贄とまだ知らぬ龍

たとい

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本編

涙とまだ知らぬ龍

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あれからいろんな話を互いに語りあった。

いろんなことを一緒にした。




彼女が来るまで龍は孤独だった。

龍という種族にとって、それは自然のことではあったのだが。

その龍に限っては、喜びを教えてくれた彼女をとても気に入っていた。




しかしその反面、龍には不安があった。

己と違って人間の寿命はあまりにも短い。この地での生活が彼女に足りてるとも思えない。

彼女がいなくなった余生をどう過ごせばいいだろう。

そしてもう一つの疑問。

餌は、いつになったら落ちてくるだろう。




「てっきり、そろそろ落ちてくる頃だと思っていたのだがなぁ。」




末永い時を生きる龍のことである。

その気になれば多少待つのは苦ではなかったはずだが、どうにもじれったい。

そろそろ強請ってみようかと思ったが、今では難しい。

大事に育ててきた植物を台無しにするかもしれないし、何より少女に怪我を負わせるのが嫌だった。




「そろそろ、待ちきれないですか。」




この話をするたびに、少女が俯く。

最初は、彼女も残念がっているものだと思っていた。

だから早いとこ落ちてきてほしかった。彼女がうっかり死ぬ前に。

けれども違うらしいと気づいてから、違和感ばかりが付きまとう。

餌が。餌さえ落ちてくればわかるのだろうか。

そう、思っていた。




「実は、ですね。私、あなたにずっと黙っていたことが。」




その時、岩の落ちる音がした。




深い深い穴倉に、上から崩れた岩が落ちてきた。

大怪我を負う彼女を前にして、龍は必死に声をかける。




「しっかりしろ!目を覚ませ!」

「あぁ、これはきっと罰なのですね。」

「何を言う。お前にどんな罰があるというのだ。」

「贄から逃げ出し、あなたを欺いてきた。」

「欺くだと?」




弱弱しくも、その声ははっきりと龍に届いた。




「私はあなたの贄。あなたの待ち望んでいた、餌なのです。」




少女は全ての真実を龍に話した。

彼女は、長いこと悔いていた。

自分が逃げ出したことで、新しい贄が選ばれるかもしれないと気づいてしまった。

もし違う贄が落ちてきたらと考えると、恐ろしくてたまらなかった。

贄だと気づかれる日が怖かった。嘘をつき続けるのが苦しかった。

龍が我慢できずに強請れば、間違いなくそれは落ちてくる。

だから今日こそは話そうと、食われる覚悟もしてきたというのに。

真実を知ってもなお、龍は嘆き続けるばかりであった。




「ふざけたことを言うな。今更、今更どうしろと。」




罪があるというのなら、彼女の嘘より己の無知だと龍は悲憤する。

己の手では何もできない。救いようがない。

ここには治療できるものなど何一つないのだ。あるとしたら、遥か上にある外の世界。




「待っていろ。すぐにでも出してやる。」




放り投げても意味が無い。自分が連れ出さなくては。

龍は初めて必死に外を目指した。

不器用に翼を広げ、ぶつかり、岩を砕く。

片手に己の天使を大事に抱いたまま、ただひたすら天を目指して。

穴倉にいるのは楽だった。もしかしたらその地が龍にとっての天国だったかもしれない。

それでも良かった。這い出た先に何があろうと、龍はかまわなかった。

血だらけになりながらも龍が目指すのは、彼女の救われる世界のみ。










「大丈夫か?まだ、生きているか!?」




気を失っていた少女は、龍の声で目が覚めた。




「ここは、外ですか?」

「そうだ。よかった、意識はあるな。」




息を切らした龍を見て、彼女は驚いた。




「傷だらけじゃないですか。」

「そんなことはどうでもいい。村はどこだ。いや、お前は贄だったか。しまったな。」




焦る龍とは反対に、少女は落ち着いた様子で尋ねる。




「何故、村に。」

「お前を助けるためだろう。それとも何か、他に手があるのか。」




龍の言葉に、少女は不思議そうに尋ねた。




「私を、助けてくださったのですか?」

「当然だ。勝手に死ぬな。お前は私の贄なのだろう。」




ずっとそばにいろ、と。願いながら頭を撫でた。

ゆっくりと、全てを理解した少女は笑って答える。




「あなたは、本当に世間知らずですね。」

「何を言って。」

「まだわからないのですか?もう、体が痛くないのです。」




馬鹿な、と彼女の体をよく見てみれば。

その傷はふさがっていた。

龍の目に流れていたものをぬぐいながら、彼女は囁いた。







「龍の血には、未知の力があるそうですよ。」
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