のんきな兎は今日も外に出る【完】

おはぎ

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のんきな兎は自覚する

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「うぅ……ん。うん……?」

目を覚ますと、ガタガタと床が揺れていることに気付き、ボーっと周りを見回す。すると、そこには座り込みながら、口に布を巻かれている子や、両手を縛られている子たちがいて、僕は目を見開く。よく見てみると、ここにいる子たちは皆、同じように拘束されていた。

……え、何?どういうこと?

僕は起き上がろうとして、上手く起き上がれないことに気付き、やっと自分の姿を見下ろした。すると、他の子たちと同じように両手両足が縛られ、口にも布が巻かれている状態に、呆然とする。

僕と同じ兎獣人の子や、羊、猫、鹿、様々な獣人たちが捕らわれていた。どの子も若く、可愛い容姿をしている。まだ現状を上手く把握できていない時、揺れが止まった。

「おい、降りろ。」

そして、カーテンのような物を開けられた時、荷台に乗せられていたことに気付いた。そこには僕に話し掛けていた男がいて、みんなの足を縛る縄を切っていくと、近くにいる子の腕を掴んで無理矢理降ろさせた。僕は、その光景を見て、人攫いにあったのだとやっと分かり、身体が震えだした。

……怖い、怖い、怖い、僕、どうなっちゃうの……。

次々降ろされていく中、僕も降ろされて、檻の中へと入れられる。

「兎獣人が3人か。発情しやすい種族だし、これは高く売れるぜ。好きもんの旦那がいてな、可愛がってもらえよ~。」

ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべたその男に、僕は恐怖で涙が沸き上がってくる。他の兎獣人の子たちも、同様に震えていた。これからどうなるのかなんて、さすがに僕でも分かる。

兎は年中発情する生き物で、兎獣人の僕たちも他の獣人と比べると発情する頻度は多い。だから、そういうことが好きな人に売られて、そのためだけに飼われるのだ。お母さんから、兄弟から、何度も気を付けるように言われていたのに。これから、知らない誰かに好きなように身体をいじられ弄ばれ、一生外に出られない生活を送ることになるのだ。僕は、その知らない人に触れられる想像をして、身体が大きく震えた。

……怖い、ロイ、怖い……。ロイ、ロイ、こんなことになるなら、先にロイに触れてもらえば良かった……。

知らない誰かより、昨日一緒に寝た温かいロイなら、きっと優しくしてくれるに決まっている。だって、いつも僕を心配してくれて、守ってくれて、見捨てずに何度も助けてくれる人だ。

ロイなら、ロイだったら、怖くないし、初めてはロイがいい。嫌だ、他の人に触られたくない……!

その時、ガタガタと震えている僕たちを閉じ込めていた檻が開かれ、さっきの男が下卑た表情で兎獣人の子を立たせると、強引に引っ張って連れて行く。そして、震える僕の腕も同様に引っ張って立たせると、檻の外へと連れ出されてしまう。そのまま、成す術もなく別の会場らしき所に入れられそうになった時。



――ドガーンッ!!

大きな衝撃音が鳴り響き、振動で身体が揺れる。そして、

「……おい、その手を離せ。誰の許可得て触ってんだ、あ゛ぁ!?」

グルルルッと唸るような低音がその場で響いたかと思うと、僕の腕を掴んでいた男が吹っ飛んでいった。そして、嗅ぎ慣れた匂いが僕の身体を包み込んだかと思うと、そのまま強く抱き締められる。

「この馬鹿うさぎ!外に出るなって言っただろーが!」

痛いくらいに強く抱き締められたまま怒られるが、僕は安心のあまり力が抜けて必死にロイにしがみ付いた。

「うっ、だって、だって、うぅ、ぐすっ、こわ、怖かった……っ!うぅ~……!」

自分から外に出たんじゃないとか、追い出されたんだよとか、好きでついて行ったんじゃないとか、色々言いたいことはあったが、全て吹き飛んでひたすらロイに離れないようにしがみ付いた。

「……無事で良かった。」

ホッとしたように耳元で呟かれた言葉に、僕はじわじわと涙が溢れてくると、次の瞬間から堰を切ったようにわんわん泣いた。そんな僕に、ロイは少し腕の力を緩めると、優しく頭を撫でてくれて、それに余計に泣いてしまう僕。

「隊長、会場は制圧しました。捕らえられていた者たちも全員保護しています。」

後ろから、恐らくロイの部下らしき人が話し掛けてきた。

「あぁ、分かった。主催者と管理者は、第1騎士団に引き渡せ。あいつらが適任だ。下っ端と客たちも残らず捕縛しろ。牢はいくらでも空けてやると看守長からの言付けだ。」

ロイはそう返すと、僕にここで待つように言ってきた。

僕はそう言われて、仕事だから仕方ないと分かってはいても、今ロイから離れるのは、不安で、心細くて、どうしようもなく寂しくて、離された身体がまたガタガタと震え始めた。そして、兎耳は垂れて力を失くし、目からは止めどなく涙が溢れながらも、僕はロイに言われた通りにここで待ってるよと、こくこくと頷く。ロイの手が離れた途端、力が入らない足がガクンと折れて座り込みそうになった。が、寸でのところでロイに支えられる。

「ろ、ロイ、僕、待ってる。ここ、いるから、早く、帰って来てね……。あの、ここ、座ってるから……。」

声も震えてしまい、上手く言えなかったが伝わっただろう、と見上げる。すると、何かを堪えるように顔を顰めているロイの姿があり、僕は眉をへなっと下げる。

「……隊長、傍に居てあげて下さい。もとはと言えば、うちの騎士が原因なんですから。こっちは大丈夫です、副隊長が喜々として縛り上げてますし、何かあれば報告しますので。」

「……悪い、少し任せる。ウルル、来い。」

ロイは、僕を見つめたまま、騎士の人には顔を向けずに返事だけすると、力の入らない僕を抱え上げた。そして、そのまま歩いて少し人気のないところへと行くと、僕を下ろした。座り込みそうになる僕の背中を、力強い腕で支えられると、ロイは僕の首に顔を擦り付けてきた。

「んん……っ……。」

くすぐったいが、スリスリとあちこち擦り付けられ、兎耳は舐められ、毛繕いされていくと。ロイの匂いに包まれていき、僕はぽかぽかしてきていつの間にか震えは収まっていた。

「ウルル、大丈夫だ、俺がいる。緊急時だ、許せよ。俺のもんだって匂い付けたから、そうそう誰も寄って来ねぇよ。」

後頭部に手を差し込まれ、ふわふわと頭を撫でられるのが気持ち良い。僕は、こくりと頷くと、ギュッとロイに抱き着く。そのまましばらく抱き締められた後、離れても僕の身体は震えず。ロイの匂いに包まれて、ホッとしていると、バサッと頭から何かを被せられる。

「俺のローブだ、貸してやる。帰って来るから、少しの間待ってろ。」

そう言い、ロイは最後に僕の頭を優しく撫でると、同じように保護された人たちのところに僕を置いて行ってしまった。でも、僕はもう震えない。ロイの匂いに包まれながら、ローブを被ってじっと大人しく待つ。安心する匂いに包まれ、ここは安全な場所なんだとそっと息を吐いたのだった。

「ウルル、帰るぞ。」

終わったのか、ロイが戻って来てそう言うと返事する前に抱き上げられる。僕はそんなロイにしがみ付くと、スンスンとロイの匂いを吸い込んだ。

「後は任せた。」

「「「はっ!」」」

僕は、ロイの肩に顔を埋めて必死にしがみ付いていると、馬に一緒に乗せられる。そして、後ろに乗ったロイに片腕で抱え込まれると、揺られながら僕たちの住む街へと帰ったのだった。





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