のんきな兎は今日も外に出る【完】

おはぎ

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のんきな兎は辿り着く

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「あれ、みんな寝ちゃったんすね。」

「おかえり。うん、寝ちゃった……。」

時間が経って戻って来たソニーとテイル君。僕は小さい子を抱えたまま座っており、その周りでは子どもたちがスヤスヤと寝入っていた。僕は子どもたちに囲まれているため動けず、ただ座って待っていた。

「ずっと動けなかったんじゃないっすか?すいません、もっと早く戻って来たらよかったっすね。」

申し訳なさそうにソニーが言うため、

「大丈夫だよ。でもぽかぽかするから、僕も寝ちゃいそうで困ったよ。」

そう返した。子どもの体温は高いから、ずっとぽかぽか温かくて眠気がさっきからすごいのだ。

「そろそろ送るっす。ほら、みんな起きて。」

ソニーは苦笑して、みんなを起こし始めた。すると、目を擦りながら起き始めて、僕が帰ることを伝えると泣き始めてしまった。

「やだぁ、帰んないでぇ!」

「うっ、ここの子になってよぉ……。」

子ども達に抱き着かれて、僕はおろおろと焦る。とりあえず、抱き着いて来た子たちを抱き締めてソニーを見上げる。

「どうしよう、僕ここの子にならなくちゃいけなくなっちゃった……。」

「いや、ならなくていいっす。あ~、客が来たらいつもこうなるんすよ。」

ソニーがそう言いながら僕にへばりつく子どもたちを剥がしにかかっていく。

「ウルル、小さいから子どもって言ってもばれないよ!」

小さい手で僕の服を握り締めてそう言われ、僕はうーんと悩む。

「でもみんなよりは背も高いし、子どもには見えないと思うよ。大人ってばれたら追い出されちゃう……。」

「そこ悩まなくていいっすから!孤児院出身の騎士が多くて、そいつら見慣れているからウルル君が小さく見えるだけっすよ。ほら、お前ら困らせないの。」

ぺいぺいっと子ども達を剥がしていくソニー。剥がされた子どもたちは、ソニーに引っ付いていく。ふふふ、可愛い。

「俺はウルル君送ってくるから、その間はテイル、頼んだ。ウルル君、帰るっすよ。」

ソニーは自分に引っ付く子たちをテイル君に渡していくと、そう言って僕に声を掛けてきた。子どもたちは、みんなテイル君に引っ付きながら、それぞれ耳を垂れさせて悲しそうな、寂しそうな顔で僕に手を振ってくれる。僕はきゅんとして、また来るねと言って手を振った。

「みんな可愛いね、ここがソニーの実家なんだね。」

「そうっす。チビ達だけだと心配なんで、たまに帰るんすよ。」

「そうなんだ。あれ、そういえば子どもたちだけだったけど、大人はいないの?」

子どもしかいなかったため、不思議に思って聞くと、

「あぁ、今日は遠出する用事があったらしくて。俺が丁度休みだったから、代わりに面倒見てたんすよ。」

何でもないようにそう返してくるソニー。

「ソニー、すごいね…。僕も弟がいるんだけど、一緒に遊んでた記憶しかないよ……。」

「俺はウルル君がお兄ちゃんだったことに衝撃を受けてるっす。」

「うん?僕お兄ちゃんだよ。上にもいっぱいいるけど、下にもいるの。でもお外行く時は絶対お兄ちゃんと手を繋いでおかないと駄目だったんだよ。僕もお兄ちゃんなのに。」

「……うん、ウルル君のお兄さんとは話が合いそうっす。きっと苦労したんだろうな……。」

僕を見て遠い目をしたソニーがそう言ってきた。僕は首を傾げる。言いつけ通りちゃんと手を繋いでいたし、言うこともちゃんと聞いていたし、僕良い子だったよ?

「迷子になったことはなかったんすか?」

「うーん。たまにここで待っててって言われて、手を離されるんだけど、そのままお兄ちゃんが迷子になることはあったよ。」

「いやそれ絶対ウルル君が迷子になってるやつっすよ…。」

何故か項垂れてしまったソニーは、またしても、お兄さん苦労したんだろうな…。と呟いた。

「あれ?」

歩いていると、向こうから見知った人が歩いてくるのが見えた。僕は走って、その人に飛びつく。

「ロイ!お仕事終わったの?どうしたの?どこかに行くの?」

「お前を迎えに来たんだよ、この馬鹿うさぎ。薬屋に行くんじゃなかったのか。」

難なく飛び付いた僕を受け止めたロイは、呆れたようにそう言って見下ろしてきた。

「うん?……っは!そうだ、薬屋に行くんだった…!薬草が萎れちゃう、困った……。」

「何が困っただ。困ったのはソニーだろうが。ソニー、悪かったな、世話掛けた。」

「いえいえ、とんでもないっす。ウルル君みたいに見るからに安全で害がない存在って貴重なんで、子ども達も警戒心持たずすぐに懐いてましたよ。」

ソニーがそう言って笑った。そして、隊長が来たんならもう安心っす、と言って手を振って帰って行ってしまった。

「あのね、小さい子がいっぱいで、すごく可愛かったんだよ。お昼ご飯も食べさせてもらったの。でも僕は大人だから、そこの子になるのは難しいよねぇ。」

今日のことを話したくて、ずっと喋りながらロイの周りを飛び跳ねながら歩いていると、グイッと腰に腕を回されて固定される。

「そこの子になるって何だ。」

ロイが僕を見下ろしてそう聞いてきた。

「えっとね、みんながね、帰らないでって言って、ここの子になろうって。可愛いよね。」

「どういうことか分からねぇが、お前は俺ので、帰るところは俺達の家だ。ほら、ここだろ薬屋への通りは。」

そう言われて、前を向くと、薬屋に行く時の目印にしていた店があった。

「あっ、ここだ~。こんなところにあったんだ。お引越ししてたんだね。」

「引っ越してねぇし、ずっとここにあるぞこの店は……。どうやったら違う通りに行けるんだ、家から然程離れてねぇだろうが。お前の方向感覚はどうなってやがる。」

そう言われて、もにもにと片手で両頬を掴まれて揉まれる。

「うぅ、でもなかったんだもん……。」

「あっただろーが。ったく、ソニーがいなかったら迷子になってるとこだぞ。」

ロイは呆れたように言って、手を離すと僕の腰に腕を回したまま歩き出した。

「薬屋さんはね、こっちだよ!」

「何でそんなに自信満々なんだよ。ここまで連れて来たのは俺だってーの。」

見覚えのある道に、僕が意気揚々と言うとそう返される。歩いていくと、薬屋さんが見えてきた。扉をノックすると、声が返ってくる。開くと、

「おや?ウルルじゃないか。どうしたんだい?」

いつもの鼠獣人のおばあちゃんが出迎えてくれた。驚きつつも嬉しそうにそう言ってくれて、僕は袋を開けて中から薬草を取り出す。

「久しぶり。あのね、薬草持って来たよ。新しいのも育ててるの。」

「あらあら。たくさんあるねぇ。ロイ隊長も来てくださったの?」

「邪魔する。ばぁさん、こいつが世話になったな。」

僕の頭に手を乗せてロイが言うと、おばあちゃんはコロコロと笑った。

「そうだねぇ、美味しい薬草はありますかって聞いてきた時は驚いたけれど。ロイ隊長がついてくれているなら安心だよ。」

「どういうことだ?」

「えっとね、食べ物が買えなくて、でも薬草は育てられるし、ご飯の代わりになったりするのかなって。聞きに行ったらね、買い取ってくれるって言ってくれたの。」

「……そうか。」

説明すると、何故か両手で頭を撫で回される。

「ふふ、愛しい子がままならない生活を送っていたことを聞くと悲しくなるものねぇ。」

「うん?僕ちゃんとご飯食べてたよ?」

子ども達にも、可哀そうだとか、貧乏だとか言われてしまったことを思い出したが、生活面では特に不満もなかったのだ。だから、そう思われるのが不思議で仕方ない。

「分かってる、お前が何も思ってないことは。ただ、もう少し早く囲ってやればと思っただけだ。」

「そうなの?僕、ロイになら囲われてもいいよ!」

可愛がってね、とロイの手に擦り寄ると、

「もう十分囲ってんだがな……。」

そう言って苦笑された。僕たちが話している横で、おばあちゃんは微笑む。薬草はおばあちゃんにプレゼントし、代わりに薬をいくつか貰う。

「ウルル、ロイ隊長と仲良くね。また顔を見せに来ておくれ。」

そう言ったおばあちゃんにまた来るねと手を振って、僕たちは店を出たのだった。





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