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―第1章:リベルタス騒乱―
第13話:影蠢く町
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――それは、ラルゴがトライスタの三人とパーティを組んでから二日後の出来事。
ゴートヘイム・マルレーン城
ノトスギルドマスター・ドルフは、王都南部リベルタスの筆頭統治者である、トラゴス・マルレーンの居城へと招集されていた。
広大な荘園が続くマルレーン領の中に、堀に囲まれた城塞都市がある。
王都をそのままスケールダウンしたような都市で、城は町全体を見渡せるよう都市の中心部に作られていた。
ドルフは供もつけず、一人で謁見の間へと赴く。
巨大な両開きの門が開く。
壁に掛けられた黄金の山羊の旗。
床一面に敷き詰められた豪華な繊維の赤い絨毯。
正面の玉座には、黄金の山羊の鎧をまとったトラゴスが鎮座している。
相対するドルフもまた、全身をミスリルの鎧で固め、背中には自身の象徴とも言える巨大な戦斧を担いでいた。
「お久しぶりですトラゴス卿。緊急の招集を受けこのドルフ馳せ参じました」
ドルフは静かに告げるが、トラゴスは微動だにしない。
その表情もまた、山羊の兜に隠されており真意は探れない。
「……」
辺りには他の人影は見られない。
広大な空間に漂う大きな違和感と静寂。
ドルフは静かに戦斧に手をかける。
それと同時に、謁見の間の門が大きな音を上げて閉じた。
ドルフの首筋を冷や汗が伝い――落ちる。
すると、それまで静寂を貫いていたトラゴスが静かに立ち上がった。
「ようこそ、白金級冒険者ドルフ。 ここに呼ばれた理由はわかっているな?」
そう言いながらトラゴスは、傍らに立てかけてあった黄金のハルバードに手を伸ばした。
「トラゴス卿……既にか」
ドルフは戦斧を手に取り、そのまま大きく間合いを詰め……。
――振りかぶった。
火花が上がる。
豪風をまき散らしながら放たれたドルフの一撃は、広間一帯の装飾物を吹き飛ばし、トラゴス目掛けて正確に振り下ろされていた。
「こんなものか……」
「……ッ!」
しかし、トラゴスはこれを片手で振るったハルバードで弾き飛ばした。
ドルフはすぐさま態勢を立て直し、再び距離を取った。
手にした戦斧により力が込められていく。
「凄まじい力だが、刺し違えてでも――」
踏み込もうとした瞬間、トラゴスの後ろから禍々しい影が幾つも現れた。
その状況に、ドルフは思わず苦笑いを浮かべる。
「なんだぁ……白金級と聞いて期待してたんだが……この程度かぁ……」
大きな翼を持つ影から低い女の声が響く。
「つまらん。この程度では俺が出る価値もない」
一際大きなシルエットを持つ影が低い声で呟いた。
「皆さん油断しすぎとちゃいますの? まだ全力を出させたわけでもないのに……キヒヒ」
大きな笠を被った影が呟いた。
「うむ……ここは万全を期して、全員でかかるべきであろうな」
ぬるりと揺らめく影は、やや臆病そうに声を上げる。
「万事休すか……」
更に現れた四体の強者を前に、大きく表情をゆがめた。
しかし、戦斧を握る手の力だけは決して緩めなかった。
「ほう、向かってくるか。 その意気や良し」
トラゴスは満足そうに笑うと、再びハルバードを構え直した。
「魔族共が……」
ドルフは自身を囲む五つの影に対し、果敢に立ち向かっていく。
「人間を――舐めるなッ!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――ラルゴさんと別れてから一日。
ゴートヘイム近郊にたどり着いた僕たちは、カリオンさんの案で、町を一望できる南の丘で野営をしていた。
ここにたどり着いたのは早朝だった。
それからカリオンさんはずっと町を望遠鏡で眺め続けている。
それに対して自分がやったことといえば、野営に必要な物を集めるだの、寄ってきた非力な魔物を追い払うだの、雑用もいいところだ。
「カリオンさん、そろそろ夕食ですが……乾燥肉、少し焼きましたよ」
「要らん」
「え、一日中何も食べてないでしょう? 倒れますって」
「……俺は倒れない。 それはお前が食え。 ただ痕跡は残すな」
食事やトイレにも行かずずっと同じ姿勢のまま……。
凄まじい集中力……自分には到底できそうもない。
邪魔するのもあれだし……俺は自分で焼いた肉を一口頬張った。
(うん……美味くできてる。 これだけはトライスタの中でも胸を張れる)
そうしてる間も、カリオンさんは一切ぶれることなく町を監視し続けている。
ここまでストイックだと流石にちょっと怖いな……。
俺はこの静寂が気持ち悪くて、思わずカリオンさんに問いかけた。
「どうですか……様子の方は?」
「変わらずだ。跳ね橋は上がったまま、人の往来もない。それに、城壁の上の兵士の影は見えるのに、全く動きがない。俺の知っているゴートヘイムからは考えられない有様だ」
「それはまた……おっかないですね……」
そうは言ってみたものの、本当のゴートヘイムの姿を僕は知らない。
今まで僕がやったことと言えば、野営の準備に、寄ってきたひ弱な魔物の追い払い――
自分で言っていても、誇れる仕事じゃない。
……気づけばもう夕日が差し始めている。
ラルゴさん達は今頃どうしているだろうか?
シャーヴィスとアニーは今何をしているのだろうか?
考えれば考えるほど、このままじっとしているのがもどかしい。
「あの……カリオンさん、何時になったらゴートヘイムに入るんです?」
その時だった。
「……!」
カリオンさんの、今までにない反応。
髪で隠れている目がひときわ見開かれているような、そんな感じだった。
「南門が開いたぞ、見ろ」
そう言ってカリオンさんは、望遠鏡で覗き込めと促してくる。
言われるがまま、跳ね橋が降りる先、南の街道に目を凝らす。
そこには馬に跨る一人の男の人がいた。
遠目からでもわかる巨体に、 白髪交じりの短髪。
「あれは……ドルフさん!?」
「ああ、当然偽物だろうが」
偽ドルフさんは招き入れられるように町の中に入っていった。
そしてまた、何事もなかったかのように跳ね橋が上がる。
「つい先日までノトスにいたはずじゃ?」
「ああ、胡散臭いことこの上ないな」
そう言いながらカリオンさんは、素早く身支度を整え始めた。
「どうするんです? 中に入ろうにも、門は閉まっていますし……」
「近くの川のそばに、町の地下につながる水路がある。 ここなら警備も薄いだろう」
「なるほど、では急ぎましょう!」
「いや……」
そう言ってカリオンさんはこっちに振り返った。
「危険すぎる。 君はここで、町の監視を続けてくれ」
まただ。
ラルゴさんに続いてカリオンさんまで……。
どうして皆、俺を足手まといのように扱うんだろう。
魔力が無いというのは、こうも他人にとって弱く映るものなのか。
でも、今回に限っては意地でもついていく。
俺が役立たずじゃないって、金級冒険者に証明してみせる。
「不服……みたいだな」
「はい。 俺だって、力になれます」
「あのドルフさんがやられた相手だ、その危険度は測り知れない。 命を賭してまで、俺に付き合う必要はないだろう」
「じゃあ、カリオンさんはどうしてそこまでするんです?」
そう言うと、カリオンさんは一瞬だけ黙った。
しかし考えを決心したのか、すぐにその気持ちを吐き出してくれた。
「俺にはドルフさんに恩がある。 そしてドルフさんはあの町……ノトスが好きだった。 だから、恩を返すためにあの町を守れることをする。 単純なことだ」
――自分以外の為に戦える。
理想の冒険者っていうのはこういう人の事を言うんだろうな。
自分も、そうなりたい。
だからこそ、なおさら俺はここで逃げてはいけないんだ。
「覚悟は決まっているようだな……なら、止めはしない」
「ありがとうございます。 精一杯役立たせてください」
「ふっ、銀級風情が生意気な口を聞くようになったじゃないか」
そう言うカリオンさんはどこか嬉しそうだった。
一瞬でも、自分が金級に認められたように思えてしまう。
「急ぐぞ、奴がいつまでこの町に留まっているのかもわからん。 限られた時間でできるだけ情報を収集する」
「了解です!」
俺たちは闇夜を裂くように、ゴートヘイムの水路へと向かった。
そう、この時はまだ知る由もなかったんだ。
自分の理解が、どれだけ浅かったかって事が――。
ゴートヘイム・マルレーン城
ノトスギルドマスター・ドルフは、王都南部リベルタスの筆頭統治者である、トラゴス・マルレーンの居城へと招集されていた。
広大な荘園が続くマルレーン領の中に、堀に囲まれた城塞都市がある。
王都をそのままスケールダウンしたような都市で、城は町全体を見渡せるよう都市の中心部に作られていた。
ドルフは供もつけず、一人で謁見の間へと赴く。
巨大な両開きの門が開く。
壁に掛けられた黄金の山羊の旗。
床一面に敷き詰められた豪華な繊維の赤い絨毯。
正面の玉座には、黄金の山羊の鎧をまとったトラゴスが鎮座している。
相対するドルフもまた、全身をミスリルの鎧で固め、背中には自身の象徴とも言える巨大な戦斧を担いでいた。
「お久しぶりですトラゴス卿。緊急の招集を受けこのドルフ馳せ参じました」
ドルフは静かに告げるが、トラゴスは微動だにしない。
その表情もまた、山羊の兜に隠されており真意は探れない。
「……」
辺りには他の人影は見られない。
広大な空間に漂う大きな違和感と静寂。
ドルフは静かに戦斧に手をかける。
それと同時に、謁見の間の門が大きな音を上げて閉じた。
ドルフの首筋を冷や汗が伝い――落ちる。
すると、それまで静寂を貫いていたトラゴスが静かに立ち上がった。
「ようこそ、白金級冒険者ドルフ。 ここに呼ばれた理由はわかっているな?」
そう言いながらトラゴスは、傍らに立てかけてあった黄金のハルバードに手を伸ばした。
「トラゴス卿……既にか」
ドルフは戦斧を手に取り、そのまま大きく間合いを詰め……。
――振りかぶった。
火花が上がる。
豪風をまき散らしながら放たれたドルフの一撃は、広間一帯の装飾物を吹き飛ばし、トラゴス目掛けて正確に振り下ろされていた。
「こんなものか……」
「……ッ!」
しかし、トラゴスはこれを片手で振るったハルバードで弾き飛ばした。
ドルフはすぐさま態勢を立て直し、再び距離を取った。
手にした戦斧により力が込められていく。
「凄まじい力だが、刺し違えてでも――」
踏み込もうとした瞬間、トラゴスの後ろから禍々しい影が幾つも現れた。
その状況に、ドルフは思わず苦笑いを浮かべる。
「なんだぁ……白金級と聞いて期待してたんだが……この程度かぁ……」
大きな翼を持つ影から低い女の声が響く。
「つまらん。この程度では俺が出る価値もない」
一際大きなシルエットを持つ影が低い声で呟いた。
「皆さん油断しすぎとちゃいますの? まだ全力を出させたわけでもないのに……キヒヒ」
大きな笠を被った影が呟いた。
「うむ……ここは万全を期して、全員でかかるべきであろうな」
ぬるりと揺らめく影は、やや臆病そうに声を上げる。
「万事休すか……」
更に現れた四体の強者を前に、大きく表情をゆがめた。
しかし、戦斧を握る手の力だけは決して緩めなかった。
「ほう、向かってくるか。 その意気や良し」
トラゴスは満足そうに笑うと、再びハルバードを構え直した。
「魔族共が……」
ドルフは自身を囲む五つの影に対し、果敢に立ち向かっていく。
「人間を――舐めるなッ!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――ラルゴさんと別れてから一日。
ゴートヘイム近郊にたどり着いた僕たちは、カリオンさんの案で、町を一望できる南の丘で野営をしていた。
ここにたどり着いたのは早朝だった。
それからカリオンさんはずっと町を望遠鏡で眺め続けている。
それに対して自分がやったことといえば、野営に必要な物を集めるだの、寄ってきた非力な魔物を追い払うだの、雑用もいいところだ。
「カリオンさん、そろそろ夕食ですが……乾燥肉、少し焼きましたよ」
「要らん」
「え、一日中何も食べてないでしょう? 倒れますって」
「……俺は倒れない。 それはお前が食え。 ただ痕跡は残すな」
食事やトイレにも行かずずっと同じ姿勢のまま……。
凄まじい集中力……自分には到底できそうもない。
邪魔するのもあれだし……俺は自分で焼いた肉を一口頬張った。
(うん……美味くできてる。 これだけはトライスタの中でも胸を張れる)
そうしてる間も、カリオンさんは一切ぶれることなく町を監視し続けている。
ここまでストイックだと流石にちょっと怖いな……。
俺はこの静寂が気持ち悪くて、思わずカリオンさんに問いかけた。
「どうですか……様子の方は?」
「変わらずだ。跳ね橋は上がったまま、人の往来もない。それに、城壁の上の兵士の影は見えるのに、全く動きがない。俺の知っているゴートヘイムからは考えられない有様だ」
「それはまた……おっかないですね……」
そうは言ってみたものの、本当のゴートヘイムの姿を僕は知らない。
今まで僕がやったことと言えば、野営の準備に、寄ってきたひ弱な魔物の追い払い――
自分で言っていても、誇れる仕事じゃない。
……気づけばもう夕日が差し始めている。
ラルゴさん達は今頃どうしているだろうか?
シャーヴィスとアニーは今何をしているのだろうか?
考えれば考えるほど、このままじっとしているのがもどかしい。
「あの……カリオンさん、何時になったらゴートヘイムに入るんです?」
その時だった。
「……!」
カリオンさんの、今までにない反応。
髪で隠れている目がひときわ見開かれているような、そんな感じだった。
「南門が開いたぞ、見ろ」
そう言ってカリオンさんは、望遠鏡で覗き込めと促してくる。
言われるがまま、跳ね橋が降りる先、南の街道に目を凝らす。
そこには馬に跨る一人の男の人がいた。
遠目からでもわかる巨体に、 白髪交じりの短髪。
「あれは……ドルフさん!?」
「ああ、当然偽物だろうが」
偽ドルフさんは招き入れられるように町の中に入っていった。
そしてまた、何事もなかったかのように跳ね橋が上がる。
「つい先日までノトスにいたはずじゃ?」
「ああ、胡散臭いことこの上ないな」
そう言いながらカリオンさんは、素早く身支度を整え始めた。
「どうするんです? 中に入ろうにも、門は閉まっていますし……」
「近くの川のそばに、町の地下につながる水路がある。 ここなら警備も薄いだろう」
「なるほど、では急ぎましょう!」
「いや……」
そう言ってカリオンさんはこっちに振り返った。
「危険すぎる。 君はここで、町の監視を続けてくれ」
まただ。
ラルゴさんに続いてカリオンさんまで……。
どうして皆、俺を足手まといのように扱うんだろう。
魔力が無いというのは、こうも他人にとって弱く映るものなのか。
でも、今回に限っては意地でもついていく。
俺が役立たずじゃないって、金級冒険者に証明してみせる。
「不服……みたいだな」
「はい。 俺だって、力になれます」
「あのドルフさんがやられた相手だ、その危険度は測り知れない。 命を賭してまで、俺に付き合う必要はないだろう」
「じゃあ、カリオンさんはどうしてそこまでするんです?」
そう言うと、カリオンさんは一瞬だけ黙った。
しかし考えを決心したのか、すぐにその気持ちを吐き出してくれた。
「俺にはドルフさんに恩がある。 そしてドルフさんはあの町……ノトスが好きだった。 だから、恩を返すためにあの町を守れることをする。 単純なことだ」
――自分以外の為に戦える。
理想の冒険者っていうのはこういう人の事を言うんだろうな。
自分も、そうなりたい。
だからこそ、なおさら俺はここで逃げてはいけないんだ。
「覚悟は決まっているようだな……なら、止めはしない」
「ありがとうございます。 精一杯役立たせてください」
「ふっ、銀級風情が生意気な口を聞くようになったじゃないか」
そう言うカリオンさんはどこか嬉しそうだった。
一瞬でも、自分が金級に認められたように思えてしまう。
「急ぐぞ、奴がいつまでこの町に留まっているのかもわからん。 限られた時間でできるだけ情報を収集する」
「了解です!」
俺たちは闇夜を裂くように、ゴートヘイムの水路へと向かった。
そう、この時はまだ知る由もなかったんだ。
自分の理解が、どれだけ浅かったかって事が――。
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