ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

文字の大きさ
180 / 211
二つの死闘

第百八十話 おしおき

しおりを挟む
 僕が館に入るといきなり大きな子どもの声で叫ばれてしまった。

「あー! パパ、どこ行ってたの!」
「え……」

 一瞬視界に入らなかったので誰かと思ったけど、なんだナオコか、例のあの方だと思ってておっかなびっくりで扉を開けたんだけど、まあ、とりあえず命の危険は避けられたようだ。

「ナオコ、こんばんは、今日は遅くまで起きてるね」
「何がこんばんわなの、パパ。今日私と一緒に遊ぶって言ってたでしょ」

「あれ、そうだったかな」
「すっとぼけても、ダメ! 嘘つき! 嫌い!」

「ごめん、ごめんよ、ちょっと用事があったんだ」
「まったく。ママにパパの居場所を聞いても、さあどうかなとか言ってニコニコしながら、そそくさと立ち去るし、全くこんな夜まで帰ってこないなんてひどいよ!」

 やばい! 絶対キレてるぞあの方が! 早く命乞いか、葬式の用意をしないと。僕が言い訳の言葉を考えてるけど、何を言ったらいいかわからない。どう答えても殺される未来しか浮かばない。しまった、夕方には帰るべきだった!

 ふと気が付くとナオコがじっとこちらを眺めていた。な、何だ……。するとナオコがブスっとした顔で声をかけてきた。

「で、誰と行ってたの?」
「だ、誰って何のことだい」

「とぼけても無駄! パパ現地語しゃべれないでしょ、戦闘があった感じしないし、どうやってこんな遅くまで時間つぶしてたの、絶対だれか一緒にいたでしょ」

「えっーと、適当にそこら辺をぶらついて……」
「──なるほど、ごまかすということは女だな」

 こいつ! 絶対、5歳児ぐらいの幼女じゃないだろ。端々はしばしに感じていたけど、年齢絶対かなりいってる。幼児の考える想像力を超えてるぞ。

「で、だから誰なの?」
「えっとルミコはどこかなー」

「寝てるよ、で、誰?」
「えっと……」

 僕が答えを出さないでいると、ナオコは僕の体のにおいを、かぎ取り始めた。そして一言。

「……クラリーナだな」
「──違う! 彼女とは何もなかった、信じてくれ、本当だ!」

 僕が動揺してメリッサのために用意したセリフをナオコに対して言ってしまった。驚いた顔をしてすぐさま瞳に涙を浮かべるナオコだった。

「うわーん!!」

 そしていきなり泣きながら僕から走り去ろうとしていた。

「ま、待て! ナオコ」

 だがナオコは途中、騒いでいるのを聞きつけたのか、ミーナの腹に顔をぶつけ、そのままうずくまり抱きしめた。

「ど、どしたの、ナオコ」
「ミーナ聞いてよ、パパ浮気したんだって!」

「最低―」
「最低だよ!」

 ミーナがジト目でこちらを見つめている、違うってば、何もしてない、何もしてないから!

「ねえ聞いて、ミーナ、しかも相手クラリーだって!」
「はっ? メリッサさん勝ち目ないじゃん、なんで?」

「知らない、どうせパパはボンクラだから、ママ以外好きになる女の人なんていないと思ってたけど、最近妙に色気づいて、女が寄ってくるし、適当に口説いてるし、しかも、クラリーだよ、クラリー!

 スタイル抜群だし、顔もきれいすぎるし、性格もいい! ママと大反対だよ!」

 おい、僕のことをディスられるのは仕方ないけど、メリッサまで下げてないか。一応良い女だぞ、性格がきついのと、言葉が男言葉なだけで。料理だってうまいし、可愛いし、口だけで面倒見いいし。

「パパは、絶対最後までいってるよ、これ!」
「あーあ、性欲か、童貞のくせにね」

「童貞卒業しちゃったよ、パパが! もはや淫欲と、色情と、女の裸しか興味がないんだ。童貞のおっさんのくせに!」
「うわっ、きっついわー」

 いやいやいや、最近頑張ってるぞ僕、加齢臭するとか、息が臭いとか、言われたことないぞ、いや、言ってこないだけかな……。ちょっと口に手を当てて鼻に息を吹きかけるが自分の口臭なんて全然わからない。と、年なのかな……。

「あーあクラリーがかわいそう、パパみたいな淫獣に襲われたんだ! じゃあなきゃ、クラリーなんて上玉が相手にするはずない! エッチな体を十分に堪能して味わったんだ。汚らしい、よだれを垂らしながら、服をびりびりに破いて、性欲のおもむくままにされたんだ!

 そりゃあもう、ひどくトラウマになって、もはや男なんて大っ嫌い、信じられないわ! ってなるに決まってるよー」

「最悪だなあそれ、聖騎士なんでしょクラリーナ、確か処女だって決まりがあったはずだけど」

「処女!? さいって────!」
「さいっってぇ────!」

「いやいや、だから違うって」

「……ミーナ行こう、最低の淫獣浮気野郎をほっといて」
「そうだね、浮気がうつる」

「ちょっと待って違うぞ! 話を聞け、ナオコ、ミーナ!」

 二人はすたすたと早足で立ち去ってしまった。明日絶対噂になるぞこれ、若干、築き上げつつあった僕の大人の男のイメージが……。

 僕は恐る恐る、自分とメリッサの寝室を開けた、だが、中は真っ暗で何も見えない、明かりを手探りで調べながらろうそくを見つけようとすると、いきなり明かりがともり、メリッサが目の前に現れた、彼女は剣をもって切っ先を僕ののどに突き付けていた。

随分ずいぶんと遅かったじゃないか」

 そう笑顔で剣を輝かせながら、殺気を放っている。まずい! 最初っから怒りMAXモードだ、や、殺られる……! メリッサがゆっくり、ねっとりと低いハスキーボイスで尋問が始まる。

「どうだったか、クラリーナとのデートは、楽しかっただろ?」
「そ、それなりかな」

「まさか、こんな夜まで一緒にいるとは思わなかったぞ、信じた私がばかだったな」
「ち、違う、劇を見てたら時間を忘れていただけだ! 浮気とかメリッサを忘れていたとかそういうのじゃない!」

「ほう……どこの劇場だ?」
「え、エンディオン劇場だよ」

「それは楽しかっただろうな、あそこには売春施設もあるし、なんならベッドルームがあって、クラリーナとしけこむことができるからな」

「違う! 誤解だ、ほんとに劇を見ていただけだ、彼女は仲のいい友達なんだ」
「友達ねえ……」

 そう言うとメリッサは僕の体のにおいや、服装の乱れをチェックした。頼む、ここは通させてくれ、神様、助けてくれ!

 彼女の取り調べが終わると、メリッサはため息をついた。

「──なんだシロか、せっかく日ごろの恨みを込めて、切り刻んでやろうと思ったが残念だな」

 よかったセーフだ! セーフ! 危なかった、もしクラリーナを何かの間違いで抱きしめてたりしてたら僕は八つ裂きにされてた。危ない、危ない。

「だろ、僕が浮気なんてするわけがないじゃないか、信用がないな、僕は一途なのに」
「調子に乗るな!」

 その刹那せつなメリッサは僕の足を引っかけて、ベッドに押し倒す! そして彼女は、僕の上に馬乗りになり、剣をかざしながら、サディスティックに笑みを浮かべた。

「佑月、お前には、二度浮気されたからな、一度は日向直子、二度目はクラリーナ、そろそろお仕置きが必要だな」
「何言ってるんだ! 僕は何もしてないじゃないか!」

「嘘つけ、お前心の浮気をしてただろうが」
「へっ……!?」

「気づかないと思っていたのか、随分と私を見くびってくれたものだな、こう見えても私は女だぞ」
「いや、どうみても、女です、素敵な女性です、大切な妻です!」

「そうか、なら、お前の体でたっぷりと、私の女の魅力を刻んでやらないとな──」
「ひいぃ!」

 そしてメリッサは僕の鼻をつまみ無理やりキスをしてきた。この恐怖と濃密な夜中でたっぷりと幼な妻に調教されてしまったのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...