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―第1章:リベルタス騒乱―
第16話:真実Ⅰ
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第16話:真実Ⅰ
青空の下、人気の無いノトス海岸の砂浜で俺たちは向かい合っている。
グレアが口を開いた瞬間、演目を待ちわびていた聴衆のように潮風と波音が止んだ。
「率直に言おうラルゴ。君は今非常に危険な状態にある」
「危険……」
度重なる力の暴走。
俺と、俺の中の何かの主導権の交代。
大きな力の裏返しとばかりに、その頻度は日に日に早くなっている。
「ラルゴ、初めに君を見た時に確信したのだが、君の中には高位魔族……或いはそれ以上の魂が息づいている。ひとつの身体にふたつの魂、通常ならば考えられないことだ」
「高位魔族? 魂?」
「ふむ……まずはそこからか。 では逆に私から問おう。 君達冒険者は何の為に存在している?」
そう言われると、改めて考えさせられる。
俺が冒険者になったキッカケは母の仇を探すためだ。
しかし、冒険者として長い時間を過ごしているうちに、この職業で出来る幅が広すぎて、何の為と言われると難しい。
だが、その中で今までの活動の中で最も占めていたことといえば……。
「湧き出る魔物共から戦えない人たちを守ってる」
「ふむ……末端構成員にとってはその程度の認識なのだな」
「末端だぁ? 仮にも元金級だぞ!?」
「しかし私達にとって当たり前の知識が根付いていないではないか。 ふむ……この事から察するに、意図的に伏せられていると考えるほうが賢明か……」
そう言いながらグレアは考え始めた。
「私が思っていた以上に、冒険者というのは認識が浅いらしい。それとも私がまだ観測していないだけで別の機構が存在するのやも……いや、それは一旦置いておこうか」
「ひとりでぶつくさ言ってないで俺にもわかるように頼む」
「ついでに私にもわかるようにお願いします!」
「はぁ……順を追って説明しよう。ラルゴ、君たちは人間、違いないね?」
「何を藪から棒に……」
「そして私は魔族だ」
魔物とは違う、聞きなれない言葉だ。
「魔族とは、魔王の眷属で且つ会話が成立するもの……そう私たちは定義づけていた。 そして魔物とは、会話が成立しない者達のことを指す」
「待ってくれ、魔王って言ったか? そんなもん教団のありがたいご高説でしか聞いたことがない」
「ふむ、ならばその教団とやらが意図的に隠しているのだろうな。 過剰な隠蔽が齎した結果がこれとは……まったく皮肉なものだ」
「ひとりで納得してんじゃねぇよ。 つまりグレアは、魔王の眷属で……俺の中にもそれに近い魂ってのがあるってことか?!」
「如何にも。だが、魔族というのはそもそも、人間達にとっては同じ世界にいてはいけないものなのだ」
「危険だからか?」
「ラルゴの言う教団のご高説がどのような内容かは後で確かめるとして、私たちは太古の昔にこの世界から追放された存在だと認識している」
「追放? どこにだ?」
そう言うと、グレアは複雑な面持ちで俺を見据えてくる。
「魔界・パラレリア。かつて勇者とその仲間達が、魔王を追放する為に生み出した世界」
「ちょっとスケールが大きすぎて何が何だか……」
「では今いる世界はどこだ?」
「ミドラシア……だったか?」
「当たり前に存在している世界の名前などいちいち気にも止めないか。 だが、私達魔族にとっては悲願の地でもある」
「仮にそうだとしてだ……お前たちはどうやってこっちの世界に来たんだよ?」
「過去の封印の綻びか、不定期に開く世界の門を通ってこちらに来たまでだ」
「そ、そういうこともあるんだな……」
わけのわからないことばかりで頭がパンクしそうだが、グレアが語る情報はどれもギルドでは聞いたこともない未知の知識ばかりだ。
「面倒だから一気に言うぞ。 まず、我々魔族が済む魔界とこの現界では、大気を構成する魔法の源・マナの質が違う。 我々は本来、魔王を源とする闇のマナ、通称ノクスマナがなければ存在を保てず消滅してしまう」
「じゃあ、お前たちはなんで無事なんだよ」
そう問いかけた瞬間、モルニアはさも嬉しそうに声を上げた。
「よくぞ聞いてくれました! なんと、その問題さえも先生は克服してしまったのです!」
「……というわけだ」
「わけだじゃなくて、ちゃんと教えてくれよ」
「ククク……」
(めんどくせぇ……絶対説明したいだけだろ……)
「方法は複数ある。1つはノクスマナの流出を抑える方法。要は自身の消耗を抑えることで存在を保つことで、私が使っている手法もこれに近いものだ」
「裏を返せば、グレア達はそれをしないと消滅しちまうってことで間違いないな?」
「如何にも。そして2つめは、定期的にノクスマナを補充すること。そしてラルゴ、これは君を救う最も簡単な手段でもある」
「補充……ん? そういえば、レイジーの、低級の冒険者に破格の条件で危険な依頼を受けさせていたな……そしてあの変貌したマンドランに、あの坑道の人骨……そういうことか!」
俺のリアクションに満足したのか、グレアは満足そうに頷いた。
「そう。それこそが、他者を己が糧とする魔族特有の本質だ」
「じゃあ俺達が戦っていたのは……」
「うむ、他の派閥の魔族だろうな。そしてここが肝心の3つめだ」
グレアはわかりやすく咳払いをした。
「器を用意する」
「器?」
「要は現界における魂の容れ物だ。これにより自発的にノクスマナを生み出せるうえ、力を行使する際のデメリットもない」
「器になった方の自我はどうなる?」
「自我、私たちはそれを魂と呼んでいるが……大抵は魔族の魂の方が強く、そちらに上書きされてしまうだろうな。だが、器側が勝つ、もしくは共存できるケースもあると聞く」
「なら、今の俺はまさに、上書きされそうな状態だってことか。なら、俺の自我が強ければ、逆にあいつを上書きできると?」
グレアは小さく首を振った。
「恐らく難しいだろうな、魂側がそれを望んでいない。まともな魂の強度でいえばラルゴ、君の勝ち目は皆無だ」
「なんでそう言い切れる? やってみなねぇとわからねぇだろうが」
「この圧倒的格上な私が直接対話をしたのだ、君が眠っている間にな。 どうやらあの魂は、君に非常に有効的な感情を抱いているようだが」
「それならなぜ、こうも俺を焚きつける? 本当は勧誘したいから命の危機なんて適当でっちあげただけじゃねぇのか?」
すると、突然モルニアが叫んだ。
「ラルゴさん!」
――バチン!
「ぐっ!?」
いきなり平手打ちされ、視界がぐるぐると回る。
びりびりと痺れ、脳まで麻痺してきているような錯覚を覚えた。
「やりすぎだぞモルニア。 ラルゴも焦っているんだ、これくらいの無礼はなんともない」
「ですが! 先生のせっかくの善意を侮辱するなんて許せないです!」
二人の反応を見る限り、俺の命が依然として危ないというのは間違いないようだ。
そしてこの二人が、本当に善意から俺を助けようとしていることも。
「すまない、グレアの言うとおりだ。いくら焦ってるからって言っていいことと悪いことの判断もつかねぇってのは情けねぇよな……」
「知恵あるもの、過去の過ちは糧にし、未来への教訓にすればいいのです! ラルゴさん、話せばわかると思ってました!」
そんなにモルニアとは話もしてねぇし一方的にはたかれただけの気がするが、凄まじい切り替えの速さだ。
「まあ、話は最後まで聞きたまえ。 ラルゴ、如何に君の中の魂が友好的だからといっても、限界がある」
「限界?」
「そう。覚醒とともに絶え間なく進化を続ける君の中の魂に対して、器の方が追いついていないのだ。このままでは共倒れになってしまう。そしてそれを防ぐために、器である君自身が他者を糧に成長しないといけないわけだ」
「だが、俺は奴らみたいに他の人間を餌になんてするつもりはねぇぞ……」
「クク……いるじゃないか、格好の獲物が……」
グレアは怪しく笑った。
「今君達の世界を脅かそうとしている魔族を喰らい、強くなりたまえ。君にはその力がある」
一瞬、胸の奥がざらついた。
“他者を喰って強くなる”という発想そのものが、どうしようもなく嫌悪感を伴う。
だが――相手が、今この世界を食い荒らそうとしている連中だというのなら。
「……なるほど、それなら悪くねぇや。もちろん、手は貸してくれるんだよな?」
「無論だ。早期に対応できるよう目星もつけてある」
そうグレアがつぶやいた瞬間、作業小屋の中から妙な音が鳴り響いた。
――ビービー!
「先生!」
「うむ、噂をすればだな」
作業小屋の中に駆け込む二人を慌てて追う。
すると、二人は机の上に置いてある光る石板のようなものを食い入るように見つめていた。
よく見れば近辺の地図が映し出されており、その北部で赤く光る点がゆっくりと動いている。
「これは?」
「私が発明した追跡装置だ。君が使っていた大盾に取り付けてある。これを追えば敵勢力にたどり着けるはずだ」
いわれて気づく。
ラスターイージスが手元に無いことに。
あれはラスターの象徴で仲間たちとの大切な絆だ、まさか置き去りにしてしまうとは。
「すいません、さすがにあんな重いものとラルゴさんを同時に運ぶのは私には無理でした!」
「……助けてもらった手前文句は言えねぇよ。それに、これを追えば取り返せるんだろう?」
「そのとおりだ。だが、敵の全貌を捉えたわけではない。今わかっているのは、奴らの拠点がゴートヘイムという町にあるというところまでだな」
その言葉通り、よく見れば赤い点はゴートヘイムから動き出し、南下している。
「いや待て、カリオンとウィルはどうなった? いや、そもそも俺はどれだけの間眠っていたんだ!?」
「んー、この世界で言うと3日くらいですかね?」
「3日!?」
なんということだ。
カリオン達とは、精々遅くても1日後にはコルノで落ち合う予定だった。
それに偵察とはいえ敵の本拠地に向かったんだ、何もなかったとはとても言い切れない。
この時間のロスは余りにも重すぎる。
「くそっ! どうしたらいい、ノトスからゴートヘイムじゃ、馬を使ったって1日はかかるぞ!」
「うーむ、どうやら敵はこのゴートヘイム南の町を狙っているようだ」
「ゴートヘイムに最も近い町となると……コルノか! なおさら時間が足りない」
「そう焦るな、策はある」
そう言ってグレアは外に出る。
そして、おもむろに指笛を吹いた。
静かに響き渡るが、どこか心の中に染み込むような不思議な音色。
その音と同時に、遠くから声が響いてきた。
――キィーッ!
空から降り立つ巨大な魔物。
鷲の上半身と、獅子の下半身を持つ、危険生物。
それは紫色の毛並みをした、グリフォンだった。
「グリフォン……だと……」
金級の討伐依頼で年に一度あるかないかくらいの希少かつ危険な依頼。
半ば希少種の魔物が目の前にいる。
しかも、かなり飼い慣らされている様子だ。
「この子はグリント。私のペットで、このネクサス・ラボラトリーの足も兼ねている」
「ねく……?」
「私の研究所の名前だ。今は小さいが、ゆくゆくはとてつもない発展を遂げるだろう」
まあ、すごい技術でできているのは間違いない。
にしても、グリフォンに拠点を運搬させるとは……かなりいい発想かもしれない。
「さあラルゴ。グリントを駆り、魔族を喰らってくるといい。供にモルニアをつけよう」
「バシバシ頼っちゃってくださいねー!」
「そいつは心強いが、グレアはどうする?」
「私は研究所の番がある、それに余り敵に姿を晒したくないのだよ。それに、モルニアだけでも戦力としてはかなりのものだと思うが?」
「はい! こう見えても私、かなり強いんですよ、自信ありありです!」
「なるほど……んじゃあ、いっちょ、かましてやるとするか」
「エイエイオー!」
モルニアが騎手を務め、その後ろに座り込む。
馬とはまた違った乗り心地だが、とてつもない重心の安定感に感動すら覚える。
「ラルゴ!」
今にも飛び立とうというときに、グレアが何かを投げ渡してくる。
「うおっ」
慌てて受け取ると、それは一本の注射器のようなものだった。
「これは!?」
「覚醒アンプルだ、いざという時、右腕に刺すといい」
「なるほど?」
「いいか、使う前にある程度対話の準備をしておくことだ」
「対話の準備?」
「うむ。 具体的には……そうだな、呼び名でも考えておくといい」
呼び名か……いつまでもあいつじゃ呼びづらいしな。
移動がてら、色々考えておこう。
「それじゃあ先生、行ってきます!」
「うむ。成果に期待しておこう」
「はい! ではでは、とばしますよー! 振り落とされないでくださいね!」
「はっ、誰が! うおおおおお」
グリントは凄まじい勢いで大空へと飛び上がっていく。
そのまま、猛スピードでコルノ方面へと向かう。
大きく風を切る感覚。
眼下のノトスの街並みがやけに小さく見える。
このスピードならばあっという間だ。
――俺は武者震いを隠しながら、手にしたアンプルを強く握りしめた。
青空の下、人気の無いノトス海岸の砂浜で俺たちは向かい合っている。
グレアが口を開いた瞬間、演目を待ちわびていた聴衆のように潮風と波音が止んだ。
「率直に言おうラルゴ。君は今非常に危険な状態にある」
「危険……」
度重なる力の暴走。
俺と、俺の中の何かの主導権の交代。
大きな力の裏返しとばかりに、その頻度は日に日に早くなっている。
「ラルゴ、初めに君を見た時に確信したのだが、君の中には高位魔族……或いはそれ以上の魂が息づいている。ひとつの身体にふたつの魂、通常ならば考えられないことだ」
「高位魔族? 魂?」
「ふむ……まずはそこからか。 では逆に私から問おう。 君達冒険者は何の為に存在している?」
そう言われると、改めて考えさせられる。
俺が冒険者になったキッカケは母の仇を探すためだ。
しかし、冒険者として長い時間を過ごしているうちに、この職業で出来る幅が広すぎて、何の為と言われると難しい。
だが、その中で今までの活動の中で最も占めていたことといえば……。
「湧き出る魔物共から戦えない人たちを守ってる」
「ふむ……末端構成員にとってはその程度の認識なのだな」
「末端だぁ? 仮にも元金級だぞ!?」
「しかし私達にとって当たり前の知識が根付いていないではないか。 ふむ……この事から察するに、意図的に伏せられていると考えるほうが賢明か……」
そう言いながらグレアは考え始めた。
「私が思っていた以上に、冒険者というのは認識が浅いらしい。それとも私がまだ観測していないだけで別の機構が存在するのやも……いや、それは一旦置いておこうか」
「ひとりでぶつくさ言ってないで俺にもわかるように頼む」
「ついでに私にもわかるようにお願いします!」
「はぁ……順を追って説明しよう。ラルゴ、君たちは人間、違いないね?」
「何を藪から棒に……」
「そして私は魔族だ」
魔物とは違う、聞きなれない言葉だ。
「魔族とは、魔王の眷属で且つ会話が成立するもの……そう私たちは定義づけていた。 そして魔物とは、会話が成立しない者達のことを指す」
「待ってくれ、魔王って言ったか? そんなもん教団のありがたいご高説でしか聞いたことがない」
「ふむ、ならばその教団とやらが意図的に隠しているのだろうな。 過剰な隠蔽が齎した結果がこれとは……まったく皮肉なものだ」
「ひとりで納得してんじゃねぇよ。 つまりグレアは、魔王の眷属で……俺の中にもそれに近い魂ってのがあるってことか?!」
「如何にも。だが、魔族というのはそもそも、人間達にとっては同じ世界にいてはいけないものなのだ」
「危険だからか?」
「ラルゴの言う教団のご高説がどのような内容かは後で確かめるとして、私たちは太古の昔にこの世界から追放された存在だと認識している」
「追放? どこにだ?」
そう言うと、グレアは複雑な面持ちで俺を見据えてくる。
「魔界・パラレリア。かつて勇者とその仲間達が、魔王を追放する為に生み出した世界」
「ちょっとスケールが大きすぎて何が何だか……」
「では今いる世界はどこだ?」
「ミドラシア……だったか?」
「当たり前に存在している世界の名前などいちいち気にも止めないか。 だが、私達魔族にとっては悲願の地でもある」
「仮にそうだとしてだ……お前たちはどうやってこっちの世界に来たんだよ?」
「過去の封印の綻びか、不定期に開く世界の門を通ってこちらに来たまでだ」
「そ、そういうこともあるんだな……」
わけのわからないことばかりで頭がパンクしそうだが、グレアが語る情報はどれもギルドでは聞いたこともない未知の知識ばかりだ。
「面倒だから一気に言うぞ。 まず、我々魔族が済む魔界とこの現界では、大気を構成する魔法の源・マナの質が違う。 我々は本来、魔王を源とする闇のマナ、通称ノクスマナがなければ存在を保てず消滅してしまう」
「じゃあ、お前たちはなんで無事なんだよ」
そう問いかけた瞬間、モルニアはさも嬉しそうに声を上げた。
「よくぞ聞いてくれました! なんと、その問題さえも先生は克服してしまったのです!」
「……というわけだ」
「わけだじゃなくて、ちゃんと教えてくれよ」
「ククク……」
(めんどくせぇ……絶対説明したいだけだろ……)
「方法は複数ある。1つはノクスマナの流出を抑える方法。要は自身の消耗を抑えることで存在を保つことで、私が使っている手法もこれに近いものだ」
「裏を返せば、グレア達はそれをしないと消滅しちまうってことで間違いないな?」
「如何にも。そして2つめは、定期的にノクスマナを補充すること。そしてラルゴ、これは君を救う最も簡単な手段でもある」
「補充……ん? そういえば、レイジーの、低級の冒険者に破格の条件で危険な依頼を受けさせていたな……そしてあの変貌したマンドランに、あの坑道の人骨……そういうことか!」
俺のリアクションに満足したのか、グレアは満足そうに頷いた。
「そう。それこそが、他者を己が糧とする魔族特有の本質だ」
「じゃあ俺達が戦っていたのは……」
「うむ、他の派閥の魔族だろうな。そしてここが肝心の3つめだ」
グレアはわかりやすく咳払いをした。
「器を用意する」
「器?」
「要は現界における魂の容れ物だ。これにより自発的にノクスマナを生み出せるうえ、力を行使する際のデメリットもない」
「器になった方の自我はどうなる?」
「自我、私たちはそれを魂と呼んでいるが……大抵は魔族の魂の方が強く、そちらに上書きされてしまうだろうな。だが、器側が勝つ、もしくは共存できるケースもあると聞く」
「なら、今の俺はまさに、上書きされそうな状態だってことか。なら、俺の自我が強ければ、逆にあいつを上書きできると?」
グレアは小さく首を振った。
「恐らく難しいだろうな、魂側がそれを望んでいない。まともな魂の強度でいえばラルゴ、君の勝ち目は皆無だ」
「なんでそう言い切れる? やってみなねぇとわからねぇだろうが」
「この圧倒的格上な私が直接対話をしたのだ、君が眠っている間にな。 どうやらあの魂は、君に非常に有効的な感情を抱いているようだが」
「それならなぜ、こうも俺を焚きつける? 本当は勧誘したいから命の危機なんて適当でっちあげただけじゃねぇのか?」
すると、突然モルニアが叫んだ。
「ラルゴさん!」
――バチン!
「ぐっ!?」
いきなり平手打ちされ、視界がぐるぐると回る。
びりびりと痺れ、脳まで麻痺してきているような錯覚を覚えた。
「やりすぎだぞモルニア。 ラルゴも焦っているんだ、これくらいの無礼はなんともない」
「ですが! 先生のせっかくの善意を侮辱するなんて許せないです!」
二人の反応を見る限り、俺の命が依然として危ないというのは間違いないようだ。
そしてこの二人が、本当に善意から俺を助けようとしていることも。
「すまない、グレアの言うとおりだ。いくら焦ってるからって言っていいことと悪いことの判断もつかねぇってのは情けねぇよな……」
「知恵あるもの、過去の過ちは糧にし、未来への教訓にすればいいのです! ラルゴさん、話せばわかると思ってました!」
そんなにモルニアとは話もしてねぇし一方的にはたかれただけの気がするが、凄まじい切り替えの速さだ。
「まあ、話は最後まで聞きたまえ。 ラルゴ、如何に君の中の魂が友好的だからといっても、限界がある」
「限界?」
「そう。覚醒とともに絶え間なく進化を続ける君の中の魂に対して、器の方が追いついていないのだ。このままでは共倒れになってしまう。そしてそれを防ぐために、器である君自身が他者を糧に成長しないといけないわけだ」
「だが、俺は奴らみたいに他の人間を餌になんてするつもりはねぇぞ……」
「クク……いるじゃないか、格好の獲物が……」
グレアは怪しく笑った。
「今君達の世界を脅かそうとしている魔族を喰らい、強くなりたまえ。君にはその力がある」
一瞬、胸の奥がざらついた。
“他者を喰って強くなる”という発想そのものが、どうしようもなく嫌悪感を伴う。
だが――相手が、今この世界を食い荒らそうとしている連中だというのなら。
「……なるほど、それなら悪くねぇや。もちろん、手は貸してくれるんだよな?」
「無論だ。早期に対応できるよう目星もつけてある」
そうグレアがつぶやいた瞬間、作業小屋の中から妙な音が鳴り響いた。
――ビービー!
「先生!」
「うむ、噂をすればだな」
作業小屋の中に駆け込む二人を慌てて追う。
すると、二人は机の上に置いてある光る石板のようなものを食い入るように見つめていた。
よく見れば近辺の地図が映し出されており、その北部で赤く光る点がゆっくりと動いている。
「これは?」
「私が発明した追跡装置だ。君が使っていた大盾に取り付けてある。これを追えば敵勢力にたどり着けるはずだ」
いわれて気づく。
ラスターイージスが手元に無いことに。
あれはラスターの象徴で仲間たちとの大切な絆だ、まさか置き去りにしてしまうとは。
「すいません、さすがにあんな重いものとラルゴさんを同時に運ぶのは私には無理でした!」
「……助けてもらった手前文句は言えねぇよ。それに、これを追えば取り返せるんだろう?」
「そのとおりだ。だが、敵の全貌を捉えたわけではない。今わかっているのは、奴らの拠点がゴートヘイムという町にあるというところまでだな」
その言葉通り、よく見れば赤い点はゴートヘイムから動き出し、南下している。
「いや待て、カリオンとウィルはどうなった? いや、そもそも俺はどれだけの間眠っていたんだ!?」
「んー、この世界で言うと3日くらいですかね?」
「3日!?」
なんということだ。
カリオン達とは、精々遅くても1日後にはコルノで落ち合う予定だった。
それに偵察とはいえ敵の本拠地に向かったんだ、何もなかったとはとても言い切れない。
この時間のロスは余りにも重すぎる。
「くそっ! どうしたらいい、ノトスからゴートヘイムじゃ、馬を使ったって1日はかかるぞ!」
「うーむ、どうやら敵はこのゴートヘイム南の町を狙っているようだ」
「ゴートヘイムに最も近い町となると……コルノか! なおさら時間が足りない」
「そう焦るな、策はある」
そう言ってグレアは外に出る。
そして、おもむろに指笛を吹いた。
静かに響き渡るが、どこか心の中に染み込むような不思議な音色。
その音と同時に、遠くから声が響いてきた。
――キィーッ!
空から降り立つ巨大な魔物。
鷲の上半身と、獅子の下半身を持つ、危険生物。
それは紫色の毛並みをした、グリフォンだった。
「グリフォン……だと……」
金級の討伐依頼で年に一度あるかないかくらいの希少かつ危険な依頼。
半ば希少種の魔物が目の前にいる。
しかも、かなり飼い慣らされている様子だ。
「この子はグリント。私のペットで、このネクサス・ラボラトリーの足も兼ねている」
「ねく……?」
「私の研究所の名前だ。今は小さいが、ゆくゆくはとてつもない発展を遂げるだろう」
まあ、すごい技術でできているのは間違いない。
にしても、グリフォンに拠点を運搬させるとは……かなりいい発想かもしれない。
「さあラルゴ。グリントを駆り、魔族を喰らってくるといい。供にモルニアをつけよう」
「バシバシ頼っちゃってくださいねー!」
「そいつは心強いが、グレアはどうする?」
「私は研究所の番がある、それに余り敵に姿を晒したくないのだよ。それに、モルニアだけでも戦力としてはかなりのものだと思うが?」
「はい! こう見えても私、かなり強いんですよ、自信ありありです!」
「なるほど……んじゃあ、いっちょ、かましてやるとするか」
「エイエイオー!」
モルニアが騎手を務め、その後ろに座り込む。
馬とはまた違った乗り心地だが、とてつもない重心の安定感に感動すら覚える。
「ラルゴ!」
今にも飛び立とうというときに、グレアが何かを投げ渡してくる。
「うおっ」
慌てて受け取ると、それは一本の注射器のようなものだった。
「これは!?」
「覚醒アンプルだ、いざという時、右腕に刺すといい」
「なるほど?」
「いいか、使う前にある程度対話の準備をしておくことだ」
「対話の準備?」
「うむ。 具体的には……そうだな、呼び名でも考えておくといい」
呼び名か……いつまでもあいつじゃ呼びづらいしな。
移動がてら、色々考えておこう。
「それじゃあ先生、行ってきます!」
「うむ。成果に期待しておこう」
「はい! ではでは、とばしますよー! 振り落とされないでくださいね!」
「はっ、誰が! うおおおおお」
グリントは凄まじい勢いで大空へと飛び上がっていく。
そのまま、猛スピードでコルノ方面へと向かう。
大きく風を切る感覚。
眼下のノトスの街並みがやけに小さく見える。
このスピードならばあっという間だ。
――俺は武者震いを隠しながら、手にしたアンプルを強く握りしめた。
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弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
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