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のんきな兎は居眠りする
しおりを挟む「んん……。寒い……。」
少し意識が浮上した時、肌寒くて横の温かいものに擦り寄る。もぞもぞと頭を潜らせてそのまままた眠ろうとすると、横の温かいものが動いて僕はぴゃっと驚いて飛び起きた。
「……あっ、ソニーかぁ。」
そうだ、ソニーが寝ちゃったから僕も同じように寝転んだら眠くなったんだったと思い出す。きょろきょろと辺りを見渡すが、日が暮れ始めた頃で、まだそこまで時間が経っていないことが分かる。ソニーは相変わらず寝ていて、さっき動いたのは寝返りを打ったらしい。気持ち良さそうに寝ているため起こしにくいのだが、このまま日が完全に暮れて寝たままだと風邪をひいてしまう。僕はソニーの身体を揺らす。
「ソニー、ソニー、起きて。」
「んー……、分かった、起きる……。」
「ソニー、全然目が開いてないよ。起きて、おうち帰るよ。」
「んん……。」
起きない。どうしよう。ソニーは他の人に比べると小柄だが、それでも僕より大きいし担ぐのは難しい。僕は、せめて建物の中に入れなければと、頑張ってソニーを転がそうとするが、全然動かない。
「うぅ、重い……。転がせない……。」
うんしょ、うんしょ、とソニーの身体を押すも動かず。非力さに泣きそうになりながら、ソニーの身体を押す。でも動かないし、ソニーは起きないしでだんだんと悲しくなってくる。
「うぅ、ソニー起きて……。ぐすっ……。」
ぐすぐすと泣きながらソニーを押したり身体を揺らしていると、
「んん……?……はっ!今何時っすか!?」
がばっとソニーが起き上がってそう聞いてくる。
「ソニー起きた……。おはよう。」
「おはよう……?え、どうして泣いてるんすか。」
「だってソニー起きなかったんだもん……。ごろごろってしようとしたら、ソニー重かったの……。」
「いや、転がさないで下さい。っと、ウルル君も戻りますよ。」
ソニーは立ち上がると、僕の上着をパタパタと汚れを取る様にはたくと肩に掛けてくれた。そのまま建物中に入って、ソニーは慌ただしく駆けて行ってしまった。僕には、ちゃんとロイのところに行くように言って。
ロイのところに行くと、扉が開けられていたため、ひょこっと覗き込みながら扉をコンコンとノックする。僕を見て、少し笑ったロイは、まだ仕事中らしく。僕は中に入るとソファに座って待った。そんな僕を見て、片眉を上げたロイだったが、先に仕事を終わらせることを選んだらしい。数分後に、帰るぞと声を掛けられる。
「あのね、ソニーはお休みいつ?」
「あ?ソニーの休み?聞いてどうすんだ。」
「ソニーね、お疲れだからね、労わってあげなくちゃ。」
「……何する気だ?まぁ確かにソニーは休まねぇからな。休みの日でも職場に来ていたから叩き出したことがある。」
なんと。お休みなのに仕事をしていたらしい。ソニーはそんなに仕事が好きなんだ。
「ソニーは仕事大好きなんだね。でもお疲れになるからね、ちゃんと休まないと。」
「言っても聞かねぇ。帰らせても、どうせ何かしら仕事してんだよあいつは。」
ロイは溜め息をつきながらそう言った。僕は、ソニーはそんなに仕事が好きなんだと感心する。
「そっかぁ。ソニーすごいね。でも今日ね、ソニーすぐに寝ちゃったんだよ。起こしてもなかなか起きなかったの。」
「……ほう?」
「一緒に寝ちゃったけど、僕の方が先に起きてね、ソニーも起こそうとしたんだけど、全然起きなくて大変だったんだよ。転がせないし、ソニー重たかったの。」
「……通りで、お前からソニーの匂いがしてるわけだ。どうやって吐かせようかと思ってたが、一緒に寝ただぁ?」
低くなったロイの声に、僕はビクっとしてそろそろと見上げる。そこには、口角を上げて目は笑っていないロイの顔があった。
「ち、違うもん、ちょっと寝ただけだもん……!」
「べったり匂いがついてんだよ、どうやって寝てたんだ。おら、言え。」
片手で両頬を掴まれて顔を上に向けさせられる。
「うぅ、並んでちょっと寝ただけだもん。……。」
痛くはないが、変形しているであろう顔を見られているのは恥ずかしい。
「一緒に寝たって言ってただろ。……抱き着いてたのか?」
「ちょっとくっついちゃっただけだよ、抱き着いてないよ。」
「こんの馬鹿うさぎ!」
「ぴゃあー!」
兎耳を垂らしてしくしく泣きながら、ロイにお説教される。帰っている途中だったため、街の人たちが何だ何だと集まってきたが、僕たちだと分かるとそうそうに解散していった。誰も助けてくれない…。
「雄に軽々しく触れるな。」
「でもソニー……。」
「ソニーだろうが、知ってるやつだろうが、匂いが付くほど傍に寄るな。襲われる可能性だってあんだぞ。寝てたのは中庭だな?外で寝るなんざ、何を考えてんだ。」
「うぅ、ちょっと休憩してただけだもん……。」
「お前、家の庭でも寝てたことあっただろ。散々言ったはずだが、分かってなかったらしいな。」
そう言ったロイは、僕を担いで家へと入り、浴室に押し込まれる。
「他の雄の匂いつけてんじゃねぇよ。」
「んぅ……っ……!」
唇を合わせられたかと思うと、入ってきたロイの舌が僕のそれを絡め取って呼吸を奪われる。その間にも服は脱がされて身体にロイの大きな手が這い回る。そのまま全身を洗われ、体中に唇を落とされて刺激に声を上げながらも熱を上げられるばかりで発散させてくれず。ぐすぐすと泣きながらロイにしがみ付いていると、抱えられて浴室から出された。そのまま柔らかいシーツに下ろされて覆い被さるようにしてロイに見下ろされる。
「ぐすっ、ロイ……。気持ち良くして、もっと触って……。」
「この馬鹿うさぎ。反省してんのか?」
呆れた口調のロイだが、ギラついた目で僕を見下ろして首や肩を甘噛みされる。それすらも気持ち良くて、上がる声にロイは口角を上げた。だが、それでも焦らされるばかりで溜まる熱にぐすぐす泣きながらロイに腰を擦り付ける。
「分かってんのか?おい、ウルル。」
「うぅ、熱い……。ロイ好き、ロイ……。」
「ったく、これで許す俺も俺か……。」
僕の前髪を掻き上げてそこに唇を落としたロイがそう呟いたかと思うと、ロイの熱く硬くなったものが入ってきて、身体を揺さぶられる。僕はロイにしがみ付いたまま、容赦なく襲ってくる快感に声を上げたのだった。
――――
「で、何をしてるんだ。」
「あのね、明日ソニーお休みだから、招いてゆっくりしてもらうの。」
仕事から帰って来て、お茶やロイに買ってもらったお菓子を並べ始めた僕。そんな僕を見て、ロイが怪訝そうな顔で聞いてきたため答える。
「これは美味しいでしょ?これはコリンの家から貰ったお菓子でしょ?このお茶はね、シュタンがくれたの。美味しいんだよ。」
「ソニーを招く?……それ、ソニーに言ったか?」
「うん?明日ソニーの家に行って、お茶しようって誘うの。」
「……あーっと、ソニーは明日いないと思うぞ?」
「えっ。どうして?ソニーお休みって言ってたよ。」
びっくりしてロイに返すと、
「明日は孤児院に行くって言ってたからな。」
そう言われて首を傾げる。
「孤児院?ソニーは孤児院に行くの?」
「ソニーは孤児院出身だからな。偶に顔出しに行ってんだよ。」
「そうなんだ。じゃあ明日ソニーいないのかぁ……。」
しゅんと兎耳を垂らす僕に、優しく頭を撫でてくれる。ロイは明日仕事だから、一人で何をしようかなと考える。そうだ、久しぶりに薬草を売りに行こう。最近は、育てた薬草を自分たちが怪我や病気になった時のために粉薬にしたりしていたため、売りに行っていなかったのだ。でも収穫できる薬草はまだあるし、庭でも育てているものがあるため、それらを売りに行こうと思いつく。
薬草を入れる袋を取り出してきて、明日のために準備。摘むのは明日。うん、準備終わっちゃった。
「これは?」
ロイが袋を摘まんで聞いてくる。
「薬草を入れる袋だよ。明日、薬草を売ってくるね。」
「あ?金が要るのか?」
早く言え、と何処かに行こうとするロイを慌てて止める。
「違うよ、久しぶりに薬屋のおばあちゃんに会いに行こうと思って。薬草持って行くの。前はね、家の中でしか育ててなかったけど、お外でも育てられるようになったから、見せに行くの。」
前の家で一人でいた時は、家の中だけで完結していた生活だったのだ。必要な物を買いに外に出ることはあるけれど、色んな物を買えるほど余裕があった訳でもない。不満もなかったため、特に問題はなかったのだが。だが、ロイに連れ出されてから、色んな人と関わって、外にも行けて、お菓子も買ってくれて、自分の中で世界が広がった気がしたのだ。
話ていく内に興奮してきて、ぴょこぴょこ飛び跳ねながら言うと、何故か両手で顔や頭を撫でられてもみくちゃにされる。
「なぁに、うぶっ……ふふっ。」
「何だろうな。可愛いなと思ってよ。」
よく分からないが、可愛がってくれるらしい。大歓迎です、と僕は抱っこをおねだり。笑って抱き上げてくれたロイは、それから僕の顔中にキスを降らせる。嬉しい嬉しいと僕も返すと、笑って唇を合わせてくれる。思う存分、甘えても受け止めてくれるため、遠慮なく甘える僕。抱き締めてくれるロイの胸に擦り寄りながら、眠りについた。
……そうして迎えた次の日のお休み。僕はロイを見送って、薬草を袋に入れて一人家を出たのだが、
「あれれ。こっちだったはずなのに……。」
いつも目印にしていたお店がなくて、でもこっちだったはずと歩いていたのだが、遂には全く知らない場所に出てしまった僕。首を傾げて周りを見渡すも、知らない通りで見覚えのない建物ばかり。
「あれ~?薬屋さん、引っ越ししちゃったのかなぁ。」
どうしてないんだろうと不思議に思いながら、うろうろと彷徨い歩いていく。お腹が空いてきたなぁと思った時に、良い匂いが漂ってきて、その匂いの元にふらふら近付いた。
「こんにちは。ここは何のお店ですか?」
「こ……こんにちは。ここは、魔物肉も取り扱っているレストランでございます。」
「魔物肉……!野菜はありますか?」
「え、えぇ、もちろんでございます。…しかし、高級食材を扱っておりまして、値段が高くなっております。」
その店先に立つ店員さんらしき人は、苦笑して僕を見た。
「そうなんだ。美味しいものは高いもんね。」
「そうですね、そのため、当店には貴族様や商談などで使用するために商会の方などが良くお越しになります。」
僕は、ほえ~と感心する。貴族様が来るんだって。それはお高いお店だ。
「申し訳ありませんが、当店は紹介制となっておりまして。お入り頂くことは出来ないのです。」
そう言って、僕に頭を下げた店員さん。僕はびっくりして、
「どうして謝るの?お店の決まりなら仕方ないよ。良い匂いがしたから、気になっちゃっただけなの。」
慌てて店員さんにそう言った。店員さんは通りすがりの僕にも丁寧に対応してくれて、さすが高級店で働く人はすごいなぁと思いながらその場を去った。
そして、またしてもウロウロと彷徨い歩く。
「うぅ、薬屋さんない……。どこ行っちゃったんだろう。お腹も空いた……。」
だんだんと、帰ることができなくなったらどうしようと不安になってくる。食べ物屋さんを探しながら、しくしく泣きながら歩いていると、
「……え、ウルル君?」
聞き覚えのある声がして振り返ると、驚いた表情のソニーが大きな紙袋を持って立っていた。
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