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本編
無知とまだ知らぬ龍
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それは村の言い伝え。
昔から、この地の山に棲みついていた龍がいた。
ある時、村人は龍を怒らせた。怒り狂った龍はその地で大暴れをしはじめた。
大地は震え、灼熱が吹き出し、木々も枯れていき、村人は非常に苦しめられた。
そこで数名が様子を見に行くと、穴を覗いた一人が龍の炎に焼かれてしまった。
しかし、その一人が穴へと落ちると龍の怒りが収まり村に平和が訪れた。
それから数年に一度、龍の怒りを鎮めるために焼かれた贄が差し出される仕来りが生まれた。
贄の彼女も、そう聞かされていた。
ところが龍は、こう語る。
ある時、つまらなかったので外に出ようと暴れてみた。しかしうまく飛べず、苛立った。
地団駄を踏み、火を噴きまくり、好き勝手に大暴れしてみた。
一つ大きく火を噴くと、上から何かが落ちてきた。
美味しそうな匂いがした餌だったので食べてみるとこれがなかなかの美味で、満足して眠りについた。
それから数年に一度、あの味が恋しくなるたびに暴れてみれば誰かが落としてくれるようになったという。
「誰かは知らぬが、ありがたい。」
龍にとっては、ただの食事の合図でしかなかったらしい。
「生まれた時からここにいるのだが、あまりの暇に死にそうになる。」
「外に出たことが、無いのですか。」
「一度も無い。両親が外から面倒をみてくれていたが、今は顔も見せないな。」
死んだ、と思わないのは。龍が丈夫で長生きだからだろうか。
だが、少女は知っている。
ーある時、村人は龍を怒らせた。
何をして怒らせたの?と聞いた子供に、語り部は答えたのだ。
龍の仲間を討伐したからだ、と。
「いずれ外に出してくれるだろうと思っていたら、穴よりも体が大きくなってしまった。」
どれぐらい長い時を過ごしたのだろう。
積み上げられた石、描くようにつけられた傷、掘られた彫刻が、その年月を物語っていた。
「周囲の植物は、最近になって育ててみているものでな。これがなかなか楽しい。」
こんな場所に生えるほど頑丈な植物も珍しい、見たこともない植物だった。
古の龍がこの地に運んだものだろうか、と不思議そうに眺める少女を龍は尾で身に寄せる。
「人間、今度はお前の話を聞かせろ。外のことが、もっと知りたい。」
そう言われても、何から話して良いものか。
身の上話をするにしても、贄の話をするわけにもいかないのだし。
「そ、外は、広くて。空、もよく見えます。」
「ほう、空か。そうだ、太陽は?太陽は見えるのか?どこから昇る。向こうからか?」
「はい。向こうから登って、あちらへと沈んでいきますよ。」
「やはりそうか。ふむ、ふむ。」
一つ一つの話を龍は興味深々に聞いていた。。
とても些細なことなのに、とても嬉しそうにする龍を見ながら少女は知る。
この龍は、無知なのだ。
本来ならば、龍とは知恵者である。
けれどもそれは、元々備わっているものでは足りない。長い年月を得て学ぶものだ。
この龍は、幼い頃に両親がいなくなり、穴から外へ出ることも無く、世間を知らずに生きてきた。
得るものが少なすぎたのである。
「もっと話せ、人間よ。」
その目があまりに澄んでいて、自分に優しくしてくれて、なにより心が純粋で。
いつしか少女は、龍を恐れなくなっていた。
それでも、覚悟を決める。
時が経てば、龍も彼女が贄と気づくことだろう。
龍は知恵者。愚か者ではないのだから。
昔から、この地の山に棲みついていた龍がいた。
ある時、村人は龍を怒らせた。怒り狂った龍はその地で大暴れをしはじめた。
大地は震え、灼熱が吹き出し、木々も枯れていき、村人は非常に苦しめられた。
そこで数名が様子を見に行くと、穴を覗いた一人が龍の炎に焼かれてしまった。
しかし、その一人が穴へと落ちると龍の怒りが収まり村に平和が訪れた。
それから数年に一度、龍の怒りを鎮めるために焼かれた贄が差し出される仕来りが生まれた。
贄の彼女も、そう聞かされていた。
ところが龍は、こう語る。
ある時、つまらなかったので外に出ようと暴れてみた。しかしうまく飛べず、苛立った。
地団駄を踏み、火を噴きまくり、好き勝手に大暴れしてみた。
一つ大きく火を噴くと、上から何かが落ちてきた。
美味しそうな匂いがした餌だったので食べてみるとこれがなかなかの美味で、満足して眠りについた。
それから数年に一度、あの味が恋しくなるたびに暴れてみれば誰かが落としてくれるようになったという。
「誰かは知らぬが、ありがたい。」
龍にとっては、ただの食事の合図でしかなかったらしい。
「生まれた時からここにいるのだが、あまりの暇に死にそうになる。」
「外に出たことが、無いのですか。」
「一度も無い。両親が外から面倒をみてくれていたが、今は顔も見せないな。」
死んだ、と思わないのは。龍が丈夫で長生きだからだろうか。
だが、少女は知っている。
ーある時、村人は龍を怒らせた。
何をして怒らせたの?と聞いた子供に、語り部は答えたのだ。
龍の仲間を討伐したからだ、と。
「いずれ外に出してくれるだろうと思っていたら、穴よりも体が大きくなってしまった。」
どれぐらい長い時を過ごしたのだろう。
積み上げられた石、描くようにつけられた傷、掘られた彫刻が、その年月を物語っていた。
「周囲の植物は、最近になって育ててみているものでな。これがなかなか楽しい。」
こんな場所に生えるほど頑丈な植物も珍しい、見たこともない植物だった。
古の龍がこの地に運んだものだろうか、と不思議そうに眺める少女を龍は尾で身に寄せる。
「人間、今度はお前の話を聞かせろ。外のことが、もっと知りたい。」
そう言われても、何から話して良いものか。
身の上話をするにしても、贄の話をするわけにもいかないのだし。
「そ、外は、広くて。空、もよく見えます。」
「ほう、空か。そうだ、太陽は?太陽は見えるのか?どこから昇る。向こうからか?」
「はい。向こうから登って、あちらへと沈んでいきますよ。」
「やはりそうか。ふむ、ふむ。」
一つ一つの話を龍は興味深々に聞いていた。。
とても些細なことなのに、とても嬉しそうにする龍を見ながら少女は知る。
この龍は、無知なのだ。
本来ならば、龍とは知恵者である。
けれどもそれは、元々備わっているものでは足りない。長い年月を得て学ぶものだ。
この龍は、幼い頃に両親がいなくなり、穴から外へ出ることも無く、世間を知らずに生きてきた。
得るものが少なすぎたのである。
「もっと話せ、人間よ。」
その目があまりに澄んでいて、自分に優しくしてくれて、なにより心が純粋で。
いつしか少女は、龍を恐れなくなっていた。
それでも、覚悟を決める。
時が経てば、龍も彼女が贄と気づくことだろう。
龍は知恵者。愚か者ではないのだから。
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