ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

文字の大きさ
129 / 211
ウェディングロード

第百二十九話 闘技大会への誘い

しおりを挟む
 商人の召使いに応接間へと通される。中に入ると赤い髪の毛で髪の毛を後ろにくくり、白いサーコートをはおって鎧を着た女性が待っていた。穏やかで品のある仕草をしていて、りんとしたその美しさはエメラルドと比較してもいいだろう。

 威厳のありそうなツンとした印象を受けるが、どこか優しげでゆっくりと僕のほうに向かってくる。

「あなたが佑月様ですか?」

 言葉が通じると言うことはこの女性はヴァルキュリアかエインヘリャルだろう。メリッサとエイミアがピクリとする。ヴァルキュリアは一目見ればエインヘリャルがわかる。なら、おそらく彼女はエインヘリャルだ。

「そうですが、貴女は」

 僕は当然の疑問を尋ねた。きりりとした表情で、こちらを眺めている赤い髪の女性、彼女ははっきりと張りのある声で応えてくる。

「申し遅れました、私の名前はクラリーナ。教会団のエインヘリャルです。ご高名はかねがねうかがっております。佑月様にお会い出来て光栄です」
「それは難儀なさったでしょう。エインヘリャルはこの世界の言葉を理解出来ませんから」

 僕は丁寧に接した。敵対する様子もないから大人の対応をする。彼女の目的は何だろう。

「私は、アウティスと同じもともとこの世界の住人でエインヘリャルになった者です。もっとも私はアウティスとは違い、偶然エインヘリャルに選ばれてしまったのですが。しかしこれも神の導きです。清く正しく教会団の一員として100年ほど働いております」

 穏やかにのべる彼女の口上にエイミアが口を挟んできた。

「教会団の聖教徒騎士団副隊長のクラリーナといえば教会団で知らぬ者はいないわ」

 クラリーナはエイミアの方向を見て不思議そうに見つめる。

「貴女はアウティスのヴァルキュリアではありませんか。何故佑月様についているのです」
「残念だけど、私、アウティスとは縁を切ったつもりだから。今では佑月の仲間ね」

「……ふむ、どうやら混み合った事情の様子。私は審問官ではありませんから、教会組織を把握しているわけではありませんので、いきさつはわかりませんが、それも神の導きかと」

 まあ当たり前だがエイミアとクラリーナは面識があったようだ。忘れていたけどエイミアは教会団の一員だったからなあ。性格は清く正しくと正反対だが。知り合い同士の親しい会話に口をはさむのはいささか無粋ではあるが、用件を聞いていなかった僕は話を進めた。

「それでクラリーナ殿は僕にどのようなご用件でしょうか?」

「あなた方には闘技大会の参加権があります。ぜひとも参加願いたいと思いまして」
「闘技大会?」

 教会団が闘技大会とは珍しい組み合わせだ。どういう魂胆か。

「何故、そのような大会が開かれるのです」

 僕の疑問に少し雄々しく声を張るクラリーナだった。

「聖帝様は優れたエインヘリャルが神の教えにより、新世界の創設を担うことお望みです。今どれほどのエインヘリャルが生き残っているかご存じでしょうか?」
「存じておりません」

「およそ1000名ほどです。無論この中から十二人が選ばれることでしょう。だがしかし、その過程には町中の戦闘も多いことでしょう、その場合、民衆にも被害が及ぶ可能性が高い、現に何万人ものの巻き添えを食らっております。教会団はそれを懸念けねんしておるのです」

 その理屈は理解できるがその民衆を虐殺している張本人は教会団のエインヘリャルじゃないか、彼女はそれを知っているのか知らないのか、……多分知らないんだろうな、腹芸ができるようなタイプだとは思えない。

「……それは当然のお考えですね。エインヘリャル同士が争うのに、何も町中でやる必要はありません。いっそエインヘリャルたちを集めて闘技大会を開いて、民衆とは関係ない場所で人数を減らせば効率よくエインヘリャルがしぼられるでしょう」

 僕は嫌味を含んで言ったつもりだが、彼女はそれを理解しなかったようだ。

「流石、佑月様。お察しの通りです。この時間まで生き残ったエインヘリャルは手練ればかりのはず。それはもう見応えのある戦いになるでしょう」
「さて、大会の優勝者には何か報償があるのですか」

 彼女らの真の目的はわからない。少しでも情報を引き出さないと。

「神の選ばれた十二人になれるよう教会団を挙げて援助します。また、この世界であらゆる自由が許されます。闘技大会を勝ち進めればただ待っているだけで新世界の住人に選ばれることを確約しましょう」

 これはきな臭い話になってきた。教会団が自分の思想を信じていないエインヘリャルを援助するだろうか。クラリーナ自身はどう思っているかわからないけど、何か裏がある。

「少し仲間のあいだで相談したいのですがよろしいですか」
「どうぞ」

 僕とメリッサとエイミアが別室で相談した。メリッサは真剣な様子で言い放った。

「これは罠だ!」
「僕もそう思う」

 即座にメリッサに同意する。確実に裏がある。

「だからといって、断る理由もないのよね」

 エイミアはあごに指を当てて楽しげに笑っている。

「結局殺し合いすることに変わりないでしょう。それなら効率よく、さくっといきたいじゃない」
「しかし敵に与えられた場所で戦うのは……」

 メリッサは納得出来ない様子だ。ここは僕の意思で決まるな。さて、どうするべきか……。いや、僕の答えは決まっている。

「──闘技大会に出よう」
「佑月!」

「敵中に飛び込んでみないと、どういう事情があるかわからないだろう。やばかったら逃げる手段を考えれば良い」

 僕の言葉に、ため息をつくメリッサ。実は闘技大会と聞いて心が踊るものがある。この渇いた心に良い刺激となってくれれば良いのだが。腹の奥底では異論あるみたいだけどメリッサは「じゃあ、お前に任せる」と言ってくれた。

「よし! じゃあ闘技大会に出るって言いましょう」

 エイミアは何やら嬉しそうだ。祭り好きなのかな、まあそれっぽいけど。

 僕たちは応接間に戻った。すぐさま、座っていたクラリーナが立ち上がった。

「して、返答はいかがか?」
「僕たちは闘技大会に出させてもらう。ただし、優勝は僕たちがもらう」

 その答えにクラリーナは小躍こおどりをした様子だった。

「よくぞ言いました! それでこそ男というものです。最近の男はどうも裏があるとか、誰かが得することが許せないとグチグチグチグチと女々しい者ばかり、はらわたが煮えかえる思いです。ああ、私はその言葉を聞いて安心しました、素晴らしいことです!」

 何か余計なことを聞いた気がしたが、そっとしておこう。メリッサはそれをスルーし冷静に尋ねていった。

「それで、まだ何か伝えることは残っていないか?」

 当然の質問に姿勢を正すクラリーナ。

「──ああ、そうですね。あなた方はエインヘリャルを四人集めてください。エインヘリャル五人、ヴァルキュリア五人が同時にチーム制で戦い、トーナメント方式で勝ち抜き戦を行います」

 ──ちょっとまて、団体戦かよおいおい、そうなるとかなり事情が違ってくるぞ。メリッサはやはりかとため息をつき、エイミアは楽しそうに笑っていた。僕の表情は引きつっていただろう。

 こちらの心情とは裏腹にクラリーナは平然とさわやかな笑顔を浮かべていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

処理中です...