魔王様のヒメゴト

たとい

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愉快な勇者御一行様

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「まったく、あのお二人は一体どこへ行かれたのか・・・。」




頭を抱えて村を歩く人間が一人。それは、魔王に使える黒猫の変化した姿だった。

というのも外に出て様々な世界を見たかったのだと語る姫の話を聞いたことで、魔王様が彼女と一緒に人間界へ出向くことにしてしまったからだった。

普通に観察するためにも姫にはフードで顔を隠してもらい、猫と魔王様は人間の姿になり人間界へと降りた。

しかし困ったことに、猫はその二人とうっかり離れてしまったのだ。




「どちらも世間知らずなところがあるからな、問題が起きる前に探さねば。」

「よぉ、お姉ちゃん。美人だね、お一人かい?困ってることでもあるのか?」




うろうろと周りを見回しながら歩いていると、目の前に一人の男が現われた。

お姉ちゃんという呼びかけに黒猫はピクリと反応する。




「(私はオスだというのに!これだから人間共は・・・あいつらの目は節穴か!)」




そう、黒猫はれっきとした男もといオスであった。もちろん人間に化けている今も男なのだが、容姿はかなり女性的だった。

人間界に来る前から姫君にもそう指摘されたのだが、それほどまでに自分は女性に見えるのかと衝撃を受けていた。




「貴様らに用などない。どけ。」

「つれないなー、これでも俺勇者目指して旅してる途中なんだけど。もしかして君強いの?だったら、一緒のパーティに入らない?」

「勇者、だと?」




偉そうに立ち振る舞う男の後から、数名が現われる。どうやらお仲間のようだった。

勇者パーティと名乗っているくせに、どっからどう見てもたちの悪い連中。

適当に振り払おうとするが、相手が無理やりにでも連れて行こうとするので魔法を放つ。

大騒ぎになっても困るので手加減はしたがこれでも魔王の重臣だ。彼らを恐怖でおののかせるのには十分だった。




「す、すみませんでしたぁあああ!!」

「ふん、くだらん。勇者というのは魔王様というあまりに強力な存在に立ち向かう『勇ましき者』のこと。この程度の魔力で怯えるような貴様らなんぞには相応しくないわ。去れ。」




脅したことであっという間に逃げ去ったのを確認する。

さてこれで面倒事が片付いたと思ったのだが、今度はまた違う男が声をかけてきた。

服装からして僧侶のようで、黒猫はこっそりと舌打ちをした。悪魔としては神に近い存在は憎らしい存在なのである。




「なんと素晴らしい!あなたの魔力は、すごいのですね。」

「貴様に構っている暇はない。私に構うな。」

「お忙しいのですか?何かをお探しであれば、私も協力しますよ。」




あぁ、これだから人間というのは面倒なのだと黒猫は思った。特に僧侶は。

無視してさっさと立ち去ってしまおうと考えていると、町のとある方から騒ぎ声が聞えてきた。

まさかと思ってその声の方に駆けつければ、幼い二人がそこにいた。




「やっと見つけましたよ魔お・・・マオ様!」




そのまま呼ぶ訳にもいかず、適当に誤魔化して声をかければその二人が振り返る。そう、その二人こそ姫と魔王であった。

魔王様が少年の姿なのはそのほうが目立たないと考慮したのもあるが、魔王様が王女と同じ立ち位置で世界を見たいと考えたからでもある。

実際は黒猫が、年配の男性と少女の組み合わせというのが何だか怪しいという結論に至ったからでもあるのだが。




「勇者様!」




今度は一緒について来たらしい僧侶がそう叫んだ。魔王様の隣に立っている青年がそうらしい。

二人に話を聞いてみれば、突然市場を襲ってきた魔物と青年が戦っていたのだが、危うく危険な目に会いそうだった姫を見かねて怒った魔王様によって魔物が逃げ去っていったのだとか。

魔王様は魔物全てに顔がきいている。ゆえにそこにいただけでも恐れ多かったのだが、無言の一睨みであっという間のことだったという。




「いやぁ驚いたよ。君、強いんだね。」

「貴様もなかなかの腕前だったぞ。今後の成長が楽しみだ。せいぜい私をがっかりさせぬよう成長することだな。」

「二人とも十分楽しんだでしょうし、それでは帰りますよ二人とも。」




魔王と勇者はしばし会話が弾んでいたが、黒猫は慌てて二人を連れてその場から立ち去る。

これ以上勇者達と関わるのも危険であったし、騒がれるのも問題なのだった。

勇者と僧侶はもう少し話したいと思い追いかけようとしたのだが、あっという間に見失ってしまったのだった。




「お二人共、私の不注意とはいえもう勝手にいなくなってはいけませんよ。」

「すまない。しかし、姫が何者かに連れさらわれてそうになってしまったようでな。」

「なんでまた。まさか、見つかってしまったのですか?一体誰に、まさか城の者ですか?」

「それが、私の隣国の王女でして。」

「隣国の王女?」

「なんでも誘拐されたことをキッカケに盗賊団を討伐して、女剣士としてあの勇者の方と冒険をしているのだそうです。」

「・・・あなたの他にもいたんですね、城を抜け出して自由に過ごしている方が。それも随分とおてんばな姫君のようだ。貴様らの制度はやはり腐っているな。」




呆れたように黒猫は呟いた。

魔界は力こそが全て。ゆえに強力な力を持つ魔王は世界を支配しようとし、魔王が敗れた後には魔界の者全員が勇者に従って大人しくなり世界は平和になったのだ。

その勇者がいなくなってからは、また荒れることになったのだが。

だからこそ何の力も持たない姫君に魔王が興味を持つことや、それによって弱い姫君なんぞを魔王様の命令で大事に扱わなければならないことに黒猫は不満を抱いていた。

今魔界で一番強い魔王様の命令なのだから、仕方のないことだと諦めてはいるのだが。




「それで、大丈夫なのか?」

「はい。お互いに秘密にしましょうということで落ち着きましたので。」




その姫君は元々家出をする気だったので、盗賊団を討伐して盗んだ服を拝借した時は普通の娘として過ごすつもりだったのだが、偶然出会った勇者に惚れて女剣士になったのだった。

偶然居合せた姫君にも一緒に歩いている少年がいたので、彼女はきっと駆け落ちなのだろうと解釈して応援することにしていた。

さて、その女剣士だが、今だに勇者達とともにまだ魔王達のことを探していた。




「どうやらこの村にはもういないみたいね。もうちょっと話聞いてみたかったなぁ。」

「はい。また、会えるといいのですが。」

「うん。にしても、手強いライバルが現われたなぁ。僕も頑張らないと。」




黒猫が『マオ様』と様付けで呼んだこともあって、勇者達は魔王のことを勇者を目指して魔物を退治している少年なのだと勘違いをしていた。

しかも僧侶の方は、黒猫を勇敢で気高く美しい女性だと思い込んですっかり夢中になっていたのだが。

そんなこと、本人達は知るはずもなかった。
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