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(十二)『奥の細道』二人旅~パートⅡ
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まあ、覚悟はしていたけど、お土産をたくさんいただいて、僕とミエコおばさんは、八時過ぎに、『佐々木や』を後にしたんだよ。
「ね、おばさん、クーラーボックスはやっぱり必要だったでしょ」
「うん、そうね。どっかで氷を補充しないとね」
「そうなんだけど、今日、寒くない。ほら、この温度表示。昨日より七、八度低いよ。春に逆戻りじゃん」
「そうね、降ってくるかね。雨も。雲行き悪いよ」
おばさんは、早速スマホで天気を確認している。
「山形方面は、もう雨らしいよ、一日。明日は真夏日予報。それに、東北梅雨入りか、だってさ。でも、午後は晴れそう」
「不安定だね、つまり。まあ、でも山寺日和って感じなんじゃん」
「てか、六回目なんだね、関税協議。当分決まりそうにないね、こりゃ」
そんな話をしているうちに、そろそろ、尾花沢市内に入ってきそう。時計は、まだ八時半になっていないよ。
「やっぱ、先に、シンイチ兄ちゃん家に行っちゃおう」
「こんな朝早くじゃ、迷惑じゃないか」
「でもさ、ユリコ姉ちゃんも早くしないとパート出ちゃうと想うんだよね」
「そか」
「あ、それと、おばさん、昨日、佐々木やに泊まったことは内緒ね。夜中じゅう走ってきて、今朝着いた体で、よろしく」
「はいよ。老体には応えるよ。夜のドライブは」
そそ、その調子。シンイチ兄ちゃんは、すぐ帰っちゃうっていうと、残念がると想うし、それで、昨夜温泉入ってきたなんていうと、追い打ちかけるからさ。
車は、すぐに市内に入って、僕は中学のときの通学路に左折して入っていき、諏訪神社の参道を横切り、シンイチ兄ちゃん家の方へ、細い道を下っていくよ。僕の生家があった場所は通らずに済むから良い。できれば、何か別の建物が建っているところは、見たくないからね。四年前は、不用意に前を通り過ぎて、更地になった光景を見ることになったんだよね。もう、二度と見たくない景色だったのにね。
ラッキーなことに、二人とも、まだ在宅だったんだ。
「ええ、オトヤちゃん。うわ。お父さん、オトヤちゃんだよ」
「おおお、オトヤがあ」
絵に書いたような、びっくりの出迎え。
「こちら、ミエコおばさん」
「はじめまして、突然、朝早くからすみません」
「ああ、はじめまして、どうぞどうぞ」
僕らは、まず、仏間に向かう。
この家の仏壇の前に身を置くと、ほんと、小さいときからお世話になった人たちを思い出すんだよね。
寝たきりのばあちゃん(シンイチ兄ちゃんの祖母)。
とうちゃん(僕の祖母の弟)。
かあちゃん。
保育園から帰ると、僕の家には、祖父母がいたので、一人ではないけど、シロ(大きな白い犬)と会いたくて、僕はシンイチ兄ちゃん家に入り浸っていたもんだよ。
小さい僕は、大きなシロに乗ろうと試み、一瞬背中に跨ったものの、見事に落下。泣き出したのに、びっくりして、かあちゃんが慌てて家から出てきたっけ。昔の建物の時。
そのシロが、突然居なくなった時、僕はものすごく悲しんだなあ。
「なして、居なぐなった、なあ、かあちゃん」
「誰がが、さらっていったんだよ」
そんなことってあるか。シロは利口だから、簡単には人には付いていかないはずだ、と僕が信じて疑わなかったね。だから。どうしたら、そのシロをさらっていけるのか、理解できなかったんだよね。
僕は諦めずに、一週間くらいは、シンイチ兄ちゃん家に通ったな、そう言えば。シロが戻ってきているかもしれないと。
でも、結局シロは戻らなかった。
「今、来たどごが」
「そう」
僕らは打ち合わせどおり、嘘をつく。
「んで、いづ帰るの」
「午後、山寺に行くから、今夜は天童のビジネスホテルに泊まる」
「ビジネスホテル」
「そう、温泉なんて、予約できないよね、もう。どこも高いし、空いてないし」
「うちに、泊まれば良い」
「いやいや、急に来て、そういうわけにもねえ。もう、予約してるし」
不義理なようだが、ミエコおばさんもいるし、いろいろ気を使わせるもの嫌なんで。
「んだがや」
「ユリコねえちゃんだって、仕事でしょ。それに今回は、ミエコおばさんが元気なうちに、山寺案内しておこうと思ってさ、それで考えたことだから。またゆっくり来ますよ」
やっぱり、ユリコねえちゃんは、仕事の準備を始めたっぽい。
「じゃあ、オトヤちゃん、おばさん、ゆっくりしてってくださいね」
「あ、ありがとう、ユリコねえちゃん。ごめんね、朝の忙しい時。気を付けて」
ユリコ姉ちゃんが行ったとなると、長居をすればするほど、シンイチ兄ちゃんが気を使うことになって、いたたまれない。
「これから、お寺だけ、行って帰ろうとおもって」
「ん、お墓、どごの」
僕の家の墓は仕舞ったので、誰の家の墓を参るつもりか、と問うたんだよね。
「シンイチ兄ちゃん家の墓」
「んだがした」
それが帰る口実となって、僕らはシンイチ兄ちゃんの家を後にした。
かつての、僕の家の菩提寺は、シンイチ兄ちゃんの家から、距離にして、四百メートルくらい。参道横の空きスペースに車を止める。
山門は昔のままだ。それを二人で一礼してくぐる。
「この山門の木はね、大昔、尾花沢城の取り壊した木材が使われてるらしい」
「へえ、良く分かんないけど、すごいんだろうね、それ」
まず正面の本堂に一礼してから、向かって左側の墓地へ。古い地蔵尊のお堂の右横を進む。お堂のすぐ後ろがかつて僕の家の墓があった場所だが、今も、空き地のままだった。あえて、ミエコおばさんには、その説明はしないでおく。さらに進むと、二三ブロック先に、シンイチ兄ちゃん家の墓がある。花は無かった。途中で買ってきて良かった。僕が花立を洗いに行っている間に、ミエコおばさんは、落ち葉などを片付ける。ベースのコンクリートが三畳くらいの広さで、地面から五十センチほど立ち上がり、柵の無い、周囲の墓とは違ったデザインの特徴的な墓なんだよね。
線香は多めに。
墓地はひっそりと人影も無い。
園児の頃は、この参道を通って、墓地の東側の道路を歩いて、保育園に通い、帰りも同じ道を歩いたものだったね。
僕が小学生くらいまでは、この町も、そこまでの過疎は進んでなかったと想われる。それが、六年前、尾花沢祭に来た時、ほんと往年の盛り上がりとは程遠いもので、何とも言えない悲しさに襲われたものだったよ。
それは他人事ではなく、僕のような町を出ていく人が多いからで、僕は加害者でもあるんだよな。
墓仕舞いまでして。
ユウおじさんの発案で、墓仕舞いが決まり、シンイチ兄ちゃんにそのことを話した時、シンイチ兄ちゃんは、何とも表現できない、悲しい顔をしたんだよね。あれって、たぶん、僕が亡くなった、と同等な悲しさなんだとおもうよね。無念というか。
それがあるから、僕は、生きているうちは、この町にできるだけ来ないと行けないと決心した。僕が生きているうちは、毎年は無理かもだけど。
「非情だと思うかもしれんが、お前が死んだら、この墓は無縁仏になる。それを想像してみなよ。それより、共同墓地で、観光客なんかも、訪れるようなキレイに保全された場所に、葬られるほうが、良いと想わないか」
ユウおじさんは、ゆくゆくは自分が入りたいと考えている、伊豆長岡の清浄院(現にユウおじさんの菩提寺のなった)に行った時に、そう話してくれたものだ。
その話を聞いた時、すんなり、腑に落ちていく僕の心が芽生えたんだよね。
そうだよな、って。
じゃあ、どこが良いか、って考えた時、真っ先に思い浮かんだのが、山寺だよ。ウェブで、それが可能なことが分かり、話が進んでいったんだよね。
僕らは参道を出て、車に乗り込む。まだ、十時過ぎだ。お昼には早いよね。
「おばさん、ちょっと昼ご飯には早いね。このまま山寺行くか」
「そうだね」
尾花沢の中華そばも捨てがたいけど、山形市内にも、いっぱいラーメン屋はあるし、今回は諦めるか、ということで、僕らは一路、山寺に向かった。この分だと、午前中に墓参はできるはず。雨もまだ来ていない。
「ユウおじさんって、なんであんなに僕の気持ちが解ったんだろう。それに、先のことまで考えて」
「ふふふ、それはね、教えてあげようか」
「だから、訊いてんじゃん」
駐車場、登山口から山門まで、紅葉の緑をくぐり抜けながら、僕はミエコおばさんに、どうしても訊いてみたいと思い続けてきたことを訊いてみたんだ。
「ユウさんとオトヤは似てるからだよ」
「それは解るよ。前にもそう言ってたし」
「いや、そういう、なんて言ったら良いんだろう・・・、ただ、考え方が似通ってるっていう事じゃなくて、そっくりなんだよね。私あの人のこと好きだから解るんだよね。オトヤがほんと、そっくりだっていう感覚が。そうそうDNA、DNA」
「それはないでしょ、実際」
「いや、若い頃のあの人と、よ」
「そうなのかあ」
「うん、だから、彼の中では、危なっかしくて見てられない、というか、どうにかしてやらないと、絶対間違った方にいくし、自分に似ているからこそ、見てられない、というか。行きがかり上ね。そういう気持ちが強かったんだと想う。その結果、養子なんて、想いもしないことを考え出したんだよね、きっと」
「ちょっと、嫌なこと訊いて良い、怒らない」
「いや、嫌なことは訊くな」
「そうだよね」
「いいよ、冗談だよ」
「二人はさ、子供欲しくなかったの」
「ああ、それね。欲しいさ」
二人は、一礼をして山門を入った。
「けどね、できなかったの。まあ、不妊だろうね。単純に、どっちかが。今みたいに不妊治療なんてなかったから、できなければ諦めるしかなかった時代だよ、私たちは。できてたら、早いうちに籍を入れただろうね」
「そうだよね。それに、日本人って、養子って近所で聞かないし、したとしても隠しておいたりするじゃない。抵抗があるのかな」
「あら、そんなこと無いよ。日本だって養子は昔から多いよ。でも、子供を持たない自由っていうかな、そういう考え方が多くなったから、苦労して養子をもらうことをしなくなったんじゃない。私達は、心のどこかで、何か縁があるなら、あるかもしれない、っていう希望を残していたのかもね、口には出さなかったけど。その声なき願いが通じたのかもしれないよね」
「結局、縁ってことか」
「あなたこそ。訊いて良いかしら、私も」
「はい、どうぞ、この際」
「何で、あそこのアパートにたどり着いたわけ。もっと、横浜とか、川崎とかあったでしょ。神奈川県だとしても」
「ああ、あれはね。池波正太郎の真田太平記なんだよね。だから、小田原なわけ。後北条ファンではないよ。鎌倉北条ファンでもないけど。僕は頼朝ファンなので」
「そういうことか。というか、オトヤ、歴史小説なんて読むんだっけ」
「読みますよ、何でも、良いものは」
「じゃあ、本が取り持った縁だね」
「そう、本はバカにしたもんじゃない」
石雲寺の山門が見えてきた。
「まず、寺務所に先に行きましょうね」
お布施を届ける。今回はそれぞれに包んだ。ユウおじさんの作法を真似たんだよね、これ。もちろん、ユウおじさんが眠る伊豆の清浄院に行ったときも、時々はそうしている。永代供養なんだから、変じゃないと僕も最初は思ったが、ユウおじさんは理由を教えてくれたわけでも何でも無く、そうして見せて、僕はそれを踏襲してきたわけである。ミエコおばさんも。要するに、自分が生きている間しか、ここには参拝できないのだし、そのあともずっと御霊を護っていただくのだから、お寺の存続に少しでも貢献できるように、ということだった、と勝手に解釈している。さらに、墓仕舞いというのは、省力化や省略を目指すのではなく、多くの参拝者と共に護っていくお墓に埋葬する、ということなのだ、と僕的には解釈しているんだよね。
「あああ、空が開けていて、とても気持ちの良いお寺さんだねえ」
ユウおじさんと、全く同じことを言ったので、僕は密かに笑った。
「奥之院までは無理だよね」
僕は老体を気遣ったつもり。しかし、ミエコおばさんは、立ち止まって、悩んでしまったのよ。
「いやいや、無理しなくて良い。この場所全体がお墓だから」
「いや、でも、これは修行だから、ゆっくり、頑張る」
体調も、温泉のせいか良さそうなので、その気持に寄り添うことにした。
しかし、まだオンシーズンには少し早いだろうに、観光客が多い。特に外国人の方々。
「昔ね、大学一年の夏休み。僕、鎌倉に巡礼に行ったの、覚えてる、おばさん」
「ああ、覚えてる。ユウさんが、それすごく感心してたから」
「え、そうなの」
「そういうところが、余計に気に入ったのかなあ、オトヤについては」
初めて聞いた話だ。
「へえ」
「今どき居るんだねって。そいえば、あれは何のための巡礼だったの。やっぱり、ご両親の」
「そう。長い間、両親の不慮の死のことは、事実である以外に考えないようにしてきたんだよね。僕の周囲も、そう気遣ってきてくれていたんだろうし。でもね、ちゃんと向き合わないと、という気持ちが湧いてきたんだよね、その時。それで、巡礼に行ってみようかって」
「向き合う、か」
「僕の応援に来る途中に事故って、あんまりじゃない」
「ああ、そうかあ」
「その意味って何なのって。意味なんてない、偶然だよなって。でもね、そんな下世話な話じゃないんだよね、人の死って。その巡礼の時に出会った住職が言ってくれたんだよね、御朱印書いてもらって帰り際に、一緒に山門まで出てきてくれて。そういうことがきっかけで、貴方がこの場所に来られたこと、巡礼をしていること、それは、ただただ有り難いことですね、って。僕、その後、なだらかに続く小道を下りていきながら、涙が止まらなかったんだよね。何か、人知を超えた理解というか」
「へええ、そんな事があったの」
「でもね、後から思ったんだけど、結果として、そういう縁なんだろうなあ、って思った。要するに、さっきのおばさんの話で確定的になったんだけど、あの巡礼は、ユウおじさんに続いていて、養子になって、さらにこの場所に永代供養した、という縁に繋がってるんだろうなあって。今日だって、こうしてミエコおばさんと一緒に来られているのも縁じゃん」
「なるほどねえ。繋がってる、かあ」
「なんか、もっと観念的に言えば、人生についての取り組み方が変わった、というか。僕はユウおじさんに出会うまで、人生は何事かを常に成し遂げていかないといけない、という強迫観念があったと思う、それまでは。でもね、ユウおじさんと出会って、いろいろ生活していく中で、常日頃からの当たり前の心がけがいかに大事かって考えるようになった。チャンスとか、ラッキーとかではなくて。当たり前の事に感謝して、大切に生きていくということが大事なんだって。ユウおじさんは、そういう風に生きていたから、あんなに毎日幸せそうだし、そういうおじさんのところには、人が集まってくるんだなあ、って。僕はまだまだだよなあ」
「まあ、比べることじゃないよ、オトヤ。あの人はたまたま、ああだったってだけで」
僕は、それ以上食い下がらずに、話題を変えることにした。
「芭蕉も来たところだからね、ここは」
「そうか、有名だよねえ、奥の細道」
「僕のね、実家。もう取り壊したから、おばさんを案内できないけど、近くの養泉寺というお寺でも、芭蕉は一句詠んでいて、涼しさを我が宿にしてねまるなり、っていう句なんだよね」
「ほう」
「ねまるっていうのが肝で、方言なんだよね。寝るという意味ではなく、休む、ゆっくりするの意味で。よく、訪問客に、昔はどの家でも、ねまらっしゃい、ねまってください、って迎えたもんなんだよね」
「なるほど、よっぽど気に入ったのかね、芭蕉さんは」
「そう、それで、尾花沢には異例の十日、滞在したって言われてるんだよね」
僕は、ミエコおばさんの歩調に合わせながら、ゆっくり休み休み歩く。ある意味、あまり暑くない季節に来てよかったかも知れない。加えて、こういう場所だから特に涼しかった。
やっぱり、こういういろんな人々、外国の人も来るような霊山に埋葬されたほうが、霊魂もさみしくないよな。忘れ去られることなく。そういう時代だよ、なんて、噛み締めながら一段一段、僕らは古からの石段を歩く。
「帰りさ、大変有り難い灯り、観て帰ろうよ」
「え、そんなのあるの」
「あ、それから、今日何の日か知ってる、おばさん」
「ええ、今日はオトヤの誕生日だろ」
「それはそうだけど、こういう名刹に来ていることを想えば」
「何だよ」
「弘法大師の誕生日」
「あ、そうなの、知らなかったよ。ていうか、それって、自慢」
自分の誕生日は、『母受難の日』。修学旅行で行った東大寺の住職から、そう教わったんだよね。
だから、今日はお母さんの墓参りができてよかったなあ、と。このお母さんは、まだまだ元気だけどね。
ミエコおばさんは、登るほどに、歩くほどに元気になっていってるような気がした。たまには、あまり年寄り扱いせず、低山に連れ出すっていうのも、悪くないかも知れない、と僕は少し、反省しながら、歩を進めていったのでした。
「ね、おばさん、クーラーボックスはやっぱり必要だったでしょ」
「うん、そうね。どっかで氷を補充しないとね」
「そうなんだけど、今日、寒くない。ほら、この温度表示。昨日より七、八度低いよ。春に逆戻りじゃん」
「そうね、降ってくるかね。雨も。雲行き悪いよ」
おばさんは、早速スマホで天気を確認している。
「山形方面は、もう雨らしいよ、一日。明日は真夏日予報。それに、東北梅雨入りか、だってさ。でも、午後は晴れそう」
「不安定だね、つまり。まあ、でも山寺日和って感じなんじゃん」
「てか、六回目なんだね、関税協議。当分決まりそうにないね、こりゃ」
そんな話をしているうちに、そろそろ、尾花沢市内に入ってきそう。時計は、まだ八時半になっていないよ。
「やっぱ、先に、シンイチ兄ちゃん家に行っちゃおう」
「こんな朝早くじゃ、迷惑じゃないか」
「でもさ、ユリコ姉ちゃんも早くしないとパート出ちゃうと想うんだよね」
「そか」
「あ、それと、おばさん、昨日、佐々木やに泊まったことは内緒ね。夜中じゅう走ってきて、今朝着いた体で、よろしく」
「はいよ。老体には応えるよ。夜のドライブは」
そそ、その調子。シンイチ兄ちゃんは、すぐ帰っちゃうっていうと、残念がると想うし、それで、昨夜温泉入ってきたなんていうと、追い打ちかけるからさ。
車は、すぐに市内に入って、僕は中学のときの通学路に左折して入っていき、諏訪神社の参道を横切り、シンイチ兄ちゃん家の方へ、細い道を下っていくよ。僕の生家があった場所は通らずに済むから良い。できれば、何か別の建物が建っているところは、見たくないからね。四年前は、不用意に前を通り過ぎて、更地になった光景を見ることになったんだよね。もう、二度と見たくない景色だったのにね。
ラッキーなことに、二人とも、まだ在宅だったんだ。
「ええ、オトヤちゃん。うわ。お父さん、オトヤちゃんだよ」
「おおお、オトヤがあ」
絵に書いたような、びっくりの出迎え。
「こちら、ミエコおばさん」
「はじめまして、突然、朝早くからすみません」
「ああ、はじめまして、どうぞどうぞ」
僕らは、まず、仏間に向かう。
この家の仏壇の前に身を置くと、ほんと、小さいときからお世話になった人たちを思い出すんだよね。
寝たきりのばあちゃん(シンイチ兄ちゃんの祖母)。
とうちゃん(僕の祖母の弟)。
かあちゃん。
保育園から帰ると、僕の家には、祖父母がいたので、一人ではないけど、シロ(大きな白い犬)と会いたくて、僕はシンイチ兄ちゃん家に入り浸っていたもんだよ。
小さい僕は、大きなシロに乗ろうと試み、一瞬背中に跨ったものの、見事に落下。泣き出したのに、びっくりして、かあちゃんが慌てて家から出てきたっけ。昔の建物の時。
そのシロが、突然居なくなった時、僕はものすごく悲しんだなあ。
「なして、居なぐなった、なあ、かあちゃん」
「誰がが、さらっていったんだよ」
そんなことってあるか。シロは利口だから、簡単には人には付いていかないはずだ、と僕が信じて疑わなかったね。だから。どうしたら、そのシロをさらっていけるのか、理解できなかったんだよね。
僕は諦めずに、一週間くらいは、シンイチ兄ちゃん家に通ったな、そう言えば。シロが戻ってきているかもしれないと。
でも、結局シロは戻らなかった。
「今、来たどごが」
「そう」
僕らは打ち合わせどおり、嘘をつく。
「んで、いづ帰るの」
「午後、山寺に行くから、今夜は天童のビジネスホテルに泊まる」
「ビジネスホテル」
「そう、温泉なんて、予約できないよね、もう。どこも高いし、空いてないし」
「うちに、泊まれば良い」
「いやいや、急に来て、そういうわけにもねえ。もう、予約してるし」
不義理なようだが、ミエコおばさんもいるし、いろいろ気を使わせるもの嫌なんで。
「んだがや」
「ユリコねえちゃんだって、仕事でしょ。それに今回は、ミエコおばさんが元気なうちに、山寺案内しておこうと思ってさ、それで考えたことだから。またゆっくり来ますよ」
やっぱり、ユリコねえちゃんは、仕事の準備を始めたっぽい。
「じゃあ、オトヤちゃん、おばさん、ゆっくりしてってくださいね」
「あ、ありがとう、ユリコねえちゃん。ごめんね、朝の忙しい時。気を付けて」
ユリコ姉ちゃんが行ったとなると、長居をすればするほど、シンイチ兄ちゃんが気を使うことになって、いたたまれない。
「これから、お寺だけ、行って帰ろうとおもって」
「ん、お墓、どごの」
僕の家の墓は仕舞ったので、誰の家の墓を参るつもりか、と問うたんだよね。
「シンイチ兄ちゃん家の墓」
「んだがした」
それが帰る口実となって、僕らはシンイチ兄ちゃんの家を後にした。
かつての、僕の家の菩提寺は、シンイチ兄ちゃんの家から、距離にして、四百メートルくらい。参道横の空きスペースに車を止める。
山門は昔のままだ。それを二人で一礼してくぐる。
「この山門の木はね、大昔、尾花沢城の取り壊した木材が使われてるらしい」
「へえ、良く分かんないけど、すごいんだろうね、それ」
まず正面の本堂に一礼してから、向かって左側の墓地へ。古い地蔵尊のお堂の右横を進む。お堂のすぐ後ろがかつて僕の家の墓があった場所だが、今も、空き地のままだった。あえて、ミエコおばさんには、その説明はしないでおく。さらに進むと、二三ブロック先に、シンイチ兄ちゃん家の墓がある。花は無かった。途中で買ってきて良かった。僕が花立を洗いに行っている間に、ミエコおばさんは、落ち葉などを片付ける。ベースのコンクリートが三畳くらいの広さで、地面から五十センチほど立ち上がり、柵の無い、周囲の墓とは違ったデザインの特徴的な墓なんだよね。
線香は多めに。
墓地はひっそりと人影も無い。
園児の頃は、この参道を通って、墓地の東側の道路を歩いて、保育園に通い、帰りも同じ道を歩いたものだったね。
僕が小学生くらいまでは、この町も、そこまでの過疎は進んでなかったと想われる。それが、六年前、尾花沢祭に来た時、ほんと往年の盛り上がりとは程遠いもので、何とも言えない悲しさに襲われたものだったよ。
それは他人事ではなく、僕のような町を出ていく人が多いからで、僕は加害者でもあるんだよな。
墓仕舞いまでして。
ユウおじさんの発案で、墓仕舞いが決まり、シンイチ兄ちゃんにそのことを話した時、シンイチ兄ちゃんは、何とも表現できない、悲しい顔をしたんだよね。あれって、たぶん、僕が亡くなった、と同等な悲しさなんだとおもうよね。無念というか。
それがあるから、僕は、生きているうちは、この町にできるだけ来ないと行けないと決心した。僕が生きているうちは、毎年は無理かもだけど。
「非情だと思うかもしれんが、お前が死んだら、この墓は無縁仏になる。それを想像してみなよ。それより、共同墓地で、観光客なんかも、訪れるようなキレイに保全された場所に、葬られるほうが、良いと想わないか」
ユウおじさんは、ゆくゆくは自分が入りたいと考えている、伊豆長岡の清浄院(現にユウおじさんの菩提寺のなった)に行った時に、そう話してくれたものだ。
その話を聞いた時、すんなり、腑に落ちていく僕の心が芽生えたんだよね。
そうだよな、って。
じゃあ、どこが良いか、って考えた時、真っ先に思い浮かんだのが、山寺だよ。ウェブで、それが可能なことが分かり、話が進んでいったんだよね。
僕らは参道を出て、車に乗り込む。まだ、十時過ぎだ。お昼には早いよね。
「おばさん、ちょっと昼ご飯には早いね。このまま山寺行くか」
「そうだね」
尾花沢の中華そばも捨てがたいけど、山形市内にも、いっぱいラーメン屋はあるし、今回は諦めるか、ということで、僕らは一路、山寺に向かった。この分だと、午前中に墓参はできるはず。雨もまだ来ていない。
「ユウおじさんって、なんであんなに僕の気持ちが解ったんだろう。それに、先のことまで考えて」
「ふふふ、それはね、教えてあげようか」
「だから、訊いてんじゃん」
駐車場、登山口から山門まで、紅葉の緑をくぐり抜けながら、僕はミエコおばさんに、どうしても訊いてみたいと思い続けてきたことを訊いてみたんだ。
「ユウさんとオトヤは似てるからだよ」
「それは解るよ。前にもそう言ってたし」
「いや、そういう、なんて言ったら良いんだろう・・・、ただ、考え方が似通ってるっていう事じゃなくて、そっくりなんだよね。私あの人のこと好きだから解るんだよね。オトヤがほんと、そっくりだっていう感覚が。そうそうDNA、DNA」
「それはないでしょ、実際」
「いや、若い頃のあの人と、よ」
「そうなのかあ」
「うん、だから、彼の中では、危なっかしくて見てられない、というか、どうにかしてやらないと、絶対間違った方にいくし、自分に似ているからこそ、見てられない、というか。行きがかり上ね。そういう気持ちが強かったんだと想う。その結果、養子なんて、想いもしないことを考え出したんだよね、きっと」
「ちょっと、嫌なこと訊いて良い、怒らない」
「いや、嫌なことは訊くな」
「そうだよね」
「いいよ、冗談だよ」
「二人はさ、子供欲しくなかったの」
「ああ、それね。欲しいさ」
二人は、一礼をして山門を入った。
「けどね、できなかったの。まあ、不妊だろうね。単純に、どっちかが。今みたいに不妊治療なんてなかったから、できなければ諦めるしかなかった時代だよ、私たちは。できてたら、早いうちに籍を入れただろうね」
「そうだよね。それに、日本人って、養子って近所で聞かないし、したとしても隠しておいたりするじゃない。抵抗があるのかな」
「あら、そんなこと無いよ。日本だって養子は昔から多いよ。でも、子供を持たない自由っていうかな、そういう考え方が多くなったから、苦労して養子をもらうことをしなくなったんじゃない。私達は、心のどこかで、何か縁があるなら、あるかもしれない、っていう希望を残していたのかもね、口には出さなかったけど。その声なき願いが通じたのかもしれないよね」
「結局、縁ってことか」
「あなたこそ。訊いて良いかしら、私も」
「はい、どうぞ、この際」
「何で、あそこのアパートにたどり着いたわけ。もっと、横浜とか、川崎とかあったでしょ。神奈川県だとしても」
「ああ、あれはね。池波正太郎の真田太平記なんだよね。だから、小田原なわけ。後北条ファンではないよ。鎌倉北条ファンでもないけど。僕は頼朝ファンなので」
「そういうことか。というか、オトヤ、歴史小説なんて読むんだっけ」
「読みますよ、何でも、良いものは」
「じゃあ、本が取り持った縁だね」
「そう、本はバカにしたもんじゃない」
石雲寺の山門が見えてきた。
「まず、寺務所に先に行きましょうね」
お布施を届ける。今回はそれぞれに包んだ。ユウおじさんの作法を真似たんだよね、これ。もちろん、ユウおじさんが眠る伊豆の清浄院に行ったときも、時々はそうしている。永代供養なんだから、変じゃないと僕も最初は思ったが、ユウおじさんは理由を教えてくれたわけでも何でも無く、そうして見せて、僕はそれを踏襲してきたわけである。ミエコおばさんも。要するに、自分が生きている間しか、ここには参拝できないのだし、そのあともずっと御霊を護っていただくのだから、お寺の存続に少しでも貢献できるように、ということだった、と勝手に解釈している。さらに、墓仕舞いというのは、省力化や省略を目指すのではなく、多くの参拝者と共に護っていくお墓に埋葬する、ということなのだ、と僕的には解釈しているんだよね。
「あああ、空が開けていて、とても気持ちの良いお寺さんだねえ」
ユウおじさんと、全く同じことを言ったので、僕は密かに笑った。
「奥之院までは無理だよね」
僕は老体を気遣ったつもり。しかし、ミエコおばさんは、立ち止まって、悩んでしまったのよ。
「いやいや、無理しなくて良い。この場所全体がお墓だから」
「いや、でも、これは修行だから、ゆっくり、頑張る」
体調も、温泉のせいか良さそうなので、その気持に寄り添うことにした。
しかし、まだオンシーズンには少し早いだろうに、観光客が多い。特に外国人の方々。
「昔ね、大学一年の夏休み。僕、鎌倉に巡礼に行ったの、覚えてる、おばさん」
「ああ、覚えてる。ユウさんが、それすごく感心してたから」
「え、そうなの」
「そういうところが、余計に気に入ったのかなあ、オトヤについては」
初めて聞いた話だ。
「へえ」
「今どき居るんだねって。そいえば、あれは何のための巡礼だったの。やっぱり、ご両親の」
「そう。長い間、両親の不慮の死のことは、事実である以外に考えないようにしてきたんだよね。僕の周囲も、そう気遣ってきてくれていたんだろうし。でもね、ちゃんと向き合わないと、という気持ちが湧いてきたんだよね、その時。それで、巡礼に行ってみようかって」
「向き合う、か」
「僕の応援に来る途中に事故って、あんまりじゃない」
「ああ、そうかあ」
「その意味って何なのって。意味なんてない、偶然だよなって。でもね、そんな下世話な話じゃないんだよね、人の死って。その巡礼の時に出会った住職が言ってくれたんだよね、御朱印書いてもらって帰り際に、一緒に山門まで出てきてくれて。そういうことがきっかけで、貴方がこの場所に来られたこと、巡礼をしていること、それは、ただただ有り難いことですね、って。僕、その後、なだらかに続く小道を下りていきながら、涙が止まらなかったんだよね。何か、人知を超えた理解というか」
「へええ、そんな事があったの」
「でもね、後から思ったんだけど、結果として、そういう縁なんだろうなあ、って思った。要するに、さっきのおばさんの話で確定的になったんだけど、あの巡礼は、ユウおじさんに続いていて、養子になって、さらにこの場所に永代供養した、という縁に繋がってるんだろうなあって。今日だって、こうしてミエコおばさんと一緒に来られているのも縁じゃん」
「なるほどねえ。繋がってる、かあ」
「なんか、もっと観念的に言えば、人生についての取り組み方が変わった、というか。僕はユウおじさんに出会うまで、人生は何事かを常に成し遂げていかないといけない、という強迫観念があったと思う、それまでは。でもね、ユウおじさんと出会って、いろいろ生活していく中で、常日頃からの当たり前の心がけがいかに大事かって考えるようになった。チャンスとか、ラッキーとかではなくて。当たり前の事に感謝して、大切に生きていくということが大事なんだって。ユウおじさんは、そういう風に生きていたから、あんなに毎日幸せそうだし、そういうおじさんのところには、人が集まってくるんだなあ、って。僕はまだまだだよなあ」
「まあ、比べることじゃないよ、オトヤ。あの人はたまたま、ああだったってだけで」
僕は、それ以上食い下がらずに、話題を変えることにした。
「芭蕉も来たところだからね、ここは」
「そうか、有名だよねえ、奥の細道」
「僕のね、実家。もう取り壊したから、おばさんを案内できないけど、近くの養泉寺というお寺でも、芭蕉は一句詠んでいて、涼しさを我が宿にしてねまるなり、っていう句なんだよね」
「ほう」
「ねまるっていうのが肝で、方言なんだよね。寝るという意味ではなく、休む、ゆっくりするの意味で。よく、訪問客に、昔はどの家でも、ねまらっしゃい、ねまってください、って迎えたもんなんだよね」
「なるほど、よっぽど気に入ったのかね、芭蕉さんは」
「そう、それで、尾花沢には異例の十日、滞在したって言われてるんだよね」
僕は、ミエコおばさんの歩調に合わせながら、ゆっくり休み休み歩く。ある意味、あまり暑くない季節に来てよかったかも知れない。加えて、こういう場所だから特に涼しかった。
やっぱり、こういういろんな人々、外国の人も来るような霊山に埋葬されたほうが、霊魂もさみしくないよな。忘れ去られることなく。そういう時代だよ、なんて、噛み締めながら一段一段、僕らは古からの石段を歩く。
「帰りさ、大変有り難い灯り、観て帰ろうよ」
「え、そんなのあるの」
「あ、それから、今日何の日か知ってる、おばさん」
「ええ、今日はオトヤの誕生日だろ」
「それはそうだけど、こういう名刹に来ていることを想えば」
「何だよ」
「弘法大師の誕生日」
「あ、そうなの、知らなかったよ。ていうか、それって、自慢」
自分の誕生日は、『母受難の日』。修学旅行で行った東大寺の住職から、そう教わったんだよね。
だから、今日はお母さんの墓参りができてよかったなあ、と。このお母さんは、まだまだ元気だけどね。
ミエコおばさんは、登るほどに、歩くほどに元気になっていってるような気がした。たまには、あまり年寄り扱いせず、低山に連れ出すっていうのも、悪くないかも知れない、と僕は少し、反省しながら、歩を進めていったのでした。
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