだよ。
誰かに強制されるのではなく、あなたにはあなたの幸せをみつけて、幸せになって欲しい。
その為なら私は……仮初の婚約者になっても構わない。
私がこの世界に飛ばされてからというもの、ずっと寄り添ってくれたケント様。
あなたが幸せになれるのなら……
アレン様が退室し、ケント様と2人残される。
「リナ、すまない。父の話はなかったことにしてくれないか?」
「ケント様は私が相手ではダメですか?私はあなたが幸せになれるのなら、仮初の婚約者になります。あなたが最愛をみつけるまで、私に時間稼ぎをさせてください」
「リナ……君って人は……、僕が君に幸せをみつけて欲しいと言ったのを聞いていたよね?」
「はい、その上での提案です。私は……私は……あなたが大切なんです。あなたが、あなたのことが好きなんだと思います。だから……」
「リナ、僕も君が好きだ……」
ケント様に手をひかれ、彼にガシッと抱き込まれる。強く、強く抱き締められて、ほんの少し息苦しい。
彼の胸を叩き、抗議する。
「ごめん……」
「いや、嫌なんじゃなくて、力が強くて息苦しくて……」
「じゃあ、これでいい?」
今度はふんわり優しく抱き締められる。
彼からドクドクドクと、心臓が早鐘を打つ音が聞こえる。
彼のぬくもりに包まれ幸せを感じる。
「リナ、仮初でなく、僕の本物の婚約者になってくれませんか?」
「ケント様……はい、はいっ、喜んで……」
またまた強く抱き込まれ、私はずっとここに居ていいんだ。彼の隣に居ていいんだ。
幸せで涙が溢れた。
その後、ケント様と2人でアレン様、ジョセフィーヌ様へ報告に向かう。
「そう、そうか……よかった。後のことは任せてくれ」
アレン様が力強く約束してくれる。
「よかった。本当によかった。リナさんがお嫁に来てくれるのね。ケント、良かったわね。リナさん、これからもケントのこと頼みますね」
ジョセフィーヌ様の頬を涙が伝う。
その涙に私もつられ、私も泣いてしまった。
「リナさんまで……あなたまで泣くなんて」
ジョセフィーヌ様が私の背を優しく撫でてくれる。
優しい人々に囲まれて……
私が飛ばされたのが、この地で、デリーノ伯爵家でよかったと思う。
知らない場所に来てしまい、どうなることかと思っていたけれど、私はここで幸せをみつけた。
私は彼と幸せになる。
彼は私が幸せにします!
私はそう心に決めた。
(第1章終わり)
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