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第二話 悪魔さまのいる生活(1/2)
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ここは町はずれにある静かな森に囲まれた小さな小さな教会。
― そこには悪魔さまがおりました ―
今朝から新しい家族《ノー》が加わり、一層賑やかになってみんなで楽しく過ごしています。ただ一人、神父様を除いては。
「神父様! いい加減そのしかめっ面やめてください! ノーはこの通り大人しくしてます」
黒い羊のような塊が空中にフワフワ浮いている。明らかに異様な光景ではあるが、今のところ実害はない。
「しかし、神聖なる教会の中に悪魔が……」
「《悪魔さま》です! それに名前もちゃんとあるんですから、神父様も《ノー》って呼んであげてください!」
「うぬぅ……」
いくら言っても納得のいかない様子の神父様。
無理もない、この中で神父様だけが唯一、ノーに触れることができない。その対象が邪悪な存在でないはずがない。
それもあってか、さっきからずっと監視されている。まさか、まだ懲りずにノーを退治しようと考えてるのかも。そんなの冗談じゃない、どうにかしないと。
午後になると、いつもの庭掃除が始まった。
「木の実はカゴに入れ、落ち葉や枯れ木は一ヵ所に集めるように」
「「はーい」」
「じゃあ二人一組でペアを組むのだ」
掃除だったらムーアと組むのがいいかな。あ、神父様でもいいなぁ。
「エンティーはノーと組むんだよなー」
トロンの奴が余計な一言を言った。
「そうだな、ノーも教会にいる以上、掃除してもらおうかの。よし、エンティーとノーがペアだ。後は……」
「はあ? ちょっと待っ……」
「神父様! 俺はハーリーと組む!」
「サラはナナとやるー!」
「そうか、そうか、じゃあムーアは私と一緒じゃな」
な! ムーア・神父様コンビってズルいっ! 私もそこがいい!
一度決定したペアに異を唱えようとしても既に遅く、みんなは掃除を始めてしまった。
諦めてノーを見る。改めてまじまじとその姿を観察すると、ワタアメっぽい見た目が、屋外だと雨雲に見えてきた。ふむふむ、羊の角を生やした雨雲ね……って、どうみても掃除なんかしたことないでしょ。あ、ワンチャン、モップに見えないこともない?
「ねえノー、一応聞いておくけど、掃除って知ってる?」
『何ダソレハ?』
「ううん……なんでもない」
だよね、聞いた私がバカだった。渋々と一人で落ち葉を掃き始める。
「おっと、木の実は拾って今日のお夕飯っと」
『人間トハ ソンナモノヲ食ベルノカ?』
「え? う~ん、普通はそんなに食べないみたい。うちの教会はあまりお金がないから、だから食べれるものは何でも感謝していただかないと」
人に聞いておいてノーは何も答えない。どうせ悪魔さまは木の実を食べないから関心もないんでしょうけど。でも、それじゃ何を食べるのかしら?
「うわぁああああ!! バカ、やめろよ!」
トロンの声だ。何だかハーリーと悪ふざけしてる。
「あいつらは、またサボって! いったい何やってるのよ」
『何ダエンティー、見エナイノカ? ドウヤラ小サナ緑色ノ生キ物ニ 怯エテイルヨウダナ』
緑色? はっはーん、トロンのやつ、そっか芋虫が苦手なのか。
『己ヨリ何十倍モ小サイ生キ物ニ怯エルトハ、人間トハソンナニモ カ弱イ生キ物ナノカ?』
「違う、違う、苦手ってやつよ。アナタもナナやサラに囲まれて困ってたじゃない」
『ナ! ベ、別ニ困ッテナドナイ……ウ、ウム、シカシ何トナク解カッタゾ』
へぇ、悪魔さまも学習するんだね。そりゃそうか、生まれたてだもんね。
それにしても、トロンはあんなのが苦手なのか、ふふふ……いいこと思いついちゃった。
『ドウシタエンティー、随分トゴ機嫌ダナ?』
「ふふーん、ちょっとね」
それはさておき……後ろをちらっと確すると、今も神父様がこちらをチラチラ窺っていた。思わず溜め息が出る。多分、ノーを監視してるんだろうけど、どうにも落ち着かない。もしも道行く人が見たら変態にしか見えないでしょうね。
「まあ、私ってば可愛いから余計にねぇ。でも、神父様がロリコンだったらどうしよう?」
ひゃ~ヤバイ、さほど嫌でもない私もヤバイ! 神父様と私じゃ四、五十歳は違うわよ。それじゃ犯罪だっての!
おっと、いけない、いけない。狙われてるのは私じゃなくてノーなのよね。油断してたら何か仕掛けてくるかもしれない。私だってまだノーのことよく解ってないのに、こうも見張られてたら色々試すこともできやしない。
今解ってることといえば……
・ノーには触れることができるし、逆にノーが私に触れることもできる
・神父様を始め、多分、聖職者の人はノーの闇にマイナスの影響を受ける
・ノーは姿を消すことができる。色々な姿に変身もできるみたいだけど……
・ノーは生まれたばかりのせいか、そんなに頭は良くなさそう。きっと私の方が頭いいわ
・最後に、ノーは私からそう遠くへは離れられない。それは一心同体ってことなのかしら?
うーん、たいして目新しい発見がない。そうだ! いっそのこと街に出るってのはどうかしら? だめか、さすがにそれは神父様が許してくれるはずない……
でも、神様を信じていない私と悪魔さまのノーがこの教会に残っていること自体、本当は許されないことなのかもしれない。それは神父様の情けなのだろうか、それとも私の甘えなのだろうか、私にはそんなことも分からない。
そもそも……世の中を変えてみせるって言った当の本人が、たいして外の世界を知らないんじゃお話にもならない。
知ることに貪欲でなくてはならない。分からない物事でも考えを放棄してはならない。私の中で止まっていた何かが動き始めていた。
― そこには悪魔さまがおりました ―
今朝から新しい家族《ノー》が加わり、一層賑やかになってみんなで楽しく過ごしています。ただ一人、神父様を除いては。
「神父様! いい加減そのしかめっ面やめてください! ノーはこの通り大人しくしてます」
黒い羊のような塊が空中にフワフワ浮いている。明らかに異様な光景ではあるが、今のところ実害はない。
「しかし、神聖なる教会の中に悪魔が……」
「《悪魔さま》です! それに名前もちゃんとあるんですから、神父様も《ノー》って呼んであげてください!」
「うぬぅ……」
いくら言っても納得のいかない様子の神父様。
無理もない、この中で神父様だけが唯一、ノーに触れることができない。その対象が邪悪な存在でないはずがない。
それもあってか、さっきからずっと監視されている。まさか、まだ懲りずにノーを退治しようと考えてるのかも。そんなの冗談じゃない、どうにかしないと。
午後になると、いつもの庭掃除が始まった。
「木の実はカゴに入れ、落ち葉や枯れ木は一ヵ所に集めるように」
「「はーい」」
「じゃあ二人一組でペアを組むのだ」
掃除だったらムーアと組むのがいいかな。あ、神父様でもいいなぁ。
「エンティーはノーと組むんだよなー」
トロンの奴が余計な一言を言った。
「そうだな、ノーも教会にいる以上、掃除してもらおうかの。よし、エンティーとノーがペアだ。後は……」
「はあ? ちょっと待っ……」
「神父様! 俺はハーリーと組む!」
「サラはナナとやるー!」
「そうか、そうか、じゃあムーアは私と一緒じゃな」
な! ムーア・神父様コンビってズルいっ! 私もそこがいい!
一度決定したペアに異を唱えようとしても既に遅く、みんなは掃除を始めてしまった。
諦めてノーを見る。改めてまじまじとその姿を観察すると、ワタアメっぽい見た目が、屋外だと雨雲に見えてきた。ふむふむ、羊の角を生やした雨雲ね……って、どうみても掃除なんかしたことないでしょ。あ、ワンチャン、モップに見えないこともない?
「ねえノー、一応聞いておくけど、掃除って知ってる?」
『何ダソレハ?』
「ううん……なんでもない」
だよね、聞いた私がバカだった。渋々と一人で落ち葉を掃き始める。
「おっと、木の実は拾って今日のお夕飯っと」
『人間トハ ソンナモノヲ食ベルノカ?』
「え? う~ん、普通はそんなに食べないみたい。うちの教会はあまりお金がないから、だから食べれるものは何でも感謝していただかないと」
人に聞いておいてノーは何も答えない。どうせ悪魔さまは木の実を食べないから関心もないんでしょうけど。でも、それじゃ何を食べるのかしら?
「うわぁああああ!! バカ、やめろよ!」
トロンの声だ。何だかハーリーと悪ふざけしてる。
「あいつらは、またサボって! いったい何やってるのよ」
『何ダエンティー、見エナイノカ? ドウヤラ小サナ緑色ノ生キ物ニ 怯エテイルヨウダナ』
緑色? はっはーん、トロンのやつ、そっか芋虫が苦手なのか。
『己ヨリ何十倍モ小サイ生キ物ニ怯エルトハ、人間トハソンナニモ カ弱イ生キ物ナノカ?』
「違う、違う、苦手ってやつよ。アナタもナナやサラに囲まれて困ってたじゃない」
『ナ! ベ、別ニ困ッテナドナイ……ウ、ウム、シカシ何トナク解カッタゾ』
へぇ、悪魔さまも学習するんだね。そりゃそうか、生まれたてだもんね。
それにしても、トロンはあんなのが苦手なのか、ふふふ……いいこと思いついちゃった。
『ドウシタエンティー、随分トゴ機嫌ダナ?』
「ふふーん、ちょっとね」
それはさておき……後ろをちらっと確すると、今も神父様がこちらをチラチラ窺っていた。思わず溜め息が出る。多分、ノーを監視してるんだろうけど、どうにも落ち着かない。もしも道行く人が見たら変態にしか見えないでしょうね。
「まあ、私ってば可愛いから余計にねぇ。でも、神父様がロリコンだったらどうしよう?」
ひゃ~ヤバイ、さほど嫌でもない私もヤバイ! 神父様と私じゃ四、五十歳は違うわよ。それじゃ犯罪だっての!
おっと、いけない、いけない。狙われてるのは私じゃなくてノーなのよね。油断してたら何か仕掛けてくるかもしれない。私だってまだノーのことよく解ってないのに、こうも見張られてたら色々試すこともできやしない。
今解ってることといえば……
・ノーには触れることができるし、逆にノーが私に触れることもできる
・神父様を始め、多分、聖職者の人はノーの闇にマイナスの影響を受ける
・ノーは姿を消すことができる。色々な姿に変身もできるみたいだけど……
・ノーは生まれたばかりのせいか、そんなに頭は良くなさそう。きっと私の方が頭いいわ
・最後に、ノーは私からそう遠くへは離れられない。それは一心同体ってことなのかしら?
うーん、たいして目新しい発見がない。そうだ! いっそのこと街に出るってのはどうかしら? だめか、さすがにそれは神父様が許してくれるはずない……
でも、神様を信じていない私と悪魔さまのノーがこの教会に残っていること自体、本当は許されないことなのかもしれない。それは神父様の情けなのだろうか、それとも私の甘えなのだろうか、私にはそんなことも分からない。
そもそも……世の中を変えてみせるって言った当の本人が、たいして外の世界を知らないんじゃお話にもならない。
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