はるかかなた

相馬正

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二章 勇者誕生

2-02 海辺のキュール

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 見たことがない場所に、これまで遭遇したことのない敵か。うん、これはもしかすると、もしかするな。
 マップを開いてみると《海辺のキュール》という新しいエリアが追加されていた。やっぱり。これはあれか、あの《シャドウ・サーカス》ってボスを倒したからだよな。なるほどー、こうやって世界が広がっていくわけか。
 再びマップを詳しく見る。どうやらこのまま進めば海まで出るようだ。その沿岸部には大きな街もある。当分、パフューム(始まりの街)には戻りたくないと思っていたので丁度いい。強い敵が出る心配はあったが、さっきの鳥くらいなら問題ない。それに何といっても海ってちょっとテンション上がるよな。

 平原から海に向かってるせいか、森や山といった遮蔽物もなく、耳を澄ますと微かに“ザザァー”という波の音が聞こえる気がする。気付けば足元にも砂地が混ざり始めていた。もうすぐ海だ!
 思わず駆け足になった。こういうのはゲームもリアルも変わらない。

 波の音になぜか「ギャアギャア」とやかましい鳴き声が混ざってきた。少し進んだところで、その声がウミネコだと分かった。よく見ればさっき襲ってきた鳥もコイツだ。それほど強くなかったとはいえ、目の前にいる大群となると話は別だ。つーか、なんで一箇所に群れてるんだ?

「うぎゃ!」

 え? 今のって、人の声じゃないか!?

「いててっ! このっ!」

 まさかあの群れの中から……誰か襲われてるのか!? おいおい、やばいだろ!
 思うより早くダッシュで駆け寄っていた。

「ウーミーネーコー、ローック!!」

 叫びながら大量にロックオンをかけていく。十五匹は自己最高記録だ。

「いっくぜー、ミャオー!!」

 意味不明な大声を上げてトリガーを発動した。どうにもミスリルみたいに粋な決め台詞が出てこないが仕方ない。個々のウミネコへ誘導して接近すると同時に、インパクトに合わせてコマンド攻撃を撃ち込んでゆく。

「ギャア! ギャア! ギャギャア!」

 今の攻撃で一気に六体もやっつけた。そのお陰で隙間から赤い服を着た人が見えた。この鳥モンは一撃で倒せるレベルじゃないはずだが、どうやらこの人がある程度ダメージを与えていたらしい。これなら何とかなりそうだ。しかも、敵に囲まれて地面にうずくまっていたので分かりにくかったが、女の子のようだ。うおお、なんか俄然やる気が湧いてきた! 鳥に突っつかれつつも彼女のすぐそばまで近付く。

「ほらアンタ、今のうちに早く逃げるんだ!」

 けれど、彼女は亀のように丸まったまま動かない。まさか、何か麻痺攻撃を喰らったのか? それとも既に体力がないとか?

「グアアー!」

 残ったウミネコ達が一斉に襲い掛かってくる。半分は俺に、もう半分は彼女に、ってことは彼女はまだ体力が残ってる。よし待ってろ! 悪いモンスターは、この正義の鉄拳で成敗してやるぜ!!

 怒涛の連撃を繰り出す。つくづくゲームってのは集中力のバフが大きい。つーか俺、結構ガードも上手くなったな。ま、回復魔法がないから必要不可欠なテクだし、当然ちゃ当然か。
 危なげなく全てのウミネコをやっつけてみせた。

 チャカチャン チャラララーン♪

「お、よしよしレベルも上がった。新しいフィールドの敵を十五匹も相手にしたんだ、そりゃ上がるか」

 ポワワワーン♪

 ん? これは何の音だ? 続けてシステムウィンドウが開いた。

『エリアクエスト“ウミネコの巣”を攻略しました』

「なんだこれ?」

「お、なんや、アンタもこのクエスト初やったんか。わけ分からんって感じやけど、達成クエやから条件さえこなせば即クリアや、ラッキーやな自分」

 クエスト? 初? 達成クエ? しかも関西弁? わけが分からないけど、とにかく無事なようで良かった。その彼女がゆっくり起き上がると、足元には大量のタマゴらしきものが見えた。
 ……って、待てぇーい! 襲われて当然じゃないか! え、なんだ、じゃあ俺ってば、我が子を必死に守る鳥達を薙ぎ払ったの!?
 一瞬、自己嫌悪に陥ったが、例えリアルで同じ場面に遭遇しても、結局は彼女を助けただろう。落ち込むのも何を悪いと感じるのも人間のエゴってことだ。そういやさっき『ウミネコの巣』がどうとかシステム音声でも言ってたな。ゲームってシュールだよなぁ。

「いやぁ、ほんま、アンタには助けられたわ。俺は《カニハル》言うねん、あんがとな“どや顔”はん」

「どっ……!? 俺の名前は《タナーカー》だっ!」

 なにが“どや顔”だ、“デフォ顔”より酷いじゃないか、この、関西っ子め! ん……? そういやこの子、「俺」って言わなかったか?

「あ、そや、アンタもタマゴ持ってき、これ調理できんねんで」

 彼女の台詞など耳に入らず、とにかく姿を再確認した。
 長い赤毛のロングに赤のトレンチコート、黒のショートパンツに赤のブーツ、赤と黒を基調にした恰好に顔は派手めのメイク。どっからどう見てもギャルだ。しかも声だってこんな可愛い……そういやこのゲーム、変声機能があるって書いてあったっけ。ってことはコイツは……ネカマ……? おおっ! 俺、ネカマさん、初めて話した!
 感心してしばらく彼女(?)に見入ってしまった。小柄で全身真っ赤で名前が《カニハル》って、まさにカニだな。そんな俺に構うことなく喋り続けるネカマさん。さすがは関西人。

「あっ! アンタ、そういやこの間、噂になってた人やろ?」

「へ? な、何のことかな?」

 まさか例の件か……いやいや、それはない。ここはもう別のフィールドなんだ。

「自分、ついこの間までポテスナおったから間違いないねん。それにそのキモ顔、一度見たら忘れへんし。せや、あのべっぴんさんは今日はどないしてん?」

 くっ、ここまで来てまたそれか。

「ちょっと失礼……って、うわっ! アンタ、レベル十代でポテスナクリアしたんか!!」

 どうやら今度は俺のステータスを見て驚いてるようだ。けどコイツだって、この間クリアしたばかりなんだ、似たようなもんだろう。お返しとばかりにカニハルのステータスアイコンを覗いてみる。

「へ? レベル44んんー!?」

 これだけレベルが高いのにポテスナ平原をクリアしたばかり? さっきのウミネコにしても変だ……
 思わずカニハルの方に向き直ってしまった。

「うっさいわ! 戦うだけがファーワールドじゃないねん!」

 いや確かに、俺も戦い以外の目的でこのゲームをしているわけだが、そうはいっても最低限の戦闘は避けられないだろ。コイツはとんだへっぽこプレイヤーだ。装備やステータスだけは立派なミスリルの方がまだマシだろ。

「ええねん! 俺は職人を目指してここまで来たんやから!」

「……職人?」

「せやっ、料理職人や!」

 料理職人って……確かにこのゲームには戦闘職以外にも生産職ってのがあって、武器や防具、アイテムなんか作り出す職人がいるっていうけど、まさか飯まで作れるのか。他にも統治者とか謎解き専門の奴とかいるらしいけど、俺は一度も会ったことがない。というか、見たこともないぞ。まだまだ知らないことの方が多いんだな。

「そうや、タナーカーはどこのギルド入ってるん?」

「どこって、特にどこにも入ってないけど。別に必要ないだろ」

「ええっ、入っとらんの? 何かと便利やでー。っていうか君、おもろいなー、フレ登録せえへん?」

「は? え、フレ登録?」

「フレンド登録やって。なんや自分、超初心者やんか。悪いこと言わんからギルド入っとき。うちは初心者も歓迎やから安心やで。一緒に料理職人なろうや」

「いや、だからそういうのは必要ないって」

「なんや、つれないなー」

 カニハルが何やらもぞもぞすると、そのすぐ後に『ポンっ』とシステムウィンドウが開いた。『カニハルさんからフレンドカードが届きました』とある。

「そろそろ俺、行かなあかんねん。せやからそれ登録しといてーな。ほんじゃ」

 そう言ってこっちに顔を向けながら手を振って走り始めた。なにげに器用だな……って、ぷぷ、まさにカニ走りだ。アイツの方こそおかしいじゃないか。
 気分が良くなってカードに触れる。『フレンドカードを受け取りますか?』と表示されたので、俺は迷わずOKを押した。


 タナーカー、プレイ五日目の成果――オンラインでフレンド(ネカマ)ができた。
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