BL短編

水無月

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その他

扇風機始動

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※『汗だくエッチ』の続きです。








〈東雲視点〉


 「おいで~」と嬉しいメールが来たので、僕は意気揚々と彼氏の家のチャイムを鳴らす。
 室外機の音が一切聞こえない家の前をちょっと避け、日陰で待つ。
 すぐに人が出てきてくれた。

「おう。早かったな」
「透夜くん~」

 お邪魔しますと言いたかったのに間違えた。出迎えてくれたことが嬉しくて。
 一瞬目を点にしたタンクトップ男がにっと笑う。

「入れよ」
「お邪魔しまーす」

 犬のように尾を振って後ろについて行く。
 今日の彼は眩しい白のタンクトップにダボついた長ズボン……長ズボン⁉

「どうしたの? 具合悪いの?」

 ブッと吹き出した彼が振り返る。そう言われるのを予想してましたと言わんばかりの笑み。

「部屋に入ればわかるさ」
「?」

 部屋って、いつもの灼熱地獄でしょ?
 今から行くところがクーラー効いていないと思うだけで瞳が潤む。

「僕、暑さに強くなろうと思って、サウナ通いしてるんだ~。お財布的にもツラいから週一だけどね」
「はあっ⁉ 誘えよ!」
「……」

 足が止まる。

「え? 一緒に行きたかったの?」
「サウナ好きなんだって。今度はちゃんと連絡入れろよ?」

 念入りに言うとぷくーっと僕の頬が膨れる。
 透夜はあきれ顔でお餅をつつく。

「なんだよ。怒ったのか?」
「ううん。顔がにやけそうだったから」
「あ、そう」

 暗い廊下を進む。彼の家に来るといつも思うことだが、全体的に暗い。クーラー代いらないんだから、他のところに電力使えばいいのに。

「失礼しまーす」

 彼氏の部屋。何度訪れてもドキドキしてしまう。
 中に入ると扇風機が回っていた。
 僕はきれいに青ざめた。

「……病院、行く?」
「だから予想通りの反応すんなって」

 笑いながら背を叩いてくる。僕は新品の扇風機の前を陣取った。髪が風で泳ぐ。
 ああ~風が。灼熱地獄に風が吹いている。

「どうしたのこれ!」
「母ちゃんに怒られた。人様の子、殺す気かって」

 うちらはクーラー苦手だけど、友人が来たらクーラー付けんかいボケナスと拳骨落とされた。……彼女の時は何も言わなかったくせに。どういうこと? と喚いている。

「はーあ。意味わかんねーよな。あ、何飲む?」

 どかっと床に腰を下ろした透夜がすぐに立ち上がろうとしたが、僕はリュックからにゅっと二リットルを取り出す。

「毎回それ笑うわ」
「だって、透夜くんの家の飲み物がぶ飲みしちゃ悪いし」
「気にしなくていいのに。むしろお前用の飲み物、冷蔵庫に確保してあるぜ」
「そうなの?」

 僕から告白して付き合ってもらえただけで、彼は僕のことそんなに好きじゃないはずなのに、透夜は割と気を遣ってくれる。

「冷蔵庫圧迫しちゃって申し訳ないよ」
「それを言うなら、毎回ペットボトル買わせて悪いなって。小遣い余裕ないだろ?」

 コンビニに立ち寄るようになった僕は自慢げに二リットルを突き出す。

「ペットボトルは大きい方が安いから平気だよ」
「それでもチリツモだし……。冷蔵庫のやつ、気にせずガンガン飲めよ」

 チリツモ? 塵も積もればってやつ?

「スイカと桃があるけど。どっちがいい?」
「……? 透夜くん。何か用があって僕を呼んだんじゃなかったの?」

 透夜は「はあ?」と言いたげな顔をする。

「お前と話したくなっただけ」






「なんだよ。怒ったのか?」

 桃をカットしてきた透夜は本日二回目の台詞を吐きながら机に皿をふたつ乗せる。
 部屋の主にケツを向け、ベッドの中に潜っていた。
 近寄ってくると、ぺしっと尻を叩かれる。

「暑くね?」
「何? 透夜くんのにおいを堪能していたのに」
「放り出すぞお前」

 ズボンを掴まれ、ベッドから引きずり出される。
 ぺっと床に転がされた。

「もう! いいとこだったのに」
「何が⁉ 可愛い顔して変態度高いよな東雲お前。俺単純だから他人に対して好き、普通、どうでもいいしかないけど。お前普通以下になりつつあるぞ……」

 高い位置から引いた顔で見下ろされ、僕は彼の足にしがみつく。

「そんな! 電子レンジより好感度稼がなきゃいけないのに」
「だからあれは冗談だって……。好感度稼ぎたいならお前の中に飼ってる変態を封印しとけ」

 しがみついてくる人を振り払うように足を動かされ、ころんと転がった。

「ちょっとベッドに住もうと思っただけじゃん」
「妖怪かお前は。いいから桃食え」

 子猫のように持ち上げられ、机の前に座らされる。小鉢には瑞々しい桃。

「わあ。いい香り」

 むしゃむしゃと桃を頬張ると、透夜はホッと息をつく。

「そうしてるとハムみたいで可愛いのにな。お前……」

 桃を吹き出すかと思った。
 げほぉと咽ながら手の甲で口を押える。

「は、ハム⁉ 食用だと思われてる? 僕」

 いっぱい食べて大きくなれ~とか思われてる?
 皿を持ったまま扇風機の近くまで下がる僕に、透夜はのんきに顎を撫でる。

「いや、いるだろあれ。あの、小さい……。なんだっけ。ハムスター」
「変に略さないで」

 透夜の隣にまで戻る。

「もうっ」
「いやなに人を食人鬼扱いしてくれてんだ」
「イメージ的にはお菓子の家に出てくる人喰い魔女かな。太らせてから食べるやつ」
「一緒じゃねーか」

 でしっと額にチョップをお見舞いされた。好き。

「そう言えば……。ちょっと透夜くんに相談したいことがあって」
「変態の治し方か?」
「そんなこと言うと抱きつくよ?」

 この暑いのに抱きつかれたくないだろう、という考えで言ったのだが透夜は両腕を広げてみせた。

「ヘイ」
「え? ……」

 ふらふらと吸い寄せられる。
 ぎゅうっと逞しい腕に抱きしめられれば、一気に汗が噴き出した。

「……大丈夫か?」
「恥ずかしい」

 腕の中できゃっと顔を覆う。僕が可愛かったのか頭を撫でてくれた。

「いい加減慣れろよ。なーんでいまだにくっつくだけで赤面してんの」
「だって……好きだし」
「そういやお前、俺のこと好きだったな」

 普通のトーンで言われ、がばっと顔を上げる。

「なんで忘れてるの⁉ 酷い。ちゅーしてや」

 言葉の途中で顎を掴まれると、喰らいつくようにキスされる。

「……ぅ」
「んー。桃の味がす……おい! しっかりしろ!」

 ぷしゅーと気の抜けた音がして、腕の中の僕が空気の抜けた風船のようになる。






 気がつけば扇風機の前で寝かされていた。弱でも中でもなく、最強のボタンが押されてある扇風機はゴオォと風を送ってくる。ちょ、キツイキツイ。
 中のボタンを押し、風を弱めてホッと一息。

「あれ?」

 透夜がいない。部屋の中を見回すと、窓の向こうに人の後頭部らしきものが映った。窓を開けて身を乗り出すと、透夜がホースで水を入れているところだった。……ビニールプールに。

「ちょっと待って! また沈める気⁉」
「おわっびっくりした!」

 銜えていたアイスを落としそうになっている。

「おー。起きたか」
「……僕が気絶したから水に落とせばいいって思ったわけ?」
「……」
「なんか言ってよ! 言っとくけど、意識の無い人を水に落とすの危険だからね⁉」
「……」
「透夜コラ! こっち向け」

 彼みたいに窓から出ることはできないので、靴を履いて庭を回ってくる。
 青空に雲が浮かんで、火傷しそうなほど熱い。
 水面は眩しいほど太陽の光を反射している。
 目元を手で覆い影を作る。

「せめて帽子ぐらい被りなって」
「さっき呼び捨てしただろ?」
「ん?」
「ずっと呼び捨てでいいぜ? 透夜くんってキモいし」

 悪戯っ子のように笑う彼の足元でしゃがむ。

「そう?」
「そうそう。でさ、お前もアイス食えよ。好きなの持ってきていいぜ? バニラとえーっとイチゴがあったはず」
「で、このプールは何?」
「お前を突き落とす用」
「ちょっと?」
「へはっ。冗談だって。足湯みたいにすればいいかなって」

 水で満タンになると蛇口をひねり、ホースをそのままにしてプールを縁側の部屋まで引きずって行く。

「破けるよ」
「重い。そっち持って」
「重いいい!」

 二人でぽたぽた水をこぼしながら運び、どすんと縁側の下に置く。

「いらん汗かいた……」

 縁側で項垂れている僕を放置して、持ってきた新品扇風機を和室のコンセントに差し込む。ちょっと距離があるが、風は届く。
 ついでに持ってきた二つの箱を僕の前に置く。

「どっちにする?」
「は? ……アイスの気分じゃないんだけど」

 透夜の頭上にハテナが浮かぶ。

「アイスノキブンジャナイ?」
「そんな初めて聞いた言葉みたいな。透夜くんと違って人類は夏場、食欲落ちるんだよ」
「――ッ⁉」
「告白した時より驚いた顔しないで! 今までの彼女たちもそうだったでしょお?」
「ダイエットしてるって言ってた」
「……うん。じゃあ僕もダイエットしてるからいらない」

 アイスの棒を咥えたまま箱を冷蔵庫に仕舞いに行く。
 靴と靴下を脱ぐと、ちゃぷっと水に足を入れた。ひんやり冷たい。

「ほう」

 ここまでしてようやく、クーラーがなくてもギリ耐えられそう。
 太陽を見上げていると、じわっと汗がにじむ。
 隣に座った透夜もサンダルを脱ぎ捨て、足を水に浸す。手には赤いアイスキャンディー。プールがあるからだと分かってはいるが、彼が当然のように横に座ったのが、なんだか嬉しかった。

「まだ食べるの? アイスは一日一本までって言ったでしょ?」
「これ三本目」
「余計駄目だよ!」

 取り上げようと手を伸ばすも、腕を上げて躱される。

「いいじゃん暑いんだし。一口いる?」
「……」

 まあ、一口ぐらいなら。
 がじっと歯を立てて先端を齧り取る。シャリシャリして甘い。

「おいし」
「お前がアイスいらないってことは、今日はセックスしないんだな」

 口からアイスが飛んでった。

「もしかしてさっきの、せ、セックスの誘いだった、の?」
「えー? まあ。お前特殊なプレイ好きじゃん? 縛ったりケツからアイス食わせたり」
「言ってよ! 分かりにくいよ。セックスの誘い断っちゃったじゃん」
「気分じゃないんだろ?」
「アイスのね! 僕は家に呼ばれたらいつでもできるように準備してる」

 むっと膨らむと顔を逸らされる。小刻みに震えているので笑っているのだろう。

「真面目に言ってるの」
「わりぃ。お前なにしてても顔がンフッ可愛いから」

 そっと自分の顔に触れた。

「僕の顔、そんなに可愛い?」
「お前の家の鏡全部割れてんの?」
「そうじゃなくて……」

 寄りかかると肩を抱いてくれる。

「ヤりたくなってきた?」
「ん……。キスしたい」

 透夜は躊躇するような表情になる。胸の奥にチクッと痛みが走った。

「やっぱ、男とのキスは抵抗ある?」
「また気絶したらどうしようって思って」

 ああそっちかい! そう言えば倒れたんだった。
 グッと拳を握る。

「大丈夫! いまは大丈夫。さっきのは不意打ちだっただけだし」
「口ゆすいでこようか? イチゴ味になるぞ」
「いいよ別に」

 顔を見合わせ……沈黙。

「どっちか目ぇ閉じねぇ?」
「やだ。僕は透夜くんの顔を見ていたい」
「挿れる側を譲ってやったじゃん? 今回は俺の……」
「やだ!」
「俺のこと好きな割に譲らないなお前よぉ」
「好きだから我慢しない!」
「ちょっと待って。アイス溶けてきたわ」

 舌を出して溶けて落ちそうな赤い滴を舐め取る。

「なんか、えっちだね」
「はあ……」

 後頭部を掴まれると、口に唇が押しつけられる。

「んわ」

 いきなりでびっくりするじゃん! と文句を言う前にじわっと広がるイチゴの甘さ。

「ん……」

 彼の服を握りしめる。目を閉じて、くれているんだろうけど、近すぎて見えない。
 唇を吸われる。
 自分から口を開くと、透夜の舌が入り込んでくる。
 ぬるっとしていて、甘くて、冷たい。

「っふ……」

 どんなデザートよりも美味しい。

 目を閉じて味わう――

「ただいまー。いやぁ、あっついなー」

 玄関の扉が開き、誰かが入ってくる。

「ふぐうううっ⁉」

 ビクッと心臓が跳ねた。
 僕は慌てて離れようとするが、透夜の腕が頭を掴んだまま放してくれない。

「ふぐっ」
「ん――? うるせぇなあ。俺はまだしてたい気分なんだよ」

 それはとっても嬉しいけど。誰か帰ってきたけどいいのっ?
 目をぐるぐるに回す僕をアイス持った腕で抱き締め、より深く口づけする。

「ぁ……ん」
「ん……」

 背後でぽたっと、滴が落ちる音がする。
 ざっと襖が開いた。

「なんだ。誰かいるのか? っお、ッオお、おう!」

 誰かが飛び上がった声と音がする。
 ぼんっと襖が閉まる。

「とうや……くん。いいの?」
「何が?」
「……」

 家族に見られても平気なタイプかぁ。
 指のところまで下がってきたアイスを一気に食らいつくすと、棒はゴミ箱に投げる。

「それよりお前ももっと舌、絡ませろよ」

 ひゅえっ⁉ し、舌。

「どう動かせばいいか、わか、わかんなくて」
「てきとーでいいから。とにかく動け」
「う、うん」
「じゃあ、もう一回……」

 透夜がその気になってくれたことが嬉しくて、僕から唇をつける。でも何か忘れているような――
 気持ちいいからいいや。

「おう透夜。今度はえらくボーイッシュな彼女だな」

 庭から声がした。驚いて声の方を向くと……透夜二号としか言えないような男性が立っていた。アイスを齧りながら。

「え……っと?」

 目を白黒させる僕に対し、透夜が見せたのは邪魔者を見る目だった。

「取り込んでるから消えろ」
「言うね。つーかちょっと見せろよ。俺、ボーイッシュな娘好きなんだよ」

 サンダルを蹴とばし、ばしゃんとプールに入ってくる。
 透夜二号は身を屈めるとまじまじと僕の顔を覗き込む。

「へえ? いいじゃん。ねえ、きみさ。こいつに飽きたら俺と付き合おうよ」

 手を取ると、手の甲にちゅっと口づけされた。

「ほえっ⁉」

 同じ顔なのでつい頬を赤らめてしまうが――二号は透夜に蹴られると背中からざぶんと沈んだ。

「ぶはあっ! 何しやがる! 透夜てめ」
「……」
「無言やめろ。怖いから」

 ぎろっと身内を睨む。

「俺は食い物と彼氏取られるのがいっっっちばん嫌いなんだよ!」
「知ってるよ。バ―――カごぼおごぼごぼ」

 真面目に二号を静めだした透夜の肩を掴む。

「犯罪駄目! この人は? 兄弟とか?」
「俺の兄貴。双子の」
「ぶはあっ! このクソ弟が……え? 彼氏?」






 二号は森夜(しんや)と名乗った。透夜の五分半年上のお兄さんなのだという。
 雨に打たれたかのように濡れたため三人纏めて着替えて、縁側でくつろいでいる。

「東雲かぁ。名前まで可愛いじゃん。ねえねえ。しのちゃん。こいつやめて俺と付き合おうよ」

 しのちゃん。
 かなり距離の近いお人なようで、両手をがしっと握り締めてくる。
 間髪入れずに透夜の肘が脳天に落ちた。

「いってえ!」
「気安く触れるな。どけ」

 兄を蹴とばし、僕を庇う位置に座る。……その手には四本目のアイスの袋が。流石に没収した。

「アイス食いすぎ!」
「あーもう。返せよ。こいつ」

 苛立った様子なのでまたチョップされるかも……と目を閉じたが、みよーんと頬を伸ばされた。

「えふ?」
「まぬけ」

 ちゅっちゅっと唇とこめかみにキスされる。

「……嬉しい」
「はい隙ありー」
「ああっ」

 ぽわんとなった隙にアイスの袋を引っ手繰られる。

「ずるい! それはずるい!」
「うっせーな。口塞ぐぞ」
「え? どうぞ」
「……」

 口を3にして待機してると、アイスを飲み込んだ透夜が顔を近づけてくる。
 ちゅうっと吸いつかれる。今度はバニラの風味がした。

「ありがとう」

 照れた笑みでうつむく僕の頭を、アイス半分を一口で齧った透夜が雑に撫でる。

「かわいーな。お前」
「だって……」
「はいはいはーーーい。いちゃつくなてめえら」

 割って入ってこようとするが、弟の肘で阻止される。

「お兄様の顔を肘で押すなゴリラ!」
「引っ込んでろモヤシ」

 確かに透夜の方が体格は良いが。仲の良い兄弟のようだ。
 ぽこぽこ殴り合っていたが結局体格で負けている森夜が泣きながら退散した。

「透夜のあほー!」

 片手の弟に負ける兄の図。

「ったく。ガキがよ」
「可愛いお兄さんだね」

 二口でアイスを食べきった透夜はため息をつく。

「あいつ昔、身体弱かったから。支えてやりたくて身体鍛えたんだよ。だからあいつの方が、可愛くは無いけど、華奢なんだ」
「……」

 兄弟とは言え、透夜に大切にされている相手がいると思うと面白くない。
 それがモロ顔に出ていたようで、透夜が吹き出す。

「おまっ……そんな分かりやすンッフフ」
「……むすー」
「はいはい。お前が一番可愛いって」

 ちょっと違うけど透夜の笑顔が見れたからいいや。
 肘で透夜の胸板をうりうりとつつく。

「さっき『気安く触るな』とか言ってくれたの嬉しかった。やきもち? やきもち?」
「急にうざくなるじゃんお前……」

 投げてゴミ箱に棒を放り込む。が、入らなかったので拾いに行く。

「はいはい。やきもちだよ。俺、付き合ってる相手を触られるのすげーヤなんだよ。森夜じゃなかったら腕へし折ってるわ」
「僕にもやきもち焼いてくれたんだ」

 わーいと素直に喜ぶ。

「あーあ。そんなはしゃがれると可愛いと思ってしまうわ」
「え?」
「おい」
「へ?」
「抱きしめさせろ」
「……」

 ぴたっと動きの止まった僕の頬が赤くなっていく。

「僕、電子レンジ以上になれた?」
「いつまで気にしてんだそれ」
「おーい! しのちゃん! バカ透夜! 桃鉄やろうぜ」

 スキップしながらゲームカセットを持って戻ってきた森夜。僕を抱き締めようとしていた男から舌打ちが聞こえる。

「東雲。部屋で待っててくれ。明日ごみの日だから袋に詰めてくる」
「だめだめだめ」
「あーん? しのちゃん独り占めすんなよお前!」
「独り占めってか……俺のなんだよ!」



 
 相談したいことあったんだけど。
 長くなりそうなので喧嘩が終わるまで、プールで遊んでおいた。









【おしまい】
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