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俺の役割
「手は、他は、何ともないんですか?」
「え、いや、何もないけど…。」
圧がすごくて、恐る恐る魔石を差し出すと、それを見て目を見開いた騎士は、
「隊長!」
とクラウドを大声で呼びつけ始めた。何、俺何かしたのか!?また怒られんの!?
そろーっと逃げようかなと後退ると、
「ぐえっ。」
首根っこを掴まれ、ぶらーんと宙づりにされる。
「…次は何したんだお前。」
「冤罪だ!」
怪訝な顔で見られるが、俺は全く身に覚えがない。いきなりこの人が何故か驚いた様子でクラウドを呼んだんだ。クラウドを呼ぶ前に俺に一言相談があってもよかったと思う。
「隊長、これを見て下さい。魔石の纏う魔力が消えています。」
「あ?…リラ、触ったな?俺は動くなと言わなかったか?言われたことすぐ忘れやがって!」
「なっ、俺は転がってきたから拾っただけだし!」
「動くなって意味分かってんのかお前は。」
「た、隊長、ご存知だったんですか?」
俺達の言い合いに終止符を打ったのはその騎士。クラウドはため息をつくと、
「…まぁ今回連れて来た時点でばれるのは時間の問題だしな。そういうことだ。」
「え、俺のこと?どういうこと?」
何故か俺だけ意味が分かっていない状況に、クラウドに聞き返すもスルーされる。そしてそのまま小脇に抱きかかえられると、テントの中へと逆戻り。
「手を見せろ。…どうもないな。」
「俺何かしちゃった感じ?」
俺の手を掴んで見るクラウドに聞く。
「魔石を直接触ったんだろーが。…後で試すつもりだったから、手間は省けたけどな。」
魔石とは、魔物が持つ魔力を含んだ石であり、その中にはその魔物の特性に合った魔力が入っているという。そして、魔物から取り出した魔石は魔力を纏っており、それは時間が経てば主を失ったことで自然と消失するのが基本。すぐに取る場合は、魔法をぶつけて相殺させるか、専門のアイテムを使うらしい。ちなみにこれは割と常識だと言われた。
まぁ、田舎から出てきて魔物に遭遇したことのなかった新人騎士なども、同じように知らなかったという者がいるらしいが。それでも、見ただけで魔力を纏っていると分かるから直接触るような馬鹿は今までいなかったとも言われた。
「…綺麗だなーって。」
「そんなことだろーとは思った。」
呆れたように見られるのも慣れたこの頃。
「明日早ぇし、もう寝るぞ。ほら、来い。」
「…?俺の布団は?」
「一つしかねぇから俺とペアなんだよ。」
…え。そういうこと!?
ぽかんとしている間に、腕を掴まれて引きずり込まれる。寝袋というやつだが、中に入ると足も伸ばせるし、ゴソゴソ動いても横のクラウドに触れる程度。そして何より、ふかふかだ。
「すげー…。外で、こんな…。うわー…。」
気が付いたらもう夢の中だった。
――――
「何ともねぇだろ、どうせ。」
「何ともないけど、何があるのかは教えて欲しいんだけど。」
昨日はしていなかったが、今日は騎士たちは皆、お揃いのマントを羽織っている。それが何を意味するのかは分からないが、今日も今日とて何も感じない俺。恐らく魔力関係だろうとは思うが、何一つ分からない。知識だってないし、学び舎にも行ってなかったから、余計に基本的な学だってない。そんな俺が察するのは無理な話なんだよ。
今日は例のダークレイクに向かっているらしい。荷物番で何人かの騎士が残るため、俺も留守番だと思ったのに。
「何してんだ。行くぞ。」
「…俺も行くの?俺、武器何も持ってないけど。」
「誰が戦えって言った。お前は俺の後ろにいればいい。いいか、ちょろちょろすんなよ。」
念を押されながら、クラウドの傍を歩いて行く。馬も置いてきたため、今日は徒歩だ。歩き始めてからしばらく経ったが、魔物もだんだんと出る数が多くなってきた。といっても、クラウドが魔法をばんばん撃っては瞬殺していくため、然程足枷にはなっていないが。他の騎士たちも、横や後ろから襲い掛かって来る魔物たちを撃退している。ちなみに俺は本当にクラウドの後ろにいるだけだ。こんな状況でさすがに俺も何かしなきゃとは思わねぇしな。できること、できないことは一応自覚しているし、この場では俺のすることはなさそうだ。
「…あれか。」
「あれがダークレイク?」
止まったクラウドにぶつかりそうになるも、慌てて足を止め、ひょこっとクラウドの後ろから覗き込むと。
…毒々しい?いや、禍々しい?
何やら黒いもやもやを纏っている球体が浮かんでおり、その周辺は草木一つ生えていない。掌にのる程度のサイズで、球体の中は黒の何かが渦巻いているように見える。
「あぁ、あれが魔力をあっちこっちに放出して、魔物を生み出している。」
…へぇ。そうなんだ。
ちなみに、あれも魔石らしい。あれが出現する条件も、どういう構造なのかも不明らしい。不定期に表れては魔力を撒き散らし魔物を大量に作り出してしまうといった認識なんだと。
「…リラ。」
「うん?あれを取ってくればいいんだろ?」
神妙に名前を呼ばれるが、あれを見て俺がここに連れて来られた意味を理解した。
「俺も傍まで行く。…お前らは襲ってくる魔物を蹴散らせ。」
少し目を見開いたクラウドだったが、ニヤッと笑うとそのまま足を進めて行った。
「隊長!?リラ殿は危険…。」
「いい、隊長が一緒なら大丈夫だ。命に背くな、自分の成すべきことをしろ。」
騎士たちが何か言っていたが、俺はそのままクラウドについて行く。そして、あと5mほど、といった時にクラウドの足が止まる。険しい顔をしているのを見て、俺はあぁ、と納得。
「じゃあ取ってくるな~。」
「…軽いんだよ。無理だと思ったら戻れよ。」
恐らく、魔力が放出されていてそれが当たってるんだろう。険しい顔のクラウドは、魔力が溜まっていた時の表情と似ている。相変わらず俺は何も感じない。さっきから風が吹いてるな~ぐらいの感覚。
俺はクラウドを置いて、浮かんでいる球体まで歩いて行く。
…あったか~。
そして、そのままその黒いもやもやの中に手を突っ込んで、その球体を両手で掴んだ。その瞬間。
…ゴォッ!
突風かと思うぐらいの風が全身に吹いて、バランスを崩してよろめく。球体は離さずギュッと掴み、来る衝撃に目を瞑ったが。
「おい、どうした!」
難なく受け止められ、ホッと目を開けると、焦った顔のクラウドが俺を覗き込んでいた。
「あ~良かった。転ぶかと思った。」
「…それだけか?」
怪訝な顔で聞かれるが、それだけだ。頷くと、はぁ、とため息をつかれ俺の身体を起してくれる。
「で、はいこれ。」
俺の手の中の球体は、今は中で黒煙のようなものが渦巻いているだけで、纏っていたもやもやは消えていた。それをクラウドに渡すと、じっと眺めだした。
「…すげぇな。」
ぼそっと言われ、俺は首を傾げた。
「これ、そんなにすごいのか?」
魔石は魔石だろうし、ダークレイクの対応をするのなんて今まで何度もあったと聞いた。今回のものは何か違うのか?
「…これを手に取るのは初めてだ。あー、分かんねぇよな。とりあえず、戻るぞ。」
何やら珍しく戸惑いの混じったクラウドの声に、ますます首を傾げるが、とりあえず撤収らしい。これ以上、魔物は増えないらしいが、すでに増えてしまった魔物は消失するわけではないため、戻る時も倒しながらになったのだった。
戻る時も、荷物番をしていた騎士と合流した時も、ずっとチラチラと騎士たちから視線を感じる。でも声を掛けてくる様子はなく、遠巻きに何か言いたげだ。俺もそんな騎士たちをきょろきょろと見ていると、
「わっぷ。」
「帰りは前だ。王宮に向かわなきゃならねぇから飛ばす。」
行きの時とは変わって、俺を抱え上げるとそのまま馬に乗られる。そのままクラウドの前に座らされると腹に腕が回って固定される。そして、俺が何かを言う間もなく、馬を猛スピードで駆けさせた。俺は腹に回されたクラウドの腕にしがみ付き、王都までノンストップで馬に乗る羽目になったのだった。
「うぅ…。疲れた…。」
「しがみ付いてただけだろーが。」
王都に着いてすぐ、王宮に向かうと騎士寮で馬を預けた。俺は降ろしてもらったが、ずっとしがみ付いていたからか筋肉を長時間使用していたような痛みと、馬に乗っているとバランスをとるために体幹が鍛えられるのか全身が重たく感じる。
「馬って、乗ってるだけでも疲れるんだな…。クラウド、おんぶしてくれ…。」
もう動ける気がしない。慣れないことはするもんじゃない。行きの時はゆっくりだったし、休憩も挟みながらだったから何ともなかったけど。…いや、あの時も筋肉は使ってたのか。そして今のタイミングで一緒に疲労がきたのか。とにかく、もう俺は歩けません。運んでくれ。
両手をクラウドに向かって上げると、クラウドは呆れたように見てくる。いや、お前のせいだからな!?
だが、そんな表情をしつつもクラウドは俺を抱え上げて歩き出した。
「あ、俺気になってた店があったんだ。あそこ行きたい。」
「今日は諦めろ。報告に行く。」
「え。報告って、偉い人にってことだろ?俺行けないじゃん。その辺に下ろしてくれ。そんで終わったら迎えに来てくれ。」
「お前のことを報告するんだよ。」
…うん?どういうことだ?
俺が考えている間に、クラウドはさっさと歩いて行く。え、俺抱えられたままだけどいいのこれ。良くないんじゃねーかこの状況。そんな中、クラウドは王宮内に入ると、ある部屋の前で止まり、その扉をノックし名を名乗った。「入れ。」と短く返答があり、そこへと足を踏み入れたのだった。
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