幼女救世主伝説-王様、私が宰相として国を守ります。そして伝説へ~

琉奈川さとし

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世界統一編

第四十話 騎士の誇り②

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 謎のテロリストに追われた私は、ジェラードと共に老人の民家に身を隠すことにした。老人は老婆を私たちに紹介した。

「私の妻です、ミサ宰相閣下の大のファンなのですよ」
「ああ、まぎれもなく、あの輝かしいミサ宰相閣下です。お会いできて光栄でございます」

「この度はお助けくださり感謝します」

 私がそう答えると、老婆は感激のあまり祈り始めた。

「なんと、ありがたきお言葉、神のもとに行っても私は誇りとして、堂々と天国で、大手を振れます。さあ、夜は冷えます、かゆを用意してきますので、お口に合うかわかりませんが、しばしお待ちを」

 そうして老婆は料理を用意しに行ったのだろう、この場から去り、老人は、部屋へと案内してくれた。

「息子の部屋です。先の戦争で民兵として参加していましてな、残念ながら、神のもとへと行ってしまいました」
「それは……何と言っていいやら……」

「なんの、王家のために死ねたと、私たちは誇りに思っております。それに、貴女様が考えてくださった、遺族年金のおかげで私は細々ですが、何不自由なく暮らしております」
「ああ、財務省が反対していたけど、民兵も貴族と同様の扱いとして、遺族年金および慰労金を王宮から支給する政策を私は決めましたね。貴方がたのお慰めに少しでもなると幸いです」

「何と嬉しいお言葉、まるであなたは天使のようだ。観てください、王家より勲章をいただきました。天国に行っても、自慢できます」

 部屋に飾ってあった、勲章を老人は見せてくれた。そこに我が王家の臣、勇敢なる戦士、ジェフリーに贈ると書いてあった。

「ご老人、貴方の息子さんはネーザンのため王家のために、戦ってくださいました、ネーザン宰相としてあつく御礼申し上げます」
「なんともったいなや……」

 そうして老人は涙を流した。一人の兵士にも人生がありドラマがあるのだ。私はそれを実感すると、少しセンチメンタルになっていた。その後老人と話していると、老婆が料理を持ってきた。

「恥ずかしい話ですが、このような料理で申し訳ありませんが、ぜひお召し上がりください」

 老婆から羊のミルクで作られた粥と果物が運ばれてきた。質素な料理だが、この時代の貧しい市民の一般料理だ。私は「いただきます」と言って口にした。

「おお見てみろ、リーズ、宰相閣下がお召し上がりになられたぞ!」
「何と嬉しや……!」

 彼らは私たちの顔色をうかがっていたので、私とジェラードは言った。

「非常においしゅうございますよ」
「ああ、料理から温かい母なる情を感じる」

「おお! おお!」
「なんとまあ、天国でジェフリーも喜んでおります……」

 と涙ながらに老婆はエプロンで顔を覆った。それを見て、老人は気を利かせたようだ。

「それでは我らはこれで、毛布をもってきてまいります。今日は狭苦しいところですが、夜が明けるまでお過ごしくださいませ」
「感謝いたします」

 そのあと老婆が毛布を持ってきてくれて、私とジェラードはそれにくるまって夜の寒さに耐えていた。やがて、私はジェラードに静かに話した。

「今日はありがとう、助けてくれて」
「お前を守ると誓っただろう?」

「うん、頼りにしている」
「ふふっ」

 少し時間が止まってしまう。私は言おうか言うまいか迷ったけど、やはり言うことにした。

「ごめんなさい、彼らのことを無駄死になんて……。私のために命懸けで戦ってくれているのに……」
「彼らの命を心配してくれたのだろう? 彼らも誇らしいさ、あのミサ宰相に惜しんでもらえるほどの命があったと」

 私は壁に飾られている、老夫婦の息子の勲章を見た、誇らしげに輝いていた。それを見ながら私は言った。

「たぶん、きっと生きてる、私はそう信じてる」
「そうか……」

 そしてまた静寂に辺りは包まれる。何と言っていいかわからなかった。ジェラードはわざとだろう、明るいトーンで語り始めた。

「彼らはなあ、私が物心ついたときからの戦友なのだ」
「えっ……」

「私はもともと次期伯爵家を継ぐ当主として育てられた。必然気の合う臣下も必要になってくる。私が子どものころに少し年上の彼らが、私に仕えるよう父上から言われて、私のもとにやってきた。

 彼らによく怒られたよ、もっと当主として、りっぱになりなさい、ケンカはやめなさい、短気は駄目です、乱暴してはいけません、女性を大切にしなさい、と。母親みたいだろ?」

「ジェラードも昔はそんなんだったんだ」

 私は思わず笑ってしまった。彼は遠い昔を見つめていたようだ。

「昔は私は悪ガキだったぞ、お前みたいに落ち着いていないし、馬鹿だった。あるときな、領民の大切な水車にいたずらしたんだ。こっぴどく怒られたよ、父上に。民にとって貴重な物を傷つけるなんて、次期領主として何と愚かかと。

 その時な、彼らは皆進んで言ったんだ、私たちもやりましたと。本当はあいつらは私を止めていたのに。そして私たち全員は父上にぶたれた。そしてみんなして泣いたんだ。その後領民のみんなに私たちは謝りに言ったんだ。

 みんな驚いていたよ、領主の子が謝るなんて、それで領民は笑いながら許してくれた、子どもがしたことだと。それにつられてみんな笑ったよ、今となってはいい思い出だ。

 怒られる時も笑う時も、戦う時も彼らと一緒だった。……オリバー、ジョージ、フレバー。名前を忘れたことなどひと時もない、それほど私たちは友だったのだ」

「ジェラード……」

 私が悲しそうな顔をしてしまったのだろう、ジェラードは真剣な瞳で私の肩をつかんだ。

「彼らがどうなるかは神が決めることだ、私が決めることではない。だがしかしな、彼らに命懸けの時間稼ぎを命じたのは、それほど、お前が大切だからだ、ネーザンにとって、この世界にとって、私にとってな……!」
「ジェラード……!」

「だからそんなに悲しそうな顔しないでくれ、あの勲章と一緒で、私は彼らを誇りに思っている。レディを守るのは騎士の務め、騎士の名誉、騎士の誇りだ。それをお前にもわかって欲しい……!」
「わかった……。彼らのために私は生きる。絶対に……!」

「そうだ……わかってくれればそれでいい、少しおしゃべりになってしまったな、男の口数は少ない方がいいと言うが、女々しいことを話してしまったな、すまないな、ミサ」
「ううん、嬉しい、私……。ジェラード……」

 私が感激して涙をためていると彼は、そっと私のおでこにキスをした。そして彼はにこやかに言った。

「さっ、もう寝ろ、明日を元気に迎えられなくてはな、それが生きる者の使命だ」
「うん……!」

 そして私たちは手をつないで肩を合わせて寝た。夢は見なかった、たぶん今が夢の時間だから、阿弥陀様は必要ないとおっしゃってるのだと思う。そして夜が明けて朝になったころだ。

 ドンドンと扉を叩く音がした。私は何事かと思って目を覚ました、ジェラードは収めた剣のつかに手をかけている。

 老夫婦がそれに応対したようだ。

「どうなされましたかな……」
「ここにミサ宰相がおわすとの情報が入った、ミサ宰相は健在か?」

 ジェラードは静かに言った。

「敵か……!?」
「違う、あの声は、ジョセフ!」

 カールトン会戦の時、私の護衛に付いた、若い、王家に忠実な優れた騎士、ジョセフの声だった。

「ジョセフ、ああ、ジャウストで私と戦ったあの騎士か」

 ジェラードも縁があったので、すぐさま納得し、ジョセフのもとに私は姿を現した。

「ジョセフ!」
「ミサ閣下! ご無事で! 陛下が心配しております。今すぐ、王宮に顔を見せに参ってください!」

「わかったわ」

 それを見てジェラードは、安心して笑った。

「どうやら私の役目はここまでのようだな」
「ジェラード、貴方には返せないほどの恩ができたね、ありがとう!」

「なに、返してもらうさ……」

 そうして私たちは笑った。とりあえずこれで私への襲撃を無事に過ごすことができた。ジェラードも無事だったし、良かったよー。安心した──!
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