ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

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二つの死闘

第百八十一話 次の対戦相手

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 ふう、昨日の夜は激しかった。朝、目が覚めた僕はベッドを見ると、もうぐちゃぐちゃだ。メリッサは手加減をしないんだからなあ。変な満足感と、充足感に満たされながら、服を整えた後、ベッドを整える。メリッサは、もう朝ご飯を作っているのかな、女の子は疲れ知らずだな。

 ふと小棚の上に、緑色のかぐわしい香りをした飲み物が木のコップに入っている。お茶か何かかな、メリッサが多分僕に用意してくれたものだろう、飲み干すと苦くてせき込んだけど、何だか、疲れが少しとれたような気がした。

 え、これ、麻薬か何かかな、メリッサならあり得る。と、とりあえず体に異常がないどころか少し楽になったので、気分が上向いてきた、靴を履こうと思って、靴に足を入れると何か違和感がした。

 何だろうと思ってみてみたら、手紙が入っていた。しかも日本語で書かれていたので、メリッサかなと思って手紙を見てみると、名前を見るとクラリーナより、と書かれていた。ど、どういうことだ。

 ──手紙の文はこうだった。

 親愛なるユヅキさまへ

 とつぜんのお手紙もうしわけありません。おどろいているでしょうか、私、じつは日本語を書けるのです。その上で文章でお伝えしたいことがあり、お手紙を書かせていただきます。
 もしも、あなたが日本人でなければもうしわけありません。けいいを説明しますと、私、昔に日本人に会ったことがあるので、それであなたにきょう味を持ちました。
 彼はエインヘリャルでもう50年ほど前でしょうか、あなたと同じユヅキという名前です。漢字はお湯のユ、建築の築でヅキと書くそうです、彼に私は日本語を習いました。
 とてもおだやかな人で貴方と同じような、男性の方でした。彼は異世界にきて、とてもさみしそうにしていて、こきょうのことがなつかしくなると言っていたので、私は彼の日本語の文通相手になったのです。
 何か大変な戦争を体験したそうで、それで死んでしまったようです。可哀そうですね。ソフィアによると、異世界との時間は関係がないので、彼が貴方と同じ時間をすごしたかわかりませんが、とにかく彼と友達に私はなったのです。
 それで、教会団で貴方の名前を聞いたとき、ユヅキというひびきをきいて、もしかして同じ日本人じゃないかと思って、貴方に興味を持ちました、そして、本当はいけないことですけど、貴方の教会団のしりょうを読みました。
 貴方が何人かはわかりませんでしたが、きっと日本人だと信じてお手紙を差し上げます、ちがっていたらもうしわけありません。
 こきょうからとおくはなれて、異世界にくらすのは大変だと思います、私はぜひこれを縁に貴方と親しくなりたいです。とても貴方のことが大好きです。読んでくれてありがとうございます。

                        貴方のクラリーナより

 たどたどしい日本語の文章だったけど、人柄がうかがえるような優しい文だった。たぶん別れる前、靴ひもを結んでくれようとしているときにこれを入れたんだろうな。へえ、そういう縁で僕に興味を持ってくれていたんだ。手紙で伝えるあたり、奥ゆかしいなクラリーナは。これは後で返事を書いたほうがいいな。

 僕が自然と笑みがこぼれてしまったあと、突然手紙が消えた。

「なんだ? これ、手紙か、やっぱりお前他に女がいるんだろ」

 しまった、メリッサだ! 彼女がいきなり手紙を取り上げたんだ。やばいクラリーナからの手紙を見たらまたブチギレられるぞ。と、思ったけどメリッサが手紙を見た瞬間、変な顔をした、何故だ?

「なんだこれ、暗号か? 訳が分からん」

 そう言って、メリッサは僕に対して、手紙を返した。どういうことだ、もしかしてメリッサは日本語が読めないのか。とりあえず機嫌がいいし、何の変化もないし、たぶんわからなかったのだろう。まあ、とりあえず良かった。

 メリッサがいない間にササっと返事を書いた、僕も日本人だよってことと、自分の名前の漢字と、湯築ってひとはどういう人だったのかと、これからも親しくしましょうという返事だ。よし、機会があったらクラリーナに渡そう。

 おいしい朝食を珍しくみんなで食べると、みんな自然に僕と接してくれた、ちょっと微妙な雰囲気を感じたけど、たぶんメリッサがクラリーナのことは誤解だと説明してくれたのだろう、やっぱり彼女はできる女だ、素晴らしい妻だよ。

 食後のティーを楽しんでいると館の者がやってきて、ユリアが対応した。どうやら事務的なことなのか何の不自然もなく話を聞いていた。僕は何かあったのか尋ねた。

「どうしたんだい、ユリア、館で何かあったのかい?」
「いえ、そうではありません。クラリーナさんがまた事務報告に来るそうです。選手としての訓練もあるのにまめな人です、私はそういう仕事にまじめな女性は好きですね」

 と珍しくユリアが他人をほめたから少し驚いた。根がまじめなユリアからすれば、クラリーナとは相性がいいんだろう。とりあえず、クラリーナの事務報告を聞かないと。

 応対室にみんなが集まると、クラリーナがやってきた、昨日のことは何事もなかったかのように淡々と仕事である、今後の試合日程についての話だった。できる女だなクラリーナは、仕事に感情を持ち出さない。

「今後の日程ですが、予定通り、今日から三日後に試合が行われることになりました。チーム数が減ったことで、進行が楽になり我々も安心しております」

 彼女が淡々と告げるとまたアデルがケチをつけ始めた。

「安心ねえ、こちとら、命がけで戦っているんだけど、教会団の方々は、俺たちの命なんてクソほどの価値もねえってことか」

「そんなことはありません、闘技大会は聖戦です。戦いで散ったものは神のもとに召されるでしょうね、それはご安心してください」

「神ねえ、俺たちそれ信じてないんだけど、ほんとにいるのかねえ」

 そういったときエイミアが口をはさんでくれた。

「アンタは知らないだろうけど、確かに創造神はいるわ、クラリーナが信じているような聖なる存在じゃないけど、確かにすべての世界を統べる神は存在する。私も神の声を聞いたことがあるしね。信じる信じないはアンタの勝手だけど、信じている相手にそれは無礼じゃない? アデル」

 エイミアのお叱りにアデルはすぐに口を閉じ不機嫌そうにしていた。下手に出る相手には虚勢を張るけど、エイミアとかメリッサやシェリーみたいな怖い女には、ビビッて逃げるタイプだなこいつ。

「その対戦相手の試合はいつ始まるんだい」

 僕はクラリーナに尋ねた。

「あ、はい、今から3時間後です、よかったらまた案内しましょうか」
「ありがとう頼むよ、ところでどんな相手なのかな、二チームで勝ったほうが僕らと当たるんだろ」

「具体的には見ていただいたほうがよろしいでしょうが、両チームも貴方がたと同じ、組織的に戦うのが主なチームですね、面白い試合になると思います」

 なるほど、それは僕たちの腕の見せ所だな、猛虎隊のような能力ごり押しチームはもうこりごりだ、被害を覚悟しないといけないから。報告が終わると皆は闘技場に観戦に行く準備のため解散したが、メリッサがクラリーナのもとに立ちはだかった。

 うわ、メリッサはクラリーナに何を言う気だ、女性同士のもめごとは、かなりきついと聞くから、やめてくれよ。僕の予想に反してメリッサは穏やかにクラリーナに言い放った。

「私の旦那が世話になったな」
「え、ええ、楽しい時間をすごさせていただいて私は佑月さんに感謝しています。もちろん機会をいただいたメリッサさんにも」

「そうか、あのときはぶってすまなかったな、感情的になりすぎた、頼みを聞いてくれてうれしい。これからも佑月と親しくしてやってくれ、たぶんお前は佑月の悩みを素直に聞けるタイプだと思う、これからも頼む」

「も、もちろんですよ、私のほうこそ、メリッサさんの素敵な旦那様を貸していただいて感謝しております。あなた方二人に幸あらんことを、常に神に祈っております」

 そう言って二人の女性は握手して抱きしめた。なっ、どういうこと、彼女らに友情が芽生えたということか、男の僕にはよくわからない、と、とりあえず二人の関係は良好のようだから一安心して、闘技場に行く準備をした。
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