ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

文字の大きさ
23 / 211
見えない敵

第二十三話 森は笑わない③

しおりを挟む
「佑月! よけろ!」
 
 剣戟けんげきが襲い掛かってくる! メリッサの掛け声のおかげで瞬時に身をひるがえし、僕の肉を食らおうとした刃は空をぐ。その中にメリッサが割り込んできた。

「何をやっているのかわかっているのか! 金髪のヴァルキュリア!」

 それは威風堂々で、吊された裸の少女はそこにはなく、さっきの金髪のヴァルキュリアが衣服を整え、剣を構え、僕を襲ってきのだ。

「殺させはしない。私は人間になる! 人間になるんだから」

 冷静さを失っている……! 金髪のヴァルキュリアが剣を振り上げ、二筋の剣筋が舞い交差する。メリッサの剣圧に負けて相手の女が後ろに下がると、その瞬間だった──。カチッと音がし。ビュッ! と音を立てて仕掛け弓の雨あられが敵の男のエインヘリャルを襲ってきた。

「があ!」

 矢たちは足に刺さり血で真っ赤に染まってしまいいずりながら叫ぶ、

「ばかやろおおぉぉぉっ──‼ 何をやってる! ヴァルキュリアがエインヘリャルの戦いに介入すると、俺に被害が来るのがわからないのか!?」

 それは悲鳴に近かった。彼の言葉の圧力によって冷静さを取り戻した金髪のヴァルキュリアは自分の過ちに気づいたようだ。戦闘意欲を失うとあっさりメリッサに剣を奪われた。

「ばかなやつ」

 メリッサは吐き捨てた、しかし、金髪のヴァルキュリアは焦点が定まらない目をして深く落ち込んでいた。

「だって負けたら終わり、終わりだから……」

 ふう、とりあえず危険はなかったらしい。気を取り直して僕は敵のエインヘリャルに銃を向け直した。

「で、何か言い残すことはあるか?」

「へへ……、別に何もないが、どうせならさあ、俺は死ぬなら女を抱きながら死にたかったんだ……。俺のヴァルキュリアみたいな、あほな姉ちゃんじゃなくて、あんたのヴァルキュリアみたいな良い女がいい。どうせ殺すんだろ。一回ぐらいあんたのヴァルキュリアを抱かせてくれないか、へへへ……」

 敵のエインヘリャルがそう笑うと、メリッサは髪の毛を逆立てたように眉をつり上げて激怒した。

「早くそいつを殺せ! 出ないと私が首をはねるぞ!」

 そうだな、僕はメリッサの気持ちを考えてしゃべってないで早く終わらせることにした。

「……そうもうないな、なら終わらせるぞ」
「最後に一つだけ──」

 男はゆっくりとかみしめるように僕に告げた。

「く・た・ば・れ、クソやろう──!」

 金髪の男は後ろほうの草陰に隠されていたロープを切った! 僕の足にロープがかかってしまう。しまった! ロープに引きずられ僕は上空へ逆さづりにされてしまった。

「くっ、まずい!?」

 そして僕に向かってとげ付きの巨大な丸太が襲いかかってきた──! 丸太は大きく弧を描き地面すれすれにやってくる! そのときだ――。

 ――メリッサが僕をかばうためその場所に立つ。

 ……ほんのわずかの間だったが、僕の方へ振り返り少し彼女は微笑んでみせた。

 ――丸太はメリッサの小さな体を突き上げる! とげは鋭く、彼女の柔らかい体を深々と貫き、メリッサともども丸太は、巨木にぶつかりメリッサの身体はぐちゃりと押しつぶされてしまった。

「メリッサ!」

 僕は腹から叫んだ! 急いで腰に下げていたショートソードで僕を吊していたロープを切り、地面にたたきつけられる。足がふらつくが、視線を恐る恐る彼女のほうに向けた。

 ……メリッサはぶら下がった丸太のとげに刺さり力なく人形のように動かない──。

 大地が赤く染まる。メリッサの艶やかな白い肌が赤い海に沈み、光り輝きあやしく美しくきらめく。

「ハハハ――!」

 金髪の男は高笑いを始めた。

「何がおかしい!!?」

 気がふれたかのように僕は叫んだ。

「笑うしかないだろこっちのバカ女は俺の邪魔をしやがって、お前の女は身をもって男をかばって罠を潰しやがった! くはは! 何が選定の儀式だよ、結局ヴァルキュリアの能力しだいじゃねえか、ははは──」

 選定の儀式なんのことだ? それよりもコイツ、金髪のヴァルキュリアはコイツをかばって僕に剣を振るったのがわからないのか! 確かに愚策だったがヴァルキュリアがその魂をかけてこの戦いに賭けているのがわからないのか……!

 メリッサ……。

 自分のバカさ加減に腹が立つ。コイツの話をグダグダ聞いて、何故隙を見せた? メリッサの言うとおり早く殺せばよかったのに。余裕見せてえつに入っていたのか、それとも人殺すのにためらっていたのか? バカめ、今更何を考えてるんだ、僕は……。

 ──すべて、僕の責任だ。

 メリッサを傷つけたのも僕のせいだ、自分の甘えがこの事態を呼んだんだ。

 メリッサすまない……!

「――お前が話していい言葉は一つもない。メリッサを傷つけた罪、その身であがなえ」

 静かな怒りのまま、フルオートで全弾を奴にたたき込んだ。金髪の男の体は無残にも吹き飛び、ヴァルキュリアと男だったものは光に包まれる。そしてすぐさま、僕は急いでメリッサを貫いている丸太のロープを切り、彼女を抱き起こす。

「メリッサ……! すまない僕がちゃんとしなかったせいで……」

 メリッサは光を失った目で口を動かした。その痛々しい姿に僕は思わず顔をそむけてしまった。

「甘えるな……もっと私を……大切にしろといったろ……バカ者め……!」

 メリッサ……! 僕は取り返しのつかないことをしてしまった、メリッサに何言われようとかまわない。全部僕のせいだ!

 ──僕は罰を受けるつもりで彼女の言葉を待った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

処理中です...