クロロの大冒険〜田舎の少年が組織に入り”オーラ”を習得、葛藤や紆余曲折を経て大人になり親になり、やがて星を救う物語〜

M3 STUDIO

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組織(ハウス)入団編

ー 8 ー 二次試験③

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-職業案内所-



クロロ&コン太「ええっ!?し、仕事がないって?」

クロロとコン太は職業案内所を訪れていた。

所々が煤で汚れた年季を感じさせる建物で、堅強な入り口扉の上には「職」と漢字で書かれた巨大な看板が掲げられている。
扉の両脇には横断幕がたなびいており、それぞれ『全宇宙の求人情報まとめてます』『惑星間交通費支給有』と書かれていた。
(文字の脇に、ミミズがのたうち回ったような模様や、複雑な図形の組み合わせが描かれていたが、柄ではなく、他の星の言語であるようだった。地球言語と同じ意味の内容なのだろう)

中に入ると銀行のようなカウンターがずらっと並んでいた。
カウンターの上には、横に長い巨大な黒板が掲げられ、ヤモリのような宇宙人がメモを手に求人情報をチョークで書き換えている。

クロロとコン太は、カウンターの一つに座り、丸メガネをかけた巨大なみたいな所員と向き合って、求職相談をしていたのであった。

ナマズ所員が、首を振りながら呆れたような声を出す。

ナマズ所員「はあ、そりゃあ、そんな都合のいい仕事、ないべよ。だって、え? ”今からすぐに働けて、しかも1時間だけ”? あんたら地球人だって?まあな、だから分からんのは仕方がないかもしれんが、この不景気にそったら仕事ばないべさ」

ナマズ所員はカウンター上に掲げられた巨大黒板をボールペンで指した。
確かに、黒板には空白が目立つ。

ナマズ所員「まあ、だからって、意地悪しとるわけじゃないけんども。全宇宙の求人ってたって、仕事がないもんはないんべさ。悪いが他をあたってけんろ」

コン太「そ、そんなあ・・・」
クロロ「が~~~ん」

クロロとコン太は職業案内所を後にした。

クロロ「いやあ、まいったな、こりゃ」
頭の後ろで手を組み、空を見上げる。

コン太「むう・・・宇宙規模で不景気ということか・・・それにしても田舎もん田舎もんって、ああもう!」
道端の小石を思わず蹴っ飛ばす。

クロロ「あ~あ・・・、コン太がもっとマーネを持ってればなあ・・・」
コン太「お、おいっ!お前10マーネしか持ってなかったくせに何を言うか!よくここまで生き延びれたな!このっ!このっ!」
コン太がクロロの頭を小突きながら叫ぶ。

***「ちょっと君たち!」

クロロ「ちょ、痛い、痛い!悪かったよ~」
コン太「ふん、思い知ったか!し、しかしこれからどうするか・・・お、億万長者の夢もいきなり途絶えるのか~」

***「おい!君たち!」

クロロ「なんだ?億万長者って?」
コン太「い、いや、なんでもない!なんでもない!」

***「こら~!!!聞いてるのか~~~!」

クロロ「・・・?」
コン太「・・・?な、なんだ?何か言ったか?」
キョロキョロと周りを見渡すが、皆、通り過ぎていく人ばかりで、それらしき声の主は見当たらない。

クロロ「・・・コン太が急におかしな声を出したと思ったが・・・違った?」
コン太が頭を小突く。
コン太「お、おまえっ!まるでボクが変なヤツみたいじゃないか!」
クロロ「あはは、悪い悪い!でも、それじゃあ・・・」

***「ここだよ!ここ!」

クロロとコン太が同時に視線を下に向ける。
なんと、足元には小さなウサギがいるではないか!

アナログ時計のデザインが描かれたアロハシャツにデニムのハーフパンツ。目と耳の間にはサングラス。
随分とハワイアンな格好をしている。
手を振り上げ怒っているようだ。

クロロ「うっひゃあ!こ、これはおどろいた!いつからここにいたんだ?」

アロハウサギ「君らがこの建物を出たときからだよ!ったく、おかげで声が枯れちまったじゃないか!」
ウサギがこんこんと咳払いをしながら言う。

コン太「な、なにかボクたちに用でも・・・?」

ウサギがジロリと睨め付ける。
アロハウサギ「・・・君たち、仕事を探してるんだろう? しかしお目当ての仕事はなかった・・・違うかい?」

クロロ「・・・!えっ!ど、どうしてそれを!!!」
コン太「・・・い、いや。職業案内所からがっかりした姿で出てきたら、そりゃそうだってなるだろ・・・」

アロハウサギ「そんな言い方をしていいのか?僕が仕事を与える、と言っているのに!」
ウサギがズイっと顔を突き出す。

クロロ「ええっ!ほ、ほんとに?」
コン太「さ、詐欺じゃないだろうな・・・詐欺うさぎ・・・」

アロハウサギ「なんだと!失礼なっ!ふん、じゃあ他の人を当たるからいい!」
ぷいっとそっぽを向いてしまった。

しーん・・・

クロロ「・・・そっか、んじゃ、コン太、別で探してみるか」
コン太「そうだな、ゴミ拾いでも皿洗いでも、頼み込むしかないか・・・」

クロロたちが立ち去ろうとすると、ウサギが慌てて前に出た。

アロハウサギ「お、おい!ちょっと待て!君たち!本気で言ってるのか!?し、知らないようだから教えてあげよう!どこに行ってもそんな仕事はないぞ!」

クロロ「んなもん、分かんねえじゃねえかよ~」
コン太「時間もないし、行こう!」
クロロらが歩き始めると、再びウサギが前に飛び出してきた。

アロハウサギ「わ、わかった!な、頼む、頼むよ~!話を聞いてくれ! 助けて欲しいんだ!」
小さな手を合わせて懇願する。

コン太「・・・助ける?」

アロハウサギ「うう・・・じ、実は・・・」



- アロハウサギの依頼 -



今日の夕方に、ちょっとしたティー・パーティに参加する予定だったそうだが、急いでいたため、うっかり転倒。
その拍子に、持っていたスマホを路上の排水溝に落としてしまったとのこと。
落としたスマホを取って欲しいというのが、ウサギの依頼だった。

その排水溝というのは、職業安定所のすぐ脇にあった。

(ちなみにアロハウサギの名前は「アローハ」。
ハワイアンな格好をしているのは最初からハワイ好きということではなくて、自分の名前と同じ言葉が使われている地域が地球にあり、興味本位で調べるうちにファッションや文化が気に入り、今や名実ともに”アロハ”一色になっているとのことだった)

クロロ「ほえ~、それってよ・・・自分で取りゃいいんじゃないのか?」

アローハ「それはできない」
アローハが毅然とした態度できっぱりと言い放つ。

コン太「な、なんで?」

アローハ「怖いじゃないか!こんな暗いところ!」

思わずクロロもコン太もずっこけた。

コン太「な、情けないやつ・・・それだからこんな何もないところで転ぶんじゃないか」

その言葉にアローハはハッとして目を見開いた。

アローハ「それそれ、そうなんだ!いくら僕が急いでいたとはいえ、こんな何もないところで転ぶなんてあり得ない!じ、実は・・・何か、足を引っ掛けられたような気がしてるんだ」

クロロ「・・・足を?」

クロロ、コン太、アローハは排水溝を見つめた。
どうやら奥はかなりの深さのようで、覗き込んだ限りでは真っ暗だ。スマホがどこにあるかも分からない。

アローハ「た、頼む!急いでるんだ!このままだとパーティに遅れてしまう!」

クロロとコン太は顔を見合わせた。
コン太「・・・わかった。わかったが・・・報酬はでるんだろうな?」

ウサギは顔を真っ赤にして怒鳴った。
アローハ「おいっ!馬鹿にしてるのか!仕事だから当たり前だろう!お望みどおりだ!十分すぎるほど出してやる!」

クロロとコン太は頷いた。
クロロ「オレたちだって時間がないのは同じだからな、やるか!」
コン太「ふう・・・十分すぎるほどの報酬、それを忘れないでくれよ!」

アローハ「わかった!約束する!」



- ふしぎなアメ -



クロロが排水溝に近づき、格子状の蓋を持ち上げた。
やはり、かなりの深さのようだ。顔を近づけてもうっすらと底が見える程度だった。

クロロ「う~ん、見えねえ・・・」
コン太「ちょっとどきな、こいつで見てみよう」

コン太がスマホの懐中電灯機能で排水溝の底を照らした。
クロロ「おお~!なんだそれ!さすが、すごい最先端なものを持ってるよな、コン太は!ほお~、よく見えるな!」
コン太「お、おまえ・・・なんだかこっちが恥ずかしいわ・・・。しかし・・・、う~む・・・」

アローハ「ど、どうだ?取れそうか?」
ウサギもぴょこんと顔を出し、穴の中を覗き込んだ。

コン太「いや・・・そもそも・・・見当たらないぞ・・・本当にこの穴に落としたのか?」

穴の底に隈なく光を当てて見ても、スマホらしいものは全く見当たらない。

アローハ「この穴で間違いない!そ、そんな!なぜないんだ!」
ウサギの顔が青くなる。

クロロ「ん?ちょっと待てよ・・・コン太・・・あれ!穴底の壁際を照らしてみてくれないか」
コン太が光を壁に滑らすと、トンネルのような横穴が空いているのが見える。

コン太「そうか、排水溝だから水の逃げ道が必要だもんな。なるほど・・・おそらく落とした衝撃で横に跳ね飛んで、トンネルの中に入ってしまったようだな・・・」

アローハ「そ、そんな!ど、どうやったら取れる?」
コン太が腕組みをする。

コン太「う~む・・・はっきり言って難しいな・・・手を伸ばして届くものじゃないし・・・。穴もトンネルも狭いからとてもじゃないが人が入れる大きさじゃないしな・・・ウサギだったら入れるかもしれんが」
そう言って、ちらりとでアローハを見る。

アローハ「僕が入るのは無理だ!怖い!怖い!」
ウサギはギョッとした顔でピョンと飛び上がった。

アローハ「でも、そういうことはあれだな?僕くらいの大きさだったら入れそうなんだな?」

コン太「まあ、そうだな・・・。幸いこのエリアは宇宙人のコミュニティ・エリアだから、小さい宇宙人もいっぱいいる。そうだ!ボクたちも声がけを手伝おう!だからそれで報酬を・・・!」

アローハ「時間がないんだよ!僕が声をかけたの、君らで20組目だぞ!宇宙だって薄情なんだよ!これからまた声がけするようじゃあ遅刻してしまうだろう!まったく何を考えてるんだか・・・!」

コン太(断られまくったのは、その態度が原因だと思うがな・・・)

アローハ「これを使おう!」
ウサギは、ハーフパンツのポケットから、なにやらオレンジ色の小さな球体を取り出した。
クロロ「な、なんだ?これは?」

アロハウサギはギョッとした仕草で言う。
アローハ「イートミーキャンディだよ!知らないのか?今流行ってるだろう!そうか、君たちは田舎在住だからそのあたり知らないんだな・・・これはな、体の大きさを自在に変えることができるアメだよ!1個舐めれば小さく。2個いっぺんに舐めると大きくなる」

クロロ「ひょえ~それはすげえな!」
コン太「い、いや、そんな怪しいもの・・・って・・・・え?」

ウサギがぴょんと跳ね飛び、素早くクロロとコン太の口の中にキャンディを投げ込んだ。
クロロ&コン太「!!」

ギュン!っと吸い込まれる感覚!同時に早回しのテープを見ているように、視界の全てが大きく膨らみ、すぐに無数の影が視界を覆った!
あっという間に、ウサギよりさらに一回り小さいくらいのサイズになってしまったのだ。
身長は25㎝程度。すぐそこにあった職業安定所が土煙でかすみ、はるか彼方に鎮座する巨大な山のように見える。

クロロ「おほっ!すげえ、すげえ!」
コン太「ほ、本当にこれは・・・!え、映画の世界だ!SFの世界だ!す、すごい・・・!でも断りなく飲ませてひどいな!」

ウサギが熊みたいなを近づける。
アローハ「悪かったよ!でも本当に遅刻すると怒られるんだよ!報酬ははずむから!ほら、これを持っていってくれ!元のサイズに戻るときに必要だしな」
そういって、アメを何個かポケットから取り出して放り投げた。

アメとはいえ、クロロたちにとっては、すでにピンポン玉くらいの大きさの塊だ。

クロロ「おい、コン太!なんかわからんけど、ここまで来たらもう面白そうじゃねえか!行こうぜ!洞窟探検だ!」

コン太「ぐう・・・この強引なのが気にくわんが・・・!よし、とっととスマホを探して、キューブを手に入れよう!それで二次試験も通過だ!」

クロロとコン太は、暗い穴の方をキッと睨みつけた。



- カッペリーニ兄弟 -



提灯がぶら下がり、縁日ような喧騒の大通り。切れ目なく並ぶ露店や屋台・・・。

カッペリーニ兄弟は、とある出店の前に立っていた。

リヤカーの荷台に手を加えた販売台にはびっしりと木箱が並び、それぞれの木箱には野菜や果物が山のように積まれている。
青果店のようだ。
ただ、の野菜や果物ではない。

人参のような野菜は、手を触れようとすると皮が変形し、してくる。
十分に威嚇させたあとに、針をハサミで切り落とすのが、持ち帰りの手順のようだ。

りんごのような果物は、ようで、
うっかり木箱から落ちて転がったりんごが日向に出た途端にスイカのように大きくなり、店員が慌てて抑えつけていた。

その他にも、葉や茎が生きているかのように蠢いていたり、近づくと奇妙な音を立てたり色が変わったりといった
地球上では考えられないような青果がずらりと並んでいた。

そういった商品に混じって木箱に無造作に積まれていたのが、例の虹色キューブだった。

ピンクモヒカン「お、おい兄貴・・・これって・・・」
緑モヒカン「・・・グレート。弟よ、こいつはビンゴだ。間違いねえ」

色や形もドンピシャ。この出店に並んでいるということは、野菜や果物の類といったところか。
これは予想外だった。ジュエリーやアートだと思い込んでしまったが、地球の常識は通用しないようだ。

木箱には値札が貼り付いていて、マジックの走り書きで「レイボーン 3ギョラン/1個」とある。
どうやら「レイボーン」という名前の青果らしい。
3ギョランというのは通貨の単位なのだろう。

緑モヒカン「おい、2個取れ」
顎で指し示しながら、ピンクモヒカンに命じた。

その時、出店の店主が二人の前に立った。

干からびたみたいな姿だった。吸盤のようなものがついた複数の脚を器用に使い、移動しながら別の脚で木箱の中身を整えたり、会計をしたりしている。
体は干物とまではいかないが、それでも相当に萎みきっており、枯れた木の枝みたいだ。
かなりの老齢のようだった。

タコ「これはこれは。珍しい姿のお客じゃの。どれもこれも採れたての旬じゃからの。ゆっくり見てってください」
タコの店主が顔を皺くちゃにして微笑んだ。
しかし二人はまるで聞こえていないようだ。

ピンクモヒカン「ああ・・・こいつは、本当に綺麗だな・・・なあ、兄貴。デカくてかさばるが、もうちょっともらっていくか?持ち帰れば、かなり高値で売れそうだぜ・・・」
そう言ってキューブを一つ、緑モヒカンに手渡した。

緑モヒカンもキューブを光に透かしてみた。確かに、宝石とも違う、不思議な光の反射をしている。
シャボン玉の膜を何百層も重ねたような、深みのある虹色だった。

緑モヒカン「2~3個くらいにしておけ。金に困っているわけではないだろう」
ピンクモヒカン「まあ、そうだな、ポケットに入るくらいでいいか」
ピンクモヒカンが当たり前のようにポケットに虹色キューブを詰め込んだ。

緑モヒカン「じゃあ、行くぞ」
そのまま、踵を返して店の前から立ち去る。

タコの店主が慌てて叫んだ。

タコ「お、おい、あんたら、ちょっと待ちなされ!お、お会計は?」

二人は振り返ることなく、何事もなかったかのように大通りを歩いていっている。

タコ「ちょ、ちょっと、すみません。すぐ戻りますから」
店先の客にそう言って、荷台に「閉店」の札を掲げると、タコ店主は二人を追って大通りに飛び出した。

タコ「こ、こら!待つんじゃ!会計が済んどらんぞ!」

タコ店主は息を切らして駆けつけると、二人の前に立ち塞がった。

ピンクモヒカン「なんだ?会計は終わっているだろ!」

タコ店主はさすがに頭にきたようだ。
タコ「な、なにを言うか!おまえら、泥棒だな!会計をしないのなら、品物を返せ!」

ピンクモヒカンがギロリと眼を光らせ、タコ店主に顔を近づけた。
ピンクモヒカン「おい・・・いいか。俺たちに殺人の仕事を依頼するとき、相場は最低でも1億マーネからだ」

タコ「な?さ、殺人?な、なんのことを言っている?」
突然のインパクトあるワードに、タコ店主は思わずたじろいた。

ピンクモヒカン「さらに、それをキャンセルするとなると、2億マーネをいただいている」
ペッと唾を吐き捨てる。

ピンクモヒカン「いいか、そんな俺たちがてめえの目の前にいて、てめえに対してムカついている。ぶっ殺したいほどにな。だが、殺さないでいようとしているんだ。これは2億マーネ以上の価値があると思わんか?」
下衆な笑みを浮かべながら、タコ店主の頭をぐりぐりと撫でる。

タコ「む、無茶苦茶だ・・・!意味のわからないことを!そ、そんなことが通用すると思うな!」
タコ店主はピンクモヒカンの手を弾くと、複数の脚をワッと振り上げ、威嚇した。

ピンクモヒカン「なんだ、コラァ!宇宙人だろうが関係ねえぞオラァ!」

緑モヒカン「・・・よせ」

兄貴の方がピンクモヒカンを制した。

緑モヒカン「おい、お前。会計と言ったな・・・いいだろう。こっちへ来な」

そう言って、露店と露店の間の民家を通る薄暗くて狭い路地に入った。
少し奥に来ただけで、大通りの喧騒が蓋をされたように遠くに聞こえる。

緑モヒカン「・・・さっきも弟が言ったが、殺人の仕事は1億マーネからだ。その代金の支払いは、このキューブで良しとしよう」
緑モヒカンがジャケットからキューブを取り出して、薄い笑みを浮かべた。

タコ「ば、ばかなことを!そ、それじゃあまるで、わしが殺人を頼んでいるようじゃないか!そんなもの誰が頼むか!わしは、その品物の代金を払えと言ってるんじゃ!」
皺だらけの体に所々血管が浮き出ている。相当頭に来ているようだった。だがそれもだった。

緑モヒカン「・・・今からてめえを殺す」

緑モヒカンの右手首が、ぼやけたように霞んで見えた。
その瞬間、カツンと乾いた音が走った!

タコ「あ・・・あ・・・」

タコ店主の眉間にいつの間にか大ぶりのナイフが刺さっている!
青い血がツツッと流れ落ち、背中から地面に倒れ込んだ。

ピンクモヒカンが短く口笛を吹いた。
ピンクモヒカン「さっすが兄貴!惚れ惚れする手際だぜ。ヒェッヒェッヒェッ!」

緑モヒカン「・・・これでチャンチャンだろう。いくぞ」

倒れているタコ店主を跨ぎ、大通りの方へと向かう。

(ま、まて・・・)

兄弟「!?」
二人が振り返ると、先ほどのタコ店主が立ち上がっていた。
3本の足でナイフを絡め、ググっと一思いに引き抜いた。

ピンクモヒカン「こ、このやろう!な、なんでだ?」

緑モヒカン「・・・タコは心臓が3個、脳みそが9個あるって聞いたことがあるな・・・ましてやこいつは宇宙人だ。俺らの常識は通用しなさそうだぜ・・・」

ピンクモヒカン「・・・げげっ!それは面倒だな」

緑モヒカン「まあいい。バラしゃ済む話だろう」
緑モヒカンが薄笑いを浮かべる。

ピンクモヒカン「・・・ヒェッヒェッヒェッ!そりゃそうだ!まあ、ここは俺にやらせてくれ!」

言い終わらないうちに、ピンクモヒカンがタコ店主に向かって駆け出した!
同時に、ライダースのポケットに両手を突っ込んだ!

ピンクモヒカン「ヒェ~!ヒェ~!」
ポケットからバッと手を抜き出すと、全ての指と指の間にナイフが握られていた!

ピンクモヒカン「ヒェッ!」
ピンクモヒカンが素早く右手を斜めに振り下ろした。
そのまま間髪入れずに左手を振り上げる。

タコ「ぐわっ」

タコ店主の体に格子状の傷が走り、青い血が噴き出した。

ピンクモヒカン「ヒェッヒェッヒェッ!網で焼いたタコみてえだなあ、おい!でも俺はよお、の方が好みだぜ」
ナイフを力強くぐっと握りしめると、居合のように水平に切り出した!

バシン!

ピンクモヒカンの腕に衝撃が走り、ナイフがくるくると宙を舞った。

ヒュン、と音を立てて、緑モヒカンの前の地面に突き刺さる!

緑モヒカン「・・・」

ピンクモヒカン「なっ、なんだ?」
右腕がじんじんと痺れ赤く腫れている。一瞬のことだったが、タコの脚が鞭のようにしなって、ナイフを弾き飛ばしたように見えた。

そして、タコ店主に目を遣って、思わず息を呑んだ。

自分の背丈より小さく、しなしなに干からびていたように見えたタコが、
風船を膨らませるかのように、ぐんぐんと大きくなっている。
それもただ膨らんでいるだけではない。

萎びていた脚は、まるで大樹の幹のように盛り上がり、先ほどつけた格子状の傷も、膨れ上がった筋肉でぴたりとくっつき、ミミズ腫れのような血管が身体中に走っている。
いつの間にか、ピンクモヒカンの身長を悠に超え、見上げるほどになっていた。


ピンクモヒカン「こっこいつ!バケモノかよ・・・!」
たまらず後退りをする。

緑モヒカン「おいっ!何をしている!今のうちにやっちまえ!」
ピンクモヒカン「えっ?」
緑モヒカン「なんかわからんが、デカくなりきったら手が付けられんだろうが!さっさと急所を突くんだ!」

ピンクモヒカンは歯を食いしばって、タコ店主を睨んだ。
確かに、変身の最中なのか知らないが、膨らむ以外に動きはない。
急所がどこだか分からないが、切り刻むしかない!脚を全部切り取ってやる!
ジャケットに仕込んだナイフを取り出した。


ピンクモヒカン「ヒエエエエエエ!!!!!」
意を決し、奇声を上げてタコ店主に向かって走る!

ばぢん!

緑モヒカンは目を見開いた。
鈍い音と共に、目の前で、弟が消えたのだ。

自分に背を向けて、タコ店主に向かっていった弟が、一瞬で姿を消した。
それと同時に、路地の向かって右側の家屋の壁が鉄球でもぶつかったように破壊され穴が空いていた。

こ、これは・・・。

タコ店主が丸太のような脚をしならせると、びちゃっと鮮血が飛び散った。

緑モヒカン「・・・このやろう」

あのど太い脚で、思いっきり弾き飛ばしやがった・・・!
・・・そんじょそこらの衝撃じゃ、に壁が壊れることはない。自動車、いや列車でもぶつかったくらいのインパクトだ。
弟は吹っ飛ばされて、壁の向こう、運が良くても虫の息だろう。
これはとんでもないやつを相手にしてしまった。

タコ店主が血走った目で緑モヒカンを見下ろした。

緑モヒカン「・・・きたねえ面で、見んじゃねえよ」

片付けてやるぜ。
緑モヒカンはジャケットの懐から、どっしりした銃を取り出した。大幅に改造を施したデザートイーグル.50AEだ。
凶悪なまでの殺傷力はそのままに、撃った際の衝撃を60%カットし、2発までの連射も可能にしている。

目を細めると無感情に引き金を引いた。

大砲のような轟音が響き、強い衝撃が両腕に走る!

タコ店主の上半身が大きく跳ね飛び、眉間にソフトボール大の大穴が空いた!

間髪入れず、緑モヒカンはジャケットからのようなものを取り出し、素早く矢をセットした。
矢の先端には小さいながらも殺傷力の高い爆弾が仕込まれている。

タコ店主の眉間の穴に狙いを定め、矢を放った!

緑モヒカン「ビンゴ!」

矢は大穴にすっぽりと入り込んだ!

緑モヒカン「・・・バラバラになりやがれ!」
タコ店主の頭がカッと光り輝きながら風船のように膨らみ、ずどんと鈍い音が鼓膜をつんざく!

しかし・・・!

緑モヒカン「・・・そ、そんな・・・」

眉間や口から煙突のように煙を噴き出しながらも、タコ店主は倒れていない。
それどころか、鋭い眼光で緑モヒカンを睨みつけ、どしりどしりと近づいてきた。

緑モヒカン「ちっ!このバケモノが!」
デザートイーグル.50AEでタコ店主の胴体を撃ち抜く!

深い凹みがついたものの、タコ店主の歩みは止まらない。
分厚いゴムの塊に石を投げているようだ。明らかに先ほどよりも強固な身体になっているように思える。

即刻、ズラかるしかない!弟には悪いが、この状況で応戦するのはどう考えてもイカれてる。

踵を返し、大通りに体を向けた瞬間、右足首に締め付けられるような痛みが走った!

タコの脚だ!タコの脚が巻き付いている!
10m近く距離があったはずだ!このタコ、伸縮自在か・・・!

緑モヒカン「うわっ!」
そのまま逆バンジーのように一気に空中に引き上げられた。

逆さ吊りの状態だ。上下逆になった視界で、頭から煙を上げたタコ店主が殺気の塊を投げかけてくる。

緑モヒカン「しまった!」
逆さまにされたために、ジャケットから虹色キューブが飛び出し、タコ店主の足元に転がっていった。

緑モヒカン(こ、こいつはしくじった!な、なんとかこの脚を解かねえと・・・)

不意に体に強烈なGが掛かり、いつの間にか視界にタコ店主の後ろ姿が映った。
なんだ?振り回されている?い、いや、違う!

これは・・・!
タコの脚に力が込められたのが分かった。

再度、体が前方に加速し、空中に放り投げられた!
新幹線の車窓から見る風景のように、凄まじいスピードで景色が過ぎ去る!息ができず、声をあげることもできない!

すぐに、背中に強い衝撃が走り、いくつもの骨が折れる音が頭中に響き、視界が暗転し星が瞬いた。
地面に叩きつけられたようだ。

息が止まったのも束の間、幸い意識があった。痛覚が麻痺して何も感じないが、首を動かすと、どうやらまだコミュニティ・エリアの中心部にいるようだった。

急に空から降ってきた、見慣れぬ姿の生物に、道ゆく人はギョッとしているようだ。心配そうに声をかけてくれようとする者もいたが、緑モヒカンが血走った目で威嚇すると、離れていった。

左肩から下が動かない。アドレナリンが大量に分泌され今はまだ痛みを感じないが、骨折の大半は左腕だろう。
逆にそれ以外は、なんとか動くようだ。ダメージを受けた箇所は左腕以外にもあるだろうが、動作に大きな支障はない。


緑モヒカン「ぐっ!ううっ!」
うめきながら、なんとか上体を起こし、立ち上がった。

ジャケットからピルケースを取り出し、白いカプセルを口の中に放り込んだ。
ドラッグだ。これで当面痛覚を麻痺させる。

タコは・・・追いかけて来ているのかわからない。だが、殺すつもりならあの場でやられていただろう。
品物を取り返すのが目的だったのなら、それは達成されたはずだ。

弟も獲物も失った。酷い怪我も負っている。一から出直すには条件が厳しいが仕方がない。
先ほどの青果店ではないが、同じように獲物を取り扱っている店を探すしかない。


大通りを見渡したとき、「人」の姿を捉えた。
人外の姿をしている宇宙人が大半なので、人ゴミの中でも「地球人」の姿は目に入りやすかった。

緑モヒカン(あ、あいつは確か・・・、白州とかいったか・・・)


宇宙人たちで賑わう大通りの先、こちら側に歩いてくるのは、紛れもなく白州だった。

そして・・・

緑モヒカン(あっ!あ、あれは!)
青果を売る露店だ!虹色キューブも陳列されている!

白州も気づいたようだった。露店に目を遣る。
しかし立ち止まる気配はない・・・

緑モヒカン(あの野郎・・・どうするつもりだ・・・?)

白州が露店を通り過ぎようとしたその時、
一瞬右腕がブレたように見え、その後には右手に虹色キューブが握られていた。


緑モヒカン(!!!あの野郎、盗みやがった!は、速い!速すぎて誰も気づいていない!)

この光景に驚きながらも、緑モヒカンは目を細め、向かってくる白州を睨みつけて微笑んだ。

・・・とんだ好都合だ。まだ俺にも運は向いている!
さっきのタコ店主のようなバケモンとはもう関わりたくねえが、あのガキは別だ。
俺らと同じ人間じゃねえか。それもガキだ。多少、怪我していようが、問題はねえ。
手段は選ばないぜ、あのキューブを手に入れてやる。

ジャケットのポケットからナイフを取り出した。

緑モヒカン「おい!」
緑モヒカンが白州の前に飛び出した。

緑モヒカン「くくく・・・ビビんなくてもいいぜ。さっさとその手のブツをこちらに寄越しな。それだけだ。そうすれば殺されずに済む。俺と出会ってこんな好条件を提示された者はいないぜ。おとなしく・・・」

言葉の途中。
緑モヒカンの息が止まった。

途切れかけた意識の中で、白州の拳が自分の腹部にめり込んでいることは、把握することができた。
いつの間に・・・?予備動作もなかった。

強烈な吐き気が込み上げるが、喉元に届くより先に、横殴りの雨のように拳が降ってきた。

激しい痛みと衝撃で脳が揺さぶられ、視界がブラックアウトし、膝から崩れ落ちた。

白州「・・・ふん」

白州は、倒れた緑モヒカンを跨ぎ、去っていった。


カッペリーニ兄弟、二次試験 失格。
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