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第59話 工場視察

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金属加工の工場へやってきた。

気分が悪くなり、馬車で休んでいた王太子妃様も体調が回復したようだ。
すぐ回復されたことから、おそらくは何かしら魔法で対処したのだと思われる。

火を扱うから部屋の中はもわっと熱い。
カーン、カンカン、カーン
職人が金属を叩く音で耳が痛くなる。

「本当にこんな場所を視察なさるので?早く移動しましょう!」
公爵は早く移動したくて仕方がないようだ。
首元にダラダラと流れる汗を拭きながら、顔をしかめている。

「ああ、もちろんだ。現場を見て回る機会などなかなかないからな」
王太子様は額から汗を流しながらも、あちこち熱心に見ている。

王太子妃様はドレス姿であるし、なかなかきついのではないかと思うのだが、彼女も汗をハンカチで押さえながら職人の手元を真剣に見ている。

火花が散る為、火花が届かないように王太子夫妻の辺りにうっすらと水の膜がはられている。
水の膜は熱さも和らげているのかしら……

やはり魔法はすごいなと思う。
私にも同じように魔法をかけてもらい、臭いと熱さはかなり楽になった。

公爵は……かなり辛そうだ。
魔法で何か対処をしないんだろうか。
ふらふらしている。

「もういいですかな?限界だ。早く帰りましょう」と何度もしつこい。

「公爵は先に帰るといい。私たちはもう少し見て帰るよ」

「では、お先に失礼いたします」
公爵は逃げるように小走りで退散していった。

これで確認しやすくなったわ。
早速 工場長を捕まえ、質問責めにする。
「工場長、加工に使った水や金属クズはどう処理していますか?」

「水はこの樽に貯めて川へ流しています」

「流す前に、何か処理していますか?」

「ギート様が定期的に樽に魔法をかけていましたが……しばらくいらしてないんです」

公爵家の跡取りであったギート様がどういった状態なのか、工場長は知らないようだ。
私にもよくわからず、言葉が止まる。

すると、代わりに王太子様が話してくれた。
「ギートはしばらく来ない。彼がどんな魔法を施していたかわかるか?」

「いえ、わしらに魔法のことはわかりません。ただギート様が来なくなってから、街に変な臭いがするようになったんで、見に来て欲しいと要望していました」

「見に来たのか?」

「いいえ、誰も……今日 ようやく来てくださったと……何とかなりませんか?」
工場長もどうしたらいいのかわからず困っているようだ。

「汚れた水から不純物を取り除き、キレイな元の水に戻せるような魔法はありますか?」
魔法のことは私にはよくわからない。

王太子様の指示で、側近の1人が樽に手をかざし、何か唱えている。
どんな魔法が使われたのかはわからないが、鑑定魔法で確認した結果、とりあえずはキレイにできたようだ。

「街の臭いはどうすればいいのだ?」

「川の水を先ほど樽の水のようにキレイにすれば、改善されると思われます。」

「それは厳しいな。範囲が広すぎだ」

「工場の水を流す場所を数ヵ所に決めて、何らかの浄化装置を設置するか浄化できる魔法を施すことは可能ですか?」

「うむ、考えてみるか。それにしてもそなた、水の汚染は工場が原因だとよくわかったな。あとは私たちが何とかする」

王太子様が請け負ってくださったから、もう安心ね。

「しばらく汚染された水が生活水として使われていた可能性が高いです。これから健康被害が出るかもしれません。領民の健康観察が必要です」

「ほう、そういうものか。わかった。手配しておく」
王太子様の言葉に、側近の方々がメモを取ったり、動き出している。

「リナさんは物知りなのね……」
王太子妃様に尊敬の眼差しを向けられ、居たたまれない。
「以前、そういった被害の話を聞いたことがありましたので、もしかしたらと思ったんです。その話を知らなければ、思いつくこともなかったと思います」

「そなたの知識は我が国の宝となることだろう。今後も力を貸してくれ」
王太子様にそう言われ、ひぇ~、ムリムリと逃げたくなる。

「リナさん、お願いよ。私たちに力を貸して」
アリエラ様に頼まれたら……断れない。 

「わかりました。でも期待しないでくださいね。私の知識はかなり偏りがあると思いますから」

「ええ、もちろんよ。あなたに責任を押し付けるつもりはないわ。わかる範囲で教えてもらえると助かるわ」

私はケント様とこの国で暮らしていくつもりだ。
この国の王太子夫妻が、きちんと周りの意見を聞き、民のことを考えてくださる方々でよかった……

すぐ領民の健康を守る為、医師と薬師を常駐させるよう手配されていた。

工場に置かれた使用済みの水を浄化して回るように手配され、川の水についても可能な範囲で浄化をと……

テキパキ手配される王太子様に、この国の明るい未来が見えた気がした。

街の視察を終え、公爵邸へ戻ってきた。

すぐに公爵が出てきた。

「どうでしたかな?とても長居できる場所ではないでしょうに……」

「ああ、そうだな。酷い状態だった。そなたは、いったい何をみて、何をしてきたのか?そなたが長居できないと言った場所で民が暮らし、働いているのだぞ。何もせずに放置したそなたは領主の役割を果たしていない。おまけに法律で定められた税率よりも高い税率を課して民から絞れるだけ絞り、国には嘘の申告をすることで浮いた金で私腹を肥やしている。言い逃れはできないぞ。既に調べはついている」

「公爵を連れていけっ!」

「「「「「はっ」」」」」
ヘナヘナと床に座り込んでいた公爵は両脇を抱えられ、馬車へ連れられていく。

後からやってきた数人の役人が証拠書類を次々と運んでいく。

私はテレビで見たガサ入れのようだなと思いながら、その光景を眺めていた。

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