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72話 答えは本質の中
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72話 答えは本質の中
レガート伯爵は答えられない僕の代わりに語り始めた。
その一言で、キンッとした空気が少し和らぎ、グリップを握りしめていた手が自然と緩んだ。
「幼いミスティアには、レガート楽団のコンサートマスターを任せたいと思わせるほどの才能があったんだ。
私だけではなく皆も当然のように思っていた。
もちろん、本人も楽しみにしていた」
レガート楽団といえば王宮音楽団とは、比べものにならないほど卓越した高い技術を持つ楽団だ。
レガート音楽学校の入学試験は難しいく、試験ですら不定期だと聞く。
「しかしミスティアは事件以来、奏でることも、感じることもしなくなった。
…自ら音楽を断ったんだ。
何度か声を掛けてみたが、『そのうちに』と言ったきり十一年が過ぎた。
その間も私たち家族は自分を責めた。
特に次男は家族とも距離を置くようになったが、どうすることもできなかった。
長く苦しい十一年だった——
それが君の剣の音色を聞いた日、自分からピアノを弾いたんだ。
…でもまだ皆でマカロンは食べることはできなかった。
なぜかまたミスティアに危害が及んだらと考えてしまってね…
君からいただいたマカロンだから、食べることができたんだ」
ただ剣を振って、下心で渡したマカロンに、こんなにも大切な話があったことを知り、少し心苦しいような、だが僅かながらに手助けできたことが嬉しかった。
「君のおかげだ。レガート家に光を灯してくれてありがとう。」
「いえ…私は何も…ですが、どうして、どうして…
レガート伯爵は『娘に近づくな』と仰らないのでしょうか?
私はバケモノ大公子息ですよ」
「社交が嫌いな私でもそれぐらいのことは知っている。
…それともミスティアがそのように言っているのか?」
「いいえっ、ミスティア嬢は決してそのようなことはありません」
「君は人間だろ?」
バケモノはこの顔の喩えで…
そのように返答しようにも、言えずにいた。
「…はい…」
今までそのような問いかけをされたことがない。
なぜか僕はレガート伯爵の続きの言葉を求めていた。
僕に何を語ってくれるのか。
「ではなぜ君は自分のことをバケモノと呼ぶんだ?
なぜ他人が決めた価値観の中だけで生きる?
私は子どもたちにも楽団員にも『本質を見る目を持て』と話している。
その若さで第一騎士団長を任されているんだ、君は優秀なはずだ。
私には分からないが全てにおいて弛まぬ努力と、自己研鑽を積み重ねてきたのだろう。
そんな君がなぜ自分のことをバケモノと蔑み、内面を押し込めるんだ?
なぜ自分に『本質を見る目』を向けない?」
なぜって…頭が真っ白になる。
そんなこと、考えたこともない。
五年前、もう一生治らない怪我を顔に負い、バケモノと呼ばれ続けた。
剣は僕を罵らない。
だから僕は剣を振ることしか生きる道はなかった。
「私には人より少々音楽の才能はあったかもしれない。
だが、人より多く学び、人より多く練習をしてきたつもりだ。
そうしてようやくこの王国一と言われるほどのレガート音楽団を育て上げ、指揮者になった。
そんな私が唯一嫉妬を向けた幼い音楽家が
『剣の音色がとても素晴らしい』と、
十一年ぶりにピアノを弾かせるほどの人物なんだよ。君は——」
レガート伯爵は僕の仮面を剥ぎ取り、じっと顔を見て、
「そうだな…ミスティアのように上手く表現できるか分からないが、
君の顔に料理名をつけるとするなら——
『安息のブレッド・ベリーの涙コンポート』
実に、美味しそうだ」
そう言って僕の顔に料理名をつけて、
「社交界の噂話も大したことがない。満足したよ。では」と去って行った。
やはり僕はレガート伯爵に何も言い返せなかった。
ある者は僕の顔を「バケモノ」と罵った。
ミスティア嬢は汗のかぶれに保湿薬を作ってくれた。
そして父親のレガート伯爵は僕の顔に美味しそうな料理名をつけた。
五年ぶりに鏡で顔を見てみようと思う。
レガート伯爵は答えられない僕の代わりに語り始めた。
その一言で、キンッとした空気が少し和らぎ、グリップを握りしめていた手が自然と緩んだ。
「幼いミスティアには、レガート楽団のコンサートマスターを任せたいと思わせるほどの才能があったんだ。
私だけではなく皆も当然のように思っていた。
もちろん、本人も楽しみにしていた」
レガート楽団といえば王宮音楽団とは、比べものにならないほど卓越した高い技術を持つ楽団だ。
レガート音楽学校の入学試験は難しいく、試験ですら不定期だと聞く。
「しかしミスティアは事件以来、奏でることも、感じることもしなくなった。
…自ら音楽を断ったんだ。
何度か声を掛けてみたが、『そのうちに』と言ったきり十一年が過ぎた。
その間も私たち家族は自分を責めた。
特に次男は家族とも距離を置くようになったが、どうすることもできなかった。
長く苦しい十一年だった——
それが君の剣の音色を聞いた日、自分からピアノを弾いたんだ。
…でもまだ皆でマカロンは食べることはできなかった。
なぜかまたミスティアに危害が及んだらと考えてしまってね…
君からいただいたマカロンだから、食べることができたんだ」
ただ剣を振って、下心で渡したマカロンに、こんなにも大切な話があったことを知り、少し心苦しいような、だが僅かながらに手助けできたことが嬉しかった。
「君のおかげだ。レガート家に光を灯してくれてありがとう。」
「いえ…私は何も…ですが、どうして、どうして…
レガート伯爵は『娘に近づくな』と仰らないのでしょうか?
私はバケモノ大公子息ですよ」
「社交が嫌いな私でもそれぐらいのことは知っている。
…それともミスティアがそのように言っているのか?」
「いいえっ、ミスティア嬢は決してそのようなことはありません」
「君は人間だろ?」
バケモノはこの顔の喩えで…
そのように返答しようにも、言えずにいた。
「…はい…」
今までそのような問いかけをされたことがない。
なぜか僕はレガート伯爵の続きの言葉を求めていた。
僕に何を語ってくれるのか。
「ではなぜ君は自分のことをバケモノと呼ぶんだ?
なぜ他人が決めた価値観の中だけで生きる?
私は子どもたちにも楽団員にも『本質を見る目を持て』と話している。
その若さで第一騎士団長を任されているんだ、君は優秀なはずだ。
私には分からないが全てにおいて弛まぬ努力と、自己研鑽を積み重ねてきたのだろう。
そんな君がなぜ自分のことをバケモノと蔑み、内面を押し込めるんだ?
なぜ自分に『本質を見る目』を向けない?」
なぜって…頭が真っ白になる。
そんなこと、考えたこともない。
五年前、もう一生治らない怪我を顔に負い、バケモノと呼ばれ続けた。
剣は僕を罵らない。
だから僕は剣を振ることしか生きる道はなかった。
「私には人より少々音楽の才能はあったかもしれない。
だが、人より多く学び、人より多く練習をしてきたつもりだ。
そうしてようやくこの王国一と言われるほどのレガート音楽団を育て上げ、指揮者になった。
そんな私が唯一嫉妬を向けた幼い音楽家が
『剣の音色がとても素晴らしい』と、
十一年ぶりにピアノを弾かせるほどの人物なんだよ。君は——」
レガート伯爵は僕の仮面を剥ぎ取り、じっと顔を見て、
「そうだな…ミスティアのように上手く表現できるか分からないが、
君の顔に料理名をつけるとするなら——
『安息のブレッド・ベリーの涙コンポート』
実に、美味しそうだ」
そう言って僕の顔に料理名をつけて、
「社交界の噂話も大したことがない。満足したよ。では」と去って行った。
やはり僕はレガート伯爵に何も言い返せなかった。
ある者は僕の顔を「バケモノ」と罵った。
ミスティア嬢は汗のかぶれに保湿薬を作ってくれた。
そして父親のレガート伯爵は僕の顔に美味しそうな料理名をつけた。
五年ぶりに鏡で顔を見てみようと思う。
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*10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします
*誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです
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