16 / 24
―第1章:リベルタス騒乱―
第14話:潜入・ゴートヘイム
しおりを挟む
水路へ向けて駆け出してから、ほんの数分。
目の前に広がった水堀の巨大さに、俺は思わず息を呑んだ。
「……これ、どうするんです? 城壁、全然近づけないじゃないですか」
夕日が沈みかけ、堀の水面は墨みたいに黒い。
その向こうにそびえる城壁は、ただでさえ高いのに、影のせいでさらに威圧感を増している。
カリオンさんは俺の不安をよそに、堀の外側をぐるりと見回した。
「……こっちだ」
短く言って、草むらの斜面へずかずかと降りていく。
俺にはただの茂みにしか見えない場所だ。
「え、そっち行くんですか!? 道なんて――」
「あるさ。昔は城壁の補修足場が組まれていた。支柱の跡が残ってる」
言われてよく見れば、草の中に木片のようなものが埋まっていた。
「カリオンさん、よくこんなの見つけられますね……」
「風と地面の状態が不自然だった。誰も歩いてない場所は静かすぎるんだよ」
正直、説明されてもよくわからなかった。
俺はただ必死に後ろを追っていく。
斜面を滑り降りると、堀の縁に出た。
そこには、幅三十センチほどの――踏み外したら即・水堀に落ちる狭い石の縁があった。
「ここ……歩くんですか?」
「歩け。ここで落ちるようなら、この先は俺一人で行く」
確かに、こんなところでつまずいていては先が思いやられる。
そんなことを考えていると、カリオンさんは壁に片手を添えてスッと立ち上がった。
「落ちるなよ。こういう細い道は、呼吸と歩幅を一定にする。それだけ覚えておけ」
そう言って、狭い縁を一瞬のぶれもなく進んでいく。
「……っ、わ、わかりました! 頑張ります!」
俺も慌てて続く。
すぐ横は深い暗い水堀。
一歩踏み出すたびに足が震える。
でも──ここで遅れたら、本当に“置いていかれる”。
自分でも驚くほど強い意地が、背中を押してくれた。
それから、狭い縁を必死で歩ききった俺たちは、水堀と城壁のわずかな隙間……その陰にある、ひっそりとした石枠の穴にたどり着いた。
「……ここが、水路の入り口ですか?」
声を潜めて尋ねると、カリオンさんは小さく頷き、壁に触れた。
乾いた石のはずなのに、その触れ方はまるで生き物の呼吸を探るように慎重だ。
「昔の排水路だ。今は城下水路に繋がっているが……本流じゃない。巡回もいない。使える」
そう言って、指先で古い石枠を押す。
ギィ……と、苔の奥から鉄の軋む音がした。
隠し扉、とまではいかなくとも、外から見てわからないように工夫された小さな排水穴だった。
「俺が先に行く。足を滑らせるなよ」
先導するカリオンさんは、ためらいもなく闇の口の中へ。
俺は喉を鳴らし、続いた。
中は、急に温度が下がったようにひんやりとしていた。
夕暮れの光が背後から細い穴を通じて差し込み、水面に揺らめいている。
壁の模様がその明かりに照らされ、ゆらゆらと幽霊みたいに踊っている。
「……わ、わりと怖いですね、ここ」
「静かに。音が響く」
足元には幅一メートルほどの水路が続いていた。
真ん中には浅い流れ。左右の細い通路を歩けるが、濡れた苔が滑りやすい。
「カリオンさん、この水……けっこう速いですね。大丈夫なんです?」
「逆流していないなら問題ない。町中からの排水だろう。もし逆流していたら……そのときは、逃げろ」
口調から、それが冗談じゃないのが伝わってきた。
俺は何度も足を滑らせかけ、そのたびに壁に手をついて体勢を保ちながら先へ進む。
対して、カリオンさんは一度もよろけない。
水音と壁のくぐもった響きの中で、彼の足音だけが一定のリズムを刻んでいる。
「――止まれ」
突然、カリオンさんが片手を上げた。
同時に俺は足を止める。
目の前の水路が、縦に落ちるように深くなっていた。
急な段差。底は見えない。
「なんですかこれ……?」
「城下の“合流点”だな。落ちたらまず助からない。こっちへ行こう」
カリオンさんは壁の出っ張りに足をかけ、狭い側道のような場所に身を滑らせる。
俺も慎重に続く――が、足が震えた。
「うっ……無理、落ちそう……」
「腰を引くな。それでは余計危ない。重心を壁に寄せろ。足は壁と平行に――そうだ、そのまま」
的確すぎる指示に助けられ、なんとか通過。
「ふぅ……」
「気を抜くな。ここから先は暗くなる」
そこからの水路は、夕日の明かりがまったく届かない領域に入っていた。
空気が変わった。
匂いが重い。
天井が低く、壁の湿り気も増している。
「カリオンさん、これ……城壁の下、ですよね?」
「そうだ。……そしてこの先は、城の地下だ」
水路が二手に分かれていた。
片方は、上へ続く石造りの階段――古いが、手入れされた痕跡がある。
もう片方は、水気が濃く、底の見えない暗闇へと吸い込まれるような“下り階段”。
俺は無意識に息を呑んだ。
「……上に行きますよね?」
「そのとおりだ。勘は悪くないな」
珍しくカリオンさんに褒められた。
そうして先を進むカリオンさんの後を、俺も急いで続いた。
気を抜けば滑って足を踏み外してしまいそうになるが、幸い、ここに来るまでになんとなく感覚が掴めた。
そうして登り続けていると、やがて階段の最上段に小さな鉄扉が現れた。
固く閉ざされてはいるが、何度か使われた形跡が見られる。
「この奥ですか……」
「ああ。鍵穴はない、ということは“押し扉”だな」
そう言って、カリオンさんは扉に片手を当てる。
耳を澄まし、内部の音を探るように数秒の沈黙。
「空気が動いてない。中に人はいないようだ」
そう言ってカリオンさんが軽く押すと、ギィ……と低い音を立てて扉が開いた。
俺たちの前に広がったのは――
薄暗い石造りの地下回廊。
壁に沿って等間隔に灯る松明が弱々しい光を放ち、長い影を床に落としている。
「ここから先は、完全に城の内部だ」
「……い、いよいよ本番ですね」
「気を抜くな。足跡は……よし、まだ誰も通ってない。巡回もいない」
カリオンさんは低い姿勢のまま進み、壁に残った細かな傷の跡まで確認していた。
俺も慌てて後を追う。
どこか遠くから水音が響いているが……さっきの水路とは違う、静かな音だ。
「ここから上へ出れば、城の下層区域だ。……何が待っているかは分からん。だが、遅れたら置いていく。それだけは覚悟しておけ」
「……っ、了解です。絶対離れません!」
城の地下回廊を曲がりながら、俺たちは息を殺して進んだ。
やがて――カリオンさんが急に片手を挙げた。
その場で、ぴたりと停止。
「……来るぞ。二人」
囁く声は風より静かだった。
俺が反応するより早く、カリオンさんは壁の陰に体を寄せる。
次の瞬間、鎧のこすれる低い音。
角を曲がってきたのは、金色の鎧を身に纏った騎士。
二人とも無感情のままこちらへ歩いてくる。
装備だけ見ても、並の冒険者とは比較にならないのがわかった。
思わず息を吞む――その刹那。
ヒュッ
音にならない音。
カリオンさんの体が霞のように動き、
一人目の騎士の喉元に“手刀”が吸い込まれる。
「……っ!」
鎧の隙間を正確に突いたその一撃で、騎士は膝から崩れ落ちる。
続けざま、二人目は剣を振り抜こうとするが――
ガシッ。
カリオンさんは抜き放とうとする騎士の手を素早く抑えた。
そのまま手首を極め、背中側へ静かに倒す。
床に倒れた瞬間も、ほとんど音がしなかった。
俺が呆然としていると、カリオンさんは淡々と騎士の意識を確認し出した。
「妙だな……」
「え……?」
「弱すぎる……やはり様子がおかしい」
言いながら、カリオンさんは倒した騎士の身体を端に寄せる。
そこから、カリオンさんは露骨にペースを上げて進み始める。
俺は慌てて後ろを追うが、だんだん距離が離されてしまっていた。
(さっきまでのは本気じゃなかったのか)
そんな事を思いながら、暗い石廊下へ踏み込んだ。
その時――
空気が変わった。
鉄の錆、湿った藁、古い血の匂い。
明らかに“牢屋”の空気だ。
カリオンさんは俺から距離を置いたまま、流れるように進んでいく。
やがて――ある牢の前で、完全に動きを止めた。
「――ッ!」
その視線の先。
鉄格子の向こう。
そこには、巨体がぐったりと壁にもたれかかって座っている。
あのシルエットは……。
「……ドルフさん!!」
俺の心配などよそに、カリオンさんは素早く駆け寄っていく。
そこには先ほどまでの冷静さはない。
「ドルフさん! 今助けます!」
強く呼びかけるも、返事はない。
カリオンさんは扉の鍵を確認し、滑らかな手つきで牢を開いた。
そのまま中へ入り、ドルフさんだと思われる影をゆっくりと抱え起こす。
その時だった。
――ぽたり。
水滴の音が、天井から響いた。
「……ッ――」
カリオンさんが一瞬、"声を出すな"とこちらを一瞥する。
そのまま、腰の短刀を抜き低く構えた。
その視線の先――闇が、ゆっくり“形”を持ちはじめる。
――にゅるん。
水が集まるような音。
液体が立ち上がるような動き。
そして――
半透明の青白い肉体。
人型のシルエット。
頭部と思わしき場所から伸びる液体状の長い触覚。
「……ヒト型の……スライム……?」
カリオンさんの声は、かすかに震えていた。
「おやおや……どこからか鼠が紛れ込んだみたいですねぇ」
スライムは俺に気づく様子もなく、ピチャピチャと水の這う音を響かせながら歩を進めていく。
「液体が喋っている……」
それがにじり寄るにつれ、カリオンさんから静かに殺気が立ち上っていく。
――ただならぬ緊張が、牢屋の空気を支配した。
目の前に広がった水堀の巨大さに、俺は思わず息を呑んだ。
「……これ、どうするんです? 城壁、全然近づけないじゃないですか」
夕日が沈みかけ、堀の水面は墨みたいに黒い。
その向こうにそびえる城壁は、ただでさえ高いのに、影のせいでさらに威圧感を増している。
カリオンさんは俺の不安をよそに、堀の外側をぐるりと見回した。
「……こっちだ」
短く言って、草むらの斜面へずかずかと降りていく。
俺にはただの茂みにしか見えない場所だ。
「え、そっち行くんですか!? 道なんて――」
「あるさ。昔は城壁の補修足場が組まれていた。支柱の跡が残ってる」
言われてよく見れば、草の中に木片のようなものが埋まっていた。
「カリオンさん、よくこんなの見つけられますね……」
「風と地面の状態が不自然だった。誰も歩いてない場所は静かすぎるんだよ」
正直、説明されてもよくわからなかった。
俺はただ必死に後ろを追っていく。
斜面を滑り降りると、堀の縁に出た。
そこには、幅三十センチほどの――踏み外したら即・水堀に落ちる狭い石の縁があった。
「ここ……歩くんですか?」
「歩け。ここで落ちるようなら、この先は俺一人で行く」
確かに、こんなところでつまずいていては先が思いやられる。
そんなことを考えていると、カリオンさんは壁に片手を添えてスッと立ち上がった。
「落ちるなよ。こういう細い道は、呼吸と歩幅を一定にする。それだけ覚えておけ」
そう言って、狭い縁を一瞬のぶれもなく進んでいく。
「……っ、わ、わかりました! 頑張ります!」
俺も慌てて続く。
すぐ横は深い暗い水堀。
一歩踏み出すたびに足が震える。
でも──ここで遅れたら、本当に“置いていかれる”。
自分でも驚くほど強い意地が、背中を押してくれた。
それから、狭い縁を必死で歩ききった俺たちは、水堀と城壁のわずかな隙間……その陰にある、ひっそりとした石枠の穴にたどり着いた。
「……ここが、水路の入り口ですか?」
声を潜めて尋ねると、カリオンさんは小さく頷き、壁に触れた。
乾いた石のはずなのに、その触れ方はまるで生き物の呼吸を探るように慎重だ。
「昔の排水路だ。今は城下水路に繋がっているが……本流じゃない。巡回もいない。使える」
そう言って、指先で古い石枠を押す。
ギィ……と、苔の奥から鉄の軋む音がした。
隠し扉、とまではいかなくとも、外から見てわからないように工夫された小さな排水穴だった。
「俺が先に行く。足を滑らせるなよ」
先導するカリオンさんは、ためらいもなく闇の口の中へ。
俺は喉を鳴らし、続いた。
中は、急に温度が下がったようにひんやりとしていた。
夕暮れの光が背後から細い穴を通じて差し込み、水面に揺らめいている。
壁の模様がその明かりに照らされ、ゆらゆらと幽霊みたいに踊っている。
「……わ、わりと怖いですね、ここ」
「静かに。音が響く」
足元には幅一メートルほどの水路が続いていた。
真ん中には浅い流れ。左右の細い通路を歩けるが、濡れた苔が滑りやすい。
「カリオンさん、この水……けっこう速いですね。大丈夫なんです?」
「逆流していないなら問題ない。町中からの排水だろう。もし逆流していたら……そのときは、逃げろ」
口調から、それが冗談じゃないのが伝わってきた。
俺は何度も足を滑らせかけ、そのたびに壁に手をついて体勢を保ちながら先へ進む。
対して、カリオンさんは一度もよろけない。
水音と壁のくぐもった響きの中で、彼の足音だけが一定のリズムを刻んでいる。
「――止まれ」
突然、カリオンさんが片手を上げた。
同時に俺は足を止める。
目の前の水路が、縦に落ちるように深くなっていた。
急な段差。底は見えない。
「なんですかこれ……?」
「城下の“合流点”だな。落ちたらまず助からない。こっちへ行こう」
カリオンさんは壁の出っ張りに足をかけ、狭い側道のような場所に身を滑らせる。
俺も慎重に続く――が、足が震えた。
「うっ……無理、落ちそう……」
「腰を引くな。それでは余計危ない。重心を壁に寄せろ。足は壁と平行に――そうだ、そのまま」
的確すぎる指示に助けられ、なんとか通過。
「ふぅ……」
「気を抜くな。ここから先は暗くなる」
そこからの水路は、夕日の明かりがまったく届かない領域に入っていた。
空気が変わった。
匂いが重い。
天井が低く、壁の湿り気も増している。
「カリオンさん、これ……城壁の下、ですよね?」
「そうだ。……そしてこの先は、城の地下だ」
水路が二手に分かれていた。
片方は、上へ続く石造りの階段――古いが、手入れされた痕跡がある。
もう片方は、水気が濃く、底の見えない暗闇へと吸い込まれるような“下り階段”。
俺は無意識に息を呑んだ。
「……上に行きますよね?」
「そのとおりだ。勘は悪くないな」
珍しくカリオンさんに褒められた。
そうして先を進むカリオンさんの後を、俺も急いで続いた。
気を抜けば滑って足を踏み外してしまいそうになるが、幸い、ここに来るまでになんとなく感覚が掴めた。
そうして登り続けていると、やがて階段の最上段に小さな鉄扉が現れた。
固く閉ざされてはいるが、何度か使われた形跡が見られる。
「この奥ですか……」
「ああ。鍵穴はない、ということは“押し扉”だな」
そう言って、カリオンさんは扉に片手を当てる。
耳を澄まし、内部の音を探るように数秒の沈黙。
「空気が動いてない。中に人はいないようだ」
そう言ってカリオンさんが軽く押すと、ギィ……と低い音を立てて扉が開いた。
俺たちの前に広がったのは――
薄暗い石造りの地下回廊。
壁に沿って等間隔に灯る松明が弱々しい光を放ち、長い影を床に落としている。
「ここから先は、完全に城の内部だ」
「……い、いよいよ本番ですね」
「気を抜くな。足跡は……よし、まだ誰も通ってない。巡回もいない」
カリオンさんは低い姿勢のまま進み、壁に残った細かな傷の跡まで確認していた。
俺も慌てて後を追う。
どこか遠くから水音が響いているが……さっきの水路とは違う、静かな音だ。
「ここから上へ出れば、城の下層区域だ。……何が待っているかは分からん。だが、遅れたら置いていく。それだけは覚悟しておけ」
「……っ、了解です。絶対離れません!」
城の地下回廊を曲がりながら、俺たちは息を殺して進んだ。
やがて――カリオンさんが急に片手を挙げた。
その場で、ぴたりと停止。
「……来るぞ。二人」
囁く声は風より静かだった。
俺が反応するより早く、カリオンさんは壁の陰に体を寄せる。
次の瞬間、鎧のこすれる低い音。
角を曲がってきたのは、金色の鎧を身に纏った騎士。
二人とも無感情のままこちらへ歩いてくる。
装備だけ見ても、並の冒険者とは比較にならないのがわかった。
思わず息を吞む――その刹那。
ヒュッ
音にならない音。
カリオンさんの体が霞のように動き、
一人目の騎士の喉元に“手刀”が吸い込まれる。
「……っ!」
鎧の隙間を正確に突いたその一撃で、騎士は膝から崩れ落ちる。
続けざま、二人目は剣を振り抜こうとするが――
ガシッ。
カリオンさんは抜き放とうとする騎士の手を素早く抑えた。
そのまま手首を極め、背中側へ静かに倒す。
床に倒れた瞬間も、ほとんど音がしなかった。
俺が呆然としていると、カリオンさんは淡々と騎士の意識を確認し出した。
「妙だな……」
「え……?」
「弱すぎる……やはり様子がおかしい」
言いながら、カリオンさんは倒した騎士の身体を端に寄せる。
そこから、カリオンさんは露骨にペースを上げて進み始める。
俺は慌てて後ろを追うが、だんだん距離が離されてしまっていた。
(さっきまでのは本気じゃなかったのか)
そんな事を思いながら、暗い石廊下へ踏み込んだ。
その時――
空気が変わった。
鉄の錆、湿った藁、古い血の匂い。
明らかに“牢屋”の空気だ。
カリオンさんは俺から距離を置いたまま、流れるように進んでいく。
やがて――ある牢の前で、完全に動きを止めた。
「――ッ!」
その視線の先。
鉄格子の向こう。
そこには、巨体がぐったりと壁にもたれかかって座っている。
あのシルエットは……。
「……ドルフさん!!」
俺の心配などよそに、カリオンさんは素早く駆け寄っていく。
そこには先ほどまでの冷静さはない。
「ドルフさん! 今助けます!」
強く呼びかけるも、返事はない。
カリオンさんは扉の鍵を確認し、滑らかな手つきで牢を開いた。
そのまま中へ入り、ドルフさんだと思われる影をゆっくりと抱え起こす。
その時だった。
――ぽたり。
水滴の音が、天井から響いた。
「……ッ――」
カリオンさんが一瞬、"声を出すな"とこちらを一瞥する。
そのまま、腰の短刀を抜き低く構えた。
その視線の先――闇が、ゆっくり“形”を持ちはじめる。
――にゅるん。
水が集まるような音。
液体が立ち上がるような動き。
そして――
半透明の青白い肉体。
人型のシルエット。
頭部と思わしき場所から伸びる液体状の長い触覚。
「……ヒト型の……スライム……?」
カリオンさんの声は、かすかに震えていた。
「おやおや……どこからか鼠が紛れ込んだみたいですねぇ」
スライムは俺に気づく様子もなく、ピチャピチャと水の這う音を響かせながら歩を進めていく。
「液体が喋っている……」
それがにじり寄るにつれ、カリオンさんから静かに殺気が立ち上っていく。
――ただならぬ緊張が、牢屋の空気を支配した。
0
あなたにおすすめの小説
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる