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二章 勇者誕生
2-01 ベルベット
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やけに幅の狭い薄暗い階段を注意しながら二階につくと、右手にガラス戸の入口が見えた。ちょうど目線上に貼られた写実的というより劇画ちっくなバナナのロゴには《ベルベット》と書かれていた。その右下に小さく“ネットカフェ”と添えられてるので店名だろう。この名前、完全に趣味だな。
小金沢のアニキからネカフェで《Far World》ができるって寝耳に水をかけられて、探してみたら、前に小金沢ときたショッピングモールのすぐ近くにあったという。いやはやホント、灯台なんちゃらだ。
入口のガラス戸を開くと、目の前のカウンターから店員ぽいお姉さんが声を掛けてきた。金髪に大量のピアス、可愛いかどうか識別できない謎のメイク。勝手なイメージだけど、バンドやってそうな感じだ。
「いらっしゃっいませ~。当店のご利用は初めてですか?」
「はい」
「では簡単にご説明しますね。当店は、まずパックシステムをお選びいただきます。1時間から3、6、12時間のパックがございます。追加は30分単位となりますのでご注意ください」
意外と丁寧な応対に釣られ、相槌を打ちつつしっかり話を聞いてしまう俺。お姉さんが指で示すまま、カウンターテーブル上のサービス内容にも目を通してゆく。
ふむふむ、漫画は読み放題でDVDやゲームもある。インターネットもオンラインゲームもOKだ。へえ、ドリンクバーも付いてるのか。で、肝心のパック料金ってやつが1時間六百円、3時間で千五百円、6時間だと二千四百円、12時間だと三千六百円……? 当たり前だけど利用時間が長いほどお得になる。いかにも適当な料金設定だ。まあ、どっちみち本体を買う金がない以上仕方ない。
「じゃあ3時間で」
「はい、それでは千五百円になります」
まさか貯金を切り崩してネカフェでゲームをやることになろうとは……説明を受けながら、とほほな気分になる。つーか、身分証までいるんだな、面倒臭ぇ。
レジ近くはドリンクバーや飲食物、お泊りセットまで用意された購買エリアとなっていた。その先のスペースには大量の本棚が並び、どれもぎっしりマンガが詰まっている。ゲーム棚のコーナーに足を運ぶと《Far World》が30本ほどあった。しかもほとんど空箱だ。断トツ人気じゃないか。早めに来ておいて良かった。
そういやネカフェって始めて来たけど、なんか店内は薄暗いしシーンとしてる。たまに見かける他の利用客も妙に陰鬱な感じで、とても居心地がいいとは言えない。早いとこ個室に入ろう。
個室の中は一畳ほどで、机の上にモニターとパソコンとゲーム機が置かれ、後はソファーがあるだけだった。想像してたよりずっと狭い。
さっそく手持ちのPOSOとバイザーをカバンから取り出し……んん、バイザーも備え付けられてる! え、マジか、じゃあこれ買う必要なかったんじゃないか? なんで小金沢は黙ってたんだ? そういや兄貴がネカフェの話を出した時もバツの悪そうな顔してたよな。アイツは本当、何考えてるか分かんねーな。
まあ、過ぎたことを言っても仕方ない。気を取り直してディスクを本体にセットした。このゲームはハードとソフト、まあ機材もいるが、それさえあればずっと遊べる。変に課金メニューが出てくることもないし、そう考えれば良心的じゃないか。などと、ゲームを始める僅かな待ち時間すら、妙にソワソワしていた。
貯金を崩したのも、ネカフェに来たのも、やっと掴んだ手掛かり《ラストワン》ってのを追及する為だ。いつ以来だろう、こんなに何かに夢中になるのは。
ログインすると、街の外ではなく初めて中心街に向かった。小金沢が《ギャップフロント》に行けば一通りものが揃うって言っていたからだ。その“一通り”の中には“情報”も含まれるはずだ。
周りに人が増えるつれ、建物も高くなってきた。どれも西洋風だ。一階は様々な商店が軒を連ね、通路の両脇は、はみ出さんばかりに商品を並べる出店が続く。パッと見で、明らかに繁盛店とそうじゃない店が判る。まあ、人混みは好きじゃないし、どうせ物が一緒なら空いてる店を覗いてみるか。
「お、いらっしゃい兄ちゃん。負けとくよ」
気の良さそうな三十くらいのオッサンだ。目線を下ろすと、足元には小瓶や木の実などが並んでいた。どうやらここは道具屋らしい。一つ小瓶を手に取ってみる。
「いよっ、さすがだね兄ちゃん、お目が高い。そいつは魔法力の元となるMP回復(小)だ」
魔法力って、そういや道化師は魔法使えるのか? このレベルで未だMPが0ってことは使えないかもな。それなら体力回復アイテムのがいいか。
「いよっ、さすがだね兄ちゃん、お目が高い。そいつは体力の元となるHP回復(小)だ」
さっきと全く同じ言い回しだ。よくよくオッサンを見ると、頭にステータスアイコンが見当たらない。つまりコイツはNPCか、どうりで人気ないわけだ。ってことは、繁盛店の方はプレイヤーが経営してるのか。きっと情報もそこに集まってるに違いない。
手持ちの金は418Y(YIEN)。小金沢の兄貴に不意打ちされたせいもあって、相変わらず金がない。これじゃ道具屋くらいしか行けないが、どうせなら可愛い子がやってる店にしよう。
「いらっしゃ~い……ああっ!!」
いい感じに繁盛した道具屋の、いい感じに赤い髪をくくった娘(店主)が、人のことを指差してきた。頭の表示は“シトロエン”。てか、誰だよアンタ。
周りにいた客からも声が上がる。
「お、アンタ、この間の痴話喧嘩の人だろ?」
「本当だ。あの時のデフォ顔ピエロだ」
「今日は一人かい? あのセクシー姉ちゃんは一緒じゃないのか?」
「まさかあの一件で別れちゃったとか?」
「ええ、うそ、悲惨~」
「あっはっは、とりあえずその顔は変えた方がいいって」
「駄目だってそれ言っちゃー」
「……え? あれ、逃げた!」
「おお~い!」
俺は必死になって街の外まで逃げていた。
「あ、焦ったーっ」
ゲームとはいえ、ああも他人に言い寄られるとビビるな。一対一ならまだしも、相手が大勢だと、どうコミュニケーション取っていいか分からない。
それにしても……ミスリルとのあの口喧嘩が未だにネタにされてるとはな。とりあえずあの街、《パフューム》とは当分距離を置いとこう。
そんなわけで、街から出たまましばらくフィールドを歩くことにした。
ちなみに昨日もレベルが1上がって、タナーカーはレベル18だ。この辺りの敵はもう近付いてもこない……はずだったが、急に鳥が襲い掛かってきた。すかさずアイ・ムーブで二ヵ所にセミ・トリガーのロックオン。アイ・トリガーの誘導タイミングに合わせてコマンド連撃! ダメージ29、35と与えたが、これで倒せないってそこそこ強いじゃないか!
敵の反撃をかわして三撃目でやっと倒せたが……どういうことだ、急に敵が強くなったのか?
何かおかしいと、改めて進行方向を確認した。
「はれ? ここどこだ?」
タナーカー、プレイ五日目にて迷子になる。
小金沢のアニキからネカフェで《Far World》ができるって寝耳に水をかけられて、探してみたら、前に小金沢ときたショッピングモールのすぐ近くにあったという。いやはやホント、灯台なんちゃらだ。
入口のガラス戸を開くと、目の前のカウンターから店員ぽいお姉さんが声を掛けてきた。金髪に大量のピアス、可愛いかどうか識別できない謎のメイク。勝手なイメージだけど、バンドやってそうな感じだ。
「いらっしゃっいませ~。当店のご利用は初めてですか?」
「はい」
「では簡単にご説明しますね。当店は、まずパックシステムをお選びいただきます。1時間から3、6、12時間のパックがございます。追加は30分単位となりますのでご注意ください」
意外と丁寧な応対に釣られ、相槌を打ちつつしっかり話を聞いてしまう俺。お姉さんが指で示すまま、カウンターテーブル上のサービス内容にも目を通してゆく。
ふむふむ、漫画は読み放題でDVDやゲームもある。インターネットもオンラインゲームもOKだ。へえ、ドリンクバーも付いてるのか。で、肝心のパック料金ってやつが1時間六百円、3時間で千五百円、6時間だと二千四百円、12時間だと三千六百円……? 当たり前だけど利用時間が長いほどお得になる。いかにも適当な料金設定だ。まあ、どっちみち本体を買う金がない以上仕方ない。
「じゃあ3時間で」
「はい、それでは千五百円になります」
まさか貯金を切り崩してネカフェでゲームをやることになろうとは……説明を受けながら、とほほな気分になる。つーか、身分証までいるんだな、面倒臭ぇ。
レジ近くはドリンクバーや飲食物、お泊りセットまで用意された購買エリアとなっていた。その先のスペースには大量の本棚が並び、どれもぎっしりマンガが詰まっている。ゲーム棚のコーナーに足を運ぶと《Far World》が30本ほどあった。しかもほとんど空箱だ。断トツ人気じゃないか。早めに来ておいて良かった。
そういやネカフェって始めて来たけど、なんか店内は薄暗いしシーンとしてる。たまに見かける他の利用客も妙に陰鬱な感じで、とても居心地がいいとは言えない。早いとこ個室に入ろう。
個室の中は一畳ほどで、机の上にモニターとパソコンとゲーム機が置かれ、後はソファーがあるだけだった。想像してたよりずっと狭い。
さっそく手持ちのPOSOとバイザーをカバンから取り出し……んん、バイザーも備え付けられてる! え、マジか、じゃあこれ買う必要なかったんじゃないか? なんで小金沢は黙ってたんだ? そういや兄貴がネカフェの話を出した時もバツの悪そうな顔してたよな。アイツは本当、何考えてるか分かんねーな。
まあ、過ぎたことを言っても仕方ない。気を取り直してディスクを本体にセットした。このゲームはハードとソフト、まあ機材もいるが、それさえあればずっと遊べる。変に課金メニューが出てくることもないし、そう考えれば良心的じゃないか。などと、ゲームを始める僅かな待ち時間すら、妙にソワソワしていた。
貯金を崩したのも、ネカフェに来たのも、やっと掴んだ手掛かり《ラストワン》ってのを追及する為だ。いつ以来だろう、こんなに何かに夢中になるのは。
ログインすると、街の外ではなく初めて中心街に向かった。小金沢が《ギャップフロント》に行けば一通りものが揃うって言っていたからだ。その“一通り”の中には“情報”も含まれるはずだ。
周りに人が増えるつれ、建物も高くなってきた。どれも西洋風だ。一階は様々な商店が軒を連ね、通路の両脇は、はみ出さんばかりに商品を並べる出店が続く。パッと見で、明らかに繁盛店とそうじゃない店が判る。まあ、人混みは好きじゃないし、どうせ物が一緒なら空いてる店を覗いてみるか。
「お、いらっしゃい兄ちゃん。負けとくよ」
気の良さそうな三十くらいのオッサンだ。目線を下ろすと、足元には小瓶や木の実などが並んでいた。どうやらここは道具屋らしい。一つ小瓶を手に取ってみる。
「いよっ、さすがだね兄ちゃん、お目が高い。そいつは魔法力の元となるMP回復(小)だ」
魔法力って、そういや道化師は魔法使えるのか? このレベルで未だMPが0ってことは使えないかもな。それなら体力回復アイテムのがいいか。
「いよっ、さすがだね兄ちゃん、お目が高い。そいつは体力の元となるHP回復(小)だ」
さっきと全く同じ言い回しだ。よくよくオッサンを見ると、頭にステータスアイコンが見当たらない。つまりコイツはNPCか、どうりで人気ないわけだ。ってことは、繁盛店の方はプレイヤーが経営してるのか。きっと情報もそこに集まってるに違いない。
手持ちの金は418Y(YIEN)。小金沢の兄貴に不意打ちされたせいもあって、相変わらず金がない。これじゃ道具屋くらいしか行けないが、どうせなら可愛い子がやってる店にしよう。
「いらっしゃ~い……ああっ!!」
いい感じに繁盛した道具屋の、いい感じに赤い髪をくくった娘(店主)が、人のことを指差してきた。頭の表示は“シトロエン”。てか、誰だよアンタ。
周りにいた客からも声が上がる。
「お、アンタ、この間の痴話喧嘩の人だろ?」
「本当だ。あの時のデフォ顔ピエロだ」
「今日は一人かい? あのセクシー姉ちゃんは一緒じゃないのか?」
「まさかあの一件で別れちゃったとか?」
「ええ、うそ、悲惨~」
「あっはっは、とりあえずその顔は変えた方がいいって」
「駄目だってそれ言っちゃー」
「……え? あれ、逃げた!」
「おお~い!」
俺は必死になって街の外まで逃げていた。
「あ、焦ったーっ」
ゲームとはいえ、ああも他人に言い寄られるとビビるな。一対一ならまだしも、相手が大勢だと、どうコミュニケーション取っていいか分からない。
それにしても……ミスリルとのあの口喧嘩が未だにネタにされてるとはな。とりあえずあの街、《パフューム》とは当分距離を置いとこう。
そんなわけで、街から出たまましばらくフィールドを歩くことにした。
ちなみに昨日もレベルが1上がって、タナーカーはレベル18だ。この辺りの敵はもう近付いてもこない……はずだったが、急に鳥が襲い掛かってきた。すかさずアイ・ムーブで二ヵ所にセミ・トリガーのロックオン。アイ・トリガーの誘導タイミングに合わせてコマンド連撃! ダメージ29、35と与えたが、これで倒せないってそこそこ強いじゃないか!
敵の反撃をかわして三撃目でやっと倒せたが……どういうことだ、急に敵が強くなったのか?
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