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第6話 私の前世②
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私のお腹はどんどん、どんどん大きくなった。
眠ろうと仰向けになるとお腹の重みで息苦しく、横向きになるとお腹かダルンと横に垂れて気持ち悪かった。
それでもまだ横向きのほうが息がしやすく、我慢できる。
どんどん重さを増していくお腹。
お腹の重さに、とうとう私の腰は悲鳴をあげた。
なんとぎっくり腰になってしまった。
医師には、安静を言い渡され、腰に負担をかけないように、無理をしないよう注意された。
医師が診察に来た時、旦那様もやってきて、ベッド脇に腰かけ、まるで愛おしい妻を心配しているかのように、優しく私の手を握った。
医師に生温かい目を向けられ、私は恥ずかしかった。
だって、旦那様は本当に私の心配をしているわけじゃないとわかっているから。
旦那様が見舞いに来るのは、医師が診察に現れる直前。
「違うんです。いつもはこんなに仲良くないんですよ。」
そう言いたかった。
「(私の)痛みを和らげる薬を処方しますか?それとも薬は飲まずに安静にして痛みを乗りきりますか?
薬が苦手な方もいますし、絶対に飲むべきというわけでもないのですが、少しは楽になりますよ。
どうしますか?」
そう尋ねた医師に、旦那様は告げた。
「薬は毒にもなるのであろう?
お前は高名な医師だと聞いているが、薬を飲ませて、本当に大丈夫なのか?
大事な妻と子に何かあったら責任とれるのか?」
旦那様の強い圧に、びっくりしたわ。
どれだけ私と赤ちゃんの身を案じてくれてるのかと、感動で涙が溢れる場面だわね。
何も知らなければ……ね。
結局、薬は処方されなかった。
私たちに何かが起きて、責任を問われることを恐れたのね。
赤ちゃんがお腹にいるのだから、飲まなくても耐えられるのなら、飲まなくてよかったのかもしれない。
私はベッドにうずくまり、痛みに耐えた。
時間とともに痛みは和らぎ、翌日にはそろりそろりと動けるようになった。
それから月日は流れーー
予定より早く、陣痛がきた。
とにかく痛くて痛くて。
侍女たちが、甲斐甲斐しく私の額や頬を伝う汗をふき、腰をさすり、励ましてくれた。
えっ、旦那様は?
旦那様はお仕事か、彼女のところじゃないかしら。
出産に男性が立ち合う習慣はないから、生まれた知らせを受けて、慌てた素振りでやってくるはずよ。
私、よくやった! 頑張った!!
少し小さいけれど、元気な双子だった。
双子だもの。
それはお腹も大きくなるわけだわ。
信じられないくらい、重かったもの。
みなが、赤ちゃんと私をキレイにしてくれる。
すごい汗だくだったから、軽く汗をふいてもらっただけでもスッキリしたわ。
想像したとおり、旦那様は私の名前を呼びながら、慌てて駆けつけたみたい。
すごい演技力に思わず拍手をしたくなる。
旦那様は私の手を両手で包みこみ、
「よく頑張った。ありがとう。」
さっと手を離して、赤ちゃんに釘付け。
どうした?
そんなに口をポカンと開けた顔、初めて見たわ。
本当に驚くと、そんな顔になるのね。
いつものすましたこれぞイケメンって加尾からは想像できない顔ね。
仮面が、仮面が剥がれてる。
「二人いる……」
赤くてクシャクシャした顔の赤ちゃん。
しかも同じような顔が二人。
双子だなんて聞いてなーいといったところかしら?
そうよね? 私もびっくりした。
医師が私たちのもとへやってきた。
「おめでとうございます。
元気な男の子と女の子です。」
そうか……
私は一気に二児の母様ね。
医師がいなくなると、旦那様が言った。
「一度に二人とは良かった。よくやった。もうこれで責任は果たしたな。」
責任? 責任って……
跡継ぎをという王族としての責任?
妻である私の立場を守る夫としての責任?
あなたのことだから、きっと前者でしょうね。
私が懐妊してからのあなたは、私には無関心だったもの。
あーー、これで、旦那様はお役御免と言いたいのだろう。
しばらくすると、乳母となる女性に赤ちゃんたちは連れていかれた。
子供たちは、それはそれはかわいかったし、もっと触れ合いたかった。
でもなかなか会わせてもらえなかった。
私には公務があったし、子供たちの面倒は乳母がみていたし、ある程度大きくなると、今度は勉強やレッスンなど子供たちのほうが忙しくなった。
私はできる限り交流してきたから、それなりの親子関係を築けていたと思う。
でも、旦那様はね……無関心だったのよ。
だから、公務の時だけ、仲良し家族を演じた。
政略結婚でも愛を育む家庭はいくらでもあると思う。
旦那様の心を獲ようとする努力が足りなかったのかも……
子供の頃に読んだ絵本は、どれもハッピーエンドだった。
女の子はみんな愛されて幸せになったのよ。
だから、私もハッピーエンドを夢見ていた。
でもその夢が叶うことはなかった。
そのまま時は過ぎ、私は、旦那様に愛されない、寂しい人生を終えた。
眠ろうと仰向けになるとお腹の重みで息苦しく、横向きになるとお腹かダルンと横に垂れて気持ち悪かった。
それでもまだ横向きのほうが息がしやすく、我慢できる。
どんどん重さを増していくお腹。
お腹の重さに、とうとう私の腰は悲鳴をあげた。
なんとぎっくり腰になってしまった。
医師には、安静を言い渡され、腰に負担をかけないように、無理をしないよう注意された。
医師が診察に来た時、旦那様もやってきて、ベッド脇に腰かけ、まるで愛おしい妻を心配しているかのように、優しく私の手を握った。
医師に生温かい目を向けられ、私は恥ずかしかった。
だって、旦那様は本当に私の心配をしているわけじゃないとわかっているから。
旦那様が見舞いに来るのは、医師が診察に現れる直前。
「違うんです。いつもはこんなに仲良くないんですよ。」
そう言いたかった。
「(私の)痛みを和らげる薬を処方しますか?それとも薬は飲まずに安静にして痛みを乗りきりますか?
薬が苦手な方もいますし、絶対に飲むべきというわけでもないのですが、少しは楽になりますよ。
どうしますか?」
そう尋ねた医師に、旦那様は告げた。
「薬は毒にもなるのであろう?
お前は高名な医師だと聞いているが、薬を飲ませて、本当に大丈夫なのか?
大事な妻と子に何かあったら責任とれるのか?」
旦那様の強い圧に、びっくりしたわ。
どれだけ私と赤ちゃんの身を案じてくれてるのかと、感動で涙が溢れる場面だわね。
何も知らなければ……ね。
結局、薬は処方されなかった。
私たちに何かが起きて、責任を問われることを恐れたのね。
赤ちゃんがお腹にいるのだから、飲まなくても耐えられるのなら、飲まなくてよかったのかもしれない。
私はベッドにうずくまり、痛みに耐えた。
時間とともに痛みは和らぎ、翌日にはそろりそろりと動けるようになった。
それから月日は流れーー
予定より早く、陣痛がきた。
とにかく痛くて痛くて。
侍女たちが、甲斐甲斐しく私の額や頬を伝う汗をふき、腰をさすり、励ましてくれた。
えっ、旦那様は?
旦那様はお仕事か、彼女のところじゃないかしら。
出産に男性が立ち合う習慣はないから、生まれた知らせを受けて、慌てた素振りでやってくるはずよ。
私、よくやった! 頑張った!!
少し小さいけれど、元気な双子だった。
双子だもの。
それはお腹も大きくなるわけだわ。
信じられないくらい、重かったもの。
みなが、赤ちゃんと私をキレイにしてくれる。
すごい汗だくだったから、軽く汗をふいてもらっただけでもスッキリしたわ。
想像したとおり、旦那様は私の名前を呼びながら、慌てて駆けつけたみたい。
すごい演技力に思わず拍手をしたくなる。
旦那様は私の手を両手で包みこみ、
「よく頑張った。ありがとう。」
さっと手を離して、赤ちゃんに釘付け。
どうした?
そんなに口をポカンと開けた顔、初めて見たわ。
本当に驚くと、そんな顔になるのね。
いつものすましたこれぞイケメンって加尾からは想像できない顔ね。
仮面が、仮面が剥がれてる。
「二人いる……」
赤くてクシャクシャした顔の赤ちゃん。
しかも同じような顔が二人。
双子だなんて聞いてなーいといったところかしら?
そうよね? 私もびっくりした。
医師が私たちのもとへやってきた。
「おめでとうございます。
元気な男の子と女の子です。」
そうか……
私は一気に二児の母様ね。
医師がいなくなると、旦那様が言った。
「一度に二人とは良かった。よくやった。もうこれで責任は果たしたな。」
責任? 責任って……
跡継ぎをという王族としての責任?
妻である私の立場を守る夫としての責任?
あなたのことだから、きっと前者でしょうね。
私が懐妊してからのあなたは、私には無関心だったもの。
あーー、これで、旦那様はお役御免と言いたいのだろう。
しばらくすると、乳母となる女性に赤ちゃんたちは連れていかれた。
子供たちは、それはそれはかわいかったし、もっと触れ合いたかった。
でもなかなか会わせてもらえなかった。
私には公務があったし、子供たちの面倒は乳母がみていたし、ある程度大きくなると、今度は勉強やレッスンなど子供たちのほうが忙しくなった。
私はできる限り交流してきたから、それなりの親子関係を築けていたと思う。
でも、旦那様はね……無関心だったのよ。
だから、公務の時だけ、仲良し家族を演じた。
政略結婚でも愛を育む家庭はいくらでもあると思う。
旦那様の心を獲ようとする努力が足りなかったのかも……
子供の頃に読んだ絵本は、どれもハッピーエンドだった。
女の子はみんな愛されて幸せになったのよ。
だから、私もハッピーエンドを夢見ていた。
でもその夢が叶うことはなかった。
そのまま時は過ぎ、私は、旦那様に愛されない、寂しい人生を終えた。
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