はるかかなた

相馬正

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一章 ラストワン

1-13 勝利と目的と

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 昼間はとんだ弁当インパクトだった。俺はその雪辱を晴らすべく……そうではなく、ゲームをする為に小金沢の家に来ていた。
 昨日、ボス戦に敗れたのはそもそもレベルが低すぎたせいだ。その失敗を踏まえ、今日はじっくりレベル上げしようってことになった。

 淡々とゲームを進めて小一時間。再びボス部屋に着いてしまった。
 つい先日、惨敗したのが記憶に新しい第一フィールドのボス《シャドウ・サーカス》。くしくも俺と同じ道化師だ。ソロでの攻略目安はレベル30。タナーカーのレベルが16でミスリルは15。昨日よりは上がっているが、それでもまだ心もとない。
 ここまでは割とサクサク来れるって、ちょっとゲームバランス悪いんじゃないか? それとも、ミスリルの装備とステータスがインチキだからか? などと考えては二の足を踏んでいた。

「ねえ、何かいい攻略法とかないの? 昨日、白銀と話してたでしょ」

 なくもない……思わず返事に詰まる。

「ちょっ、あるならさっさと言いなさいよ!」

「え、いや、まだ何も言ってないだろ」

「ううん、あるって顔してた!」

「これデフォ顔だから」

「るっさい! 早く!」

 なんて自己中な奴だ。いや、それはいつもか。でも今回のは、昨日おおっぴらに街中で繰り広げた喧嘩が尾を引いてる気がする。あれでちょっとした有名人になった俺達二人は、今日のプレイ中、理由もなく『頑張れよ』とか『仲良くやれよ』と、何度も声を掛けられた。その度にミスリルはイライラしているようだった。ここでボスに挑まず街に戻ろうものなら、何を言われるか分かったもんじゃない。
 はぁ、もう少し小出しにする予定だったが仕方ない。

「POSOには十字キーが二つあるだろ。左のが移動用で右のは視点用だ。普段この両方使ってるか?」

「使うわけないじゃん。ゲーマーじゃないんだから指つるっての。それでなくても右手はボタン多いんだから」

「まあ、そうだよな。じゃあ《アイ・トリガー》、《アイ・ムーブ》は使ってるか?」

「それ私に聞く? あんなことしてたら今度はまぶたがつるっての」

「ま、そうは思ったけど一応な。けど、いつまでも普通の十字キーだけじゃ攻撃が単調になっちまう。さらに上を目指すには、この視点を絡めた操作が必須なんだ」

「だーかーらー、それじゃあ指か目がつるっつーの!」

 やっぱりコイツにはまだ少し早い気もするが、かといってミスリルの戦力抜きじゃ話にならない。

「いいか、何度も使えって言ってるんじゃない。ここぞって時に、それもできるだけ最大限の効果を発揮させるんだ」

「もしかしてそれ、タナーカーが使ってる連続技のこと?」

「ああ、一度の攻撃にヒットを重ねて繰り出す技だ。ロックオンの要領で出す技をストックしておける……それが《セミ・トリガー》だ」

「え、なに、そしたら私にも連続技が出せるってこと……?」

 力強く頷いてみせると、途端に小金沢の声が弾んだ。

「やるわ! やるやる!!」

 ぷっ、コイツ相当な負けず嫌いだ。まあ、ゲームを進めるなら、その方が都合がいい。さすがにボス相手にぶっつけ本番ってわけにはいかないけどな。

「よっしゃ、じゃあ近くの敵で練習するぞ」



 視点操作を右十字キーで行い、その最中に敵のウィークポイントに合わせてトリガー(攻撃ボタン)すると、誘導式の攻撃が繰り出される。これがいわゆるロックオンアタックって言うファーワールドの基本技だ。
 今の応用で、トリガーで攻撃を出さずにZボタンを押すとロックオン状態が保持される。これが《セミ・トリガー》だ。その《セミ・トリガー》を複数の敵にセットして、最後にトリガーを実行すると……セットした目標に向かって連続技が繰り出される。


「きゃー! できたできたー!」

 そりゃそうだ、コツさえ掴めば簡単な技だ。ぶっちゃけ初級テクだし。

「なんでもっと早く教えなかったのよ!」

「ははは……ホントだな。じゃあ次いくか、少しだけ操作は増えるが、ロックオンごとにタイミングを合わせてコマンド攻撃を……」

「あ、それはいいや、わけ分かんないから」

「じゃあ、やっぱり《アイ・ムーブ》と《アイ・トリガー》だな。これをマスターすると、ロックオン中でも攻撃が出せるメリットが……」

「さぁーて行くわよ、首洗って待ってなさい《シャドウ・なんちゃら》!」

 人の話聞いてねーよ。ま、いいか、こういう奴は調子に乗せといた方が上手くいく。

「ほんじゃま、いざ!」

「まいら~ん!」



 二人は再び大型テントの中へ進んだ。
 昨日と同じ軽快な音とスポットライトが賑やかにテントの中を踊り回る。ここのボスの攻撃はトリッキーで一見厄介だが、この手のタイプは飛び道具だけで接近戦には弱い。と、勝手に決めつけてみたが、同じ道化師だから理屈は同じはずだ。だから、上手くかわして懐に潜り込みさえすれば……

「いーい、私がオフェンス、タナーカーはディフェンスよ。だからあの細かい大道芸攻撃は防ぐか喰らってでも止めなさいよ」

「は? 喰らってでもって、おま……」

「いいから! 私の大技にまっかせっなさ~い」

 おいおい、指がつるんじゃなかったのかよ。覚えたてのへっぽこロックオンじゃ、変にミスって結局数を打つことに……いやでも、ミスリルの攻撃力の方が格段に上なのは確かだ。

「作戦自体は悪くねーけど、なんかずりーの」

「ならタナーカーがオフェンスやる?」

「わーったよ」

 作戦が決まると同時にシャドウ・サーカスがジャグラーボールを投げてきた。それを防ぎつつ奴に接近する。俺のすぐ後ろにはミスリルがピッタリと続く。炎やナイフ、ライオンが襲い掛かってくるが、全て俺が撃退……いや、ちょっと喰らっただけで、もうヤバい。

「ほら、目の前まで守ってやったぞ! そろそろいいだろ!」

「ごっくろー!」

 トンと肩を捕まれると、押さえつけられるようにかがまされた。その俺の背中にミスリルのヒールが食い込む。そして――飛んだ!

「なっ! 俺を踏み台に……!!」

 高々と舞ったミスリルは大剣を大きく振りかぶっていた。そうか! 飛んでる最中なら余計な操作はいらない!

「右十字キーとZボタンね、いける!! ロック! ロック! ロック! ロック! ロック! ロック! ロッーク!!!」

 くっ、コイツ、考えやがった!

「そこまでいって外すんじゃねーぞ!」

「るっさいっての! いっけー!! “大地のなげキッス”!!!」


 ズッ ガッ ガッ ズゴゴーン!!!


 岩を叩き割るような物凄い轟音と衝撃が伝わってきた。しかも今の攻撃でシャドウ・サーカスは動かなくなった。

「すっげぇ! もしかしてやったか!?」

「まだよ! ほら、タナーカーも蚊ほどでいいから攻撃しなさいよ!」

「蚊って、コラ……!!」

 そうか、動きが止まったのは例の大剣《大地の嘆き》の麻痺効果か!

「ボスにまで状態異常が効くって……さすがはレア武器!」

 俺も負けてられない。アイ・ムーブとセミ・トリガーでシャドウ・サーカスに渦を巻くようにロックオンをかけまくった。

「いくぜっ!」

 アイ・トリガー発動と同時に攻撃誘導が起こる。さらに、そのヒットタイミングに合わせてコマンドを入力!!

「蚊をなめんなー!!」

 ダメージ
 1
 1
 2
 3
 7
 8
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 20
 22
 23
 34
 39

「らぁー!!!」

 やっべ、何ヒット決めた!? つーか、ヒットごとに威力が増すって、どんな仕様だよ! けど、それでもまだボスは倒れてない。しかもこのタイミングで麻痺の効果が解けた。まずい……やられる!!

「えいっ」

 後ろからサクッとミスリルの大剣が伸びた。その一撃がトドメとなって、巨大なピエロ《シャドウ・サーカス》は断末魔とともに消え去った。悔しいが、俺の攻撃はあと一歩足りなかったらしい。

 チャカチャン チャラララーン♪

 テント内の空間に《STAGE CLEAR》の大きな文字が浮かび上がる。と、同時に二人のレベルが上がった。なんとミスリルの方は2つも上がったようだ。思わず顔を見合わせる。お互い勝利を実感した瞬間だった。

「ふわぁぁぁあ……やったああ!!」

「うおっっしゃあああ! 倒したぁ!!」

 二人とも震え混じりの歓喜の声。

「んもうっ、なんなのこの感じ! チョー最高なんだけど!!」

「な!! つーかミスリル、『大地のなげキッス』って何だよアレ! ただの攻撃じゃんか!」

「あはっ、気付いたー? 咄嗟とっさに思いついたの!! けど、アイツ、本当に昇天しちゃったでしょー!」

「はははっ、さすがセクシーキャラ、エロカッコイイぜっ!」

「タナーカーこそ、なによ最後の連撃! あんな技、私聞いてなかったわよ!」

「うはははは!」

「あはははは!」

 しばらくの間、互いを讃え、勝利を喜び、笑い合い、余韻に浸った。
 次第に感動が治まってくると、嫌でも冷静になった。つーか、俺……目的変わってないか?


 タナーカー、プレイ三日目の成果、第一フィールドクリア。
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