幼女救世主伝説-王様、私が宰相として国を守ります。そして伝説へ~

琉奈川さとし

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魔族大戦

第八十八話 ウェストヘイム王城戦③

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 王城防衛戦の事態はどんどん悪くなっていく、ウェストヘイムの騎士たちの悲鳴のような報告が謁見室へと入ってくる。

「第一陣突破されました!」
「なんだと! なんとしても、リデールの間で食い止めろ!」
「はっ!」

 ウェストヘイム王が騎士に命じるが、その代わりのように数分後に血の付いた騎士が飛び込んでくる。

「申し訳ありません……陛下、リデールの間が突破されました……」
「くっ……、セフィ回廊で粘れ! 魔族をこれ以上城の中をうろつかせるな! あそこから、本城中心の地点までまっすぐだぞ、敵をかく乱して、地下迷路に呼び寄せろ!」
「ははっ……!」

 ミシェル妃が青ざめた顔でウェストヘイム王に言った。

「あなた……、ここはミサ殿の言う通り、城外に避難してはどうです。せめて女、子どもだけでも」
「大丈夫だ、城内には王家しか知らない、隠し通路があって、そこから城外に通じる道がある、あれを使えば、安全だ」

「そうですか……。心配で、心配で、私……」
「落ち着け、私がお前を守る」

「あなた……」

 まずいな、王は状況を冷静に見ていない、隠し通路があるのなら、すでに女、子どもは城内に魔族が入られた時点で、避難していなければならない。避難は混乱を極める。余裕があるうちに、やっておかないと、敵が間近に迫ってきている状況ではまともに避難が出来ない。

 私は冷静に忠言した。

「陛下、事は緊急事態です、ここは女性たちや、子どももいます、いざ、戦闘が間近に迫っていては残念ながら足手まといになってしまいます。今のうちに避難させてください」
「う……うーん……」

「陛下!」
「……わかった、それでは──」

 その瞬間だった。──突然慌てふためいた騎士が入ってきたのは。

「大変です陛下! 敵がセフィ回廊に現れません!」
「なにぃ!? どうなっている!」

「わかりません!」
「わかりませんですむか!」

 ──まさか!? 私はすぐさま王に手短に伝えようとした。

「陛下! 敵は先の王家のみが知る秘密通路を通って、ここへ来る恐れがあります!」
「馬鹿な! そんな!?」

「そんな馬鹿なが起こるのが戦場なんです! 我らの親衛隊が、退路を確保しています。そこから、陛下も──」

「もう、遅いわ!」

 謁見室入り口から黒髪の大男が現れ、前にいた騎士をいともたやすく斬り殺した!

「くははははっは! 馬鹿な王よ、この城にこもれば安全とも思ったか! ふははは!」
「ヴェルドー!?」

 しまった──!? こうなってしまってはもうどうしようもない! この城の内部情報を隅から隅まで知ってからの作戦行動だったんだ! くっ……。ヴェルドーが現れたことで、中にいた騎士が斬りかかるが、まるで、無人の野を行くがごとく近づいてくる!

「ふははははは、貴様ら、これが騎士だと! 笑わせるな、ただの肉の塊にすぎんわ! くっはははは!!」

「なっ、何故!? 何故、貴様がここにいる!」
「貴様がウェストヘイムの王か、むしろ、お前がなぜこんなところでぼっーと立っているか聞きたいな、まさか、この事態を予想してなかったのか、よくそれで王といえる! 随分と腑抜けたものだな!」

「うっ……!」

 私はすぐさま皆に声をかけた。

「みんな剣を納めて! こいつに何しても無駄よ、無駄な犠牲は必要ない!」
「……ふん、どうやら、この状況を冷静に判断できるのがガキ一人らしいな、実にくだらん。おい、王!」

 ヴェルドーは剣をウェストヘイム王に突き出しながら近づいてくる。

「な、なんだ……」
「どうした、震えてるのか! 一国の王たるものが、死を恐れるとはな! 貴様の部下は腑抜けだったぞ! まるでかかしのように、ぼっーと立っていたわっ! 今のお前と同じようにな!」

「……な、何が望みだ……?」
「──貴様この俺様を買収しようというのか! くはははははは! おもしろいな、よし言ってみろ!」

 ウェストヘイム王は少し前に出てヴェルドーを説得し始める。

「お前が望むならなんでもくれてやろう、欲しい爵位はないか、領地はないか、金は欲しくないか?」
「なにも」

「……で、では宰相の位をくれてやろう、もちろん娘を嫁がせてやる、どうだ! お前も王族だぞ!」
「ほう……!」

「……そ、そうか、その代わり私と、妻と娘と息子だけは助けて欲しい」

 なっ……! 何言ってるんだこの人!? ヴェルドーは大笑いを始める!

「そうか命乞いか! これが貴様らの王だ! よかったなあ、お前ら見捨てられたぞ! ふははははは!」
「頼む!」

 だが王の望みに対して空しく、ヴェルドーは剣を振り上げる!

「そんなもの! 犬の餌にでもくれてやれ!!!」
「ぐああっ──!?」

 ウェストヘイム王は真っ二つに斬られてしまう! ミシェル妃は慌てて王の亡骸にしがみつく!

「あなた!」
「ふっ、貴様が王妃か、ずいぶんと間抜け面だな」

「ひっ!?」
「何か言い残すことはあるか?」

「お、お願いです、どうか命だけは……。命だけはお助けを……!」
「そうか、命が惜しいか!」

「はい!」
「なら、いてみせろ……」

「えっ……!」
いてみろ!」

「──あっああああ! あああああ、良いいいいぃ──! はあああああーん! あっ! ああっ──!!」
「くははは! 皆! 聞いたか! これが王妃の啼き声だ、ふはははは!!!」

「で、では……!」
「つまらん! 死ねぇい!!!」

「いやああああああああ!!」

 ヴェルドーはミシェル妃の胸を突きさす! そして周りを見渡す、謁見室は張り詰めた空気のまましんとしていた。そして、奴は王女や王子に目をやった。くっ、そんなことはさせない!

 私は思わず駆け出し、ヴェルドーの前に立ちふさがる!

「待って!」
「何だガキ! およびでないぞ!」

「貴方は何がしたいの!」
「王族は殺しつくす! この世界の害だからなあ!」

「そんなことはない! 落ち着きなさい! 相手は子どもよ!」
「だからどうした! 貴様ら貴族どもは、この世に巣食う寄生虫ではないか! 平民たちが、地を這いつくばって、草根で腹を休め、まずい井戸水で渇きをうるおし、泥まみれになっている中、貴族どもは何をしてる!

 ワインを転がし、人の命をもてあそび! 己の我欲のままに! 弱者を痛みつけ、そこから絞り出した生き血で、喉をうるおし! 肉を食らい! 踊り狂う! これが真実だ! その元凶が王だ! 貴族だ!!

 王族はこの世界から抹消せねばならぬ! 存在価値などないからな!!」

「違う! 人はそれを変えることができる! ゆっくりでも、貧しく、泣いている人々だって、皆が力を合わせれば世界だって未来だって変えることができる!」
「何を世迷言を! 貴様のその綺麗な服も、その貧しい人々から吸い上げた金で着飾っているではないか!」

「……貴方には何言っても無駄ね……!」
「……気が変わった。おもしろいガキだ。いいだろう、お前から殺してやる」

「!」
「どうした、恐ろしいか? 俺様が目をつぶろうと、外をみていようと、天井を見ていようと、貴様を頭から真っ二つにしてやるぞ、くはははっは!!!」

「……」
「何だその目は、何か言いたそうだな……言ってみろ!」

「私はいろんな悪人を見てきたけど、貴方は違うわ」
「ほう……」

「貴方は邪悪よ、反吐が出るほどね──!」
「言いたいことはそれだけか!! 死ね!!!」

 ──外から轟音が聞こえ、風が謁見室を、空気を切り裂く! 何!? 何が起きたの!

「ぐああ──! くそ! なんだこれは!」

 ヴェルドーが壁に埋まり、その胸には野太い矢が奴の鎧を砕きながらも、押しつぶしている! 私は矢が飛んできた方向へ窓を越えたところを見ると、遠くの方でテットベリー軍、ジェラードが超弩弓スコーピオンを発射したあとが見えた!

 ──いまだ!

「みんな、いまのうちよ! ここから逃げるわよ! 早く!」
「はい!」

 魔族たちが壁に埋まったヴェルドーを助けようと、矢を取り除こうとしている間に私たちはジョセフを先頭にして逃げ出した!

 遠くからヴェルドーの声が聞こえる。

「お前ら、何をやっている! 俺を助けようなどつまらぬことをする暇があれば、奴らを捕らえてこい! 早く!」

 ジョセフら親衛隊が中心となって、切り抜け、何とかこの場を私たちは逃げ出した──。
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