クズとグラブジャムン

水無月

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🐻



 昼になった。
 アパート前の広場にゴミの山が築かれる。ガタガタ大きな音を立てていたのに、どの部屋も苦情を言いに出てこない。……人、住んでいるよな?
 胸元のボタンを外し、ぱたぱたと風を入れる。

「あっちー。こんなに頑張ったのにまだ半分しか終わってないなんて。溜め込みすぎだろ」

 木陰でしゃがんでいると、五分前から姿を消した伸一郎がふらりと戻ってきた。
 近くの自販機で買ったのか、手には二本のペットボトル。

「ポカリと緑茶、どっちにする?」
「……ポカリ」

 受け取って蓋を開ける。

「これいくらだった? 払うよ」

 金の話になると遠慮なく手を差し出してくる。

「二万」
「ぼったくり値段やめろ」

 ばしっと伸一郎の手をはたく。
 豪快に緑茶を飲むと、伸一郎も木陰で腰を下ろす。ペットボトルを置くといきなり抱きついてきた。

「え? 何?」

 暑いのに抱きしめられ、唇を重ねられる。
 敷地内とはいえ外である。横の道路では車がばんばん通っているし、歩いている人もいる。
 カアァと、一気に頭に血が上った藤行は肘で熊を押し返す。唇は離れたが、抱擁から脱出できない。

「アホ! やめろ。こんな外で。何考えてんだ! 昼間っから盛るな」
「ああ? そんな胸元晒して、男を誘っておいて何言ってんだ」
「ちょ!」

 べろっと耳を舐められ、鳥肌が一斉に立つ。逃れようとするも力の差は歴然で、汗をかいた首筋まで舐められる。

「はわ……。やめろって! 外だぞ。ここ」
「騒いだら気づかれるんじゃねーの?」

 ハッとなり、口を閉ざす。幸い、こっちを見ている人はいない。
 静かになった藤行に気を良くしたのか、伸一郎の指まで動き出す。

「んっ!」

 尻を掴まれ、片方の手で背中をくすぐられる。

「やだやだやだ!」
「お前、くすぐりに弱いよな」

 すっかりバレてしまっている。背骨に合わせ指が上下するたびに、身体が小刻みに跳ねる。

「~~~んっ、ン、ぁあ」
「声抑えなくていいのか?」
「う、あ、あ。そう思うなら、やめ、あっ」

 逃げようにも体力を掃除で削っている。伸一郎の方が重い物を運んでいたはずなのに、なんでこいつの方が元気なんだ。
 肩に手を置いてぐいぐい身体を離そうとするも、くすぐられ舐められるたびに力が抜けていく。

「ひぃ。やめ、はあ……やだ。こんな、外で」
「声抑えるの、手伝ってやるよ」

 頼んでもいないのに唇を重ねてくる。

「ん、んっ、んーーッ」

 噛みつかれるように塞がれ、酸素を求めて口を開けてしまう。逃がさないよう埃まみれの藤行を抱きしめ、ポカリで甘くなった舌を絡め取る。
 大きな手が服の中に入り、汗で湿った背中を直接撫でる。

「んんうぅっ?」

 せめてもの抵抗に逞しい肩甲骨に爪を立てる。
 痛がっている様子はなく。それどころかそんな力すら抜けていき、五分後には両腕をだらりと下げていた。

「あ、は……ぁ、はあ……」

 ようやく解放された頃にはぐったりと男の胸板にもたれかかる始末。伸一郎は満足そうに背中を軽くたたく。

「五分程度でへばるようじゃまだまだだな。キスの練習くらいしておけよ。弟いるんだろ?」

 とんでもないことをほざく男に、言い返す気力も無かった。弟にそんな真似出来るか。

「はあ、はあ……」
「掃除の続きしないのか? しないのならこのまま昨日の続きの方をしちまうぞ?」

 にやにやと癇に障る声が耳の側で呟かれる。
 時間をかけてなんとか頭を上げると、想像通りの小馬鹿にするような顔があった。

「はあ……はあ。この、野郎……」
「この程度で何とろけた顔してんだよ。ん?」

 強めに尻を揉まれ、びくっと背筋が伸びる。

「尻を触るな。スケベおやじか!」
「気に入ってるくせに」
「気に入ってなんか……ひ、あ」

 不意打ちで背筋をなぞられ、甘い声が零れる。

 その時、子連れの主婦っぽい方とばっちり目が合ってしまう。

 羞恥心が臨界点を突破し、がむしゃらに腕を振るっていた。

「さわるなって……!」

 ばしっ!
 乾いた音が響き、自分の手の甲に痛みが広がる。つまりそれだけの威力で相手を殴ったということだ。
 自分の行為に気づき、恐る恐る手の甲から相手の顔に視線を動かす。
 左の頬を赤くした伸一郎が、カミソリのように冷たい目で見下ろしていた。

「……ってぇな」
「あ……」
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