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第70話 祝福を
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ケント様が私の前に跪く。
私を見上げるその瞳に、強い意思を感じ、ドクンドクンと心臓が騒ぎ出す。
否が応で期待してしまう。
これから紡がれるであろう彼の言葉に。
「リナ、お帰り。やっとやっと婚約の許可がおりたんだ。今度こそ一緒に幸せになろう。リナ、これからの人生を僕とともに歩いてくださいっ」
ケント様に渡されたのは、一輪の大きな花。
初めて見る花だ。
形はユリやカサブランカに似ている。
大きくて真っ白な花びらは縁の部分がフリルのようになっていて、うっすらとピンクがかっている。
はっと、言葉に詰まる。
一瞬、彼の瞳が揺れた。
ああ、不安にさせてしまった。
そうじゃない、そうじゃないの。
「ありがとう。よろしくお願いします!
この花、とってもキレイ。初めて見る花だわ。ケント様、さっきふらついたように見えたよ。部屋で休んでなくて大丈夫なの?」
「ああ、またすぐ部屋に戻るよ。どうしても君にこの花を渡したかったんだ。いつまで花が保つかわからなかったから……」
ケント様と婚約したいと思ってから、ここまで長かった。
やっと、やっと、ここまで辿り着いた。
今までの道のりを思うと、かなり感慨深いものがある。
それに、この花。
実物を見るのは初めてだが、この花を私は知っている。
王宮での植物の講義に出てきたのだ。
薬草や毒があり注意が必要な植物を教わったのだが、講師が付け加えるように教えてくれたのだ。
「ああ、そういえばこんな珍しい花もあるんですよ。一生見ることはないかもしれませんが、運が良ければ見ることがあるかもしれませんね」
へぇー、そんな花があるんだと思って、しっかりと覚えていた。
とても珍しい花。
幸せをもたらす幸運の花と言い伝えられている。
いつ、どこで、どのように開花するのか、まだよく知られていない花〈ホワイトベル〉。
その珍しさから、開花した姿を見たものには、幸せがもたらされるという。
幸せがもたらされるって……
〈神贈り人〉の説明にも似たような表現があったような……
この国の人はそういった表現が好きなのかしらね。
幸運うんぬんはわからないが、この花がとても珍しい貴重な花であることは間違いない。
「この花……もしかして……」
花を受け取った手がプルプル震える。
「うん、ホワイトベルだ。ついさっきリナを王宮へ迎えに行こうとして、道の途中で偶然みつけたんだ。
すごい、すごいだろ? 興奮して、舞い上がってしまったよ。
次にいつ見られるかわからないから、もう一生見ることがないかもしれないから、どうしても君に見せたくて……すぐに茎部分を水魔法でコーティングしたんだ。
花を傷めないようにどう持ち運ぶか考えていたら時間がかかってしまって……
迎えには間に合わなかった。ごめん」
「ううん、いいの。ケント様は迎えに来てくれたもの、助けに来てくれたもの。お花ありがとう。すごく嬉しい、嬉しいよ」
早速、ロナに頼んで花瓶に生けてもらう。
ロナは何か言いたげな顔でケント様を見た後、花瓶と花を持ち、部屋から出ていった。
ケント様と離れ、王宮で過ごした日々。
本当に長かった。
その分、貴重な経験をさせてもらったし、この国に来たばかりの私には必要な時間だったのだと思う。
それに、ずっと一緒に過ごしてきたケント様と離れて生活したことで、何かあるたびに彼を想い、気持ちを温めてきた。
美味しいものを食べたら、ケント様にも食べさせたいと思い、景色のよい場所へ行くと、彼を連れて来たいと思った。
私にとっての彼は、本当に特別な存在なのだということがよくわかった。
彼は今でも残念なところがあるままだ。
でも、私は彼のいいところもいっばい知っている。
王宮への迎えは間に合わなかったけれど、来てくれようとしたのはわかったし、ホワイトベルを私に見せようと動いてくれたのは嬉しかった。
花を見て、すぐに私を思い出してくれたということだろうから……
彼も私と同じように、何かあれば私を思い出してくれたんだなって。
それに、私の危機に駆けつけ、すごい魔法でラザーニア公爵から私たちを守ってくれた。
本当にあの魔法はすごかった。
あっという間に、私へ向かってくる火球を消し、あちこちで燃えていた火も一瞬で消し去った。
ケント様があんな特大の魔法を使えるとは……
彼が魔法を放つ瞬間、彼の髪が舞い上がり、まるで後光がさしているかのようだった。
表情はイキイキとしていて、自信に溢れた瞳をしていた。
そのかっこいい姿が目に焼き付いている。
あー、でも王宮まで迎えに来てくれなかったのは、残念なところかな。
そこは迎えに来てくれないと。
でもそんな詰めが甘いところが何ともケント様らしい。
ありのままの彼が好き、好きなんだなぁ。
ホワイトベルの花。
彼のおかげで実物を見ることができた。
王宮の本に書かれていた絵より、何倍も美しく神秘的な花。
まさか私がこの手で触れる日が来るなんて……
きっと神様が私たちの婚約を、ふたりの未来を祝福してくれているんじゃないかな……
(おわり)
私を見上げるその瞳に、強い意思を感じ、ドクンドクンと心臓が騒ぎ出す。
否が応で期待してしまう。
これから紡がれるであろう彼の言葉に。
「リナ、お帰り。やっとやっと婚約の許可がおりたんだ。今度こそ一緒に幸せになろう。リナ、これからの人生を僕とともに歩いてくださいっ」
ケント様に渡されたのは、一輪の大きな花。
初めて見る花だ。
形はユリやカサブランカに似ている。
大きくて真っ白な花びらは縁の部分がフリルのようになっていて、うっすらとピンクがかっている。
はっと、言葉に詰まる。
一瞬、彼の瞳が揺れた。
ああ、不安にさせてしまった。
そうじゃない、そうじゃないの。
「ありがとう。よろしくお願いします!
この花、とってもキレイ。初めて見る花だわ。ケント様、さっきふらついたように見えたよ。部屋で休んでなくて大丈夫なの?」
「ああ、またすぐ部屋に戻るよ。どうしても君にこの花を渡したかったんだ。いつまで花が保つかわからなかったから……」
ケント様と婚約したいと思ってから、ここまで長かった。
やっと、やっと、ここまで辿り着いた。
今までの道のりを思うと、かなり感慨深いものがある。
それに、この花。
実物を見るのは初めてだが、この花を私は知っている。
王宮での植物の講義に出てきたのだ。
薬草や毒があり注意が必要な植物を教わったのだが、講師が付け加えるように教えてくれたのだ。
「ああ、そういえばこんな珍しい花もあるんですよ。一生見ることはないかもしれませんが、運が良ければ見ることがあるかもしれませんね」
へぇー、そんな花があるんだと思って、しっかりと覚えていた。
とても珍しい花。
幸せをもたらす幸運の花と言い伝えられている。
いつ、どこで、どのように開花するのか、まだよく知られていない花〈ホワイトベル〉。
その珍しさから、開花した姿を見たものには、幸せがもたらされるという。
幸せがもたらされるって……
〈神贈り人〉の説明にも似たような表現があったような……
この国の人はそういった表現が好きなのかしらね。
幸運うんぬんはわからないが、この花がとても珍しい貴重な花であることは間違いない。
「この花……もしかして……」
花を受け取った手がプルプル震える。
「うん、ホワイトベルだ。ついさっきリナを王宮へ迎えに行こうとして、道の途中で偶然みつけたんだ。
すごい、すごいだろ? 興奮して、舞い上がってしまったよ。
次にいつ見られるかわからないから、もう一生見ることがないかもしれないから、どうしても君に見せたくて……すぐに茎部分を水魔法でコーティングしたんだ。
花を傷めないようにどう持ち運ぶか考えていたら時間がかかってしまって……
迎えには間に合わなかった。ごめん」
「ううん、いいの。ケント様は迎えに来てくれたもの、助けに来てくれたもの。お花ありがとう。すごく嬉しい、嬉しいよ」
早速、ロナに頼んで花瓶に生けてもらう。
ロナは何か言いたげな顔でケント様を見た後、花瓶と花を持ち、部屋から出ていった。
ケント様と離れ、王宮で過ごした日々。
本当に長かった。
その分、貴重な経験をさせてもらったし、この国に来たばかりの私には必要な時間だったのだと思う。
それに、ずっと一緒に過ごしてきたケント様と離れて生活したことで、何かあるたびに彼を想い、気持ちを温めてきた。
美味しいものを食べたら、ケント様にも食べさせたいと思い、景色のよい場所へ行くと、彼を連れて来たいと思った。
私にとっての彼は、本当に特別な存在なのだということがよくわかった。
彼は今でも残念なところがあるままだ。
でも、私は彼のいいところもいっばい知っている。
王宮への迎えは間に合わなかったけれど、来てくれようとしたのはわかったし、ホワイトベルを私に見せようと動いてくれたのは嬉しかった。
花を見て、すぐに私を思い出してくれたということだろうから……
彼も私と同じように、何かあれば私を思い出してくれたんだなって。
それに、私の危機に駆けつけ、すごい魔法でラザーニア公爵から私たちを守ってくれた。
本当にあの魔法はすごかった。
あっという間に、私へ向かってくる火球を消し、あちこちで燃えていた火も一瞬で消し去った。
ケント様があんな特大の魔法を使えるとは……
彼が魔法を放つ瞬間、彼の髪が舞い上がり、まるで後光がさしているかのようだった。
表情はイキイキとしていて、自信に溢れた瞳をしていた。
そのかっこいい姿が目に焼き付いている。
あー、でも王宮まで迎えに来てくれなかったのは、残念なところかな。
そこは迎えに来てくれないと。
でもそんな詰めが甘いところが何ともケント様らしい。
ありのままの彼が好き、好きなんだなぁ。
ホワイトベルの花。
彼のおかげで実物を見ることができた。
王宮の本に書かれていた絵より、何倍も美しく神秘的な花。
まさか私がこの手で触れる日が来るなんて……
きっと神様が私たちの婚約を、ふたりの未来を祝福してくれているんじゃないかな……
(おわり)
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