ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

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ナオコの冒険

第九十七話 ナオコの冒険

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「パパ、お腹空いた」
「僕も空いてるんだ、少し待ってくれ」

 街の人や宿の人間と会話が通じない以上、自分で食料調達するしかない。一般市民や農村から強奪する気はない、いらぬ騒動は自分の立場を悪くする。ラグナロクは少しのミスも許さない。この世界に通じているメリッサに相談できない以上、できるだけ安全に慎重に事を運ぶ必要がある。

 腹を空かせているナオコと僕のために早いうちに郊外の森で調達しないと、こういう土地は誰かの所有物の可能性があるが街から離れるとなると、日が暮れる。ここは妥協だ、誰か街の人間と鉢合わせしたら、アドリブでどうにかするしかない。

「ナオコ、森の入り口で待っててくれ」
「どのくらい?」
「ちょっとの間だ」
「ちょっとってどのくらい?」

「う~ん2~3時間ぐらいかな」
「そんなに!? 私お腹空いた」
「我慢してくれ、いい子だから」
「……そう、わかった」

 僕はそう言ってナオコと離れて狩りに行った、鳥類か小動物でも狩れればいいが……。

────────────────────────────────────────

 ここで主人公がしばしの間変わる、中心はナオコだ。あとで聞いた話だが、どうやらナオコは僕の事を待ちきれなかったらしい。というよりも、時間がかかり過ぎると考えたのだ。なんと失礼な娘だ。

 そこで、ナオコは手っ取り早く物乞いに行った。僕と出会う前、ナオコはそうやって生きてきたのだから、この手の事は手慣れている、子どもだし、何か問題を起こしてもよほどのことがない限り刃傷沙汰にんじょうざたにならない。

 まずは露店の果物屋に行ったらしい、リリィが街を焼いた傷跡から復興し始め市にも活気があがりはじめていた。

 ナオコは籠に入ったリンゴをじっと眺める。店の主人の男は、なんだ、物乞いかと手でナオコの視線を払うが、そう簡単にあきらめたりしない。粘り強く並べてある果物を凝視していると、買い物の最中の中年の女性がナオコに気づいた。

「あらこの子」
「どうされました奥さん」

 商売となって店の主人も低姿勢ようだ。

「街を救ってくれた、男の外人の方の子どもじゃない? こういう小さい外人の子はここらでは見かけないし」
「え、そりゃまた、本当かい?」

 ナオコはもちろん会話の内容がわからなかったらしいが、とりあえず不思議そうに尋ねて来たのでうなずいたらしい。

「……わかった、お嬢ちゃん、負けたよ、リンゴの一つ二つ持って行きな」

 店の主人はそう言って籠の中からリンゴを二つナオコに手渡しした。笑顔で首を使ってうんうんとうなずいたナオコの動作は礼のつもりだろう、それも笑顔で伝えたから主人も理解できたらしい。主人も満足そうだ。

 味を占めたナオコは同じことを繰り返し、瞬く間に一日分の食事を稼いだ。子どもの笑顔は金に匹敵する。川の側の石造りの道で、適当に座って食べ始める。……なあ、どうせなら僕にも分けてくれてもいいんじゃないかい、ナオコ?

 小さい胃袋はすぐに満ちて、食べ物は余ってしまった。おいておくと腐ってしまうだろう。物欲しそうに見ていた、ぼろの服を着た子どもが羨ましそうにしていたので、その子らにナオコは分け与えた。僕の分はもちろんない、ひどくないかい?

「美味しい?」
「……」

 オレンジの堅い皮を口ではいで、身を酸っぱそうに食べている子どもたちを見てナオコは嬉しそうだった。だが、別の子どもの集団がやって来て、物乞いの仲間かなっとナオコはそれを眺めていると、どうやら違うようだ。

「おい、聞いてくれ、食べ物をいっぱいくれる大人がいるぞ」
「え、ホント?」
「ほら、お前らついてこい」

 会話の内容はよくわからないが、いきなり一目散にナオコの前から去ろうとしていたので驚いて、むしろ好奇心でナオコは付いていった。

 見るとフードをかぶった長い黒髪の男性が、子ども大人問わず、温かい肉のスープを配っているようだ。子どもたちは、喜んで恵んでもらいに行った。ナオコはお腹は空いていなかったが、温かいスープで体を温めたかったので、他の子と一緒に並んだ。

 丁度、ナオコの番が来た時だ、スープを受け取り、思わず、「ありがとう」と言ってしまったのだ。男は驚いて、「君、言葉がわかるのかい?」と答えた。

 ナオコは寒気で身が強張った、彼の言葉が理解できてしまったためだ。メリッサに何度も教えられている、言葉が通じる相手はエインヘリャルかヴァルキュリアだけだと──。

 慌てて逃げようとスープの器を手から落とすと、周りでうめきながら物乞いの人たちが倒れている。──しまった罠だ、早く逃げなければ……。

 しかし、すぐさま目の前の視界を遮られてしまった、それは美しい金髪の女性だった。

「悪い子ですね、スープをまかすなんて、本当に悪い子……の、エインヘリャルさん」

 力の限りナオコが駆け出す前に、無論子供の反応より大人のほうが早い、不条理にも黒髪の男につかまってしまった。

「こんなところでエインヘリャルの子どもが手に入るとは、今日は本当についている、……これで、かなりの実験体が手に入った……!」

 男は笑いそして無理やりナオコにスープを飲ました、ナオコの意識がもうろうとしていく。……お願い、パパ、ママ……助けて……。そう思いつつこのこの子の意識はとんで行ってしまった。

 ──その時、僕は気づかずに一匹の鳥を撃ち落として満足していたころだった。やはり僕は狩りに向いているな、はは。だが、ナオコが消えていることを理解するにはもう少し時間がかかる。時計の針は遅いようで早いのであった。
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