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序章
第七話 共犯
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夜も深まり、宿の部屋に入るとメリッサはブーツを脱いでベッドに寝そべった。
「今日は疲れたー」
彼女は白いシーツの上で、うんと小さな体から大きく手足を伸ばしていく。その仕草がなんとも愛おしく感じられてしまう。
「神様でも疲れるのか?」
僕は彼女の可愛らしい動きに少し笑ってしまいながら茶化し気味に尋ねた。メリッサはそんなことは気に留めなかったようだ。
「食欲、睡眠欲、性欲などはない。ただ肉体の疲労はある。神とはいえ自然原則には逆らえない、筋肉痛にもなる。ちなみに痛覚、皮膚感などもある。それらはお前も同様だ」
なるほど道理で体が重いと思った。僕はというと床に寝そべる。今朝のことがあったのに、一緒の部屋にいてもメリッサは何もとがめない。
ほんとよくわからない娘だな、僕を危険視していないのか? まあ不思議とそんな気分にはならないが、ん、まて、性欲がない?
なら昨日彼女の裸体を見てドキドキしたのは何なんだ。彼女に聞いてみたいが、冷やかされるだけだからやめておこう。男としての尊厳がなんだか踏みにじられそうだ。
「なあ、メリッサ。本当に人を殺さないといけないのか? ただ逃げ回って生き延びることはできないのか?」
「それは困難だな。ヴァルキュリアはエインヘリャルの気配を察知することができる、また目で確認すればどの人間がエインヘリャルか理解できる。こっちがその気にならなくても相手から攻撃をしかけてくるだろうな。
前言ったとおり一万人から十二人だけが安全に生きる権利が与えられる。つまり幸せになれる。人は自分の幸せのためなら、どんな手でも使う。
ぼんやり一つの場所にとどまっていれば、相手に察知されると、まあ、相手の能力にもよるが、それだけで即死することになる」
すうっと寒気がする。こうしているだけでも、危険が迫っているというのか。死ぬ。世界から僕という存在が消えるんだ、一度死んだとはいえそれだけは絶対に避けるべきだ。
「もういいか、質問はないだろ、じゃあ夜遅いし寝る」
とまあ、不愛想にメリッサは布団をかぶると、すうすうと柔らかく寝息をたてて寝る。そのギャップのある可愛さに思わず見とれてしまう。今は完全に無防備な寝顔だ、思わずそっと僕は顔を近づけてみた。
でも、本当に愛らしいな……まるでお姫様だ。寝顔も天使だと言っても過言ではない、なんか少しドキドキしてきたぞ。ん? 待てよこれって犯罪じゃないのか? しまった! 自分の年齢忘れてた、はたから見ればキツイものがある。やばいアウトだアウト。僕はすぐさま顔を放そうとすると──
「起きているぞ」
ってもちろんメリッサは目をぱっちりと開け、真面目な顔で僕をまっすぐ見つめる。くそ、僕は驚きのあまり、ひどい顔で引きつっていただろう。
彼女はそれを見るとおちょくり笑い、目を閉じ、寝息を立てる。ははは、勝てそうにない。敵わないな、この娘には。僕は何やら不思議な充足感を得てしまい、疲れをいやすためぐっすり床で寝た。
日差しがまぶしい、目が覚めるとなんだか騒がしい。メリッサもそれに気づいて窓の外を見た。
「昨日、この地を治めるプランタージュ伯爵のご子息、モンターニュ子爵様に危害を加えるという、反逆事件が起きた。我々は決して、この反逆行為を許すわけにはいかない!」
兵士たちが集まり、その周りにこの町の人々が囲っていた。なんだ、現地語が僕にはわからないから状況がつかめない。異変を察知したメリッサが早口で言っていく。
「荷物をまとめてここを出るぞ、早く!」
緊急事態のようだ。とりあえず僕は彼女の言うことに従った。
「反逆者は一人たりとも生かしておく訳にはいかない。モンターニュ子爵様に不届きにも危害を加えたのはコイツだ!」
外に出ると一人の兵士が意味の解らぬ言葉で演説をしている、僕らはその様子を町の人々に交じって見に行く。人が集まっている中心で、すぐさま、緑の服を着た金髪の男が縄に縛られ連れてこられてみんなの前に引きずり出されていく。
「この男はこの町近郊の狩人で弓矢の達人だ。卑怯極まりないこの男はその技を持ってモンターニュ子爵のお命を狙った」
どうやら兵士が威圧しながら強い口調で語り出しているようだ。
「違う! 僕じゃない!」
緑色の服の男は叫ぶ。その男は無理矢理木の台に手足を縛られ、手枷をされて首元が宙にさらされている。おいおい、まさか……!
「よってモンターニュ子爵自らが、その裁きを下す」
色とりどりの服を着飾ったモンターニュ子爵が中央にやってきて、剣を抜き、緑の服を着た男の首をすぱりと切った。吹き出した血がどっと流れ落ち、台の下には血だまりができた。こいつ……! おそらく一般市民を!
モンターニュ子爵は嬉しそうににやつき、まるでこれが快楽だというような高笑いを始めた。
「そして、この男には共犯がいる」
「いや! やめて!」
ボロボロになった服を着て、身体中あざだらけで、よく見るとところどころ血が付いた娘が連れてこられた。
――もしかして、あの娘は昨日の町娘だ。金髪そしてあの瞳、顔、間違いない。そうだ! あの娘が危ない!
「この娘は、不届きにもモンターニュ子爵様をかどわかし、さっきの男と共謀して子爵様のお命を狙った!」
「違う! 違います!」
ブロンドの町娘は中央に連れてこられた。やばい、早く止めないと。こいつらまとめて全員……!
「よってモンターニュ子爵様が自ら裁きを下す!」
兵士は叫ぶ中、ふと町娘と僕と目が合った。
「あいつ、あいつです! 私はあいつにだまされたんです! あの外人です。すべてあいつが悪いんです! 私は何も悪くないんです!!!」
彼女は僕を指さした。人だかりが僕を残して指先の方向から逃げる。ふ、なるほどね。
「連れてこい!」
モンターニュ子爵が言うと兵士たちが僕に向かってきた。僕には人々が何を言っているのかよくわからない、でも置かれている状況は察知できた。……そうか、ならいいさ、ここは僕が何とかする、それでいい。どうか君は無事でいてくれ……。
──事態が把握できた僕は、静かにメリッサに語りかけた。
「――ヴァルキュリア、僕に力を貸せ」
僕は手にした銃を放ち、町中で轟音が鳴り響く。けたたましい銃声に町の人々はパニックになり、その場から逃げ出す。中には兵士が一人、肩を押さえておりそこからは傷痕から血が流れていた。
モンターニュ子爵は何が起こったのかわからない様子で腰が引けていた。いける……!
僕の手にあるのはH&K MP7A1、全身長340mm、重さ1.8㎏、発射速度850発/分。
有効射程200m、弾は40発装填できる。軽く使い勝手がよく、装填弾薬である4.6×30mm弾は防弾チョッキを貫通でき、後方部隊や戦闘機パイロットの自衛用火器として、各国の軍で使用されている短機関銃だ。
僕は兵士を狙ったつもりだが当たったのは一人だけ、素人の腕ではこんな物か、兵士たちは見たこともない武器に困惑する。僕は初めて手にした銃で心を躍らせながら、少し大胆に構えた。
「メリッサ、この町を出るぞ!」
「わかった!」
「待て、逃さんぞ!」
後ろを振り返ってみると、モンターニュ子爵が近くにいた町の人を剣で刺し、それを盾にして追ってくる。また数人の兵士たちも、それに倣う。
なんてやつらだ、本当に人間を物扱いじゃないか! 気に入らないな。だが、今は逃げ道を確保することが最優先だ。急いで僕はここを後にした。ところがだ、僕たちは裏路地に迷い込んでしまった。
「あっちを探せ! 俺はこっちを探す!」
何か男たちが叫んでいる。これはまずいな……!
「メリッサ、いったん分かれよう!」
僕がそう言うと、メリッサはすぐさま反論する。
「何を言う! 相手が人間相手なら私も戦える。お前は不老不死とはいえ痛覚や消化器官は一部もとのままだ。刺されれば大量出血で動けなくなる。捕まってしまえば、永遠と拷問されるだけだぞ!」
だからだよ。それは君も同じじゃないか。
「いいか、僕の言うことをよく聞いてくれ。相手は多人数だ。おそらくこの町の道々は封鎖されている所もあるだろう。逃げ道の確保が必要だ」
「メリッサ、君は僕より筋力がある。走るのも速い、武術も心得ているだろう。だから僕より索敵に秀でている。僕がここで足止めしているウチに、逃げ道を探してくれ、頼む!」
わかってる、男のわがままだって。でもさ、仕方ないだろ。これでも男なんだ、僕は。メリッサは少し不満げにしながらも僕の提案に承諾してくれた。
「わかった、言う通りにする。絶対に捕まるなよ」
そうだ、これでいい。メリッサが立ち去ろうとすると、何か僕は物さびし気な感じがしたが、少し間を置いてから彼女は振り返り、そして。
「頼りにしているぞ、佑月」
と、彼女はウインクする。そして軽やかに立ち去った。はは、本当に敵わないなこの娘には。
僕は冷静に物陰に隠れ、MP7A1のリトラクタブル・ストックを引き、肩に当て、フロントサイト、リアサイトを立ち上げる。
そして向こう側の道へと構える。静まる暗がりにこつこつと足音が響いてくる。目を凝らすと、モンターニュ子爵が二人の兵士を連れてこちらにやってきた。
僕は息を整え、死体を壁にしている兵士が近づきつつ、死体から顔が出ているのを見て、目標がリアサイトからフロントサイトに合わさったタイミングで撃つ。
銃口から火が噴き一人の兵士の頭が吹っ飛んだ。
「ひい!」
彼らにとって、謎の攻撃だ。もう一人の兵士は恐怖のあまり逃げ出していく。
「そこにいるな」
だがモンターニュ子爵の声だろう、どうやらいやらし気に静かな口調でしゃべっている。やる気か、なら……!
「昨日はよくもやってくれたな、八つ裂きにしてくれる!」
町中悲鳴が轟く中、怒声がひびく。奴は死体に身を隠して、ゆっくりゆっくりと近づいてくる。
僕は落ち着いていた。人一人殺したからなのか、エインヘリャル相手ではないから死ぬ心配がないからなのか、いや、それとも、メリッサという守るべき少女ができたからなのか、……心は静かだ。
モンターニュ子爵は足を止めた、こちらの様子をうかがっている。僕は思いきって姿を現すことにする。
「そこか……」
奴は僕に対して、間合いを考えてゆっくり近づいてくる。
「何故さっきの魔術を使わない。もしかしてネタ切れか……?」
奴の言葉に僕は後ずさりする。徐々に詰められる距離、少しずつ近づいてくる。間隔が3mほどになったとき安心したのだろう、モンターニュ子爵は一気に死体から剣を引き抜いて、僕に対して剣を振りかぶってくる――!
「死ねっ!」
──────────────────
この場に静寂が訪れた。僕は一人風に吹かれ、モンターニュ子爵は血だらけになって腹を抱えて背中を見せて倒れていた。
「――弾の残りぐらい弾倉の重さでわかるさ……」
僕は思いっきり奴の腹に銃弾をぶちかましたのだ。モンターニュ子爵は涙ぐみながら、震える手でこっちの足をつかんでくる。
「……頼む……助けてくれ……頼む……!」
どうやら命乞いだろう、表情でわかる。それに対し、僕はモンターニュ子爵の頭を踏みつけ言葉を投げつけた。
「……人は人を救わない。自分を救って欲しければな、神様にでも祈るんだな」
奴の頭に向けて銃を構える、だが。
「モンターニュ子爵様!」
兵士たちがぞろぞろとやってきた、対策として僕はセレクターをフルオートにしてそれらを迎え撃つと、みるみるうちに銃が軽くなっていく。ちいっ、瞬く間に今度は本当に弾切れになってしまった。
僕は銃を捨てて、すがるモンターニュ子爵の手を振り払いその場を後にした。どうせこの時代では医学など頼りにならない、ほっといても子爵は怪我の炎症で死ぬだろう、なら執着する理由はない。
気分を切り替えて僕は必死に町を駆け巡った。しばらく走ったところ、メリッサと合流できてどっと安心して疲れが出た。
「佑月! ケガはないか!?」
「平気だよ」
彼女は僕の姿を見渡し、無傷なことに理解すると、「こっちだ! 早く来い!」と僕の手を引っ張って走り出す。
メリッサは賢かった。兵士に会うこともなく、短時間ですんなりと町の外に出ることができた、寸時に道案内できるほど、記憶力がいいらしい。素晴らしい相棒ができて僕は誇らしかったよ。
「メリッサ、よかった! 二人とも無事で」
そう僕は言うと、彼女は可愛らしく頬を膨らます。
「不満だ。せっかく苦労して最短ルートを見つけてやったのに、礼の一つもない、つまんないなー」
なんといじらしくも僕に対して彼女はすねていた。すねて見せるだけの男じゃないのに、僕は……。なんだかすまない気持ちで僕は彼女に礼を言った。
「ありがとうメリッサ、君のおかげだ」
僕の言葉でメリッサは屈託のない笑顔で、
「こちらこそ佑月、格好良かったぞ!」
そう答えてくれる。ありがたいお言葉を頂戴したものだ。こうして、僕らは笑いながらこの町を後にする。異世界の暮らしに不安を覚えながらも、この娘とならなんとか生きていけると楽観的な気分になった。彼女がそばにいてくれるだけで落ち着く気がする。そう、メリッサがそばにいてくれるなら……。
「今日は疲れたー」
彼女は白いシーツの上で、うんと小さな体から大きく手足を伸ばしていく。その仕草がなんとも愛おしく感じられてしまう。
「神様でも疲れるのか?」
僕は彼女の可愛らしい動きに少し笑ってしまいながら茶化し気味に尋ねた。メリッサはそんなことは気に留めなかったようだ。
「食欲、睡眠欲、性欲などはない。ただ肉体の疲労はある。神とはいえ自然原則には逆らえない、筋肉痛にもなる。ちなみに痛覚、皮膚感などもある。それらはお前も同様だ」
なるほど道理で体が重いと思った。僕はというと床に寝そべる。今朝のことがあったのに、一緒の部屋にいてもメリッサは何もとがめない。
ほんとよくわからない娘だな、僕を危険視していないのか? まあ不思議とそんな気分にはならないが、ん、まて、性欲がない?
なら昨日彼女の裸体を見てドキドキしたのは何なんだ。彼女に聞いてみたいが、冷やかされるだけだからやめておこう。男としての尊厳がなんだか踏みにじられそうだ。
「なあ、メリッサ。本当に人を殺さないといけないのか? ただ逃げ回って生き延びることはできないのか?」
「それは困難だな。ヴァルキュリアはエインヘリャルの気配を察知することができる、また目で確認すればどの人間がエインヘリャルか理解できる。こっちがその気にならなくても相手から攻撃をしかけてくるだろうな。
前言ったとおり一万人から十二人だけが安全に生きる権利が与えられる。つまり幸せになれる。人は自分の幸せのためなら、どんな手でも使う。
ぼんやり一つの場所にとどまっていれば、相手に察知されると、まあ、相手の能力にもよるが、それだけで即死することになる」
すうっと寒気がする。こうしているだけでも、危険が迫っているというのか。死ぬ。世界から僕という存在が消えるんだ、一度死んだとはいえそれだけは絶対に避けるべきだ。
「もういいか、質問はないだろ、じゃあ夜遅いし寝る」
とまあ、不愛想にメリッサは布団をかぶると、すうすうと柔らかく寝息をたてて寝る。そのギャップのある可愛さに思わず見とれてしまう。今は完全に無防備な寝顔だ、思わずそっと僕は顔を近づけてみた。
でも、本当に愛らしいな……まるでお姫様だ。寝顔も天使だと言っても過言ではない、なんか少しドキドキしてきたぞ。ん? 待てよこれって犯罪じゃないのか? しまった! 自分の年齢忘れてた、はたから見ればキツイものがある。やばいアウトだアウト。僕はすぐさま顔を放そうとすると──
「起きているぞ」
ってもちろんメリッサは目をぱっちりと開け、真面目な顔で僕をまっすぐ見つめる。くそ、僕は驚きのあまり、ひどい顔で引きつっていただろう。
彼女はそれを見るとおちょくり笑い、目を閉じ、寝息を立てる。ははは、勝てそうにない。敵わないな、この娘には。僕は何やら不思議な充足感を得てしまい、疲れをいやすためぐっすり床で寝た。
日差しがまぶしい、目が覚めるとなんだか騒がしい。メリッサもそれに気づいて窓の外を見た。
「昨日、この地を治めるプランタージュ伯爵のご子息、モンターニュ子爵様に危害を加えるという、反逆事件が起きた。我々は決して、この反逆行為を許すわけにはいかない!」
兵士たちが集まり、その周りにこの町の人々が囲っていた。なんだ、現地語が僕にはわからないから状況がつかめない。異変を察知したメリッサが早口で言っていく。
「荷物をまとめてここを出るぞ、早く!」
緊急事態のようだ。とりあえず僕は彼女の言うことに従った。
「反逆者は一人たりとも生かしておく訳にはいかない。モンターニュ子爵様に不届きにも危害を加えたのはコイツだ!」
外に出ると一人の兵士が意味の解らぬ言葉で演説をしている、僕らはその様子を町の人々に交じって見に行く。人が集まっている中心で、すぐさま、緑の服を着た金髪の男が縄に縛られ連れてこられてみんなの前に引きずり出されていく。
「この男はこの町近郊の狩人で弓矢の達人だ。卑怯極まりないこの男はその技を持ってモンターニュ子爵のお命を狙った」
どうやら兵士が威圧しながら強い口調で語り出しているようだ。
「違う! 僕じゃない!」
緑色の服の男は叫ぶ。その男は無理矢理木の台に手足を縛られ、手枷をされて首元が宙にさらされている。おいおい、まさか……!
「よってモンターニュ子爵自らが、その裁きを下す」
色とりどりの服を着飾ったモンターニュ子爵が中央にやってきて、剣を抜き、緑の服を着た男の首をすぱりと切った。吹き出した血がどっと流れ落ち、台の下には血だまりができた。こいつ……! おそらく一般市民を!
モンターニュ子爵は嬉しそうににやつき、まるでこれが快楽だというような高笑いを始めた。
「そして、この男には共犯がいる」
「いや! やめて!」
ボロボロになった服を着て、身体中あざだらけで、よく見るとところどころ血が付いた娘が連れてこられた。
――もしかして、あの娘は昨日の町娘だ。金髪そしてあの瞳、顔、間違いない。そうだ! あの娘が危ない!
「この娘は、不届きにもモンターニュ子爵様をかどわかし、さっきの男と共謀して子爵様のお命を狙った!」
「違う! 違います!」
ブロンドの町娘は中央に連れてこられた。やばい、早く止めないと。こいつらまとめて全員……!
「よってモンターニュ子爵様が自ら裁きを下す!」
兵士は叫ぶ中、ふと町娘と僕と目が合った。
「あいつ、あいつです! 私はあいつにだまされたんです! あの外人です。すべてあいつが悪いんです! 私は何も悪くないんです!!!」
彼女は僕を指さした。人だかりが僕を残して指先の方向から逃げる。ふ、なるほどね。
「連れてこい!」
モンターニュ子爵が言うと兵士たちが僕に向かってきた。僕には人々が何を言っているのかよくわからない、でも置かれている状況は察知できた。……そうか、ならいいさ、ここは僕が何とかする、それでいい。どうか君は無事でいてくれ……。
──事態が把握できた僕は、静かにメリッサに語りかけた。
「――ヴァルキュリア、僕に力を貸せ」
僕は手にした銃を放ち、町中で轟音が鳴り響く。けたたましい銃声に町の人々はパニックになり、その場から逃げ出す。中には兵士が一人、肩を押さえておりそこからは傷痕から血が流れていた。
モンターニュ子爵は何が起こったのかわからない様子で腰が引けていた。いける……!
僕の手にあるのはH&K MP7A1、全身長340mm、重さ1.8㎏、発射速度850発/分。
有効射程200m、弾は40発装填できる。軽く使い勝手がよく、装填弾薬である4.6×30mm弾は防弾チョッキを貫通でき、後方部隊や戦闘機パイロットの自衛用火器として、各国の軍で使用されている短機関銃だ。
僕は兵士を狙ったつもりだが当たったのは一人だけ、素人の腕ではこんな物か、兵士たちは見たこともない武器に困惑する。僕は初めて手にした銃で心を躍らせながら、少し大胆に構えた。
「メリッサ、この町を出るぞ!」
「わかった!」
「待て、逃さんぞ!」
後ろを振り返ってみると、モンターニュ子爵が近くにいた町の人を剣で刺し、それを盾にして追ってくる。また数人の兵士たちも、それに倣う。
なんてやつらだ、本当に人間を物扱いじゃないか! 気に入らないな。だが、今は逃げ道を確保することが最優先だ。急いで僕はここを後にした。ところがだ、僕たちは裏路地に迷い込んでしまった。
「あっちを探せ! 俺はこっちを探す!」
何か男たちが叫んでいる。これはまずいな……!
「メリッサ、いったん分かれよう!」
僕がそう言うと、メリッサはすぐさま反論する。
「何を言う! 相手が人間相手なら私も戦える。お前は不老不死とはいえ痛覚や消化器官は一部もとのままだ。刺されれば大量出血で動けなくなる。捕まってしまえば、永遠と拷問されるだけだぞ!」
だからだよ。それは君も同じじゃないか。
「いいか、僕の言うことをよく聞いてくれ。相手は多人数だ。おそらくこの町の道々は封鎖されている所もあるだろう。逃げ道の確保が必要だ」
「メリッサ、君は僕より筋力がある。走るのも速い、武術も心得ているだろう。だから僕より索敵に秀でている。僕がここで足止めしているウチに、逃げ道を探してくれ、頼む!」
わかってる、男のわがままだって。でもさ、仕方ないだろ。これでも男なんだ、僕は。メリッサは少し不満げにしながらも僕の提案に承諾してくれた。
「わかった、言う通りにする。絶対に捕まるなよ」
そうだ、これでいい。メリッサが立ち去ろうとすると、何か僕は物さびし気な感じがしたが、少し間を置いてから彼女は振り返り、そして。
「頼りにしているぞ、佑月」
と、彼女はウインクする。そして軽やかに立ち去った。はは、本当に敵わないなこの娘には。
僕は冷静に物陰に隠れ、MP7A1のリトラクタブル・ストックを引き、肩に当て、フロントサイト、リアサイトを立ち上げる。
そして向こう側の道へと構える。静まる暗がりにこつこつと足音が響いてくる。目を凝らすと、モンターニュ子爵が二人の兵士を連れてこちらにやってきた。
僕は息を整え、死体を壁にしている兵士が近づきつつ、死体から顔が出ているのを見て、目標がリアサイトからフロントサイトに合わさったタイミングで撃つ。
銃口から火が噴き一人の兵士の頭が吹っ飛んだ。
「ひい!」
彼らにとって、謎の攻撃だ。もう一人の兵士は恐怖のあまり逃げ出していく。
「そこにいるな」
だがモンターニュ子爵の声だろう、どうやらいやらし気に静かな口調でしゃべっている。やる気か、なら……!
「昨日はよくもやってくれたな、八つ裂きにしてくれる!」
町中悲鳴が轟く中、怒声がひびく。奴は死体に身を隠して、ゆっくりゆっくりと近づいてくる。
僕は落ち着いていた。人一人殺したからなのか、エインヘリャル相手ではないから死ぬ心配がないからなのか、いや、それとも、メリッサという守るべき少女ができたからなのか、……心は静かだ。
モンターニュ子爵は足を止めた、こちらの様子をうかがっている。僕は思いきって姿を現すことにする。
「そこか……」
奴は僕に対して、間合いを考えてゆっくり近づいてくる。
「何故さっきの魔術を使わない。もしかしてネタ切れか……?」
奴の言葉に僕は後ずさりする。徐々に詰められる距離、少しずつ近づいてくる。間隔が3mほどになったとき安心したのだろう、モンターニュ子爵は一気に死体から剣を引き抜いて、僕に対して剣を振りかぶってくる――!
「死ねっ!」
──────────────────
この場に静寂が訪れた。僕は一人風に吹かれ、モンターニュ子爵は血だらけになって腹を抱えて背中を見せて倒れていた。
「――弾の残りぐらい弾倉の重さでわかるさ……」
僕は思いっきり奴の腹に銃弾をぶちかましたのだ。モンターニュ子爵は涙ぐみながら、震える手でこっちの足をつかんでくる。
「……頼む……助けてくれ……頼む……!」
どうやら命乞いだろう、表情でわかる。それに対し、僕はモンターニュ子爵の頭を踏みつけ言葉を投げつけた。
「……人は人を救わない。自分を救って欲しければな、神様にでも祈るんだな」
奴の頭に向けて銃を構える、だが。
「モンターニュ子爵様!」
兵士たちがぞろぞろとやってきた、対策として僕はセレクターをフルオートにしてそれらを迎え撃つと、みるみるうちに銃が軽くなっていく。ちいっ、瞬く間に今度は本当に弾切れになってしまった。
僕は銃を捨てて、すがるモンターニュ子爵の手を振り払いその場を後にした。どうせこの時代では医学など頼りにならない、ほっといても子爵は怪我の炎症で死ぬだろう、なら執着する理由はない。
気分を切り替えて僕は必死に町を駆け巡った。しばらく走ったところ、メリッサと合流できてどっと安心して疲れが出た。
「佑月! ケガはないか!?」
「平気だよ」
彼女は僕の姿を見渡し、無傷なことに理解すると、「こっちだ! 早く来い!」と僕の手を引っ張って走り出す。
メリッサは賢かった。兵士に会うこともなく、短時間ですんなりと町の外に出ることができた、寸時に道案内できるほど、記憶力がいいらしい。素晴らしい相棒ができて僕は誇らしかったよ。
「メリッサ、よかった! 二人とも無事で」
そう僕は言うと、彼女は可愛らしく頬を膨らます。
「不満だ。せっかく苦労して最短ルートを見つけてやったのに、礼の一つもない、つまんないなー」
なんといじらしくも僕に対して彼女はすねていた。すねて見せるだけの男じゃないのに、僕は……。なんだかすまない気持ちで僕は彼女に礼を言った。
「ありがとうメリッサ、君のおかげだ」
僕の言葉でメリッサは屈託のない笑顔で、
「こちらこそ佑月、格好良かったぞ!」
そう答えてくれる。ありがたいお言葉を頂戴したものだ。こうして、僕らは笑いながらこの町を後にする。異世界の暮らしに不安を覚えながらも、この娘とならなんとか生きていけると楽観的な気分になった。彼女がそばにいてくれるだけで落ち着く気がする。そう、メリッサがそばにいてくれるなら……。
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松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
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