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第7話 ヒューの決意
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その頃、18歳になったシエラ伯爵家ヒュパートはーー
父親であるシエラ伯爵の部屋にいた。
「父上、お願いがあります。ミラージュ伯爵家オリアンナ嬢へ婚約申し込みの許可をいただけませんか?」
「なに? ミラージュ伯爵家? ダメだ。許可できない。お前にはもっといい話がきているというのに、まさか恋仲なのか?」
「いえ、今はまだ友人です。」
「ならやめておけ。前当主は素晴らしかったのだが、今の当主はダメだ。縁付きになるのは危険だ。
どうしても彼女を娶りたいのなら、お前が共倒れしないだけの力をつけるしかあるまい。例えば、そうだな~、今、勢いのあるキャロル男爵のように。」
父はニヤリと挑戦的な顔をして笑った。
お前には無理だと言いたいのだろう。
僕が、オリィを諦める?
まさか彼女にキャロル男爵との縁談話があるのか?
確か……キャロル男爵は、28歳と僕よりも10歳上で、オリィの一回り年上であるが、背か高く、黒髪に濃いブルーの涼やかな瞳でなんとも見映えのよい男。
自身の力だけで男爵になっただけのことはあり、堂々として自信に溢れている。
男から見てもいい男。
憧れるヤツもいるだろう。
「チッ」
なぜ、そんな男が未だに独身なのか……
「ヒュパート、舌打ちなど感心しないな。」
「申し訳ありません。」
キャロル男爵は、元は平民だったのだ。
貴族とは異なり、自由に振る舞えたことだろう。あれだけ容姿も優れているんだ。
さぞかし浮名を流してきたことだろう。
商家の次男だった彼は、長男に対抗するがごとく新たな商会を立ち上げ、メキメキと頭角を表した。
今まで国交のなかった遠い国から低価格で高品質な新たな燃料を見つけ出し、独占で取引を結ぶことに成功。
大きな富を手に入れた。
彼が広めた燃料により、国に大きな利益をもたらしたことが評価され、叙爵された。
今、勢いのある貴族だ。
富と地位を手に入れた彼が更なる高みを目指して高位貴族との縁を望んだ。
そういったところだろう。
そりゃ、舌打ちくらいしたくなるさ。
でも父上の前では控えるべきだったな。
オリィは気立てもよく、美しい娘だ。
会ってしまえば、キャロル男爵だとて、彼女自身を欲しくなるかもしれない。
通常、貴族は同じような爵位の家同士で婚姻を結ぶ。
以前のミラージュ伯爵家であれば、キャロル男爵の話に耳を傾けたりしないだろう。
だが、今は当主が力不足のせいで傾いてしまっている。
このままでは次世代に引き継げるかどうか危ういものだ。
父は僕に力をつけるよう言った。
確かに、今の僕では勝ち目はないだろう。
オリィにとって幼馴染みで気心のおける仲ということ以外は。
シエラ伯爵家は騎士を多く輩出する家系。
僕自身も騎士科を卒業し、今年から騎士団に所属している。
身長もぐぅーんと伸び、程よく筋肉もついた。
僕が力をつけるとなると、騎士として確固たる地位を築くことだろう。
そして上位貴族といい関係を築き、大きな影響力を身につける?
あー、正直なところどうすればいいのかわからない。
僕は身体を動かすことは好きだが、考えることは苦手だ。
僕の頭で考えてもいい案は浮かびそうにない。
今は自分にできることをやるだけだ。
僕は今まで以上に鍛練に励むようになった。
僕はこの時、ミスをしたんだ。
鍛練に励むだけでなく、オリィに会いに行き、先に好意だけでも伝えるべきだった。
たとえプロポーズはできなくても。
僕と彼女はただの幼馴染みだ。
彼女は僕を男として意識していないと思われる。
***
ある日、オリィから手紙とともに刺繍されたハンカチが届いた。
僕はオリィからの初めてのプレゼントであるハンカチを受けとり、舞い上がった。
刺繍入りのハンカチなんて、感激だ。
胸元に押し当てて、幸せを噛みしめた。
オリィだって、少しは僕を気にかけてくれている。
僕はハンカチを胸ポケットへ入れ、剣を握る。
よし、鍛練頑張るぞ。
僕は不安な気持ちを降りきるように、剣を振るい続けた。
この時の僕は、ミラージュ家へ行けば、いつでもオリィに会えると思っていたんだ。
父親であるシエラ伯爵の部屋にいた。
「父上、お願いがあります。ミラージュ伯爵家オリアンナ嬢へ婚約申し込みの許可をいただけませんか?」
「なに? ミラージュ伯爵家? ダメだ。許可できない。お前にはもっといい話がきているというのに、まさか恋仲なのか?」
「いえ、今はまだ友人です。」
「ならやめておけ。前当主は素晴らしかったのだが、今の当主はダメだ。縁付きになるのは危険だ。
どうしても彼女を娶りたいのなら、お前が共倒れしないだけの力をつけるしかあるまい。例えば、そうだな~、今、勢いのあるキャロル男爵のように。」
父はニヤリと挑戦的な顔をして笑った。
お前には無理だと言いたいのだろう。
僕が、オリィを諦める?
まさか彼女にキャロル男爵との縁談話があるのか?
確か……キャロル男爵は、28歳と僕よりも10歳上で、オリィの一回り年上であるが、背か高く、黒髪に濃いブルーの涼やかな瞳でなんとも見映えのよい男。
自身の力だけで男爵になっただけのことはあり、堂々として自信に溢れている。
男から見てもいい男。
憧れるヤツもいるだろう。
「チッ」
なぜ、そんな男が未だに独身なのか……
「ヒュパート、舌打ちなど感心しないな。」
「申し訳ありません。」
キャロル男爵は、元は平民だったのだ。
貴族とは異なり、自由に振る舞えたことだろう。あれだけ容姿も優れているんだ。
さぞかし浮名を流してきたことだろう。
商家の次男だった彼は、長男に対抗するがごとく新たな商会を立ち上げ、メキメキと頭角を表した。
今まで国交のなかった遠い国から低価格で高品質な新たな燃料を見つけ出し、独占で取引を結ぶことに成功。
大きな富を手に入れた。
彼が広めた燃料により、国に大きな利益をもたらしたことが評価され、叙爵された。
今、勢いのある貴族だ。
富と地位を手に入れた彼が更なる高みを目指して高位貴族との縁を望んだ。
そういったところだろう。
そりゃ、舌打ちくらいしたくなるさ。
でも父上の前では控えるべきだったな。
オリィは気立てもよく、美しい娘だ。
会ってしまえば、キャロル男爵だとて、彼女自身を欲しくなるかもしれない。
通常、貴族は同じような爵位の家同士で婚姻を結ぶ。
以前のミラージュ伯爵家であれば、キャロル男爵の話に耳を傾けたりしないだろう。
だが、今は当主が力不足のせいで傾いてしまっている。
このままでは次世代に引き継げるかどうか危ういものだ。
父は僕に力をつけるよう言った。
確かに、今の僕では勝ち目はないだろう。
オリィにとって幼馴染みで気心のおける仲ということ以外は。
シエラ伯爵家は騎士を多く輩出する家系。
僕自身も騎士科を卒業し、今年から騎士団に所属している。
身長もぐぅーんと伸び、程よく筋肉もついた。
僕が力をつけるとなると、騎士として確固たる地位を築くことだろう。
そして上位貴族といい関係を築き、大きな影響力を身につける?
あー、正直なところどうすればいいのかわからない。
僕は身体を動かすことは好きだが、考えることは苦手だ。
僕の頭で考えてもいい案は浮かびそうにない。
今は自分にできることをやるだけだ。
僕は今まで以上に鍛練に励むようになった。
僕はこの時、ミスをしたんだ。
鍛練に励むだけでなく、オリィに会いに行き、先に好意だけでも伝えるべきだった。
たとえプロポーズはできなくても。
僕と彼女はただの幼馴染みだ。
彼女は僕を男として意識していないと思われる。
***
ある日、オリィから手紙とともに刺繍されたハンカチが届いた。
僕はオリィからの初めてのプレゼントであるハンカチを受けとり、舞い上がった。
刺繍入りのハンカチなんて、感激だ。
胸元に押し当てて、幸せを噛みしめた。
オリィだって、少しは僕を気にかけてくれている。
僕はハンカチを胸ポケットへ入れ、剣を握る。
よし、鍛練頑張るぞ。
僕は不安な気持ちを降りきるように、剣を振るい続けた。
この時の僕は、ミラージュ家へ行けば、いつでもオリィに会えると思っていたんだ。
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