神様と悪魔さま

相馬正

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第一話 悪魔さま誕生(4/4)

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「神父さまー」

 食堂にいた他の子達がこっちの部屋に入ってきてしまった。
 朝食の準備ができているのに、いつまで経っても神父様が来ないから呼びにきたんだろう。

「駄目だ! 来ちゃいかん!」

 神父様は必死に止めようとするが、今も黒い闇のせいで体が動かず、叫ぶことしかできない。代わりに私がみんなに歩み寄る。

「よせ! 子供達は巻き込まないでくれ!」

 神父様は必死の形相だ。

「神父様、大丈夫ですよ。私は何もしません」

「私はお前に言っているのではない! その後ろにいる悪魔に言っているのだ!」

『ヌゥ……』

 ノーに目をやり確認する。

「大丈夫です神父様。彼はとても優秀なの。神父様もさっきの約束をお聞きになったでしょう?」

「な、エンティー! 悪魔との約束を信じるというのか!?」

「“人を信じなさい”、“約束は守りなさい”、教えてくださったのは神父様です」

「そやつはではない!」

 いちいち理屈っぽいなぁ。

「あーもう、るっさい! ほらみんな、恐くないよ。この子は《ノー》っていうの。仲良くしてね」

「エンティー!!」

 神父様が動けないのをいいことに、みんなにノーを紹介する。見た目は羊のような角を生やし、牛のような顔、さらには周囲を黒く光る闇が包んでいる。子供でなくとも近寄り難い風貌だ。
 それでも私がノーに触れてみせると、始めは怖がっていた子供達も興味が勝ったようだ。

「すっげ、すっげ!」

「エンティー! なに、どうしたのコイツ!?」

 いたずらっこのトロンとハーリーがはしゃぎだした。ナナもその後にすぐ続いた。
 一番幼いサラと人一倍臆病なムーアは少し離れたところで二人寄り添っている。

「ほら、サラ、ムーア、おいで」

「ね、ねえ、エンティー。その子、噛んだりしない?」

「え?」

 なんだ、そういう心配か。

「あははは、噛まない噛まない。犬じゃないんだから大丈夫よ」

「ほ、本当!?」

 そう言って二人とも恐がりつつも他の子の輪に混ざった。どうやら子供達はみな、ノーの発する黒い闇には影響を受けないようだ。つまりこれは聖職者のみに効果があるのかもしれない。

『エンティー、何ナノダコイツラハ?』

「私の大切な家族! アナタも家族なんだから、手を出しちゃ駄目よ!」

『ナッ!? ソンナモノニナッタ覚エハナイゾ』

「私とアナタは契約したんだから家族みたいなものでしょ? だからみんなとも家族なの!」

『屁理屈ダナ』

「るっさい! それはそうと、周りの黒いのは何とかならない? それのせいで神父様が動けないのよ」

『ソウナノカ?』

「そうよ。抑えられないの?」

 ノーは少しの間じっと集中してみせると、黒い闇がすぼまり、それとともにノー自身も消えてしまった。

「えっ、あれ? ノー! ノー!?」

『騒グナ、スグ傍ニイル。姿ヲ隠シタダケダ』

 確かに気配は感じる。

「ビックリしたー。消えちゃったかと思ったじゃない」

『仕方ガアルマイ。神父ガ動ケナイノダロウ?』

「でも見えないのは何か嫌だなぁ。軽いやつないの? 軽~いの?」

『注文ノ多イ奴ダナ。ナラバ、コレハドウダ?』

 そういってノーは小さなワタアメ状の塊になった。なぜか角だけ残っている。ぷぷ、まるで黒い羊だ。
 特に女の子のナナとサラには凄くウケがいいようだ。

「わ~っ、カ~ワイイ~」

『ナ、ナンダ? オイエンティー、「カワイイ」トハ何ダ?』

 あーおっかし、ノーが困ってる。ちょっと放っておこう。

「あ、そーだ。神父様はどうですか?」

 ゆっくりと動きを取り戻した神父様が、私をまじまじと見ていた。

「エンティー……お前は何てことを……」

 神父様が聖書と十字架を手にし、また何かを唱えようとしている。

「やめて神父様! ノーは悪い悪魔なんかじゃない、《悪魔さま》なの!」

「何を言ってるのだエンティー! 悪くない悪魔などいない! そやつはお前の心に巣食った正真正銘の悪魔じゃ」

『クッククク、ソノ通リ。悪魔トハ邪悪ナ存在ダ。我モ例外デハナイ』

 薄気味悪い低い声でノーが返事をしたが、そんな脅しは通用しない。それこそ屁理屈だ。

「ノーは黙ってて! 本当に悪いのはこの世の中よ! だから私がこんな世の中なんて壊してやるの!」


#つづく
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