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見えない敵
第二十五話 二人の距離
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日は沈み辺りはすっかり夜だ。薪を囲みながら僕とメリッサは夕食を済ますと、真っ赤に燃える火をぼうっとみつめていた。
会話がない。何か言われることを覚悟しておいたが、メリッサは何も言わない、ただじっと火を見つめている。僕はたまらずに声をかけた。
「なあ、何か話さないか、明日のこととか、次の街のこととか」
対しメリッサは静かに銀色の長い髪をふさりとかき上げこちらを向く。
「──無言に耐えられれば夫婦の証だぞ」
夫婦!? 今夫婦と言ったのか? どういう意味だ、僕の告白から彼女からの答えを聞いていない。好きとは前言われた、でも、実際に僕たちがどういう関係なのか僕にはわからない。
パートナー? 恋人? いやそんな感じではない。
僕たちはどこか中学生のカップルみたいなかんじだ。むずがゆくて、こそばゆいがそばにいればホッとするそういう関係だ、別にそのままで良いと思っていた。ところがさっきの告白だ、否が応でも意識してしまう、彼女はどう思っているのだろうか……。
彼女の表情をうかがう、メリッサは何も言わない。僕は焦らされている、少女におっさんが焦らされている。いや、ここは大人の余裕を見せつけねば。
「そうだな」
僕はそれだけを答える。大人っぽいし、格好いい答え方だ、それでいて彼女の反応も期待できる、ベターな感じ、まずは攻めすぎないこと、それが大切。
「なあ……」
メリッサがつぶやいてきた、ほらきた、若いからすぐ答えを聞きたがる。じっくりじらしながら、時間をかけてたっぷりと……。
「――女の前で泣きながら愛してるとかお前、大丈夫か?」
うるせえええぇぇ──っ!!!
あれは、お前が寝てると思ってたんだよ、そしたらピンピンしていやがって、誰が恥ずかしくて人前であんなこと言えるか、コイツは! くそっ! いかん、取り乱すな、少女に何を翻弄されている、ここは大人の余裕を見せねば。
大人の余裕を……。
「男もそうしたいときもあるさ」
何か含みのある答え方だ、興味をそそるだろう。
「──私は無理」
へ? 無理って何? どういう意味だ、まさかあのことでドン引きされて……。
「がっかりだな佑月。お前がそういう奴だなんて……」
え、え、どういうこと? がっかりって……
「失望した」
うああああぁぁ──っ!!!
心の中で絶叫する僕。きっと表情は世界で一番情けない男の顔だっただろう。
「ぷっ、ははは、はははははははは!」
え? ……メリッサが笑ってる?
「なんだその顔、お前三十五のおっさんだぞ、二〇代のころから全然進歩してないな、ははは、あははは」
コイツ……僕をからかって、きっと僕は不機嫌な顔をしていたんだろう、メリッサは笑いながら言った。
「すまん、すまん、ははは。お前が可愛いやつだからつい、からかったんだよ。はははは……」
──ああ、振り回されている、でも何故か不快感がない。こういう愛嬌がある娘は良いなあ、メリッサは体をひっつけ腕を組み上目づかいで話す。
「……好きな男に愛されてると言われて嬉しくない女はいないぞ」
そう言うと鼻歌を歌いながら僕の肩にメリッサの顔を乗せる。僕の体がほのかに温かくなった、なのにどうして良いのかわからず僕はじっとしている。
静かな時間、鳥の声と森のざわめきしか聞こえない。徐々に心臓から熱くたぎった血が全身を駆け巡る。たまらず僕は、「あの……さ」とつぶやく。
「──無言に耐えられれば夫婦の証だぞ」
メリッサは静かに同じ言葉を繰り返す。何だろうこの感じ、とても心地よい、たぶん幸せってこういうことなんだなって思う。
誰かと比べられるわけでもなく、誰かに賞賛されるわけでもなく、ただ二人の温かい時間が流れていく。
……時間が静かに流れていく。彼女は僕のほうにに体重を乗せる、メリッサは僕の肩を枕に静かに目をつぶっていた。
「……眠ってるのかい?」
彼女が寝ているかどうかわからないので小さな声で僕は尋ねる。
「起きているぞ、あっまたいたずらしようとしたな、ダメなやつだな。女には気分やタイミングがあるんだぞ。それを踏みにじってイヤラシいことをしたらグーパンを覚悟しろ、こいつめ」
メリッサは優しく笑みを浮かべ嬉しそうに語る。
「そんなことをしないよ。ただ寝るんだったらこのままだとどうかなって」
僕がそう言うと、彼女は微笑みながら甘くささやく。吐息が僕の耳をくすぐった。
「じゃあ、眠らせて……」
心臓が飛び上がるかと思った。あまりにも突然な女の誘いに、僕はいろんな妄想を思い巡らせる。
僕は彼女をじっと見つめた、とてもじゃないが紳士でいられるか保証できない、それをみてかメリッサはむっすりとした顔で僕の頬を引っ張った。
「こら、えっちなことじゃないぞ」
「え、そんなこと思っていないよ」
「思ってる」
「思ってない」
「嘘」
「本当……うそ」
「バカ……」
そう言うとメリッサは僕の耳たぶを甘くかむ、温かくしめった唇が耳の敏感な部分を優しく挟む。
「これでがまんしなさい」
しっとりと諭されてしまった。いつもメリッサにリードされてしまう。メリッサは僕の顔をじっと見つめてきた。
「なあ、お休みのキス」
赤みを帯びた頬でメリッサが甘えてくる。僕はひたすら抱きしめたいのを我慢する。
「はやくー、ね?」
メリッサは子供のようにおねだりをしてきた、ホント可愛いなコイツは。僕は顔近づけメリッサの顔と数ミリのところで、
「愛してるよ、メリッサ」とささやいた。
彼女は満面の笑顔で、爽やかにそして優美に、軽やかに言う。
「私も好きだぞ、佑月──」
そうして、二人は唇をかわす。砂糖菓子よりも甘い口づけ、脳みそがとろけそうだった。僕たちは抱きしめ合いそのままパタリと横たわる。
唇は放さない、キスしたままそのまま眠りに入る。
今度は彼女のほうが眠るのが早かった。静かに寝息を立てるメリッサ、僕はその天使の姿見つめながら、眠りに入る。
「――お休み、メリッサ」
僕は彼女を抱きしめながら深い眠りへと落ちていった。
会話がない。何か言われることを覚悟しておいたが、メリッサは何も言わない、ただじっと火を見つめている。僕はたまらずに声をかけた。
「なあ、何か話さないか、明日のこととか、次の街のこととか」
対しメリッサは静かに銀色の長い髪をふさりとかき上げこちらを向く。
「──無言に耐えられれば夫婦の証だぞ」
夫婦!? 今夫婦と言ったのか? どういう意味だ、僕の告白から彼女からの答えを聞いていない。好きとは前言われた、でも、実際に僕たちがどういう関係なのか僕にはわからない。
パートナー? 恋人? いやそんな感じではない。
僕たちはどこか中学生のカップルみたいなかんじだ。むずがゆくて、こそばゆいがそばにいればホッとするそういう関係だ、別にそのままで良いと思っていた。ところがさっきの告白だ、否が応でも意識してしまう、彼女はどう思っているのだろうか……。
彼女の表情をうかがう、メリッサは何も言わない。僕は焦らされている、少女におっさんが焦らされている。いや、ここは大人の余裕を見せつけねば。
「そうだな」
僕はそれだけを答える。大人っぽいし、格好いい答え方だ、それでいて彼女の反応も期待できる、ベターな感じ、まずは攻めすぎないこと、それが大切。
「なあ……」
メリッサがつぶやいてきた、ほらきた、若いからすぐ答えを聞きたがる。じっくりじらしながら、時間をかけてたっぷりと……。
「――女の前で泣きながら愛してるとかお前、大丈夫か?」
うるせえええぇぇ──っ!!!
あれは、お前が寝てると思ってたんだよ、そしたらピンピンしていやがって、誰が恥ずかしくて人前であんなこと言えるか、コイツは! くそっ! いかん、取り乱すな、少女に何を翻弄されている、ここは大人の余裕を見せねば。
大人の余裕を……。
「男もそうしたいときもあるさ」
何か含みのある答え方だ、興味をそそるだろう。
「──私は無理」
へ? 無理って何? どういう意味だ、まさかあのことでドン引きされて……。
「がっかりだな佑月。お前がそういう奴だなんて……」
え、え、どういうこと? がっかりって……
「失望した」
うああああぁぁ──っ!!!
心の中で絶叫する僕。きっと表情は世界で一番情けない男の顔だっただろう。
「ぷっ、ははは、はははははははは!」
え? ……メリッサが笑ってる?
「なんだその顔、お前三十五のおっさんだぞ、二〇代のころから全然進歩してないな、ははは、あははは」
コイツ……僕をからかって、きっと僕は不機嫌な顔をしていたんだろう、メリッサは笑いながら言った。
「すまん、すまん、ははは。お前が可愛いやつだからつい、からかったんだよ。はははは……」
──ああ、振り回されている、でも何故か不快感がない。こういう愛嬌がある娘は良いなあ、メリッサは体をひっつけ腕を組み上目づかいで話す。
「……好きな男に愛されてると言われて嬉しくない女はいないぞ」
そう言うと鼻歌を歌いながら僕の肩にメリッサの顔を乗せる。僕の体がほのかに温かくなった、なのにどうして良いのかわからず僕はじっとしている。
静かな時間、鳥の声と森のざわめきしか聞こえない。徐々に心臓から熱くたぎった血が全身を駆け巡る。たまらず僕は、「あの……さ」とつぶやく。
「──無言に耐えられれば夫婦の証だぞ」
メリッサは静かに同じ言葉を繰り返す。何だろうこの感じ、とても心地よい、たぶん幸せってこういうことなんだなって思う。
誰かと比べられるわけでもなく、誰かに賞賛されるわけでもなく、ただ二人の温かい時間が流れていく。
……時間が静かに流れていく。彼女は僕のほうにに体重を乗せる、メリッサは僕の肩を枕に静かに目をつぶっていた。
「……眠ってるのかい?」
彼女が寝ているかどうかわからないので小さな声で僕は尋ねる。
「起きているぞ、あっまたいたずらしようとしたな、ダメなやつだな。女には気分やタイミングがあるんだぞ。それを踏みにじってイヤラシいことをしたらグーパンを覚悟しろ、こいつめ」
メリッサは優しく笑みを浮かべ嬉しそうに語る。
「そんなことをしないよ。ただ寝るんだったらこのままだとどうかなって」
僕がそう言うと、彼女は微笑みながら甘くささやく。吐息が僕の耳をくすぐった。
「じゃあ、眠らせて……」
心臓が飛び上がるかと思った。あまりにも突然な女の誘いに、僕はいろんな妄想を思い巡らせる。
僕は彼女をじっと見つめた、とてもじゃないが紳士でいられるか保証できない、それをみてかメリッサはむっすりとした顔で僕の頬を引っ張った。
「こら、えっちなことじゃないぞ」
「え、そんなこと思っていないよ」
「思ってる」
「思ってない」
「嘘」
「本当……うそ」
「バカ……」
そう言うとメリッサは僕の耳たぶを甘くかむ、温かくしめった唇が耳の敏感な部分を優しく挟む。
「これでがまんしなさい」
しっとりと諭されてしまった。いつもメリッサにリードされてしまう。メリッサは僕の顔をじっと見つめてきた。
「なあ、お休みのキス」
赤みを帯びた頬でメリッサが甘えてくる。僕はひたすら抱きしめたいのを我慢する。
「はやくー、ね?」
メリッサは子供のようにおねだりをしてきた、ホント可愛いなコイツは。僕は顔近づけメリッサの顔と数ミリのところで、
「愛してるよ、メリッサ」とささやいた。
彼女は満面の笑顔で、爽やかにそして優美に、軽やかに言う。
「私も好きだぞ、佑月──」
そうして、二人は唇をかわす。砂糖菓子よりも甘い口づけ、脳みそがとろけそうだった。僕たちは抱きしめ合いそのままパタリと横たわる。
唇は放さない、キスしたままそのまま眠りに入る。
今度は彼女のほうが眠るのが早かった。静かに寝息を立てるメリッサ、僕はその天使の姿見つめながら、眠りに入る。
「――お休み、メリッサ」
僕は彼女を抱きしめながら深い眠りへと落ちていった。
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