愛されて守られる司書は自覚がない【完】

おはぎ

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レーテルside



―――レーテルside


 ユンとは、学園で初めて出会った。

 僕は可愛い可愛いと小さい時から親にも周りにも言われ続けてきたため、自分が可愛いことを自覚しており、上手く生きてきたつもりだ。可愛い容姿の僕は男受けするらしく、言い寄られるのも数えきれないぐらいで、僕も好みの男ならそれなりに遊んだりしていた。

 だが、手を出した男が婚約者のいる男だったらしく。婚約者のいる男に手を出したと、悪い噂が流れてしまったのだ。それに関しては、特に言い訳する気もないし、そもそも言い寄ってきたのは向こうの方だし、とコソコソと僕を見て何かを言っているやつらに対し苛つきはしても、気にはしてなかった。この見た目のせいか、嫌がらせをされることもなかったし、噂もその内に消えるだろうと、その間は一人で過ごしていた。

 そんな時、授業で二人一組にならなければいけないことがあり、僕は一人余ってしまった。僕と視線が合いそうになると明らさまに逸らされてしまい、ため息をつきそうになる。こういう時、一人だとやりにくい。そう思っていると、

「す、すみません。遅れてしまいました。」

 そう言って入ってきたのがユンだった。サラサラなブラウンの髪と、大きな瞳。白い肌は走って来たのか少し上気していて赤く染まっている。小さい鼻と口に申し訳なさそうに下がる眉。小動物感を思わせながらも、真っすぐ立つ姿は凛としていて気品を感じる。僕は、その時にユンの噂を思い出した。

――妖精の子

 初めて聞いた時は鼻で笑ったものだが、なるほど、これは確かにそう言われるのも納得する可愛さだった。僕がポカンとしていると、今の状況が分かったのか、

「あ、あの、僕とペアになってもらえませんか……?」

 と、おずおずと下から申し訳なさそうに言ってきて思わず息を飲んだ。自然と上目遣いになって、断られたらどうしよう、と不安そうにこちらを見る姿は庇護欲を掻き立てられる。僕は何とか頷くと、パッと嬉しそうに笑って礼を言ってきたのだ。

……可愛い。

 そう思わずにはいられないほど、ユンは可愛くて、僕とペアになれたのがそんなに嬉しいの?と己惚れてしまうぐらい、にこにこと嬉しそうに話してくれる姿に僕はすでにノックアウト状態。

 授業が終わって別れたが、僕の頭の中はユンのことばかりだった。ユンは可愛いとよく噂になっているけれど、どこか触れたらいけないような雰囲気を持っていて、休み時間などは一人で本を読んでいることが多い。その姿ですら絵になるようで、その空気を壊すことが忍びなくて声を掛ける者もいない。遠巻きに皆眺めては、ほぅ、と感嘆の息を漏らすのだ。そんな噂たちを聞いてはいたが、本人を実際に見ると、なるほど、確かにと頷けるものばかりだった。

 僕は、数日経ってもユンのことが頭から離れなくて、とうとう会いに行くことに決めた。

 休み時間、中庭で一人、静かに本を読んでいるユンに話し掛ける時、僕はらしくもなく緊張してしまった。だが、そんな緊張も吹き飛ぶくらい、ユンはパッと顔を輝かせると嬉しそうに笑って僕の声に返してくれたのだ。それから、ユンを見掛ける度に声を掛けるようになって、徐々に距離を縮めていった僕。何度か話し掛ける内に、ユンの方からも話し掛けてくれるようになり、僕を見掛けると途端に笑顔になって嬉しそうに駆け寄ってくるのようになった。そんなの、可愛いに決まっているだろう。ユンは他に仲が良いやつがいないらしく、僕だけに話し掛けて駆け寄ってくれて、楽しいと笑ってくれるのだ。優越感も一押しだ。

 僕は一人でいる方が楽だとは思っているが、一人でいたい訳じゃなかったから、ユンの存在は居場所を見つけたみたいに輝いて見えた。また、ユンは話していても分かる純粋な心の持ち主で、コソコソと噂されているのを嫌われているのだと思っていると知った時は唖然としたものだ。こんなに可愛いのに、まるで自覚をしていない。一体、どういう教育をしたらこんな純粋無垢な妖精のような子が育つんだ?と割と真剣に悩んだこともある。だが、確実に分かったことは、僕がこの子を守らないといけないということだった。

「最近、図書室で勉強していたら同じ人と席が隣同士になることがあって、すごいよね。」

「お昼を買いに行ったら、同じのを買ったからってくれたの。ちゃんとこれ高いからお礼しますって言ったよ。」

「話し掛けてくれた人、先輩だったよ。勉強教えてくれるって!」

 事あるごとにユンは狙われているのに、親切でしてくれていると思っているから疑うということをしないユン。席が隣になるって、そんなの狙って座っているに決まっている。同じのを買ったって、ユンの好みを調べ、声を掛けるきっかけのために毎日のように張って待っていたに違いない。勉強を教える?そんなの、下心があるに決まってる!

 僕は、そういうのを聞いたり見たりすると、決まって割り込んで自分に意識が向くように仕向けた。こういう時、自分の容姿の使い方を知っていて良かったと心の底から思ったものだ。案の定、ちょっとその気であることを仄めかせると、すぐに食い付いてくるような軽いやつばかり。ユンじゃなくて、僕でもいいか、となったぐらいで一気に距離を詰めて完全にその気にさせてはフるというようにあしらっていた。でもそのせいで、ユンが恋愛に対して自信をなくしているのは気付いていたけど、こればっかりは仕方がなかったんだ。だって、どいつもこいつも、ユンとは釣り合わない。ユンに似合うのは、男前で優しくて包容力があって爽やかで仕事が出来て将来ユンを養えるほどの財力がある人なんだから。そうして、ユンに近付く相応しくないやつらを蹴散らしてきたのだ。

 ユンと一緒にいる内に、僕の噂も違ったものになった。ユンに幻想を抱いている者も多いため、下心を持って近付くやつらを許せないと考えるのは僕だけではなかったようで。ユンを守るようになってから、僕にお礼を言ってきたりする人もいて、何ともむず痒い気持ちになったものだ。そんなこんなで、僕は味方を増やしていって情報を共有しながらユンのために生きてきたのだ。就職も、ユンが王宮図書館に勤めたいと聞いて、同じ職場になるために文官になることに決めた。

 そして、予想通り、職場でもユンに近付こうとするやつらが多数。貴族だろうが騎士だろうが上司だろうが、徹底的に税や帳簿などを読み込んでは弱味を握ったり追い込んだりと邪魔な奴は消していった僕。ユンに近付きたくば僕を通せと暗に示してきた。味方が多いに越したことはないことは学園生活で分かっていたため、着々と味方も増やし、体制は万全であったはずなのに……。



「こんなやつに……!」

 騎士団に用事があったため書類を持っていくと、そこで会った男に僕は頭を掻きむしる。騎士団第1部隊隊長カイト。見た目は、まぁ及第点。確かに男前ではある。体付きもいい。ユンのことは守れそうではある。財力もまぁ、あるだろう。ユンと並ぶと見劣りしないし、ユンの可愛さも引き立つ。だが、それでも。

「気に食わないしムカつく!禿げろ!」

 どうあったって気に食わない!と出合い頭に噛み付く僕に、カイト隊長は意地悪気に鼻で笑う。それすらもムカついてこめかみに青筋が浮かぶ。

 カイト隊長と付き合うことになった、とユンが盛大に照れながら報告してきた時は、ユンのあまりの可愛さに悶えたが、それと同時にカイト隊長に対し憎悪にも似た感情が溢れた僕。それからカイト隊長は僕の敵だ。どうあってもムカつくし禿げればいいし虫に刺されて体中腫れればいい。

「何でこんな腹黒いやつと……。最悪だ、もっと優しく包容力があって良い人がユンには合っているのに……。」

 嘆きながら恨めし気に言うと、

「はっ、そんな軟な奴に俺が負けるわけないだろ。諦めろ、俺は離す気はないからな。」

 見下ろされながらそう言われてギリギリと歯を噛み締める。ユンから話を聞く限り、大切にされていることは分かる。ユンが照れながらも嬉しそうに話す姿は可愛いため、それは許すがお前は許さん。

「ユンを泣かせたら社会的に末梢してやる。」

 自分でも驚くぐらい低い声が出た。それに対し、片眉を上げたカイト隊長は、フッと笑った。

「悲しませることはしない。」

 そういうことは、しっかり目を見て言ってくるあたりもムカつく。

「あれ、レーテル?どうしたの?」

 そんな時、本を抱えたユンが通りかかった。僕が振り向いたのと同時に、横を通り過ぎた人物が、ユンから本を取り上げると甘ったるい目で見下ろす。

「丁度、そっちに行こうと思っていたんだ。一緒に行こう。」

「えっ、あっ、ありがとうございます。」

 顔を赤くするユンがもじもじしながらお礼を言っているのを見て、謝罪より礼がいいとか何とか言い包めてるんだろうなとジト目を向ける僕。でもはにかむユンが可愛くて、僕は駆け寄るとギュッとユンに抱き着いた。すると、ユンは突然のハグに驚きながらも反射的に僕の背中に腕を回してくれる。ユンの温もりを感じながらカイト隊長に向かって、ふふん、と全力のドヤ顔を披露する。すると、ピクっと口角を引き攣らせ目を細めて睨む様に僕を見て来たため、少し溜飲が下がる。

 まだまだユンから抱き締めて貰える段階じゃないだろ。僕だけだもんね。

 そう思いながらも、いつかはユンがこの男に向かって駆け寄り抱き着く日も来るのだろう。この特権は僕のものであって欲しいと願いながら、可愛い可愛いユンを守る役目はまだ譲るわけにはいかないとユンには見えないようにカイト隊長にベーッと舌を出すのだった。



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