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一章 ラストワン
1-15 ワンチャンス
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「あーもう、ゲームって集中してる間は気が付かないけど、やめた瞬間にどっとくるのね。それに腰も痛いし」
土曜の朝からひたすらゲームをして三時間が経った。いまだ成果なし。ただ闇雲に探ってもきりがないので、いったん休憩を挟むことにした。
小金沢は両手を後ろにつくと体を反らすように伸びをした。確かにずっと同じ姿勢だったから俺も体が痛い。
「いいなそれ」
真似して体を反らす。天井を仰ぎきって後ろのドアが視界に入った時、ちょうどドアがノックされた。
「サキー、そろそろお腹空いたでしょ? お昼持って来たわよ」
ドアノブが回るのと同時に横にいた小金沢が異様な速さで立ち上がった。
「ちょ、二階には来ないでって言ったでしょ!」
開きかけたドアを小金沢が押し返す。
「あ、熱っ!!」
「え、あ、ゴメン」
「なーんて、ウソよ」
小金沢の力が緩んだ隙をついたのか、一気にドアが開かれた。
「あらあらあら、いつもサキがお世話になってます。母です」
は? この人が母ちゃん!? 若っ! つーか、少し歳の離れた姉ちゃんだろ! いやいや、どっちにしても挨拶を返さないと。
「ど、どうもお邪魔してます。田中といいま……」
「挨拶とかいらないから!」
んなわけあるか。
「お昼、オムライスで良かったかしら? 足りなかったら言ってね」
姉ちゃ……違った、母親も全く退かない。つーか、どっちも会話する気ないだろ。
「ちょっと、いいから出てって!」
ご飯だけ奪い取ると、小金沢は早々に母親を追い出しにかかった。
「それじゃ、これからもサキのことよろし……」
バタン!
力ずくでドアを押しきると、会話は強制終了された……が、ドアの向こうから続きが聞こえてきた。
「サキー、やっぱり男の子だったのね」
「るっさい!」
小金沢はその辺にあった空のペットボトルをドアに投げつけた。そして今度はこっちを睨みつけてきた。
「なによ!」
「いや、俺、何も言ってないけど」
「ふん、そうだった!? ちょー目で何か言ってたけど!」
「つまりは何も言ってないだろ、それ」
「るっさい!」
カリカリしたまま、小金沢はオムライスとスプーンを手に取った。
「いただきます!」
はは、怒ってるクセに行儀いい。友達に自分の家族を見られるのは恥ずかしいって言うけど、あれは似てれば似てるほど嫌なんだってな。つーか、コイツの強引なとことか今の母親まんまじゃないか。
「なに人のこと見てんの、早く食べなさいよ! 時間ないんでしょ!」
「お、おうっ」
「あー、くやしっ、おいし!」
ははっ、笑っちゃいけないと思うほど、可笑しく思えてくる。
「何よ、今笑った!?」
「違うって、このオムライス旨いなって言ったんだよ」
「……そ……ありがと」
怒ったり、しおらしくなったりと忙しい奴だ。
でも、この数日でコイツは根が素直でいい奴だってのがよく分かった。いくら外見がモデルみたいに見えても、普通に年頃の高校生なんだ。
そんな小金沢と一緒にいるのが、どうやら俺は居心地いいらしい。なんだって今日で最後って時になって気付いてんだか。
「ごちそーさまでした」
「俺も、ごちそーさま」
「カナタ食べるの早っ! って……そんなことより、ねえ、私考えたんだけど。学校を休んでる誰かに直接話を聞くんじゃ駄目なの?」
何だかんだ言いながらコイツは協力的だ。今の質問にしたって、メシの間ずっと考えていてくれたのだろう。
「なあ、無断で学校休むってことは何か理由あるよな? それも同時に複数人だ。結託してる可能性も考えられる。そこを迂闊に勘ぐって、もし警戒されたら二度と話を聞けなくなるかもしれない。だから、何かを直接聞き出すチャンスは一度だけだろうって、俺は思うんだ」
「ああ、そっか」
「だろ?」
「違う違う、同意の“そっか”じゃなくて、カナタってすぐなりきるよね、って方の“そっか”」
「なんだよそれ」
何と言われようが、確かに俺はこのゲームに何かを感じたんだ。別にこだわってるわけじゃない。《Far World》がいくら面白いゲームだったとしても、それを理由に学校を休むとは思えない。実際にここ数日、自分の目で見て、手で触れた後も、その考えは変わらない。それでもどこか“違和感”だけは残っていた。
「でもさ、学校にも行かず家で毎日ゲームしてるって……うわっキモっ。考えるんじゃなかった」
まるで悪寒が走ったかのように両手で腕を抱え込んでいる。おしゃれ好きの小金沢からすれば、その対極に位置するオタクが理解できないのは無理もない。しかも自分の兄貴がそうだもんな……
って、待てよ、コイツの兄貴はオタクだ。登校拒否の奴らもオタクだ。けど、そんなこと今に始まったことじゃない。なんとなく漠然とした違和感の正体が掴めた気がした。
なんで今、“このタイミング”なのかってことだ!
「なあ小金沢! 兄貴が特にゲームに集中する時期っていつだ?」
「ええっ、何よ急に? そんなもん毎日キモいに決まって……あ、でも、イベント前とかは超最悪かも」
もの凄く嫌そうな顔をしている。ってことは違和感の正体に近付いてるってことだ。
「その『イベント』ってなんだ!? 俺がゲームした中じゃ、そんなこと一度も耳にしなかったぞ?」
これは貴重な手掛かりだ! そうだよ“小金沢の兄貴”っていういいヒントがあったじゃないか!
「う~ん、イベントって言っても一つじゃないみたいだし。あ、でも確か、毎年参加してる大きなイベントがあったような……いっつも夏前にやってた気がするけど」
「夏前ってことは7月よりは前だろうから、6月! もうすぐじゃないか!」
「いやっ、でもあんまり正確じゃないかも。よく覚えてないし」
小金沢は自信なさげに言ってるが、うちのクラスだけじゃなく学校中で登校拒否が起きてるんだ、このタイミングでそれはビンゴだろ! つかえていたものが取れたように、一気に頭が冴えてきた。前から引っ掛かっていたもう一つの違和感がここでようやく繋がった。
「いいぜ、小金沢。そのオタクの祭典みたいなイベント。奴らがこぞって熱中する中、なんで白銀だけは学校に来てるんだ?」
「あっ」
「直接話を聞くチャンスは一度だけ……それが今だ!」
この間、念の為と思って白銀から電話番号を聞いておいた。ナイス俺。逸る気持ちを抑えもせず、スマホを取り出し電話帳を開く。
「カナタ!! なに番号聞いてんのよ!!」
突然床をドンと叩きつけたと思ったら、一瞬でスマホが奪われていた。
タカタカタカ タンッ!
鮮やかな早打ち、その直後に「デリート!」と滅びの呪文が唱えられた。
「ああっバカっ! なに勝手に消してんだ!」
「ふんっ。兄貴が帰ったらイベントのことくらい聞いといたげるわよ」
「おいおい、兄貴が帰ってくんのって明日だろ!」
「るっさいわね!」
もはや問答無用だった。数々の難事件はこうやって生まれるのだと思わず天を仰ぎたくなった。
土曜の朝からひたすらゲームをして三時間が経った。いまだ成果なし。ただ闇雲に探ってもきりがないので、いったん休憩を挟むことにした。
小金沢は両手を後ろにつくと体を反らすように伸びをした。確かにずっと同じ姿勢だったから俺も体が痛い。
「いいなそれ」
真似して体を反らす。天井を仰ぎきって後ろのドアが視界に入った時、ちょうどドアがノックされた。
「サキー、そろそろお腹空いたでしょ? お昼持って来たわよ」
ドアノブが回るのと同時に横にいた小金沢が異様な速さで立ち上がった。
「ちょ、二階には来ないでって言ったでしょ!」
開きかけたドアを小金沢が押し返す。
「あ、熱っ!!」
「え、あ、ゴメン」
「なーんて、ウソよ」
小金沢の力が緩んだ隙をついたのか、一気にドアが開かれた。
「あらあらあら、いつもサキがお世話になってます。母です」
は? この人が母ちゃん!? 若っ! つーか、少し歳の離れた姉ちゃんだろ! いやいや、どっちにしても挨拶を返さないと。
「ど、どうもお邪魔してます。田中といいま……」
「挨拶とかいらないから!」
んなわけあるか。
「お昼、オムライスで良かったかしら? 足りなかったら言ってね」
姉ちゃ……違った、母親も全く退かない。つーか、どっちも会話する気ないだろ。
「ちょっと、いいから出てって!」
ご飯だけ奪い取ると、小金沢は早々に母親を追い出しにかかった。
「それじゃ、これからもサキのことよろし……」
バタン!
力ずくでドアを押しきると、会話は強制終了された……が、ドアの向こうから続きが聞こえてきた。
「サキー、やっぱり男の子だったのね」
「るっさい!」
小金沢はその辺にあった空のペットボトルをドアに投げつけた。そして今度はこっちを睨みつけてきた。
「なによ!」
「いや、俺、何も言ってないけど」
「ふん、そうだった!? ちょー目で何か言ってたけど!」
「つまりは何も言ってないだろ、それ」
「るっさい!」
カリカリしたまま、小金沢はオムライスとスプーンを手に取った。
「いただきます!」
はは、怒ってるクセに行儀いい。友達に自分の家族を見られるのは恥ずかしいって言うけど、あれは似てれば似てるほど嫌なんだってな。つーか、コイツの強引なとことか今の母親まんまじゃないか。
「なに人のこと見てんの、早く食べなさいよ! 時間ないんでしょ!」
「お、おうっ」
「あー、くやしっ、おいし!」
ははっ、笑っちゃいけないと思うほど、可笑しく思えてくる。
「何よ、今笑った!?」
「違うって、このオムライス旨いなって言ったんだよ」
「……そ……ありがと」
怒ったり、しおらしくなったりと忙しい奴だ。
でも、この数日でコイツは根が素直でいい奴だってのがよく分かった。いくら外見がモデルみたいに見えても、普通に年頃の高校生なんだ。
そんな小金沢と一緒にいるのが、どうやら俺は居心地いいらしい。なんだって今日で最後って時になって気付いてんだか。
「ごちそーさまでした」
「俺も、ごちそーさま」
「カナタ食べるの早っ! って……そんなことより、ねえ、私考えたんだけど。学校を休んでる誰かに直接話を聞くんじゃ駄目なの?」
何だかんだ言いながらコイツは協力的だ。今の質問にしたって、メシの間ずっと考えていてくれたのだろう。
「なあ、無断で学校休むってことは何か理由あるよな? それも同時に複数人だ。結託してる可能性も考えられる。そこを迂闊に勘ぐって、もし警戒されたら二度と話を聞けなくなるかもしれない。だから、何かを直接聞き出すチャンスは一度だけだろうって、俺は思うんだ」
「ああ、そっか」
「だろ?」
「違う違う、同意の“そっか”じゃなくて、カナタってすぐなりきるよね、って方の“そっか”」
「なんだよそれ」
何と言われようが、確かに俺はこのゲームに何かを感じたんだ。別にこだわってるわけじゃない。《Far World》がいくら面白いゲームだったとしても、それを理由に学校を休むとは思えない。実際にここ数日、自分の目で見て、手で触れた後も、その考えは変わらない。それでもどこか“違和感”だけは残っていた。
「でもさ、学校にも行かず家で毎日ゲームしてるって……うわっキモっ。考えるんじゃなかった」
まるで悪寒が走ったかのように両手で腕を抱え込んでいる。おしゃれ好きの小金沢からすれば、その対極に位置するオタクが理解できないのは無理もない。しかも自分の兄貴がそうだもんな……
って、待てよ、コイツの兄貴はオタクだ。登校拒否の奴らもオタクだ。けど、そんなこと今に始まったことじゃない。なんとなく漠然とした違和感の正体が掴めた気がした。
なんで今、“このタイミング”なのかってことだ!
「なあ小金沢! 兄貴が特にゲームに集中する時期っていつだ?」
「ええっ、何よ急に? そんなもん毎日キモいに決まって……あ、でも、イベント前とかは超最悪かも」
もの凄く嫌そうな顔をしている。ってことは違和感の正体に近付いてるってことだ。
「その『イベント』ってなんだ!? 俺がゲームした中じゃ、そんなこと一度も耳にしなかったぞ?」
これは貴重な手掛かりだ! そうだよ“小金沢の兄貴”っていういいヒントがあったじゃないか!
「う~ん、イベントって言っても一つじゃないみたいだし。あ、でも確か、毎年参加してる大きなイベントがあったような……いっつも夏前にやってた気がするけど」
「夏前ってことは7月よりは前だろうから、6月! もうすぐじゃないか!」
「いやっ、でもあんまり正確じゃないかも。よく覚えてないし」
小金沢は自信なさげに言ってるが、うちのクラスだけじゃなく学校中で登校拒否が起きてるんだ、このタイミングでそれはビンゴだろ! つかえていたものが取れたように、一気に頭が冴えてきた。前から引っ掛かっていたもう一つの違和感がここでようやく繋がった。
「いいぜ、小金沢。そのオタクの祭典みたいなイベント。奴らがこぞって熱中する中、なんで白銀だけは学校に来てるんだ?」
「あっ」
「直接話を聞くチャンスは一度だけ……それが今だ!」
この間、念の為と思って白銀から電話番号を聞いておいた。ナイス俺。逸る気持ちを抑えもせず、スマホを取り出し電話帳を開く。
「カナタ!! なに番号聞いてんのよ!!」
突然床をドンと叩きつけたと思ったら、一瞬でスマホが奪われていた。
タカタカタカ タンッ!
鮮やかな早打ち、その直後に「デリート!」と滅びの呪文が唱えられた。
「ああっバカっ! なに勝手に消してんだ!」
「ふんっ。兄貴が帰ったらイベントのことくらい聞いといたげるわよ」
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