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魔石の特性
しおりを挟む「戻ったか。で、どうだった。」
「…どうもこうも、分かってはいたが実際に見ると驚くぞ。」
クラウドは俺をソファに降ろすと、自分もその横に座った。そして、懐からダークレイクの魔石を取り出しテーブルに置いた。
「…できたのか。すごいな。どう思う。」
「調査せねば分かりませんな。しかし、魔力量と質は見ただけでもトップクラスでしょう。」
「クラウド、お前相当馬を走らせただろ。帰ってくんの早えんだよ。」
…俺がいていいのか、この状況。
目の前には、俺でも知っている陛下と王太子、そして騎士団長と魔術師団長、俺の今の主であるシュラウド・リュグナー公爵様といったすごい面子が揃っている。俺は萎縮して、クラウドにずりずりと身を寄せて周りに見えないように服を小さく掴んだ。
…もしここで置いていかれたら、俺は死ぬ!
俺みたいな庶民が関わることなんてなかったはずの人たちに、対応できるスキルなんて持ち合わせていない。敬語だって怪しいのだ。口を滑らせて不敬罪で牢屋に入れられる可能性もある。公爵様は話したことあるけど、少しだけで、返事すれば良いぐらいの会話だった。とにかく、ここに置いていかれたら一巻の終わりだ!
服を掴まれたのが分かったのか、一瞬クラウドの視線が俺に向いたが、また前に座る陛下たちに戻った。
「どちらにせよ、調べねば分からんだろう。リラ、協力してくれるな?」
会話が飛び交う中、クラウドに引っ付いているだけの俺に、いきなり陛下が声を掛けてきた。俺は話が分かってなかったのと、どう返答すれば正解なのか分からず固まってしまうと、
「陛下が言えば、それはもう命令です。私の預かっている子ですよ。無礼は許しません。」
公爵様が、陛下に静かにそう返した。
「いや、すまんな。何、無理強いする気はない。しかし、そうだな。クラウドに懐いているようだから、任せようか。」
陛下が視線を俺の横に移すと、憮然とした態度のクラウドはため息をついた。
…陛下にこんな態度とって大丈夫なのか!?不敬罪では?道連れは嫌だ!
この状況が理解できず一人内心あわあわと慌ただしくしているが、口を出せるはずもなく。
「すまなかったね、リラ。君の顔を知っておいてもらう必要があったため、ここに来てもらったんだ。」
公爵様が俺に向かってそう言うと、陛下から戻って良いとのお言葉を頂き、クラウドが俺を抱え上げて部屋を出た。
―――
「な、何だったんだ…。」
クラウドに運ばれるまま、呆然としてそう呟く。
「帰ったら説明してやる。」
そして、クラウドから聞いた話だと。ダークレイクの魔石を回収し持ち帰ることができたのは初めてだったという。ダークレイクと呼ばれる魔石に魔法をぶつけると、纏う魔力よりも強ければ魔石ごと消滅するか、弱ければ魔石に吸収されるかの2択だったらしい。魔法エキスパートの魔術師団長ですら、その纏う魔力だけを消し去るだけの魔法を放つことは至難の業で、成功した試しはないのだという。だから、ダークレイクが出現すれば消滅させるの1択だったと。
「え、でも魔石の纏う魔力だけを消滅させるアイテムがあるんだろ?」
「魔物が持つ魔石に纏う魔力量は、主が死ぬことで止まりそれ以上増えないからな。だから魔力を吸わせるアイテムが使えるが、あれはそうじゃない。」
いわく、ダークレイクは生きる魔石だと考えれば分かりやすいと。つまり、ずっと絶え間なく一定の魔力を放出しているため、無尽蔵に魔力を吸わなければならない。それができるアイテムなど、無いに等しいのだ。そのため、出来ることと言えば、纏う魔力以上の魔力量での魔法をぶつけることだけらしい。
「でも、俺みたいに魔力を無効化できるやつはいたんじゃないのか?俺は鬼族らしいけど、血が濃いってだけでほとんど人間だし。純血の鬼族だって、ハーフで鬼族の血が濃い俺みたいなやつだって、いたはずだろ。」
「…俺も調べて分かったことだがな。」
鬼族は人と変わらないため見分けるのが難しく、見つけるのにも本人が自覚していることが大前提なのだと。魔力を持たないだけでは、生活に支障がでることもない。それこそ昔は魔力を原動力にするものなどなかったし、魔法を使える人も少なかった。現代においても全ての人が魔法を使えるほどの魔力を持つわけでもない。そもそも魔力を使わずに暮らしている人だって多い。村や田舎で暮らす人たちは特に。
鬼族に関することだってほとんど分かっていないのだ。いわく、そもそも鬼族だと分かっていない人が多いのではないかというのが今の見解らしい。
「お前だって、母親が鬼族の血が流れていることを自覚していたから分かったんだろ。もし母親が分からなかったらどうしてた。」
そう聞かれ、うーんと考えてみるが。
「…何でだろうなぁ、で終わる気がする。」
治癒魔法が効かなかったから、母に聞いただけだし、その場でも皆首を傾げただけで代わりに塗り薬を貰った程度で特に問題になったりもしなかった。治癒魔法だって、庶民の俺達が受けることができるのは擦り傷とか切り傷とかを治す程度のものだ。
「だろうな。然程問題にもならないから、そうやって鬼族は埋もれていく。」
「うーん。でもさ、それって分かってないだけで、鬼族は俺以外にもいるんだろ?」
「いるかもしれねぇけどな、それを探し出すのは砂の中から砂を見つけるようなもんだぞ。お前を見つけたのだって、正直奇跡的だ。」
聞けば、俺に治癒魔法をかけたシスターが、王都の教会に行った時に世間話としてそこのシスターに話したらしい。治癒魔法が効かない子がいたから、そういった子のための薬も置いているとか何とか、本当に何でもないような話をしていただけだったが、それをたまたま公爵家の使用人の耳に入ったと。クラウドの魔力暴走を防ぐ手助けになる話ではないかと、使用人同士が話していたのが公爵様の耳に入り、俺へと繋がったのだ。
「すっげぇな。それで俺のところに話がきたわけ?」
「らしいぞ。俺の魔力暴走を防ぐためってのは建前だ。魔力を無効化する特質を見極めるために、お前は招かれたんだ。」
「つまり、俺は実験台…?」
「あー、まぁそうなるか。陛下も言ってただろ、無理強いはしねぇよ。それは親父も許さねぇだろうし、俺もさせる気はねぇ。」
真剣な顔でそう言われ、ちょっとドキッとする。だってこいつ、顔が良いんだもん。
「…うーん。つまり俺は何すればいいんだ?」
「好きに過ごせばいい。お前への要望は俺に来るだろうから、嫌ならそう言え。俺が何とかしてやる。」
…当たり前のようにお前を守る的な発言をされて、俺はむず痒いんですが。
ふーんと顔を逸らしながらよく分からない返事をしてしまい、クラウドが顔を顰めたのが分かった。
「おい、リラ。何だその返事。こっち見ろ。」
あろうことか腕を掴まれてギョッとする。いや、今どんな顔をしたらいいか分からねぇんだけど!ちょっと放っておいてくれ、その内戻るから!
俺の願いも虚しく、身体を引き寄せられて顔を覗き込まれる。俺は口を引き結んで視線を逸らした。
「…リラ。お前、照れてんのか?」
「照れてねーし…。」
ぐーっと下を向いてクラウドの胸を両手で押すもびくともしない。あれ、これクラウドじゃなかったかな?岩かな?現実逃避をしつつ離れて欲しいと態度で示すも全然聞いてくれず、離してくれないどころか両腕を掴まれる。
「へぇ、そんな顔もできんだな。」
口角を上げて面白そうにそう言うクラウドは、「で、何で照れてんだ。」と聞いてくる。
「別に、照れてないし…。いいから、離せって…!」
「じゃあこっち見ろ。」
声が笑ってんだよ!と思いつつもまだ表情を戻せないから顔を上げられず。うぅー…と唸りながらクラウドに捕まったまま。
「離せよぉ…。」
「くっ、何だその弱弱しい声。」
笑われながら、どうにか逃げようと身体を捻るも逃がしてくれないため、思いっきり仰け反ってみる。
「っと、危ねぇだろーが。」
難なく引き寄せられ、そのままクラウドの胸に頭をぶつけた。
「うぅ、辱めを受けた…。」
「聞き捨てならねぇな。何が恥ずかしかったんだ。おら、言えよ。」
またしてもジタバタと暴れるもそのまま抱え込まれたため、すぐに疲れて大人しく収まった。何か温かいし、色々なことがあったし、頭を使うのも体力がいるのだ。
「眠いー…。」
「おい、いきなりすぎんだろ。」
呆れたような声が聞こえたが、だって仕方ない。なんだかんだでクラウドは良い奴だし、一緒にいると楽だし、気を許せる相手でもある。だから、そんなクラウドの腕の中は安心するんだ。だって俺のこと、守ってくれるらしいから。
出稼ぎで家を空けるなんて、今までだって何度もあったけど、すぐに帰れる距離だったし、いつでも会おうとすれば家族に会えた。でも今は、家に帰るには遠い。ここまで長期間、家族に一度も会わないことはなかった。
…元気かな、みんな。
抱き締められたからか、安心するからか。両親や兄たちに抱き締められたり、弟たちを抱き締めたりした時の温もりを思い出して少し、ほんの少しだけ家族が恋しくなった。
俺はクラウドの背中の服をギュッと握るとその温もりを甘んじて受け入れた。様子の変わった俺に、クラウドが少し困惑したのが分かった。だが、そのまましたいようにさせてくれるらしい。
「リラ、どうした。」
頭に手を置かれて、大きな手で撫でられる感覚に、気持ち良くて目を閉じた。
――――
…こいつの危機感はどうなってんだ。
腕の中で急に大人しくなったかと思うと、すぐに聞こえてきた寝息。立ったまま全身を預けられて仕方なく抱え上げるも、その振動ですら起きず気持ち良さそうに寝てやがる。ただでさえ俺より低い身長で、軽い身体だ。負担になることはないが、こうも信頼され切っていると不安にもなる。
まぁ、確かに疲れてたってのもあるんだろうが。それにしても、良く寝るなこいつ。外でテント張った時にぐだぐだ言われる前に寝袋に引きずり込んだが、もぞもぞと自分の寝心地良い体勢を見つけるとすぐに寝息が聞こえてきて驚愕したのを覚えている。
「…気持ち良さそうだな、おい。」
抱え上げたまま、こいつの部屋に行こうとするも面倒臭くなってそのまま自分のベッドに下ろした。
今回の依頼を受けたのは、親父からだった。もともと、ダークレイクが出現した時点で討伐対象になるためその準備はしていた。それにリラを連れて行くように言われたのは直前のことだった。俺も迷いはしたが、リラを連れて行く意味も理解したため、最後には承諾した。
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