はるかかなた

相馬正

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二章 勇者誕生

2-15 大団円

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「……やばい。寝坊した」

 昨日はかなり遅くまで小金沢とゲームしてたからな。いや、どう考えても家に帰ってからネットで夜通し調べ物したのが原因か。
 頭では後悔の軌跡を辿りつつ、急いで制服に着替える。それにしても、何を慌てたのか食パンをくわえたまま家を飛び出してしまった。これで誰かとぶつかったら完全に漫画だ。

 残念なことに何事もなく学校に着いた。それにしても、廊下を走るなって決めたアホはきっと寝坊したことがないに違いない。
 早足で教室の前まで来ると、何やらうちのクラスだけやけに騒々しかった。

「「あっとひっとり! あっとひっとり!」」

 謎の“あと一人”コール。薄っすらと嫌な予感を感じたが、かといって遅刻するわけにはいかない。
 大声援(?)の中、恐る恐る扉を開けた。

「きたー!!!」

「うおおー!」

「全員集合だー!!」

 え? え? なんだ? なんの騒ぎだ? 皆が俺に注目している。唖然としていると、三門が絡みついてきた。

「このー! 今日に限っておいしいとこ持ってきやがって!」

「あはは、三門君、それ全然おいしくないからー」

「こらっ、静かにしろ! それから、遅いぞ田中!」

 一人、スーツ姿で喝を飛ばすおっさんは担任のセロリだ。本名は千路チジオサム。ギリギリ間に合ったはずなのに、なぜか注意されてしまった。

「す、すいません」

「まーまー、せーんせっ、今日は特別ってことで」

 小金沢がセロリの横に行って助け舟を出してくれた。

「まあそうだな。俺もやっと肩の荷が下りたし、今日はHRも自由談義にしちまうか!」

「きゃあー! 先生っ、話がわっかるう!」

千路理セロリ最高ー!」

「こらっ! 誰が“セロリ”だっ!」

「「あっはっは」」

 クラス中が意味不明な盛り上がりをみせている中、どうにも俺は状況がよく呑み込めていなかった。

「ね、ねえ、倉田さん、何がどうなってるの?」

「あっはは~、見て気が付かな~い? 今日ね~、クラス全員が揃ったんだよ~! 三週間ぶりだよ、三週間ぶり~」

 そう言われてみれば確かに。宮原と白銀の周りを囲むオタ野郎どもの光景も復活している。

「どーりで……やけに人が多いと思った」

「なーに言ってんだよ! 元々この人数だろ!」

 再び三門がつっかかってきた。

「それにしても、なーんかうちのクラス、雰囲気良くなったよな!」

 そう言う三門の目は、明らかに小金沢を捉えていた。今もみんなの音頭を取っているのは小金沢だ。それもオタク連中も含めて分け隔てなく。
 なんだよ、少し前までは“お宅”なんだから引き籠ってるのが当然みたいに言ってたクセに。けど、確かに前よりクラス中がいい感じにまとまって見えた。

「そんなことよりカナタ! お前と小金沢、絶対なんかあったろ!」

「そ~だよね~、サキ変わったも~ん」

 三門と倉田さんから思わぬ攻撃が俺に向いた。

「な、何言ってんだよ! 何もねーよ!」

 そうだ、何もないのは本当だ!

「なーにが『何もねーよ』って?」

 そこへ小金沢までが隣の席に戻ってきた。その表情はいつになく明るい。

「なんだよ、随分うれしそうだな」

「そりゃーね、やっぱり人間、平穏無事が一番でしょ」

 小金沢はこっちに体を向けながら自分の机の上に座った。
 なーにが「人間」だ。ゲームの中じゃ「世界」とか言ったり、いちいち言葉のチョイススケールがデカ過ぎなんだよ。けど、皆が言ってる事は俺も最近感じていた。

「つーか、少し変わったよな、小金沢」

「ん、そう?」

 窓から心地良い風が入ってくる。小金沢は茶色の長い髪をなびかせ、それを軽く抑えるように手を添えた。

「うん……変わったかな。自分でもちょっと思う」

 少し照れたように言う。もしかするとそれは俺の影響もあるのだろうか……って、なんだよ、この最終回みたいな流れは!?
 なぜか妙な雰囲気に呑まれそうになったので、話題を変えようと思った。

「そ、それにしても、全員揃ったんなら、これで本当にあのゲームをする理由がなくなっちまったな」

 どうにもバカな話しか思いつかない。これじゃ即答で「そうだね」って一蹴されて終わりだ。けれど、予想に反して小金沢は軽く首を横に振った。

「なに言ってんの。カナタの目的は始めとは変わったって言ってたじゃない」

 そうだ、確かにいつからか俺は例のイベント《ラストワン》に出ようなんて言い出していた。昨日の夜も嫌ってほど調べていたのがそのイベントだ。そして痛感した。つい最近始めたばかりの奴がホイホイ参加できるほど甘くはないってことを。

「まあな。けど、そのイベントって、参加条件が凄ぇ難しいんだ……」

「だから何? 簡単に諦めないの! 私がついてるじゃない」

 そう力強く声を発した小金沢が、オンラインでいつも力を貸してくれたミスリルとかぶって見えた。

「さ、サンキュな。っていうか今の、ちょっとミスリルみたいだな……」

「ちょっと! ここでその名前出すの止めてよね!」

「おっと、ワリ。マジで一瞬そう見えた気がして、つい」

 なんかこれって、白銀とは逆のパターンだな。

「あははっ、でもそれを言ったらカナタはどっちも一緒な感じだよね」

「な! そりゃ顔のこと言ってんのか!!」

「ばーか、名前よ、名前」

「嘘つけ」

 俺も小金沢も顔を崩して笑った。
 こんなバカみたいなやり取りが、今は教室中を埋め尽くしている。鈍感な俺は、この時はそう信じて疑いもしなかった。
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