【完結】引きこもり伯爵令息を幸せにしたい

青井 海

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第61話 約束どおり

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ガサガサと木々をかきわけ出てきたのは、金髪に瑠璃色の瞳を持つ男性。

美しい瑠璃色の瞳に、しっかりと私が映りこむ。

「おはよう。ねぇ、君、白猫を見なかった?」
呑気な声が聞こえた。

「あっ、ああっ、おはようございます。白猫ですね……ついさっき殿下と同じように木々の間から出てきましたよ」

「そっかぁ~、また逃げられた。ねぇ、君がこの前作ったプリン。すごく美味しかった。みんなで食べたから、あっという間になくなっちゃったんだよね。また作ってよ。別のお菓子でも、料理でもいいよ。そしたらさっきの無かったことにしてあげる」

あっ、捕まえようと身構えていたのバレてたみたい。
猫じゃないと気づいて、すぐに手を引っ込めたけれど、サラサラの金髪に手が触れてしまったのよね。

でもどちらの王子様だろう……
第二王子?第三王子?
きちんと挨拶したことがないからわからないや。

「でも殿下に手作りの食べ物をお出しするのはちょっと……」

「えっ、母上や、義姉上は食べてるよね?どうせ機会がないとか言って逃げるつもりでしょ?でも逃がしてあーげないっ。ちゃんと機会を作るから。僕はヘンリー。そういえばちゃんと挨拶してなかったよね。第三王子だよ」

第三王子かぁ~。
ほとんど接点がなかったけれど、話しやすい王子様だわ。
でも機会を作るって……

「フィンレー兄様と義姉上とラザーニアまで視察に行って活躍したんだって?僕の視察にも同行してよ。ちゃんと話は通しておくからさ」

えっ、視察先で何か作るってこと?
それとも王宮でいいの?

「あっ、今、視察先で何を作ろうって考えたでしょ? ザブンでは魚料理を作ったと聞いたよ。ロドニーがわざわざ僕のところへ自慢に来たからね。君はロドニーの婚約者ユリナーテ嬢と仲がいいんだって?」

ううっ、ロドニー様、余計なことを~。

「どうしよっかな。どこへ行こうかな。楽しみに待ってて。じゃあ!」

言いたいことを言いたいだけ言って満足したのか、ヘンリー王子は去っていった。

「リナ様、朝食の準備ができたようです。行きましょう」
ドーラの声に、ビクッとする。

「申し訳ございません。驚かせてしまいましたか?」

「ううん、大丈夫よ。行きましょう」

ヘンリー王子と視察?
考えても仕方がないわね。
私からは断れないだろうし、話が来たら同行するだけだ。

視察先で何か作れるのなら……
それはそれで楽しみだわ。

朝食を済ませ、講義が始まるまでの間、久しぶりに刺繍を刺すことにする。
ドーラにお願いして、淡い水色のハンカチと刺繍道具を出してもらう。

先日、ダンスレッスンで久しぶりに会ったケント様。
かっこよかったなぁ。
約束を守り、レッスン以外の時間に会いに来てくれたら……刺繍入りのハンカチをプレゼントしたいと思ったのだ。

何を刺繍しようかな……

ケント様には幸せになって欲しい。
幸運のシンボルといえば、
四つ葉のクローバー
てんとう虫
かえる

他にも動物なら、フクロウとかウサギ、牛も縁起がいいのかな。
いっぱいありすぎて悩むな~。

動物は……うーん、私の腕では何を刺したかわからない仕上がりになりそうだ。
てんとう虫、てんとう虫にしよう。
ちょっとかわいらしくなってしまうけれど……

ケント様がてんとう虫の刺繍が入ったハンカチで汗を拭く姿が思い浮かぶ。
ふふっ、ふふふっ、いいっ、いいわ。

よーし、やるぞ!

静かな部屋でチクチクと刺繍針を動かす私をロナとドーラが優しい目でみつめていた。

「やったぁ、できた、できたわ!」

「ん?これは何ですか? 赤い玉に黒い水玉。変わった模様ですね。何か意味が?」
ロナが不思議そうに問う。

「えっ?わからない?てんとう虫よ。かわいらしいてんとう虫」

「えっ、虫を刺繍したんです?恋人に渡すんじゃなかったんですか?嫌がらせですか?」
ドーラがびっくりしてる。

「えっ、ダメ?ダメなの?てんとう虫は幸運の虫だよ?知らない?」
ロナとドーラは虫に興味がないだけかもしれないと、ハンスに聞いてみる。

「てんとう虫は知りませんね。チョウやトンボは子供の頃に捕まえたことがありますが……」

「へぇー、そうなんだ。まぁいいわ。せっかく刺したんだもの。意味を説明して渡すわ」

「そうですね。リナ様からのプレゼントなら、何でも喜んでくれますよ」
そうだよね?
ケント様なら喜んでくれるよね?

早く会いたいな……
ケント様、会いに来てくれないかなぁ……

講義の時間がきて、部屋を移動する。
移動中、モリーヌ様がまたどこかから現れるんじゃないかとキョロキョロしてしまう。

「リナ様、どうかしましたか?」
ロナに聞かれ、ハっとする。
彼女はもうこの国にはいないんだった。

モリーヌ様は、アランド帝国へ嫁いだそう。
一応、立場は皇帝の妻。
妻とはいっても、皇帝はかなり年上。
既に何人もの妻がいる。
皇帝が愛しているのは、皇后のみ。
その他の妻は、他国から送り込まれたお飾りの妻らしい。

どうして知っているのか……
王妃様が教えてくださったのだ。
私が気にしているだろうからと。

アランドの皇帝は人格者で、お飾りの妻であってもある程度の生活水準が保てるよう費用をあてており、問題を起こさない限りは、衣食住に困ることはないそうだ。

この国で罪人として暮らすよりはよさそうだ。
モリーヌ様が、アランドについて学び、受け入れ、立場に合った行動を心がけていれば……

講義は時間通りに終了した。
講師が退室し、私も部屋へ帰ろうと、席を立ったところで、後ろから声が聞こえた。

彼の声。
「リナ、リナ、約束どおり会いに来たよ」

私は振り返ると、そのまま彼に向かって駆け出した。




    
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