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ナオコの冒険
第九十六話 家出
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「ねえ、ママが家出ってどういうこと?」
子どもとしてナオコが心を痛めるのは当然だ、母親が家出なんて。しかし、何て説明すればいい、子どもに。父親役の僕が母親役のメリッサにうまく欲情しなかったって言えるのか……? いや、無理だ。恥ずかしいし、ナオコにまで侮蔑した瞳で観られたくない。
「いや、そのすれ違いがあって」
「すれ違いって?」
「いや、えっとパパが悪いんだけど、僕がママを傷つける行動をとってしまったというか、やってしまったというか、仕方ないというか」
「もう、歯切れ悪い。パパ男らしくない」
ぐっさりナイフで胸をえぐるようなことを子どもに言われてしまった。その通りなんだ。その通りだから心が痛い。
「そう、パパが男らしくないのが問題なんだ」
「ふ~ん、ママはパパのそういうとこ好きになったはずなのにね」
また、幼児らしくないことを言う。メリッサの教育の賜物だろうか。
「そうだろ、ママも大人げないだろ?」
「調子に乗らない、パパが悪いんでしょ」
子どもに叱られてしまった。穴があったら入りたい気分だが、大人とは恥を背負って生きていくものだ。いちいち気にしない。
「とにかく、ママを捜そう、ナオコ、パパについてきてくれるかい?」
「うん、もちろん!」
そうやって僕たちはメリッサを街で探し始めた。広い街だ、探すには困難が……と思ったがすぐに見つかった、メリッサは近場で川の魚にパンをやっていたのだ。相変わらず変わったお姫様だ。
「メリッサ……」
静かに声をかける僕であったが、メリッサはそれを無視して独り言のようにぶつぶつ、つぶやき始める。
「よーし、よし、お前たちは生きるので精一杯でいいな、どこぞの男は、近くに素敵な女性がいるのに何もしないような、萎えた男なのに」
「──ママ!」
ナオコがぱたぱたと足音を立ててメリッサに駆け寄っていく。メリッサは当然かの如く、子供をあやした。
「おお、ナオコ、よくここがわかったな、えらいぞ、やっぱり女の子なんだな。女の子は良いな、気が利くし、話が通じるし、心づかいができるし」
──いや、ここ近場だって、狙ってやってるだろ、メリッサ。
「あの、メリッサ……?」
「何だ唐変木」
「機嫌直してくれないか?」
「別に、怒ってないし」
「あやまるよ、ごめん」
誠心誠意拝むように手を合わせて頭を下げる。だが、今度ばかりはメリッサに通じなかった。
「何を謝っているのか私は存じません、それに謝って済む問題と済まない問題があるのでは?」
くっ、プレッシャーがすごい、この圧に負けてはこの先ラグナロクで到底生き残ってはいけない。ままに説得を続ける。
「いや、だって君の気持ちを踏みにじるようなことをしたんだ。心から悪いと思って謝らせてもらう、だから、許してください」
「──え、パパ、そんなことしたの?」
ナオコが横やりを無邪気に入れてきた。しまった、連れてきたのは失敗だったか……?
「したというか、しなかったというか」
「ナオコ見ておけ、あれが男の言い訳の仕方だ。本質をずらして、話を紛らわそうとする。まじめにとり合うと痛い目見るぞ」
「パパ最低」
なぜか四面楚歌になってしまう。女の連帯感と言うやつなのか、いつの間にかナオコがあちら側になってしまっている。
「だからさ、素直に謝っているんじゃないか、許してくれよ」
「見てみろナオコ、あれが男の居直りだ。ちっぽけなプライドにしがみついているんだろうな」
「プライドがあるなら謝らなければいいのに」
相変わらず痛いところついてくる、メリッサ、君の精神年齢はいくつなんだ。最近、年寄り染みてきているぞ。
「なら、どうしたら許してくれるのかな。このままだとナオコが可哀そうだよ。僕だけじゃあ街の人々と会話が通じないし、料理だって作れない、この娘には母親が必要だ」
「なら、ナオコが私のところに来ればいいじゃないか、ナオコ、ママと一緒に来るか? ママはいいぞ飯が上手いし、交渉力あるし、パパと違って生活力があるぞ」
その言葉に対してナオコは少し悩んでいる様子で、そして純粋そうに笑顔で答える。
「ううん、私パパと一緒にいる」
「えっ……?」
僕とメリッサの声が重なった、どういうことだ僕に味方しても何の利益がないぞ。情けないことに。
「だって、ママすぐイライラするもん。パパがいるから何とか空気が悪くならずに済むけど、私だけじゃあ、ママすぐ切れて、変なことしそう」
「な、あ、ぐっ……」
今度はメリッサのほうが打撃を受けてしまったらしい。まあ確かに、僕以外の人じゃあメリッサと側にいるのは大変そうだな。ちみちみ悪口言うし、すぐ説教するし、わりと感情の起伏が激しいし。
「そう! そうか、お前たちはあらかじめ手を組んで私を貶めようとしてるんだな、なるほど、汚い奴らだ」
「いい加減事実認めたら?」
僕が言ったのではないナオコが言ったのだ。僕が言えるはずもない、怖いから。
「ねえ、ママ、すねるのはいい加減にして、パパと仲直りしなよ。二人お似合いだよ、他の人じゃあすぐけんかになるよ。パパが一歩引いてくれるからママだって顔が立つんでしょ。ほかの男の人だとこうはならないよ」
「うるさい! うるさい! 私は今回ばかりは頭にきてるんだ! そうたやすく矛を収められるか!」
「お、おいメリッサ、どこに行こうとしてるんだ?」
「お前のいないところ」
「ちょっと待って、困るって。メリッサ機嫌直してくれ、頼むよ!」
メリッサは僕の静止の言葉も振り払って、不機嫌そうにどこかに行ってしまった。ほんと、めんどくさい……。
「ホントママも子供なんだから、やんなっちゃうよね」
ナオコは呆れてため息をついている。この娘5歳児前後だよな。ともかくことが拗(こじ)れてしまった。なんとかしないと。
「……なあ、ナオコ、パパはどうすればいいと思う?」
「ママが気が済むまで謝るしかないんじゃない? 女って一回出る所出てしまったらそういうとこあるから」
「ははっ……」
僕はやり手の軍師を手に入れたかもしれない、少なくとも女性関連には。空を見上げると、日差しが眩しく、そして問題なのがお腹が空いてしまったことだ。どうしよう、昼食……。
子どもとしてナオコが心を痛めるのは当然だ、母親が家出なんて。しかし、何て説明すればいい、子どもに。父親役の僕が母親役のメリッサにうまく欲情しなかったって言えるのか……? いや、無理だ。恥ずかしいし、ナオコにまで侮蔑した瞳で観られたくない。
「いや、そのすれ違いがあって」
「すれ違いって?」
「いや、えっとパパが悪いんだけど、僕がママを傷つける行動をとってしまったというか、やってしまったというか、仕方ないというか」
「もう、歯切れ悪い。パパ男らしくない」
ぐっさりナイフで胸をえぐるようなことを子どもに言われてしまった。その通りなんだ。その通りだから心が痛い。
「そう、パパが男らしくないのが問題なんだ」
「ふ~ん、ママはパパのそういうとこ好きになったはずなのにね」
また、幼児らしくないことを言う。メリッサの教育の賜物だろうか。
「そうだろ、ママも大人げないだろ?」
「調子に乗らない、パパが悪いんでしょ」
子どもに叱られてしまった。穴があったら入りたい気分だが、大人とは恥を背負って生きていくものだ。いちいち気にしない。
「とにかく、ママを捜そう、ナオコ、パパについてきてくれるかい?」
「うん、もちろん!」
そうやって僕たちはメリッサを街で探し始めた。広い街だ、探すには困難が……と思ったがすぐに見つかった、メリッサは近場で川の魚にパンをやっていたのだ。相変わらず変わったお姫様だ。
「メリッサ……」
静かに声をかける僕であったが、メリッサはそれを無視して独り言のようにぶつぶつ、つぶやき始める。
「よーし、よし、お前たちは生きるので精一杯でいいな、どこぞの男は、近くに素敵な女性がいるのに何もしないような、萎えた男なのに」
「──ママ!」
ナオコがぱたぱたと足音を立ててメリッサに駆け寄っていく。メリッサは当然かの如く、子供をあやした。
「おお、ナオコ、よくここがわかったな、えらいぞ、やっぱり女の子なんだな。女の子は良いな、気が利くし、話が通じるし、心づかいができるし」
──いや、ここ近場だって、狙ってやってるだろ、メリッサ。
「あの、メリッサ……?」
「何だ唐変木」
「機嫌直してくれないか?」
「別に、怒ってないし」
「あやまるよ、ごめん」
誠心誠意拝むように手を合わせて頭を下げる。だが、今度ばかりはメリッサに通じなかった。
「何を謝っているのか私は存じません、それに謝って済む問題と済まない問題があるのでは?」
くっ、プレッシャーがすごい、この圧に負けてはこの先ラグナロクで到底生き残ってはいけない。ままに説得を続ける。
「いや、だって君の気持ちを踏みにじるようなことをしたんだ。心から悪いと思って謝らせてもらう、だから、許してください」
「──え、パパ、そんなことしたの?」
ナオコが横やりを無邪気に入れてきた。しまった、連れてきたのは失敗だったか……?
「したというか、しなかったというか」
「ナオコ見ておけ、あれが男の言い訳の仕方だ。本質をずらして、話を紛らわそうとする。まじめにとり合うと痛い目見るぞ」
「パパ最低」
なぜか四面楚歌になってしまう。女の連帯感と言うやつなのか、いつの間にかナオコがあちら側になってしまっている。
「だからさ、素直に謝っているんじゃないか、許してくれよ」
「見てみろナオコ、あれが男の居直りだ。ちっぽけなプライドにしがみついているんだろうな」
「プライドがあるなら謝らなければいいのに」
相変わらず痛いところついてくる、メリッサ、君の精神年齢はいくつなんだ。最近、年寄り染みてきているぞ。
「なら、どうしたら許してくれるのかな。このままだとナオコが可哀そうだよ。僕だけじゃあ街の人々と会話が通じないし、料理だって作れない、この娘には母親が必要だ」
「なら、ナオコが私のところに来ればいいじゃないか、ナオコ、ママと一緒に来るか? ママはいいぞ飯が上手いし、交渉力あるし、パパと違って生活力があるぞ」
その言葉に対してナオコは少し悩んでいる様子で、そして純粋そうに笑顔で答える。
「ううん、私パパと一緒にいる」
「えっ……?」
僕とメリッサの声が重なった、どういうことだ僕に味方しても何の利益がないぞ。情けないことに。
「だって、ママすぐイライラするもん。パパがいるから何とか空気が悪くならずに済むけど、私だけじゃあ、ママすぐ切れて、変なことしそう」
「な、あ、ぐっ……」
今度はメリッサのほうが打撃を受けてしまったらしい。まあ確かに、僕以外の人じゃあメリッサと側にいるのは大変そうだな。ちみちみ悪口言うし、すぐ説教するし、わりと感情の起伏が激しいし。
「そう! そうか、お前たちはあらかじめ手を組んで私を貶めようとしてるんだな、なるほど、汚い奴らだ」
「いい加減事実認めたら?」
僕が言ったのではないナオコが言ったのだ。僕が言えるはずもない、怖いから。
「ねえ、ママ、すねるのはいい加減にして、パパと仲直りしなよ。二人お似合いだよ、他の人じゃあすぐけんかになるよ。パパが一歩引いてくれるからママだって顔が立つんでしょ。ほかの男の人だとこうはならないよ」
「うるさい! うるさい! 私は今回ばかりは頭にきてるんだ! そうたやすく矛を収められるか!」
「お、おいメリッサ、どこに行こうとしてるんだ?」
「お前のいないところ」
「ちょっと待って、困るって。メリッサ機嫌直してくれ、頼むよ!」
メリッサは僕の静止の言葉も振り払って、不機嫌そうにどこかに行ってしまった。ほんと、めんどくさい……。
「ホントママも子供なんだから、やんなっちゃうよね」
ナオコは呆れてため息をついている。この娘5歳児前後だよな。ともかくことが拗(こじ)れてしまった。なんとかしないと。
「……なあ、ナオコ、パパはどうすればいいと思う?」
「ママが気が済むまで謝るしかないんじゃない? 女って一回出る所出てしまったらそういうとこあるから」
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