暗躍する転生ダンジョンコア

こじお

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序章 終わりの始まり

03 僕の名は

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 僕はダンジョンコアである。名前はまだない。
 だって守護者たちはマスターと呼ぶし、引きこもりの僕には必要なかったから。

 突然なんの話かと言えば。
 生まれて初めて僕ひとりでダンジョンの外へ出ることにしたのだ。
 で、名前がいると思ったわけ。

 ダンジョンコアの部屋──コアルームに三人の守護者を集め、外出について説明した。
 だけど守護者たちが外出を承知しない。

「危険です。どうかご再考を!」

 守護者を代表し、アインスが意見する。
 僕の身を案じての訴え。アインスの苦悶に歪む表情がそれを物語る。
 正直、僕の心は揺れている。
 僕にとって実質的に初めての外の世界。みんなの心配もわかるし、僕だって不安だ。
 でも、ごめん。
 これは僕にしかできないことだから。

「この中で外へ出られるのは僕の分体だけ。で、いまは外の情報収集が必要不可欠でしょ。それなら──」
「しかし単独行動など──」

 僕の言葉を遮ってまで食い下がるアインス。いままでにはなかったことだ。
 守護者たちの心に女神の一件がしこりとして残っているのかもしれない。
 そう感じた僕は努めて明るく振る舞った。

「危険はないって。基本は街での情報収集がメインで、それに僕の分体はあの女神が強化したもの。いまなら僕だってドラゴンを殴り殺せそうだよ」

 そう冗談で返したら。

「ドラゴンだなんて危険ですから、絶対おやめください!」

 アインスに怒られた。
 でも表情に怒気はない。むしろ、いまにも泣き出しそうだ。

「そんな顔をするなって、アインス。それにみんなも。仮に地上だけが滅ぶなら僕はなにもしない。でも今回はそうじゃない。僕とみんなの命がかかっている。だから行くんだ。行かせてくれ」

 三人は以前の弱く臆病な僕をよく知っている。だから必要以上に僕を守ろうと必死だ。
 
 本当に、ありがたい。

 でも過程はどうあれ、僕は強くなった。だから、もう少しだけ僕を信用してほしいと思う。
 んー、柄にもなく演説ぶったら、空気が重い。

「まぁ、なんだ。さすがにドラゴンは言い過ぎたよね。アハハ……」

 ひとつ咳払いをして、続けた。

「それはともかく、僕の偵察は決定事項ね」
「ですが!」
「この件は以上。僕が外へ出ている間、ダンジョン制御はアインス。コアの守りはツヴァイ。ドライは二人のサポートを頼むね」
「……かしこまりました」
「はい、マスター」

 アインスは不承不承、ツヴァイは深く考えずといった感じで応えた。
 ここで守護者のひとり、ドライから提案があった。

「マスター。せめて新装備を私に用意させていただけませんか? 最高のものをご用意いたします」

 まるでドライの赤い髪と瞳がやる気に満ち、燃えているようだ。

 最高の装備か……。
 ドライの言葉に反応し、コアルームの片隅にマネキンのごとく置かれた僕の分体へ視線を向けると。
 初めに目が行くのは、金色に輝く全身鎧だ。
 外出のことで頭がいっぱいで考えていなかった。確かにあれは偵察に不向きだ。というか、これで偵察とか頭……ヤバい。
 性能は女神の加護付きでピカイチだけど。
 過去にドライが分体用に作ってくれた装備がたくさんあるけど。
 でもいまなら最高級の激レア素材が無限収納に腐るほどある。それを利用しない手はないか。
 それに以前はアイテム作りが専門のドライに大した活躍の場を与えられなかった、という負い目もある。
 それに僕は意見をひとつ強引に通したばかり。
 それなら。

「……うん、ドライにお願いするよ」
「ありがとうございます、マスター」
「それとみんな。今回の魔素の件だけど、明確な寿命のない僕とみんなにとって、ずっとついてまわる大問題だと僕は思ってる。できれば問題を根本から解決したいから、みんなの知恵と力を貸してほしい」

 守護者たちの一糸乱れぬ返事でその場は解散となり。
 しばらくして気がついた。

「あ、しまった。名前……」

 みんなに僕の名前を考えて貰おうと思ってたのに、新装備の件ですっかり忘れてた。
 守護者には仕事を割り振っている。名前のためだけにもう一回集まってくれ、とはちょっと言いにくい。

「ねぇ、アインス。僕に名前を付けるとしたら、なにがいいかな?」

 とりあえず、側に控えるアインスに聞いてみた。
 アインス、ツヴァイ、ドライは僕が初めに作った守護者たちで、付き合いは千年を超える。その中でもアインスは僕の参謀として、ほとんどの時間を共有してきた。
 そんな彼女なら相応しい名前に心当たりがあるのではないか?
 本人の預かり知らぬところでハードルが上がり、僕は期待の眼差しをアインスに向けた。

「名前、ですか。マスターはやはりマスターかと……」
「んー……そっか」
「はい!」

 アインスは満足げに頷いた。
 名前はまた今度、自分で考えることにしよう。
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