地方騎士ハンスの受難

アマラ

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閑話 弐

閑話 治療魔法使い・キョウジ ダンジョンマスター・イツカ 作る理由

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 自動式拳銃と呼ばれる種類の銃から、銃弾がハンスへ向けて放たれる。
 両手に一丁ずつ、計二丁の銃口から打ち出された鉄のツブテは、しかし、ハンスの盾と剣によって阻まれた。
 足元と肩口という、それぞれ別の箇所を狙ったほぼ同時の射撃。
 ハンスはそれに正確に反応し、どちらも弾いていた。
 射線を割り出されないようにするためか、銃口は常にふらふらと定まっていない。
 にも拘らず的確に弾丸をさばいているのは、ハンスが相手の射撃を完全に読みきっているからだ。
 相手の動きから、その先の動きを予測し把握する。
 ハンス・スエラーが「魔術師殺し」と呼ばれている由縁だ。
 しかし、そのハンスの相手をするのも、かなりの腕前の持ち主であった。
 身体の動きから剣や盾を置きにくい場所を正確に選び、銃撃を加える。
 そもそも、銃弾というのは普通の人間が目視すら出来ない物であり、盾ならばともかく、剣で受けることなど尋常のことではない。
 ハンスにそれが出来るのは、その予測能力だけが理由ではなかった。
 魔法による強化で、ハンスの感覚は常人の何十倍にもなっているのだ。
 現在のハンスは、実際に銃弾を目で見て追える状態に有るのである。
 逆に言えば、そんな状態のハンスを近づけさせる事なく、二丁の拳銃のみで牽制している方が、凄まじいといえるだろう。
 千里眼、フジタ・コウシロウは、それをやってのける数少ない人物なのだ。



「なにあの二人怖い。いや、え、どっちがすごいのこの場合。ハンスさん? コウシロウさん?」

 ジャーキーを齧りながら、イツカは顔を顰めた。
 少し離れたところで戦っている二人から目を離さないようにしながら、隣においてあったコップを掴み、口元に運ぶ。
 そんなイツカを見て、キョウジは僅かに肩をすくめる。

「どっちもですよ。銃弾を目で追えるのって、この世界で言うとあまり珍しくないみたいですし」

「うっそだぁ!」

「僕もそう思ったんですけどね。ほら、強化魔法があるから」

 キョウジの口から出た言葉に、イツカは納得した様子で大きく頷いた。
 魔力や魔法に近しい能力を持つだけに、イツカもそれらの恐ろしさは身をもって実感しているのだ。
 キョウジ達が居るのは、ケンイチの牧場に作られた戦闘訓練施設だった。
 土のブロックで作られた体育館ほどの建物で、イツカの能力でダンジョン化されている。
 武器や魔法の実験に使える、特別な施設なのだ。
 何故そんな所でハンスとコウシロウが戦っているのかといえば、理由は実に単純明快。
 訓練のためであった。

 イツカの能力は、キョウジに活用されまくっていた。
 細かい事は難しいとはいえ、正確な動きを続ける事ができるゴーレム。
 様々な物質や現象を生み出す事ができるトラップ。
 これらはキョウジのアイディアによって様々に魔改造され、工業機械のような物へと変貌を遂げていったのだ。
 それが如実に表れたのが、銃の製作についてだった。
 キョウジの記憶にあった様々な加工機械をゴーレムで再現する事により、より正確で細かな部品の製造が可能になったのである。
 それにより、手作りではリボルバー拳銃が精々だったところを、オートマチックの拳銃の再現にまで成功したのだ。

「いやだわぁー。知識チートってヤツ? キョウジくんそういうの好きそうだもんねー」

「まあ、嫌いじゃないですけど、なんですかその目は」

 半眼の、痛い子を見る目を向けられ、キョウジは居心地悪そうに苦笑する。

「アイディアは確かに僕が出しましたけど。実際に作ったのは鍛冶師さんですよ。大体、イツカさんの能力、っていうか、ジャビコさんの協力もありましたし」

 キョウジの言うとおり、ジャビコの協力も非常に大きかった。
 鍛冶師にオートマチック拳銃を説明する時、ジャビコのモニターが活躍したのだ。
 立体的な映像を映し出す事が可能で、尚且つそれを動かす事も出来るジャビコがあったからこそ、スムーズに銃の構造把握が出来たのである。
 図面などを書く能力がないキョウジにとって、それは非常に大きな助けになったのだ。

「ずっと作りたい作りたいとは思っていたんですけどね。ホント、イツカさんとジャビコさんのおかげですよ」

「えぇー? まじでぇー? やっぱりぃー?」

「お役に立てたようで、何よりです」

 にへらっと笑い、イツカは頭を書く。
 その横には、ふわふわと浮いているジャビコがいた。
 周囲にはいくつかモニターが浮いていて、そこにはハンスとコウシロウの戦いの様子が映し出されている。
 ジャビコは、二人の闘いの様子を記録しているのだ。
 この戦いを申し出たのは、ハンスであった。
 次々に出来上がっていく銃に、興味を抱いたのだ。
 こういった武器があるのならば、対策の必要もあるだろう。
 ならば、実際に戦ってみるのが一番だ、というのが、ハンスの言い分である。
 となれば、当然その相手はコウシロウが選ばれた。
 この街にいる誰よりも銃の扱いに長けるのは、コウシロウなわけだから、当然の人選だろう。
 コウシロウ自身、新しい銃のテストもしたいということで、戦いが実現する事になったのだ。
 ちなみに、ハンスが持っている剣は刃が潰されたもので、切断能力は皆無である。
 コウシロウの銃にしても使われているのは金属弾であり、この世界ではボクサーのパンチ程度の威力しかないものであった。
 お互い、非致死性の武器での模擬戦闘、というわけだ。

「しっかし、あの二人なんなの。なんか出来のいい映画の戦闘シーン見てる気分だわね」

「まあ、ハンスさんのほうは元エリート騎士で、コウシロウさんは……まあ、アレですからね」

「あれ? どれ?」

「触らぬ神に祟り無しです」

 まじめな顔でそういうキョウジの言葉を聞き、イツカは眉を寄せた。
 そして、改めてハンスとコウシロウの戦いへと目を向ける。
 銃弾を撃ち尽くしたコウシロウが、丁度マガジンを入れ替える場面だった。
 アメリカのドンパチうちまくっているアクション映画もかくやという滑らかさでのその動きは、とても戦いに関係のない生活を送ってきたようには見えない。
 素人目にも、尋常ならざる技量だという事が分かる。
 軍隊経験者なのか、あるいはそれ以外なのか。
 どっちにしても、カタギではないのは間違いないだろう。

「なるほど。世の中知らなくていいことがあふれてるのね」

「そう思いますよ」

「で、そのカタギでない人に銃を渡してどうしたいのよ、キョウジくんは」

 急に真剣な顔で聞かれ、キョウジは目を丸くする。
 少し考えるような素振りを見せると、軽く肩をすくめた。

「この世界は、危険が多いです。それこそ、死ぬほどですよ。一番びっくりしたのは、鉄で作った銃が役に立たない事です。飛んでくる弾を目で見て対処できる人間が居るんですよ?」

 地球でならば、そんなことが出来るものはまず居ないだろう。
 銃弾というのは目に見えないものであり、遠く離れた相手に確実に致命傷を与えられる武器なのだ。
 だが、この世界では違う。
 すくなくとも、金属弾は人体を貫く事もできない。

「それでいて、一個人でとてつもない力を持ってる人間も居るんです。魔獣も、怖いですね。ホントに」

 ケンイチの牧場で暮らしているからこそ、余計にそう思うのだろう。

「鍛冶師さんの技術に、イツカさんの能力。それで、致死性の銃は作る事ができました。でも、それにしたってこの世界では魔法よりも性能がよろしくない武器ですよ。でも、無いよりはマシです。ずっとマシです」

 キョウジはメガネの縁に指を当てると、ぐっと押し上げた。

「それに何より、銃にはとてつもなく大きな利点が有ります。魔法が使えない僕にも、使えるんですよ」

「まあ、確かにそれはあるけど。あれ? キョウジくん、戦いたい人?」

「まさか。僕は見たままのヘタレですよ。でも、僕でも護身用の武器は持ってないと、何があるかわからないでしょう?」

 この世界は、日本とは違う。
 普通にしていれば、死の危険が付きまとう世界なのだ。
 安全に暮らすには、武装して身を守るしかない。

「ぶっちゃけた話、魔石弾のガトリング砲を作ったって、この世界では魔法の劣化コピーだと思いますよ。でも、それでも身を守るのには使えます。僕はですね、死にたくないんですよ」

「ほぉ?」

「元の世界に帰れるにしても、この世界で一生暮らすにしても、僕は死にたくありません。そのためには身を守らなくちゃならない。消極的で居たら、死にますよ本当に」

「そうならないために、武器を持ちたいって事?」

「というより、自分を守れる場所を作りたいって感じですかね。たとえば、ケンイチさんとミツバちゃんが居れば、大体の危険からは守ってくれると思いますよ。その代わりに、僕は傷を治して上げられます」

 そういうと、キョウジは手を広げて見せた。
 キョウジの治療魔法ならば、どんな怪我も病気も関係無い。
 生きてさえ居れば、完全回復が可能だ。
 ケンイチとミツバの戦闘力にそれが加われば、確かにある程度の危険に対しては対処できるだろう。

「でも、食べ物は? 暮らしていく場所は? そういうのもないと、生きていけません。つまり、この街と人がいないと、僕はすぐ死にます。自分で食べ物なんて取れませんし、服だって用意できません」

「じゃあ、街も守らないといけない、ってこと?」

「そうですね。僕が死なないために。以前、この街が襲われかけた話、聞いてましたよね?」

「ああ、はいはい」

 隣国の実験部隊がこの街に攻撃を仕掛けようとしていた。
 その話は、イツカも聞かされている。

「死ぬほど怖かったですよ。ああ、ここでは戦争も、魔獣も、直ぐ隣にあるんだって思いました。それまでも、そういうことがあるかも知れないと思って色々用意してはいましたけど。何かあってからじゃ遅いって、痛感しましたよ」

「だから、今色々作ってるんだ」

「そうですね。身を守るための備え、ですよ。大げさな準備をしているように見えるかもしれませんが。魔法、魔獣。ああいうのを見た後だと、僕にはとてもそうは思えませんよ。怖くて仕方有りません」

「なるほどねぇー」

 イツカは持ち上げたコップを呷ると、空いたそれをジャビコの上に置いた。
 ニヤリと笑うと、キョウジのほうへと身を乗り出す。

「みんなを守りたいから、で、いいんじゃない? 自分が死にたくないから、なんて言わないでさ」

 キョウジは目を丸くして、苦笑いを浮かべた。

「そう胸を張って言えたら、そう思えるんでしょうけどね。僕はダメです。そこまでかっこよくなれませんよ、ただのビビリですから」

「ただのビビリが、銃作ったりゴーレムの改良したりできるのん?」

「それは、僕がたまたま治療魔法のおかげで、顔が広かったり、いろんな人に感謝してもらっているおかげですよ。そう、ホントに、それだけです」

 自嘲するような笑顔を作ると、キョウジは力なく笑い声を漏らす。

「たまたま得た力で、たまたまあった専門分野の人同士を繋げて、守ってもらう。借り物貰い物で、いや、実際情けない話ですよねぇ」

「それ、あたしにいう?」

 ジャビコをたたきながら、イツカは楽しそうに笑う。
 イツカのダンジョン製作能力は、この世界に来て得た力だ。

「たまたま得た力っつーか、特殊能力はみぃーんなこの世界に来てから手に入れたもんじゃない」

「かも知れませんけど。ケンイチさん、ミツバちゃん、コウシロウさん、それに、イツカさんも。皆、能力を自分のものにしてるじゃないですか。僕にはどうもいまいち、未だに借り物にしか思えないんですよ。」

「えぇー? そんなもんかしらねぇー?」

「まあ、とにかく、僕は借り物貰い物で必死になって自己保身をしてるだけなんですよ。他の誰かが僕の立場になったら、きっと同じように……あ、いや。それは違うかな。もっと上手くやるでしょうね。多分。僕に出来るのはこの程度なんですよ」

「そうかなぁ。随分頑張ってると思うよ?」

「そりゃぁ、がんばりますよ。それこそ死にたくないですし」

「卑屈すぎると思うけどなぁー。私と比べりゃ、何千倍もましなんだし」

 そういうと、イツカは足元においてあった酒瓶を持ち上げた。

「ひるまっからのんじゃってまーす。うえっへっへーい」

 思わず、キョウジは表情を引きつらせた。
 それを見たイツカは、楽しそうに笑い声を上げる。

「もっと肩の力抜いていいんじゃない? 実際この世界、身を守るための武器は必要よ。何があるかわかんないし、それこそ私なんて身を守るためにダンジョン作るのよ? ダンジョン。超おおげさじゃない?」

「いや、でもイツカさんはそれが能力ですし」

「そう、私の能力。キョウジくんも能力使って、身を守ってるだけじゃん? 副次的なものにしても、よ。じゃあ、別に誰に遠慮する事も、自虐することも無いじゃない。ただ、ちょっと守りたいものが大きいから、すごく大事になって見えるだけで。ねぇ、街のお医者先生?」

 イツカの物言いに、キョウジは表情を引きつらせたまま、力なく笑った。
 ゆっくりとハンスとコウシロウのほうへと顔を向けると、大きくため息を吐く。

「いやぁ。やっぱり僕はただのヘタレですよ。自分の身のついでに、多少ほかも守れればな、と思ってるだけです。それにしたって、ついで、ですからね」

「ねくらだねぇー。だからモテないんじゃないのぉー?」

 けたけたと笑うイツカに、キョウジはやはり苦い笑いを返す。

「かもしれませんね。まあ、その分、自分の身を守る道具のあれこれは、きっちりやりますよ」

「いいんじゃない? お手伝いしますよ? もちろん」

 こうして、イツカは改めてキョウジへの協力を約束したのであった。
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