3 / 10
第一話 悪魔さま誕生(3/4)
しおりを挟む
明らかに、私の周りには異変が起きていた。それはいわゆる、“邪気”と呼ばれる類の気だったんじゃないだろうか。冷たい空気が痛いほどに肌を打つ。
「……ティー、エンティー! もうやめなさい! エンティー!」
気が付くと、神父様が私の名前を叫んでいた。無心で喋っていたせいか、ずっと呼ばれているのにも気が付かなかったらしい。それに、いつの間にかトロンの姿もない。
もはや自分の意思なのか、それとも抑え切れない力に動かされているのか、自分自身でも判らないまま、けれど止まらない。勝手に口は動き続ける。
「お願い《悪魔さま》、私に貴方の力を貸してほしいの」
「やめなさいエンティー!!」
辺り一面を薄暗い霧が包み始めた。私の周りは一層深い闇が渦巻き、さらには目に見えるほどの黒いうねりとなって眼の前に組み上がっていく。
ここが闇の中心……その渦は吸い込まれそうなほど深く暗い闇だというのに、とても眩しく感じた。あまりの眩しさに目を細めた時、その先に何かが揺らめいた。
それは今まさに形づいており、徐々に“何か”が実体化されようとしている。背丈は人に近く、風貌は数多の動物が入り混じっている……それはたぶん、野獣や魔物の類いに感じられた。
そんな有り得ない存在を目の当たりにした自分が抱いたのは、意外にも驚愕や恐怖ではなかった。
「綺麗……」
ただ、神父様の反応は私とは違った。
「なんとまがまがしい……」
そう呟き、たじろいで険しい顔を見せている。
まがまがしい? 何を言ってるんだろう。こんなにも黒く美しい光を放っているというのに。
この時の私の感覚は異常だったのかもしれない。
『我ヲ喚ンダノハ ウヌカ?』
その黒い光が私に語りかけている気がした。
ん、待って“ウヌ”って……私のこと? 喚んだって何? え、まさか、本当に私に話し掛けてるの?
「……そ、そうよ」
『名ハ?』
「いかん! 名前を交わしてはならん! ぐわっ、なんだ!?」
神父様が間に割って入ろうとしたが、ひと際闇の濃い私の傍には近付けないようだった。漠然としていたものが、徐々に確信に近付いていく。もしかしてこれが……悪魔さま?
「私はエンティー・ティ。貴方は?」
『我ハタッタ今誕生シタ。名ハマダ無イ。ウヌガ名付ケヨ』
「え、私が……」
「よせ、いかん! よすんだエンティー!!」
ごめんなさい神父様。エンティーは悪い子です。神父様を一瞥すると、闇に目を向けた。
『サア』
私が求める絶対的な存在ってなんだろう。
無限の愛なんてものがあるのだとすれば……それは、どんな過ちを犯した人間でさえも神に許しを請い、そして全ての罪を許し、さらにそれすらも背負う。そんな“善”という行為において絶対的な存在。そう、例えるなら《イエス様》のような……
でも今の私からはほど遠い存在。それどころか真逆に向かっているかもしれない。それでも、絶対的な力を手に入れたい。だったら……
「わかったわ……それじゃあ、アナタの名前は《ノー》よ」
名前を呼ぶと、ぶわっと闇は範囲を広げ、神父様を覆って尚、部屋中にまで行き渡った。
その瞬間、《ノー》と名付けた悪魔さまは鮮明に実体を現した。黒く輝く魔物。羊のような角を生やし、牛のような顔、そして様々な生き物とさらには植物が絡み合ったような体……
「くっ、ぐくくっ、なんということだ、私がついていながら……」
神父様は受け入れがたい事態に顔を歪ませ、こちらに腕を伸ばさんとしている。だけど、少しも届かない。たぶん身動きが取れないんだ。既に部屋中を覆っているこの闇のせい?
『ソウカ、我ノ名ハ《ノー》。フハハ、コレデ契約ハ完了シタ』
「契約?」
『ソウダ。ウヌハ我ノ主トナッタノダ。サア、共ニ破壊ノ限リヲ尽クソウゾ』
「なんということだ……好き勝手はさせぬぞ!」
神父様は目の前で起こった魔物の誕生に狼狽えていたが、すぐに切り替え、悪魔さまを退治せんと聖書を出して唱え始めた。
こんな状況の中でも私はなぜか冷静でいられた。妙に頭が冴える。
これは私の望んだことなんだ。私自身が願い、そして叶えた……世界を変えた第一歩なんだ。
「やめて神父様! 悪魔なんていないって言ってるでしょ! 神も悪魔も存在しない。ここにいるのは私の想いが顕在化した《悪魔さま》よ!」
「……まさか!?」
『フン、察シガイイナ神父。ソウ、我ヲ消スコトハ、《エンティー・ティ》ヲ消スコトト同義ダ』
「そういうアナタは察しが悪いわね、《ノー》」
『ナニ?』
「『破壊ノ限リヲ尽クソウゾ』? はっ、ナンセンスもいいところだわ。破壊すべきものは私が決める。この世を……ひっくり返してみせるわ」
暗い部屋の中、その中心にある黒く輝く魔物のような存在は、薄っすら笑みを浮かべたようだった。
『ホウ、面白イ。我ハ退屈ヲ望マナイ。ウヌノ考エヲ聞イテミヨウデハナイカ』
「……ティー、エンティー! もうやめなさい! エンティー!」
気が付くと、神父様が私の名前を叫んでいた。無心で喋っていたせいか、ずっと呼ばれているのにも気が付かなかったらしい。それに、いつの間にかトロンの姿もない。
もはや自分の意思なのか、それとも抑え切れない力に動かされているのか、自分自身でも判らないまま、けれど止まらない。勝手に口は動き続ける。
「お願い《悪魔さま》、私に貴方の力を貸してほしいの」
「やめなさいエンティー!!」
辺り一面を薄暗い霧が包み始めた。私の周りは一層深い闇が渦巻き、さらには目に見えるほどの黒いうねりとなって眼の前に組み上がっていく。
ここが闇の中心……その渦は吸い込まれそうなほど深く暗い闇だというのに、とても眩しく感じた。あまりの眩しさに目を細めた時、その先に何かが揺らめいた。
それは今まさに形づいており、徐々に“何か”が実体化されようとしている。背丈は人に近く、風貌は数多の動物が入り混じっている……それはたぶん、野獣や魔物の類いに感じられた。
そんな有り得ない存在を目の当たりにした自分が抱いたのは、意外にも驚愕や恐怖ではなかった。
「綺麗……」
ただ、神父様の反応は私とは違った。
「なんとまがまがしい……」
そう呟き、たじろいで険しい顔を見せている。
まがまがしい? 何を言ってるんだろう。こんなにも黒く美しい光を放っているというのに。
この時の私の感覚は異常だったのかもしれない。
『我ヲ喚ンダノハ ウヌカ?』
その黒い光が私に語りかけている気がした。
ん、待って“ウヌ”って……私のこと? 喚んだって何? え、まさか、本当に私に話し掛けてるの?
「……そ、そうよ」
『名ハ?』
「いかん! 名前を交わしてはならん! ぐわっ、なんだ!?」
神父様が間に割って入ろうとしたが、ひと際闇の濃い私の傍には近付けないようだった。漠然としていたものが、徐々に確信に近付いていく。もしかしてこれが……悪魔さま?
「私はエンティー・ティ。貴方は?」
『我ハタッタ今誕生シタ。名ハマダ無イ。ウヌガ名付ケヨ』
「え、私が……」
「よせ、いかん! よすんだエンティー!!」
ごめんなさい神父様。エンティーは悪い子です。神父様を一瞥すると、闇に目を向けた。
『サア』
私が求める絶対的な存在ってなんだろう。
無限の愛なんてものがあるのだとすれば……それは、どんな過ちを犯した人間でさえも神に許しを請い、そして全ての罪を許し、さらにそれすらも背負う。そんな“善”という行為において絶対的な存在。そう、例えるなら《イエス様》のような……
でも今の私からはほど遠い存在。それどころか真逆に向かっているかもしれない。それでも、絶対的な力を手に入れたい。だったら……
「わかったわ……それじゃあ、アナタの名前は《ノー》よ」
名前を呼ぶと、ぶわっと闇は範囲を広げ、神父様を覆って尚、部屋中にまで行き渡った。
その瞬間、《ノー》と名付けた悪魔さまは鮮明に実体を現した。黒く輝く魔物。羊のような角を生やし、牛のような顔、そして様々な生き物とさらには植物が絡み合ったような体……
「くっ、ぐくくっ、なんということだ、私がついていながら……」
神父様は受け入れがたい事態に顔を歪ませ、こちらに腕を伸ばさんとしている。だけど、少しも届かない。たぶん身動きが取れないんだ。既に部屋中を覆っているこの闇のせい?
『ソウカ、我ノ名ハ《ノー》。フハハ、コレデ契約ハ完了シタ』
「契約?」
『ソウダ。ウヌハ我ノ主トナッタノダ。サア、共ニ破壊ノ限リヲ尽クソウゾ』
「なんということだ……好き勝手はさせぬぞ!」
神父様は目の前で起こった魔物の誕生に狼狽えていたが、すぐに切り替え、悪魔さまを退治せんと聖書を出して唱え始めた。
こんな状況の中でも私はなぜか冷静でいられた。妙に頭が冴える。
これは私の望んだことなんだ。私自身が願い、そして叶えた……世界を変えた第一歩なんだ。
「やめて神父様! 悪魔なんていないって言ってるでしょ! 神も悪魔も存在しない。ここにいるのは私の想いが顕在化した《悪魔さま》よ!」
「……まさか!?」
『フン、察シガイイナ神父。ソウ、我ヲ消スコトハ、《エンティー・ティ》ヲ消スコトト同義ダ』
「そういうアナタは察しが悪いわね、《ノー》」
『ナニ?』
「『破壊ノ限リヲ尽クソウゾ』? はっ、ナンセンスもいいところだわ。破壊すべきものは私が決める。この世を……ひっくり返してみせるわ」
暗い部屋の中、その中心にある黒く輝く魔物のような存在は、薄っすら笑みを浮かべたようだった。
『ホウ、面白イ。我ハ退屈ヲ望マナイ。ウヌノ考エヲ聞イテミヨウデハナイカ』
0
あなたにおすすめの小説
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
碧天のノアズアーク
世良シンア
ファンタジー
両親の顔を知らない双子の兄弟。
あらゆる害悪から双子を守る二人の従者。
かけがえのない仲間を失った若き女冒険者。
病に苦しむ母を救うために懸命に生きる少女。
幼い頃から血にまみれた世界で生きる幼い暗殺者。
両親に売られ生きる意味を失くした女盗賊。
一族を殺され激しい復讐心に囚われた隻眼の女剣士。
Sランク冒険者の一人として活躍する亜人国家の第二王子。
自分という存在を心底嫌悪する龍人の男。
俗世とは隔絶して生きる最強の一族族長の息子。
強い自責の念に蝕まれ自分を見失った青年。
性別も年齢も性格も違う十三人。決して交わることのなかった者たちが、ノア=オーガストの不思議な引力により一つの方舟へと乗り込んでいく。そして方舟はいくつもの荒波を越えて、飽くなき探究心を原動力に世界中を冒険する。この方舟の終着点は果たして……
※『side〇〇』という風に、それぞれのキャラ視点を通して物語が進んでいきます。そのため主人公だけでなく様々なキャラの視点が入り混じります。視点がコロコロと変わりますがご容赦いただけると幸いです。
※一話ごとの字数がまちまちとなっています。ご了承ください。
※物語が進んでいく中で、投稿済みの話を修正する場合があります。ご了承ください。
※初執筆の作品です。誤字脱字など至らぬ点が多々あると思いますが、温かい目で見守ってくださると大変ありがたいです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる