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第10話 孤児院へ

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今日は領主様の馬車が迎えに来て、孤児院へ行く予定だ。

朝早くから、リュカの家族と私で、せっせとたまごロールパンを作っていく。

大量のマヨネーズを作ったリュカとノア。
力仕事で大変だったろう。
おじさん、おばさんも定休日にも関わらず、大量のパン作りに追われている。


ふうっー、何とか用意ができたところで、
店の前に、2台の馬車が止まった。

大量のたまごロールパンを乗せた馬車には、強そうな男性と優しそうな女性が乗りこむ。

馬車から降りてきたマルソー様が、
「リリー様はこちらへ。」
さりげなく、マルソー様が別の馬車へ連れていく。

なんだ?
リュカとマルソー様、熱い瞳で見つめあってる?
イケメン同士、目で会話?

2人はそういうこと?
なんだか、想像しちゃった。

いろいろ頭の中で思い描いている間に、馬車に乗り込んでいたみたい。

えっ、馬車の中にマルソー様と私が2人きり?

オドオドと挙動不審になり、焦っていると、
もう1台の馬車から女性が降りてきた。

マルソー様が彼女を紹介してくれる。

「我が家であなたを担当する侍女ミランダだ。何かあれば彼女に指示してくれ。
あっちの馬車の男は護衛のドットだ。」

よかった~。
マルソー様と二人きりじゃなくて…

ほっとしたのもつかの間で、ミランダは元の馬車へ戻っていく。

えっ、ミランダ、居なくならないでー。
マルソー様と2人きりにしないでー。

「私と二人では不安ですか?」
マルソー様の瞳が不安そうに揺れている。

「不安と言いますか、未婚の男女が二人きりでは外聞が悪いのでは?
マルソー様は伯爵子息ですから。」
恥ずかしくて…私が小声で告げる。

「やはりあなたには、貴族の常識があるようだ。
ミランダ、こちらへ。
ドットは向こうの馬車に乗りますが、私もミランダも御者も鍛えておりますので、ご安心を。」

ミランダが同じ馬車へ戻ってきた。
ふうっと安心する。

わざと?
私の反応を試したの?


孤児院へ着くと、院長と思わしき年配の男性と職員たちに歓迎される。
子供たちの姿が見えない。

そのまま移動する。
案内された食堂には、礼儀正しく、子供たちがイスに座って待っていた。

職員の方たちと、マルソー様と一緒に、たまごロールパンを子供たちへ配り終えると、食事の祈りが始まり、みんな一斉に食べ始める、

みんなとってもお行儀がいい。

みんなが食べ終わると、院長から、小さな子供への絵本を読み聞かせをしてもらえないかとお願いされる。

子供たちと輪になり、絵のほうをみんなに見えるように広げ、絵本を読み出す。


囚われた姫を騎士が仲間とともに助け出すお話。
キレイなお姫様にトキメキ、強い騎士に憧れる。
子供たちの瞳が好奇心でキラキラ輝いている。
読み終わると、騎士を真似て腕を振り回す子。
お姫様ごっこを始める子。
感動したのか泣き出す子。

急にザワザワと騒がしくなった。

職員から
「聖女様の前ですよ。行儀よくしなさい!」
ピシャリと注意が飛んだ。

子供だもん。これくらい当たり前。
むしろ食堂でおとなしく座っていた姿のほうが落ち着かない気持ちにさせられた。

「私は大丈夫です。子供らしくていいと思いますよ。」

「聖女様がそう言ってくださるのなら…」

職員の許可がおり、
「やったぁー。聖女様、遊ぼ!」
私の手を引き、駆け出す少年。

そんなに走ると危ない!

私の手を引いた子と別の子がぶつかり、バランスを崩した。
手を繋いだ子は私が引っ張り無事。

もう1人はーー

「うわぁ~ん。」
膝を擦りむいてしまったようだ。
血が滲んでいる。

「大丈夫。このくらいの傷なら、すぐによくなります。」
怪我した膝に、ハンカチを軽くあてて
「よくなりますように。」と祈る。

私の髪がふわりと舞い上がり、身体がポカボカ温かい。
うっすら光を帯びている。

私が光を帯びている???


慌てているうちに、少年の傷は消えていた。
傷が消えるなんてーー

怪我をした少年に駆け寄り、祈ったのは、無意識だった。
少年を前に、勝手に体が動いたのだから。

その光景を見ていた人たちは、
恍惚とした表情で私を見ている?

ひぇ~、どうしたらいいの?

なぜ怪我が消えたの?

なぜ私は光ったの?


そんな私の様子を、じーっと観察している男性がいた。

孤児院を出て、馬車に乗り込もうとした時に、後ろから男性の声がした。

「リリアンナ様」

ビクッ

身体が反応した。
叫ぶような大声ではなく、穏やかな落ち着いた声。

相手を確認したいが、本能が振り向くなと警鐘を鳴らしている。



「リリアンナ様」

あー、思い出した。

どなたが呼びかけたのか…私のことだ。

マルソー様にエスコートされ、馬車へ乗り込む。

「先ほどの男性は、リリアンナ様と呼んでいましたね。お知り合いですか?
リリアンナ様という名なのですか?」

マルソー様に確認されたが、どう答えるのが正解かわからない。

胸がザワザワする。
早くここから離れたい。
サーッと血の気がひいていく。

マルソー様の問いに答えられぬまま、
自分で自分を抱き締める。

「顔色が悪いですね。
しばらく我が家に滞在しませんか?
我が家には護衛もいますし、あの家よりは安全だと思います。
僕があなたを守りますから。」

恐怖にかられた私は、コクコクと頷くことしかできなかった。

フラリス伯爵家に到着すると、客室が用意されていた。
侍女のミランダがあれこれと世話してくれる。
「お疲れでしょうから。」

湯船に浸かり、体や髪を洗われる。
用意された着替えを着せられて、ベッドへと誘われる。

ベッドに入り、無意識にネックレスに触れた。
カチンっ
ネックレスに触れた時、右手薬指にはめた指輪、リュカからの指輪がネックレスにあたり、音をたてた。

はっ、私はどうしてしまったんだろう。
恐怖のあまり、何も考えられなくなっていた。

リュカたちが、私が帰らないと心配しているかもしれない。
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