幼女救世主伝説-王様、私が宰相として国を守ります。そして伝説へ~

琉奈川さとし

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世界統一編

第四十一話 国王激怒

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 私は疲れた体を引きずりながら、王宮へと向かった。私、宰相が襲われたということで王宮は大騒ぎだ。すぐに枢密院が開かれ、ウェリントンが中心になって、私とカンビアス、閣僚、そして王宮貴族が集まった。

 この国の枢密院は定員100人で、王宮貴族や、ネーザン国の権力者が集中している国王の諮問機関しもんきかんだ。国の大事なことや国王が重要なことを相談するために開かれる。緊急事態のため、50人ほどしか集まらなかったが、それほど大事が起こったので強行した。

 私、宰相が襲われるなんて国の大事、ウェリントンが開くのは当然だ。これは国政に対する重大な反逆だ。ウェリントンが国王席に座り、カンビアスが段取り、状況を説明して、私が襲撃を受けたことを告白する。

「……といった経緯でございます。いかなる陰謀かわかりませぬが、これは国政に関わるゆえ、皆様のお知恵を拝借したいと思います」

 と、私は昨晩の内容を語ると枢密院顧問官は口々に話し出す。

「まさかこのレスターで堂々と宰相を襲う輩がいるとは」
「これはネーザン王家への反逆だぞ」
「しかし、王宮騎士に敵が潜り込んでいたのだろう、王宮貴族の手引きがあったということだ」
「まさか、宮宰が……!?」
「先の鎖演説で、宰相と宮宰が不仲なのは知っていたが、そこまでするのか……?」

 議会場は混乱を極めた。この中にも陰謀に加担した者がいるかもしれない。今度は国務大臣マンチェスター卿が捜査状況を説明した。

「現在捕縛した、反逆者は、口をそろえて王家のためにやったと言っておりました。これは確信犯です。意図的に政治を混乱するつもりの襲撃でしょう。現在調査中ですが、何しろ、口が堅く、非常事態手段を行っても口を割らせようとしていますが、裏に誰が手引きしているか……なかなか……」

 その時ウェリントンが口を開いた。

「手ぬるい! 宰相が、ミサが襲われたのだぞ! 今すぐ、いかなる手段を使ってでも事の次第を明らかにさせて、この事態の詳細をつまびらかにすべきだ。そして反逆者どもに天誅を下そう!」

 だがそれに国務大臣が難色を示した。

「しかし事が事に、おいそれと、判断を急ぐのは……」
「マンチェスター卿、そなたがもしや、関わってるのではあるまいな」

「けっしてそのような……」
「ならばなぜ犯人らを始末するのを急がん? 首都で、宰相が襲われたのだぞ、もはや、王族すら馬車を走らすのも難しかろうが!」

「し、しかし……事は慎重に」

 枢密顧問官もウェリントンの強硬姿勢に戸惑っていた。

「へ、陛下、ご怒りはごもっともですが、性急に事態を収めようとするとかえって……」
「王宮貴族にも複雑な事情もございます……なにとぞ……」
「宰相にも要因がございますゆえ……」

 最後の顧問官の言葉にウェリントンが激しく怒った。

「貴様! 女子どもが道端で襲われて、しかも護衛付きだぞ! それをミサのせいにするとは何事だ!」

 会議に動揺が走る。カンビアスが驚いてウェリントンをなだめた。

「陛下、顧問官たちの申す通り、事態が複雑ゆえ、今しばらくお待ちを」
「なら、いつできる? いつ女性たちが安全に過ごせる? いつだ! 貴様の名前すら、カーテンの裏にいると、囁かれているぞ、カンビアス!」

「へ、陛下……」

 彼の怒りに対しても顧問官は必死に食い下がった。

「陛下、事は政治です。そのような感情論は」
「お怒りもごもっともですが、急に解決できるような問題では」

 ウェリントンは煮え切らない様子に椅子の手すりを激しく叩いた。

「貴様らそれでも、王家の臣か!」
「陛下……」

「何たる不始末か! 貴様ら、それでも貴族か! 騎士道はどうした、何のための貴族か! 貴様らが、豪奢ごうしゃに暮らしているのは、貴様らを太らせるためではないぞ! 弱きものを守るため、富が必要だからこそ、貴族があり、王家がある!

 飾りだけの貴族など、ヒル同然ではないか! 貴様らの腐敗を助けるために私は玉座に座っているのではないぞ!」

 その言葉に皆が黙ってしまった。今の言葉にウェリントンの国政の方針は明らかになった。実は私はこの言葉を待っていた、襲われたのを、何とか国政のために良い方にもっていこうと考えた結果、彼の威信を借りることにした。

 貴族とは何か、一回この国は考える必要がある、それを貴族たちは周知した。だから、私はひとまずの解決案と、改革の歩みを進める提案をした。

「陛下、私に妙案がございます」
「なに……?」

「顧問官たちにも一理あります、しかし、陛下がおっしゃるように、私のような女子どもが襲われるような、治安の悪化を防ぐために性急な行動が必要です。ここは、国王に忠実な軍隊をつくり、私のような、要人の護衛をさせてはどうでしょう?」

「ん? 今までの王宮騎士ではだめなのか、ミサ」
「はい、貴族にもしがらみがございます、ですから、なるべく自由で、身分に差がなく、王家に忠実な軍隊が必要です。のちに、魔族との戦いが迫る中、戦争のために、常に国王が動かせる、親衛隊などの常備軍が必要です。

 ここはぜひ、この機会に、国王陛下の威信を高めるために、親衛隊の設立の許可をお願いします」

「なるほど、私、直属の部隊か、それなら、今回のような裏切り者が混じるのもなるべく防げよう、また常に貴族の政治と離れて、軍事の専門家を作れば、魔族との戦いに有効だ。よし、許可をしよう」

 ウェリントンの言葉に、カンビアスが戸惑っていた。

「しかし、軍備は貴族の特権です、それを……」
「それが何の問題だ? やはり貴様……?」

「い、いえそのような……」

 そしてウェリントンは立ち上がり、皆に布告した。

「今をもって、ここに親衛隊設立を命じる、これは勅令ちょくれいだ!」

 その言葉に皆は頭を下げるしかなかった。

「ははっ!」

 そう、これでいい。政治と軍事の分離、近代化するためには必須な出来事だ。政治に左右される軍隊では、国を守るにはしがらみが多すぎる。そして統率者の国王の権力を高め、中央集権化するための必須条件。

 私はわざわいを転じて福と為すをこの場にきて成し遂げたのだ。

 枢密院会議が終わった後、私はウェリントンに直接、話を聞きたいと言われ、彼の国王の間に呼ばれた。

「陛下この度はご心配おかけしまして申し訳ありません……」
「ミサ!」

 ウェリントンはすぐさま私を強く抱きしめた。私はただ彼の背中に手を添えるしかできなかった。

「陛下……」
「ああ、すまない、痛かったか?」

「いえ、そうでは」
「ああ、本当に心配したぞ、ジェラードが機転を利かせて、お前を助けに行かなければ、お前の命は危なかったと聞く、あいつには本当に感謝しなければならない」

「はい、テットベリー伯の功績は非常に大きなものです、それで、その……。まだ詳細が明らかになっておりませんが、今回の件で、私を助けた騎士たちには陛下より、王家一等の勲功を与えてくだされば幸いです」

「ああ、当然だ、お前は私の半身、大切なレディだ。それに値する行為だ」
「はい、そうすれば私も慰労金の予算もつけやすくなります」

「わかった、しかしお前の口から直接事の次第を聞きたい、あの夜何があった?」

 私は昨晩の出来事を推察も含めて、ウェリントンにつまびらかに話した。

「なに? 王党派?」
「左様です、裏に誰が潜んでいるかわかりませんが、直接手を下したのは王党派の貴族と考えられます。保守派の白色テロが目的でしょう、国事を自分たちで左右させるために私が狙いやすかったのだと思います。

 私の改革は貴族たちの不満を買っているので、名目が欲しかったのでしょう。おそらく、その陰謀は末端には知らされてないかと。

 裏には上の方の権力者が潜んでいると思われます」

「それはカンビアスか?」

「……わかりません。ですが私の予測では、私とカンビアスとのいさかいを利用して、政治的に混乱させようとしているのではないのでしょうか。王宮騎士に裏切り者が潜んでいたことで、カンビアスの権威が落ちるような、強引な手段に疑問を感じざるを得ません」

「まあそれは、次第に明らかになるだろう、しかし、困ったな、このようなことが度々あっては困る、親衛隊を作るにも時間がかかるし、お前の護衛をどうすればいいか……」

「できれば政治に無関係な騎士を私にお付けください、ギルバート殿と相談をしていただけるでしょうか。それと、護衛隊長をジョセフに命じていください。

 彼は貴族出身でありながら、政治と距離がある家柄です。彼は信頼できるでしょう」

「うむ、やつの剣技は確かだし、私への信頼もあつい。きっと、この大事を成し遂げるのに、ふさわしい人材だ」

「ありがとうございます。それでは私はこれで」
「しばし、待て」

「えっ……」

 彼はそっと、召使を呼び寄せて、細く短い剣を私に渡した。この件に刻まれているのは王家の紋章である双頭の獅子……! 私は驚いていたが、ウェリントンははっきり言った。

「これはな、我が王家ウェストミンスター家の者が、生まれた際に与えられる、王家の一員の証だ。これをもっていけ。この意味を知る者は、テロリストと言えども、ひざまずいて許しを請うだろう」

「い、いけませんそれは……」

 これは私が王族に値するという意味だ。悪くいけば、私の将来に子どもとかできたら、王家の一員として、王家へと干渉する恐れがある、例えば王位を求めたりなどだ。流石に受け取るのは恐れ多かったが、彼は私が拒んでも納得しなかった。

「今回ばかりは私の頼みを聞いてもらう。何せお前の命にかかわることだ、これを私の替わりにお守りとして持って行って欲しい」

 その彼の真剣な目に私の方が折れてしまった。

「わ、わかりました。それではありがたく頂戴いたします。この名誉、子々孫々まで語り継ぎます」
「ん、そうして欲しい、あと何だが……」

「はい……?」
「すまぬが酒の相手をしてくれ、昨日は眠れなかったのだ、お前が心配でな……」

「……! わかりました、喜んでお相手いたします」

 そうして私は昼間ながら、彼と酒を飲み交わした、それで私の思い描く改革を心置きなく話した。彼はそれについて否定も肯定もしなかった。ただしかし、彼は、笑ってくれていた。何故だかわからない、ウェリントンは笑顔だった、それがうれしくて私もつられて笑ってしまっていた。

 彼が眠った後、今日は仕事を早めに片付けて、早めにジョセフの護衛隊と共に無事に屋敷に帰ったのだった。
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