ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

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奇襲

第百六十一話 マハロブの日常

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 反省会の後、その日は僕たち全員リラックスして過ごし、これからのことについて僕とメリッサは話し合っていたが、訓練を徹底することで一致した。チームが機能していなかったのは経験不足と自信のなさの表れだ。

 戦い慣れていないものもいる、レイラとアデルだ。ブライアンはもともと戦闘向けの性格ではない、だがその二人は単純に戦える兵士としての訓練が必要に思えた。僕たちのできることは慣れさせることだけだが、それはメリッサに鍛えてもらおう。

 それより僕が気になるのは次の対戦相手だ、あれから何の情報も入っていない、こちらから教会団を探るか考えたが、取りあえず今日のところは休むことに専念した。

 その次の日、初戦から二日後、クラリーナが僕らの館にやってきた。見るとちょっと疲れているのか、少し元気がない、たぶん忙しいのだろう。なにしろ64チームあるのだ、当然のことだが信頼できる人材以外使者は任せられない。

 本来、彼女は聖教徒騎士団副隊長という身分だ。組織の位はよくわからないが、エイミアによるとかなりえらい手らしい。それが使者なんて駆り出されているのだ、明らかに組織が人材不足と見える。

 いろいろ彼女も走り回っているのだろう、いたわりたかったが、教会団の人間とだけあって、敵となれ合うのはどうかというのがチームのメンバーの考えで一致しているから僕は控えた。

 まあ、とりあえずクラリーナの話を聞こう。

「皆様ゆっくり休めたでしょうか、今回はこれからの日程についてご報告がございます」
「何かあったのかい?」

 僕の質問にクラリーナに少し困った様子だった。

「大変こちらの不手際で申し訳ないのですが、最初次の試合が5日後と申しましたが、あいにく64チームと試合数が多く、なかなか試合消化ができず、こちらの準備以上に日程に支障が出まして、次の対戦相手は今日の試合の午後5時ぐらいから始まる、青軍猛虎隊と鉄弓団との対戦の勝者となります。

 そしてそこから5日後つまり、前の試合から7日後に貴方がたの次の試合となりました」

 彼女の済まなさそうなその言葉にアデルが難癖をつけ始めた。

「おいおい、教会団とあろうものが、自分で決めたことすら守れないのかよ。そもそも64チームも試合するなんて無茶があったんじゃないのか」

 その言葉に少し苦虫をかみつぶしたような表情をしたクラリーナだった。

「最初の予定とは違い、時間が長引く試合も多く、消極的な戦いをするチームも多かったというのは誤算でした。この大会の趣旨のより優秀なエインヘリャルが勝ち残ることが目的であるため、試合時間に制限を付けるわけにはいかず、大会の日時がずいぶんとずれこんでしまったのです。

 命がかかっている以上それも仕方ないと思いますが、初開催ということで我々の事情もかんがみてご斟酌しんしゃくのほどをよろしくお願いいたします」

「だからさあ、チームを分けて3回ぐらいに大会を分ければよかったんじゃねえの?」

「それはできません、そうなると、大会でどういう戦い方が有利かを考えて、後の大会になればなるほどチームにとって有利になります。命がかかっている以上、最初の大会に参加を控えるチームも増えるでしょう、そうすれば大会の趣旨と離れることになります」

「それってそちら側の都合じゃん」
「ですから、我々はどのチームも平等に機会が与えられるよう運営進行を考えて……」

 これ以上は水掛け論になるので、僕は二人の討論をさえぎった。

「わかった、理解した。僕たちが相手のチームを視察することは許可してくれるのかい?」
「ええ、もちろんです。ちなみに相手の二チームもあなた方の先の試合の勝者と戦うことを告げていますので、お互い対策を練りながら戦うことになるでしょう」

「それで十分だ、ありがとうクラリーナお疲れ様」
「ありがとうございます、あなた方の幸運を祈っています。良い日々をお過ごしください」

 そう言って彼女は礼をして帰っていった。彼女も大変だ。現地語とエインヘリャル語を話せる者は教会団といえども少ないだろうから、彼女が駆り出されているのだろう。彼女を責めても仕方ないし、むしろ被害者だ。同情するよ、上からも下からも周りからも文句言われているのだろうな、可哀そうに。

 僕は食事を済ませた後、少しぶらりとマハロブを見回った、というのも偵察だ、館に籠ってばかりでは、物事を俯瞰的ふかんてきに見えない。これからの事を思案しようにも、アイディアが浮かばなければならない。ぶらつくのも必要な休暇だ。

 街は盛況で、人がごった返している、僕が闘技大会に出場していても判別などつかないだろう。外人の僕でも誰にも注目されることはなかった。それでごく自然に僕は街を見回っていた。非常に建物が綺麗だ。

 ヨーロッパゴシック調というか、ローマ風というか、とにかくアーチ形のしっかりとして、美しい建物に技術の高さを感じた。また、威厳というか、聖都にふさわしい、厳かさや気品さも感じる。率直に言って雰囲気があっていい街だ。

 コンクリートの美術はビルを建てるだけが能ではない、作り手の美的センスが問われる。こういうアーティスティックな街づくりは日本では見られないものだ。

 僕が周りをきょろきょろ眺めながら歩いていると突然誰かに抱き着かれた。しまったと僕は一瞬感じた。もし敵だったら今刺されていて当然だ。しかし気配も音も何もしなかった。暗殺能力特化のエインヘリャルか? とにかく油断していたことを深く恥じ入った。

 そして抱き着いた人の一言が僕はその行動を理解した。

「だ~れだ?」
「ララァだろ?」

「まあ! 一瞬で見破るとはさすがわたくしとご主人様は赤い糸で結ばれているだけありますね、やはりこれが愛なのですね!」

 いや抱き着かれたとき胸の柔らかい部分の感触があまりにもささやかだったからだ。気配がまったくしなかったのも当然だ。彼女の能力と素質は暗殺向けだな、恐ろしい娘だ。

「何か用かい?」
「まあ! ご主人様の大会での活躍に興奮しながらも、ロマンティックな出会いのために我慢してタイミング見計らっていたのに、その乙女心を察してくださらないとは、ひどいですわ! でもそこが私の心をかき乱し更なる愛へと育むのですね!」

 つまり用はないということか、この娘が普段何をしているのか気になったが、創造神に仕えている以上口を割らないだろう。拷問しても、喜びそうだし、厄介な娘だ。そもそも彼女の時間変革能力にそんなものは通じないが。

「君は……、この世界での言葉が通じるのかい?」

「あら、まあ、エインヘリャルが現地語を話せるわけがないじゃないですか、私この世界の産まれじゃないんですよ、と、言いたいところですが、神と契約して、神族の一員となった以上は、あらゆる世界の言語の壁を乗り越えられますから、ええ通じます、快適ですよ」

「君はこの街に詳しいようだし、良かったら案内してくれないか、どうも土地勘がないのは色々と面倒だ」

「まあ、まあ! デートのお誘いですか! もちろんですとも、ゆりかごから、ベッドの中までお供いたしますわ!」

 ……結論から言うと、彼女に案内を頼んだのは失敗だった。少し歩いただけで、歴史がどうのこうの、建築家がどうのこうの、街の人の習慣やら植物の話やらで、全く街の中を進めなかったし、話が長い、さえぎっても、ごまかされて自分の話ばかりする。

 女の子同士なら楽しくおしゃべりしながらデートって感じだけど、如何せん、僕は男だ、だんだんとイライラしてきた。しかし僕は大人だ、自分が頼んだのだ、冷静になってお腹が空いたし、ランチを楽しめる店を紹介してくれないかと頼むと彼女は喜んだ。

「ええもちろんですわ、殿方のお好みの店ってどこかしら、ああ、あそこがいいわ」

 と言って黙って前を行き、案内してくれた。食べ物のことになると妄想を膨らませているのだろう、おしゃべりな彼女は消え、オリジナルだろう歌を歌いながら可愛らしくこちらをチラチラ見ながら、笑顔を振りまいてくれた。

 ああ、こういうところが、リリィが好きだったんだな、とても女性らしく、魅力的だ。上手く付き合い方がわかれば素敵なパートナーになるな、彼女は。いかんいかん、僕は妻子のある身、他の女にうつつを抜かしてはメリッサとナオコに悪い。

 店につくと何か騒がしくなっていた、この時代ウェイトレスなどが案内してくれるわけではないので勝手に席に座るとどうやら隣の席で女性が、店の給仕きゅうじに文句を言っているようだ。

 クレーマーかと話に聞き耳を立ててみると、どうやら味付けでもめているらしい、その文句を言っている女性は甲高い声で怒鳴っていた。

「だから、何で料理をこんなに辛くするんですか! 辛いのは嫌いだと最初から私は言ったはずです!」
「いえ、そのですね、調理を担当したものは、これくらいが丁度いいと……」

「どこが丁度いいんですか! 辛いのは悪です、甘いものが正義です! 金は倍払いますから作り直してください、早く!」

 その瞬間ちらりとその女性を見ると目があってしまった。あれ、この姿、顔は……。

「クラリーナじゃないか!」
「あら、佑月さん⁉」

 たまたまであったが、聖教徒騎士団副隊長、クラリーナと飯屋であってしまった。彼女は怒っているのも忘れてその美しい顔で僕に対して微笑んだ。
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