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ナオコの冒険
第九十五話 大人のケンカ
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ここミランディアでは穏やかな日々を過ごしていた。敵襲されることはなかったし、エインヘリャルと出会うこともなかった。移ろいゆく日々を家族で過ごせることは僕にとって、たいへん喜ばしいことだった。
日本では社会に出てからは孤独に過ごしていた。それが当然で違和感を覚えなかった以前では考えられなかったことだ。
最もうれしかったことが、ナオコの足が速いということだった。敵に襲われてもちゃんと道を覚えさせて、障害物を使って隠れたり、逃げ延びることも可能だというのは戦いにおいて非常にありがたい。
だが、ナオコの世話をし始めて、逆にメリッサのほうが、不機嫌になり始めた。また、子どもに嫉妬しているのかと、仕様がない性にどうしたものかと僕は頭を悩ませる。
そんなある夜だった。宿屋の部屋の中、相も変わらず機嫌を損ねているメリッサに不愛想に食事の世話をしてもらった後、真剣な目でこちらを見てくる。
なんだろうか、別に僕は不満がないのだがこのお姫様は非常に腹に添えかねているらしい。迂遠に僕の事をなじり始めた。
「お前はいいよな、家事もしないで、ナオコの機嫌を取って、親子の暮らしを楽しんで」
「手が必要なら言ってくれ、手伝えることは手伝うから」
「別に、手伝って欲しいわけじゃない、邪魔をされたら面倒だしな」
ちみちみと愚痴を言い始める。女性のこういう部分が苦手だ。本人はさして悪気はないのだろうが、言われるほうは針のむしろに座らされた気分で、たまったものじゃない。
「どうしたんだい? 何かあったのかい」
僕に自覚がないが彼女の機嫌を損ねることをしたのかもしれない。こういう手合いに不慣れな僕は単刀直入にたずねた。するとメリッサはしかめっ面になった。
「お前……、わざとやっていると思っていたが、天然でやっていたのか?」
「えっ……」
どうやら僕に原因があったらしい。思い当たる節がないがこの際だからちゃんとコミュニケーションを取らねばと食い下がることにした。
「僕が何かしたのかな?」
「何かしたのかな、じゃない! 何もしていないのが問題なんだ!」
「はい?」
「わからないのか! ああ、もう、この朴念仁が。お前さ、最近私に触れてないだろう!」
「あっ……」
ナオコのことで頭がいっぱいだった僕はメリッサに対する愛情表現にかけていたことに今更ながら気づく。ああ、僕というのはどこまでも情けない男なんだ、彼女一人幸せにできないなんて。そうだな、僕はそっとメリッサを抱き寄せゆっくりと唇を交わす。だが、メリッサとキスをした途端、彼女は僕を突き飛ばした。
「違う……」
「ど、どうしたんだい急に」
「お前、私の事飽きたのか?」
「そんなわけないじゃないか、何を言ってるんだ、急に」
「だって、今のキス、軽かった、挨拶のキスだった。お前、なんで心変わりしたんだ?」
「な、何を言ってるんだ僕はいつも通りだ」
「じゃあ、私の体に触れてみろ」
「あ、いや、今そういう雰囲気じゃないだろ」
「できないのか! 昔は私の事を女として扱っていたのに、今ではナオコの母親として扱ってるだろ!」
「そんなつもりじゃあ……」
「じゃあ、抱いてみろ」
「何言ってるんだ、ヴァルキュリアの掟でそれができないのが君のほうが詳しいだろ」
「最後までしなくていい、とりあえず私に対して愛情を示せ」
「愛情といっても」
その言葉を口にした瞬間、僕ははっと気づいた、あれ、そういえばここの所、彼女の事で欲情したりしていない。これは変だ、昔は隣に女の子がいるってだけで悶々としていたのに、今ではそれが当たり前になって、何も感じなくなっている。
「……わかった、その気が起こらないなら私にも考えがある」
メリッサがそうつぶやいた後、いきなり衣服を脱ぎ始めた。
「ちょ、ちょっとまって、いきなり何をしてるんだ⁉」
「いいから、こっちを見ろ!」
そう言ってメリッサの美しい裸体を僕は眺めた、本当に綺麗だ。しかし、変なことに、綺麗だと思っても、なんだか劣情を抱くことはなかった。綺麗すぎてちょっと何か僕の心にフックがかからなかった。僕の心情を察し始めてメリッサは激怒した。
「お前! 人が一生懸命誘っているのに、何もしないとはどういうことだ!」
「あ、いや、その……」
「何だはっきり言え! お前の気持ちがわからない、ちゃんと言葉にしろ!」
「あの、その、綺麗だよ、綺麗だけれども、冷静になって考えると、メリッサは実年齢は置いておいて、体は15歳ぐらいの少女だよな。その……なんだ、ちょっと幼いかなって、そう……」
「あ? 何だと貴様、喧嘩売っているのか!」
「いや、だって僕は35ぐらいだろ、もう少しこう、大人びたほうが……」
「だあああ! 貴様、ふざけるな! 結婚するとか、愛しているとかさんざん言っておいて、今更、欲情しませんだと、なめているのかお前は!」
「いや、だって、慣れてくると興奮しな……」
その瞬間、僕は腹をグーで殴られた。ぐっ……なかなか重いボディブローだ、これならヘビー級でもチャンピオンになれそうだ。
「ざっけんな! 女を侮辱するのもいい加減にしろ! 外見が幼いのは気にしてんだぞ! それをいけしゃあしゃあと、ぶっとばす!」
「まて、謝るから許してくれ。僕が悪かった、ごめん」
「謝って済む問題か────っ!!!」
そう言って僕を蹴っ飛ばした後そそくさと服を着て宿屋の部屋から立ち去ろうとする。
「ちょっと、まって、どこに行くつもりだ⁉」
「お前のいないところだ!」
「いやいや、ラグナロクはどう……」
「お前なんてケリモの糞にまみれて憤死しろ! ばか!!」
そう言ってメリッサは僕の前から立ち去ってしまった。どうしよう……。騒ぎが大きくなって隣の部屋で寝ていたナオコが目を覚ましてやってきた。
「パパ……、どうしたの? ママは?」
「捨てられた……」
「えっ?」
「パパは捨てられてしまった、どうすればいい……? ナオコ」
不思議そうに寝ぼけまなこで目を手で擦るナオコ、これ、どう収集つけよう……。ただ、ただ、情けない僕はただ立ちすくんでいた。
日本では社会に出てからは孤独に過ごしていた。それが当然で違和感を覚えなかった以前では考えられなかったことだ。
最もうれしかったことが、ナオコの足が速いということだった。敵に襲われてもちゃんと道を覚えさせて、障害物を使って隠れたり、逃げ延びることも可能だというのは戦いにおいて非常にありがたい。
だが、ナオコの世話をし始めて、逆にメリッサのほうが、不機嫌になり始めた。また、子どもに嫉妬しているのかと、仕様がない性にどうしたものかと僕は頭を悩ませる。
そんなある夜だった。宿屋の部屋の中、相も変わらず機嫌を損ねているメリッサに不愛想に食事の世話をしてもらった後、真剣な目でこちらを見てくる。
なんだろうか、別に僕は不満がないのだがこのお姫様は非常に腹に添えかねているらしい。迂遠に僕の事をなじり始めた。
「お前はいいよな、家事もしないで、ナオコの機嫌を取って、親子の暮らしを楽しんで」
「手が必要なら言ってくれ、手伝えることは手伝うから」
「別に、手伝って欲しいわけじゃない、邪魔をされたら面倒だしな」
ちみちみと愚痴を言い始める。女性のこういう部分が苦手だ。本人はさして悪気はないのだろうが、言われるほうは針のむしろに座らされた気分で、たまったものじゃない。
「どうしたんだい? 何かあったのかい」
僕に自覚がないが彼女の機嫌を損ねることをしたのかもしれない。こういう手合いに不慣れな僕は単刀直入にたずねた。するとメリッサはしかめっ面になった。
「お前……、わざとやっていると思っていたが、天然でやっていたのか?」
「えっ……」
どうやら僕に原因があったらしい。思い当たる節がないがこの際だからちゃんとコミュニケーションを取らねばと食い下がることにした。
「僕が何かしたのかな?」
「何かしたのかな、じゃない! 何もしていないのが問題なんだ!」
「はい?」
「わからないのか! ああ、もう、この朴念仁が。お前さ、最近私に触れてないだろう!」
「あっ……」
ナオコのことで頭がいっぱいだった僕はメリッサに対する愛情表現にかけていたことに今更ながら気づく。ああ、僕というのはどこまでも情けない男なんだ、彼女一人幸せにできないなんて。そうだな、僕はそっとメリッサを抱き寄せゆっくりと唇を交わす。だが、メリッサとキスをした途端、彼女は僕を突き飛ばした。
「違う……」
「ど、どうしたんだい急に」
「お前、私の事飽きたのか?」
「そんなわけないじゃないか、何を言ってるんだ、急に」
「だって、今のキス、軽かった、挨拶のキスだった。お前、なんで心変わりしたんだ?」
「な、何を言ってるんだ僕はいつも通りだ」
「じゃあ、私の体に触れてみろ」
「あ、いや、今そういう雰囲気じゃないだろ」
「できないのか! 昔は私の事を女として扱っていたのに、今ではナオコの母親として扱ってるだろ!」
「そんなつもりじゃあ……」
「じゃあ、抱いてみろ」
「何言ってるんだ、ヴァルキュリアの掟でそれができないのが君のほうが詳しいだろ」
「最後までしなくていい、とりあえず私に対して愛情を示せ」
「愛情といっても」
その言葉を口にした瞬間、僕ははっと気づいた、あれ、そういえばここの所、彼女の事で欲情したりしていない。これは変だ、昔は隣に女の子がいるってだけで悶々としていたのに、今ではそれが当たり前になって、何も感じなくなっている。
「……わかった、その気が起こらないなら私にも考えがある」
メリッサがそうつぶやいた後、いきなり衣服を脱ぎ始めた。
「ちょ、ちょっとまって、いきなり何をしてるんだ⁉」
「いいから、こっちを見ろ!」
そう言ってメリッサの美しい裸体を僕は眺めた、本当に綺麗だ。しかし、変なことに、綺麗だと思っても、なんだか劣情を抱くことはなかった。綺麗すぎてちょっと何か僕の心にフックがかからなかった。僕の心情を察し始めてメリッサは激怒した。
「お前! 人が一生懸命誘っているのに、何もしないとはどういうことだ!」
「あ、いや、その……」
「何だはっきり言え! お前の気持ちがわからない、ちゃんと言葉にしろ!」
「あの、その、綺麗だよ、綺麗だけれども、冷静になって考えると、メリッサは実年齢は置いておいて、体は15歳ぐらいの少女だよな。その……なんだ、ちょっと幼いかなって、そう……」
「あ? 何だと貴様、喧嘩売っているのか!」
「いや、だって僕は35ぐらいだろ、もう少しこう、大人びたほうが……」
「だあああ! 貴様、ふざけるな! 結婚するとか、愛しているとかさんざん言っておいて、今更、欲情しませんだと、なめているのかお前は!」
「いや、だって、慣れてくると興奮しな……」
その瞬間、僕は腹をグーで殴られた。ぐっ……なかなか重いボディブローだ、これならヘビー級でもチャンピオンになれそうだ。
「ざっけんな! 女を侮辱するのもいい加減にしろ! 外見が幼いのは気にしてんだぞ! それをいけしゃあしゃあと、ぶっとばす!」
「まて、謝るから許してくれ。僕が悪かった、ごめん」
「謝って済む問題か────っ!!!」
そう言って僕を蹴っ飛ばした後そそくさと服を着て宿屋の部屋から立ち去ろうとする。
「ちょっと、まって、どこに行くつもりだ⁉」
「お前のいないところだ!」
「いやいや、ラグナロクはどう……」
「お前なんてケリモの糞にまみれて憤死しろ! ばか!!」
そう言ってメリッサは僕の前から立ち去ってしまった。どうしよう……。騒ぎが大きくなって隣の部屋で寝ていたナオコが目を覚ましてやってきた。
「パパ……、どうしたの? ママは?」
「捨てられた……」
「えっ?」
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