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のんきな兎は可愛がる
しおりを挟む「あ、コリン。どうしたの?眠たいの?」
あれから数日が過ぎて、訓練場の掃除をしようと行くとそこでコリンがうつ伏せになって寝転んでいた。僕は傍まで行くと、頭をよしよしと撫でながら聞いてみる。
「はぁっ、はぁっ、う、ウルル……。だ、大丈夫、ちょっと、疲れた、だけ……。」
息を荒く吐き出しながら、コリンはゆっくり起き上がって座り込んだ。
「コリンすごいね、頑張ってるって言ってたよ。」
「ふふ、まだまだだよ……。全然、訓練についていけてないし……。」
「そうなの?僕もね、一緒にトレーニングしてみたら数分で目が回ったの。一緒だね。」
「ごめん、それよりはついていけてると思う……。」
そう言って、コリンは小さく笑った。笑ったのが可愛くて、僕はよしよしと頭を撫でる。
「おーい、ウルル。あんまり触るなよ、隊長に怒られんぞ。」
「なんだ、ウルル。浮気か?」
そう言って、周りの騎士たちが揶揄ってくる。
「コリンは僕の後輩だからね、ちゃんと面倒見るの。」
「……コリンって騎士団入ったのウルルより後だったか?」
「いや、そんな訳ねぇだろ。コリン、お前違うことはちゃんと違うって言えよ?」
「僕の後輩だよ、可愛いでしょ。」
「駄目だな、話聞いてないぞ。……まさかうちに来たのがウルルより後だから自分の方が先輩だと思ってんのか?」
コリンは苦笑しつつも、僕の手を払い退けたりしない。僕がそのまま撫でていると、
「ウルル、もういいよ、大丈夫。」
そう言って、立ち上がった。まだトレーニングは終わっていないらしく、他の騎士たちと行ってしまった。僕は、一人その場で掃除を始める。といっても、そこまですることはない。訓練用の剣や盾を綺麗に並べたり、落ちているゴミなどを拾うだけだ。そのため、すぐに終わってしまった。そして、次にするのは各部屋のごみ収集。両手で持つには限界があるから、大きい籠を背負ってそこに入れていく。
――コリンがトレイル様に連れて行かれた次の日のこと。ロイの話によると、コリンは無事に第2騎士団に異動になったが、騎士団では少し微妙な空気になっていたらしい。
そんな空気になっているとは露知らず、呼ばれたため行くと皆いて、コリンが小さくなっているから大丈夫だよって意味で、
「コリン、美人さんだからね。皆緊張してるんだよ。」
そう言ったら、何故か皆に呆れた目で見られて、「そうだよな、ウルルだもんな。」「あー、だよなぁ。俺ら何してんだろ。」「隊長が決めたんなら、俺らは従うっての。」口々にそう言いながら、僕の頭を撫でて出て行く騎士たち。首を傾げる僕だったが、ロイによくやった、って褒められたから嬉しい嬉しいってなった僕。出て行く騎士がコリンを呼んだため、コリンは慌てたように後を追って行った。僕は頑張れ~って手を振ったら、トレイル様にも苦笑された。
「あとはコリンの頑張り次第ですかね。うちのトレーニングや訓練は第1騎士団とは違いますから。ウルル君のおかげで空気も戻りましたし。ロイ、いいんですね。」
「何度も聞くな。上の決定で、俺はそれを了承した。あいつがしたことは許せることじゃねぇが、反省してんなら情状酌量の余地はある。今後の行動次第だな。」
「はぁ、始めからそう言って下さい。あなたの怒りを買うつもりかと、貴族連中が騒いだみたいで。統括団長も切るしか判断できなかったんですよ。ロイが一言でも先に言っておいてくれたら、面倒臭い手続きや説得に回る必要もなかったんです。」
「俺の顔色伺ってどうすんだ。一個人だけを最優先するような判断していたら、組織が機能しなくなるぞ。団長も分かってんだろ、そこんとこは。どうせあの人は俺が何か言うの待ってんだよ、狸親父め。」
「狸?団長さんは狸さんなの?」
「そうですね、狸の獣人です。それを分かっているのに、様子を見ていたロイもロイです。ウルル君が言ってくれなければ、そのままになるところだったんですよ。」
「そうなるなら団長が動く。隊長って立場を任されている以上、俺の感情だけで処罰を決めてどうする。デリックにもいい薬になっただろ。」
「僕のおかげだって。ロイ、僕良い子だった?」
ちょこちょこ僕にも話しかけてきてくれるから返事しているのだが、そう言った時に二人揃って僕を見てきた。あれ、僕お話の邪魔しちゃったのかな。何となく、二人が言い合っているような感じはしていたのだけれど、会話に入れてくれるから大丈夫かと思っちゃったのだ。
「僕、もう行った方がいい?」
そう聞くと、ロイが両腕を広げたため、戸惑うことなくその胸の中に飛び込んだ。
「ウルル、良い子だ。仕事終わったら俺のとこに来い。」
そう言って兎耳にキスを落として大きな掌で覆うように頭を撫でられ、はわぁと気持ち良くなる。
「全く、仕方ありませんね。では私はこれで。あぁ、コリンの実家から謝礼をと預かり物があるので届けさせますね。美味しい菓子をと言っておいたので、ウルル君、楽しみにしていてくださいね。」
トレイル様は、そう言うと去って行く。僕も呼ばれて来ただけで、まだ仕事中のため行かなきゃと思うのだが、なかなか離れられず。ギューッと抱き着いているとロイに笑われたのだった。
……そんなことがあって、コリンは正式に第2騎士団で騎士を続けているのだ。
僕はその時のことを思い出しながら、ゴミ収集を行っていく。あちこちの部屋を片っ端から開けてはゴミを回収しているのだが、何故か靴が片方落ちていたり、カッピカピに固まったタオルが干されていたりとちょっと面白い。
「ウルル、これも捨てといてくれ。」
僕を見掛けた騎士たちがそう言って背負っている籠にどんどん放り込むから、どんどん重くなってきた。皆ぽいぽいと入れていくもんだから、もうすでに籠はいっぱいなのだ。一日中ゴミを集めてくたくただ。僕は焼却炉に捨てに行こうと、中庭に出た。今日は燃やす日で、開けると熱気がブワっと襲い掛かってきた。
「あちちち。」
僕はそこに頑張ってゴミを入れていく。全部入れる頃には、汗だくになっていた。濡れた服が気持ち悪くて、上着を脱いで薄着になる。今日の仕事はこれで完了し、きょろきょろと辺りを見回す。そして、誰もいないことをいいことに、ちょっと休憩~と芝生のところまで行ってゴロンと横になる。日向ぼっこをしていると、
「ウルル君、さすがに無防備過ぎるっすよ。」
そう言いながら近付いてきて、ソニーが僕を見下ろした。
「うん?お仕事終わったの。ちょっとね、休憩してたんだよ。ソニーも休憩する?」
「うーん。その格好のウルル君と寝転んでたら隊長に殺されそうなんでやめとくっす。」
苦笑して返される。
「お仕事ちゃんと終わったから大丈夫だよ。あ、ソニーはまだお仕事?」
「急ぎの仕事はないっすよ。え、ちょっ……!」
ならいいじゃないかとソニーの腕を引っ張ると、予想外だったのか簡単に体を崩して僕の横に膝をついた。
「ふふふ、気持ち良いよ。今日はお天気だからね。」
そう言うと、ソニーは困ったように笑いながら、仕方ないと横にゴロンと寝転んだ。
「あー……。これは確かに、気持ち良いっすね……。」
ソニーも他の騎士と同じように訓練やトレーニングを行っているが、それとは別に事務仕事や他の騎士のフォローなど、色んなことをしていて誰よりも忙しそうなのだ。ロイ曰く、ソニーこそ休みの日に休まない人らしい。だから、ちょっとイタズラ心もあって一緒に休憩しようと誘ったのだ。
「ソニーは働き者だねぇ。えらいねぇ。」
「ふっ、なんすかそれ……。ふぁ~ぁ。あ、駄目だこれ……。ウルル君と日向ぼっこって、これ、睡魔がすごい……。」
そう言いながら、ソニーは目を閉じていくと、すぐに寝息が聞こえてきた。僕はあまりの早さにびっくりして、起き上がってまじまじとソニーを覗き込む。スースーと気持ち良さげに眠っているソニー。
「ソニー、すごく疲れてる……!」
日は暖かいけど、日が暮れたらちょっと寒いかもしれないと、ソニーにくっつくようにしてまた寝転ぶと、脱いだ上着を一緒に被る。これで大丈夫、と満足した僕も、気持ち良さに目を閉じると、だんだんと意識が遠のいていったのだった。
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