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食レポゴブリン
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宿の近くで飯屋を探していると、一際賑やかな客引きが居た。
「楽しい食事を体験してみない? 旅の思い出になること間違いなし! 今だけオープン記念でお得に食べれるよ!」
「ダディ、楽しい食事だって! あたしあそこの店がいいかも!」
「ちゃしきゃにきににゃりゅにぇ!」
※確かに気になるね!
まだ空席があったようで、すぐに案内してくれた。
オープンしてまだ三日しか経っていないらしい。
コース料理の店なので、酒場でワイワイやりたい客層が多いジークウッドの街ではイマイチ客の入りが良くないのだとか。
店内は、テーブル席が六つの暖かい雰囲気で、厨房に居るやけに体つきがいい角刈りの男がミスマッチだった。
「メヂールのカルパッチョだ。緑の皿から食え」
角刈りが料理を運んでくれた。
マグロに似た薄切りの魚が花の形に盛り付けられ、サラダが添えられている。
ドレッシングで半円状に模様が描かれていて、見た目でも楽しませてくれるようだ。
とても目の前で腕を組んでいるゴリラのような男が作ったとは思えない。
何故この男は料理を運んだ後も俺たちのテーブルの近くで仁王立ちしているのだろうか。
そして何故全く同じ見た目のカルパッチョが二皿ずつあるのだろうか。
縁が赤と緑の二種類の白い皿がある。
「早く食え」
角刈りが急かしてくる。
この店が流行らないのはこいつの所為なんじゃないか?
「何これ! 全然違う!」
「本当ですねっ! 見た目も味付けも全く同じなのに、何故でしょうかっ?」
二つの皿を食べ比べたナタリアが驚きの声を上げている。
アルは、片方の皿から一口食べて目を瞑り、別の皿から食べて首を傾げている。
「ほう、分かるかい?」
ゴリラの表情は変わっていないのだが、声のトーンが一つ上がった気がする。
よく見るとソワソワしていて、少し嬉しそうだ。
コメ:勇太早く食えよ!
コメ:ウホウホ言ってる奴をお前の舌で黙らせろ!
コメ:ゴブリンVSゴリラ ファイッ!
俺も言われた通りに緑の皿から食べてみた。
勇太:普通に美味い!
コメ:は?
コメ:それだけ?
次に、赤の皿から一切れつまみ、口へ運んだ。
「うんみゃあああああ! ちゅり! きょりぇちゅり!」
※うんまあああああ! 釣り! これ釣り!
「むっ?」
神妙な顔になった角刈りが厨房に戻っていった。
腕まくりして気合いを入れていた気がする。
コメ:釣り?w
コメ:ゴリラの眉が上がったぞ!
コメ:効いたか?
勇太:これなんですよ。昔、俺が寿司を食べて感動したのは。その寿司屋の大将が言ってたんですが、漁で大量に獲った魚って、網の中で暴れてストレスがかかるんですって。そのまま船の上で放置されるんで、熱を持って味が落ちるらしいんです。釣ってすぐ血抜きとかの処理をして冷やして持ち帰った魚は、その魚が本来持ってる香りと旨みが段違いなんですよ。俺その時、マグロってこんな香りがある魚なんだって衝撃を受けまして、今正にそれを味わってます。
コメ:それはなんか分かる気がする。
コメ:ほぇー。そんな違うんや?
「ワイバーンのステーキだ。緑から食え」
まさかここでワイバーンの肉が食べれるとは思わなかった。
一口大のステーキに茶色のソースがかかっている。
肉と全然関係ないところまでソースの曲線が伸びて、これまたお洒落な一品だ。
それが二皿。
この店はどうやら食べ比べで楽しませてくれるみたいだ。
「早く食え」
また急かされた。
今度は俺の方を見ていた気がした。
「どっちも美味しいけど、あたしは赤い皿の方が好き!」
「何故こんなに味が違うのでしょうねっ? 個体の大きさの違いでしょうか?」
「ふふっ」
コメ:ゴリラわろとるでwww
コメ:勇太くんはよ!
コメ:食レポゴブリンいったれ!
目玉も美味しかったが、肉はどんな味がするんだろうか。
切望していたワイバーン肉がついに食べれる。
肉を刺すフォークを持つ手が震えてしまう。
緑の皿から食べてみた。
「にゃにきょりぇうんみゃ! しゅんぎぇえうみゃい!」
※何これうんま! すんげえ美味い!
あまりの美味しさにフォークが止まらず、続け様に赤の皿に手をつけた。
「あ……」
※あ……
コメ:え?
コメ:死んだ?
コメ:勇太?
「うんみぇしゅぎりゅううううう! じゅきゅしぇいぢゃ!」
※うんめすぎるううううう! 熟成だ!
「なにっ!」
コメ:なるほど熟成か!
コメ:ゴリラ驚きすぎw
コメ:異世界のモンスター肉を熟成って初めて見たかも?
勇太:熟成されてないワイバーンも美味しんですが、熟成したら別物になりますね。噛めば噛むほど味が出る熟成前と違って、口に入れた瞬間からもう美味い! 前にテールスープを食べた時に感じたワイバーン特有の香りってのがあるんですけど、熟成するとそれに木の実のような香りがプラスされるんです。鼻を抜ける時に心地よくて、油が全体に馴染んだ肉の旨みと甘さが合わさってもう最高ですよこれ。
コメ:ヤバいくらい美味そうなんだがw
コメ:ブラックジャイアントオークと比べるとどう?
勇太:熟成ワイバーンだと五分ですかね。熟成同士なら黒豚が勝ちそうですけど。ただ、出汁は豚の方に軍配が上がりますね!
コメ:飯食いに異世界行きたくなるなw
コメ:分かるwww
この後も二皿ずつ料理が運ばれ、どれも非常に美味しかった。
会計の時に何故か名前を聞かれたので勇太と答えておいた。
そして、何故か握手を求められた。
この世界で俺の本名を知るのは角刈りのゴリラだけしかいない。
「楽しい食事を体験してみない? 旅の思い出になること間違いなし! 今だけオープン記念でお得に食べれるよ!」
「ダディ、楽しい食事だって! あたしあそこの店がいいかも!」
「ちゃしきゃにきににゃりゅにぇ!」
※確かに気になるね!
まだ空席があったようで、すぐに案内してくれた。
オープンしてまだ三日しか経っていないらしい。
コース料理の店なので、酒場でワイワイやりたい客層が多いジークウッドの街ではイマイチ客の入りが良くないのだとか。
店内は、テーブル席が六つの暖かい雰囲気で、厨房に居るやけに体つきがいい角刈りの男がミスマッチだった。
「メヂールのカルパッチョだ。緑の皿から食え」
角刈りが料理を運んでくれた。
マグロに似た薄切りの魚が花の形に盛り付けられ、サラダが添えられている。
ドレッシングで半円状に模様が描かれていて、見た目でも楽しませてくれるようだ。
とても目の前で腕を組んでいるゴリラのような男が作ったとは思えない。
何故この男は料理を運んだ後も俺たちのテーブルの近くで仁王立ちしているのだろうか。
そして何故全く同じ見た目のカルパッチョが二皿ずつあるのだろうか。
縁が赤と緑の二種類の白い皿がある。
「早く食え」
角刈りが急かしてくる。
この店が流行らないのはこいつの所為なんじゃないか?
「何これ! 全然違う!」
「本当ですねっ! 見た目も味付けも全く同じなのに、何故でしょうかっ?」
二つの皿を食べ比べたナタリアが驚きの声を上げている。
アルは、片方の皿から一口食べて目を瞑り、別の皿から食べて首を傾げている。
「ほう、分かるかい?」
ゴリラの表情は変わっていないのだが、声のトーンが一つ上がった気がする。
よく見るとソワソワしていて、少し嬉しそうだ。
コメ:勇太早く食えよ!
コメ:ウホウホ言ってる奴をお前の舌で黙らせろ!
コメ:ゴブリンVSゴリラ ファイッ!
俺も言われた通りに緑の皿から食べてみた。
勇太:普通に美味い!
コメ:は?
コメ:それだけ?
次に、赤の皿から一切れつまみ、口へ運んだ。
「うんみゃあああああ! ちゅり! きょりぇちゅり!」
※うんまあああああ! 釣り! これ釣り!
「むっ?」
神妙な顔になった角刈りが厨房に戻っていった。
腕まくりして気合いを入れていた気がする。
コメ:釣り?w
コメ:ゴリラの眉が上がったぞ!
コメ:効いたか?
勇太:これなんですよ。昔、俺が寿司を食べて感動したのは。その寿司屋の大将が言ってたんですが、漁で大量に獲った魚って、網の中で暴れてストレスがかかるんですって。そのまま船の上で放置されるんで、熱を持って味が落ちるらしいんです。釣ってすぐ血抜きとかの処理をして冷やして持ち帰った魚は、その魚が本来持ってる香りと旨みが段違いなんですよ。俺その時、マグロってこんな香りがある魚なんだって衝撃を受けまして、今正にそれを味わってます。
コメ:それはなんか分かる気がする。
コメ:ほぇー。そんな違うんや?
「ワイバーンのステーキだ。緑から食え」
まさかここでワイバーンの肉が食べれるとは思わなかった。
一口大のステーキに茶色のソースがかかっている。
肉と全然関係ないところまでソースの曲線が伸びて、これまたお洒落な一品だ。
それが二皿。
この店はどうやら食べ比べで楽しませてくれるみたいだ。
「早く食え」
また急かされた。
今度は俺の方を見ていた気がした。
「どっちも美味しいけど、あたしは赤い皿の方が好き!」
「何故こんなに味が違うのでしょうねっ? 個体の大きさの違いでしょうか?」
「ふふっ」
コメ:ゴリラわろとるでwww
コメ:勇太くんはよ!
コメ:食レポゴブリンいったれ!
目玉も美味しかったが、肉はどんな味がするんだろうか。
切望していたワイバーン肉がついに食べれる。
肉を刺すフォークを持つ手が震えてしまう。
緑の皿から食べてみた。
「にゃにきょりぇうんみゃ! しゅんぎぇえうみゃい!」
※何これうんま! すんげえ美味い!
あまりの美味しさにフォークが止まらず、続け様に赤の皿に手をつけた。
「あ……」
※あ……
コメ:え?
コメ:死んだ?
コメ:勇太?
「うんみぇしゅぎりゅううううう! じゅきゅしぇいぢゃ!」
※うんめすぎるううううう! 熟成だ!
「なにっ!」
コメ:なるほど熟成か!
コメ:ゴリラ驚きすぎw
コメ:異世界のモンスター肉を熟成って初めて見たかも?
勇太:熟成されてないワイバーンも美味しんですが、熟成したら別物になりますね。噛めば噛むほど味が出る熟成前と違って、口に入れた瞬間からもう美味い! 前にテールスープを食べた時に感じたワイバーン特有の香りってのがあるんですけど、熟成するとそれに木の実のような香りがプラスされるんです。鼻を抜ける時に心地よくて、油が全体に馴染んだ肉の旨みと甘さが合わさってもう最高ですよこれ。
コメ:ヤバいくらい美味そうなんだがw
コメ:ブラックジャイアントオークと比べるとどう?
勇太:熟成ワイバーンだと五分ですかね。熟成同士なら黒豚が勝ちそうですけど。ただ、出汁は豚の方に軍配が上がりますね!
コメ:飯食いに異世界行きたくなるなw
コメ:分かるwww
この後も二皿ずつ料理が運ばれ、どれも非常に美味しかった。
会計の時に何故か名前を聞かれたので勇太と答えておいた。
そして、何故か握手を求められた。
この世界で俺の本名を知るのは角刈りのゴリラだけしかいない。
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