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3A 峡谷転落者を救助

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 A-1  不良と喧嘩
 A-2  峡谷転落者を救助 写真撮影中に転落
 A-3  高官誘拐 政府の高官誘拐 救出
 A-4  彩華が原因の喧嘩 中学時代に会った奴と喧嘩
 A-5  基礎能力に制限 人間が相手の時に制限


  A-1  不良と喧嘩

彩華と祥生(ヨシオ)は、暫らく雑談の後、その喫茶店を離れた。
彩華を駅まで送り、祥生が本屋の方に歩いていると、知らない男達に声を掛けられた。
「そこの男、ちょっと待て。」
男達の顔を見たが、祥生には見覚えが無い
「何か用事?」
「ちょっと付き合え、話がある。」
「君は誰だったかな?」
男の顔を、再び見てみたが、やっぱり見覚えが無い。
「彩華に絡んでいるのは、お前だったな?」
「彩華とは友達だけど、それが何か?」
コイツは何だ?  疑問に思いながらも、そいつの問に祥生は答えた。
「彩華から離れろ。」
「友達だからね、会えば話はするよ。」
「それを、止めろと言っている。」
こいつは、彩華と何が有るのか、やたら、しつっこい。
「意味が分からないんだけど。」
コイツの言う事は、どう考えても理不尽である。
「何でも良いから、彩華と話はするな。」
「彩華に言って呉れるかな?」
「生意気な奴だ。一発かましとけ。」
それを聞いて、祥生の横に居た奴が、突然殴り掛かった。祥生は、素直に腕で払う。他の男が祥生の腕を取りに来る。祥生は、それも振り払う。
「くそめがっ。」
後の奴の蹴りが来る。前に居る奴が腕を掴む。
「面倒くさい奴等だ。どうしたものか?」
 祥生はそう思ったが、相手は離さない。
やむを得ないか?  祥生は、蹴って来た奴の足を、左腕ではね除け、もう一人の奴の手を、少し引く。相手の右足が一歩出る。その出足を祥生の足が払った。その男は、一瞬宙に浮き地に落ちた。
「ぎゃ、いてっ。」
「じゃあ、失礼するよ。」
祥生は、そいつ等を無視して、そこを去ろうとした。
「何をしやがる。皆んな掛かれ。」
「全く、しつこい奴だな?、手加減は出来ないよ。」
その後は、回し蹴り、飛び蹴り等、多種多様の攻撃に、襲われる。
しかし、祥生には、そんな技は届かない。危険が及べば、天翔流の奥義が起動する。そして勝手に体が動く。後からの攻撃でも感知する。
「それで、話は何だったっけ?」
「うるさい。皆引け。覚えておれ。」
捨てゼリフを残して、奴等は路地奥に消えた。

その山雅祥生には、妙な能力が存在する。人間の対する保護能力である。
自分の身体は、自然に護れる。ある範囲内なら、他人の身体も護れる。
これ等は、基礎能力だが、特殊能力としては、妖能力が有る。これは追々説明する。祥生達には、二重も三重もの保護機能が働いて居る。


 A-2  峡谷転落者を救助

次の夏休み、彩華と祥生は黒部峡谷に来て居る。二人は、峡谷の上の観覧席で、弁当を食べて居た。そこは、谷の巾が狭く、下は急流である。しかし、左の方には、岩の裂け目が有り、水が澱んでいる所も有った。
「あれっ、人が泳いで居る。」
彩華は、川の流れを見ていたが、そんな事を言う。
「嘘!この辺りの水温は、4度ぐらいしか無いんだよ。」
祥生が、谷を覗いてみると、確かに人の頭が水面に見える。
「あれは、泳いでいるんではない、岩の斜面から落ちたんだ。普通の服を着ている。」
おそらく、柵を出て、写真を撮ろうとしたのだろう。その時、いずれかが足を滑らせた。それを助けようとして共に落ちた。多分そんなところだ。
「彩華、山小屋に行ってロープを借りてきて。僕は左の斜面から水際に下りる。」
「分かった。山雅さんまで、落ちないでよ。」
「僕は大丈夫。」
祥生は、登山もするので、そんな事には慣れている。左の斜面を下って行くと、谷の澱んだ辺りの水際に下りる。その時、祥生は女の子が沈んで居るのを見つけた。帽子だけが、浮いている。
「女の子が沈みそうだ。気を付けて。」
少年は、何とか少女を引っ張り、流れの澱んだ方に移動した。
もし、流されて居たら、助けようが無かった。
ただ、多少流されて、裂け目の向こう側の岩肌に、辛うじて掴まった。
「大丈夫ですか?」
「水が冷たくて痺れそうです。」
そこまで約十数米、ローブが無いと助けられない。いざとなれば、祥生も飛び込む積りだが、4度の水では相手に負担が掛かる。しばらくして、彩華が帰って来た。
「山小屋にはロープが無かった。」
「嘘! こんな所の山小屋に、ロープも無いって?」
こんな峡谷の山小屋に、ロープも無いとは、信じられない状況である。
祥生は、自分のリュックの中を探った。何か紐が有る。何米かの細引である。断念ながら、これでは足りない。
「彩華、何か紐は無いか、これでは足りない。」
「一米ぐらいの物なら有るわよ。だけど余り強くは無いよ。」
二本たしても全然足りない。
「早くして下さい、肘まで痺れて来た。」
向こう岸の少年が、急かしている。祥生は覚悟を決めた。上着を脱いで、水に飛び込んだ。そして、向こうの岩肌に向かう。余りやりたくないのだが、妖力を使うしかない。
「胴体に、しがみついて下さい。少し潜りますので息を吸って下さい。」
祥生は、妖力を起動して、二人を水中に連れ込んだ。この場合、水の冷たさは二人にも届かない。上から見えにくい様に三メートル程潜り、対岸に辿り着く。これで妖力自体は隠せる。
「彩華、二人を引っ張り上げてくれ。」
「大丈夫ですか、上に登れますか?」
「有り難う。助かりました。」
四人は、上の観覧用広場に登り、暖を取る。暫くして警官が現れた。
警官に説明をして、彩華と祥生は、そこを離れた。
「山雅さん、よく助けられたね?」
「少しインチキをした。妖能力を使った。」
「妖能力って何?」
そうだった。彩華には、まだ言っていなかった。
「基礎能力を強くして、範囲も広げた様な感じかな?」
「私も使える様になるかな?」
「そのうち使える様になる。」


 A-3  政府高官誘拐

そんなある日、さる秘密組織から、連絡が届いた。
「ある国で、政府の高官が人質になりました。救出をお願いしたいのですが?」
「又人質ですか?  どのくらいの時間的余裕が有りますか?」
「多分、交渉の積りでしょうから、直ぐに命は取らないと思います。」
祥生の仕事は、緊急性の高い案件が多く、そんな場合は、組織の交通手段を使う。この組織は、大小合わせて、二十数機の航空機を持っている。
今回の場所は、日本からは遠い。組織の交通手段でも、半日はかかる。
「今夕に、出発出来ますか?」
「大丈夫です。17時に、いつもの所で待ちます。」
その後、組織の車で神戸空港に向かう。組織の専用機に乗り、現地に着いたのは、翌日の朝になった。現地に着いて、祥生は担当者と話している。
「大分早いので、少し偵察をして来ます。夜に紛れて動きます。」
「人質の居場所を探って置きました。この地図を見て置いて下さい。」
「有り難うございます。その地図で作戦を立てます。」
祥生は、その日の夕方、少し薄暗くなってから動き始めた。祥生は、現地人の服を着て、目的の建物に近付いた。そして、見廻りが通り過ぎるのを待つ。見廻りが建物の陰に消えた。祥生は直ぐに、床下に潜り込み、床下から妖視で覗く。
「居た。誘拐された高官だ。」
ここからは、他保護能力を起動する。妖力でも可能だが、普通は基礎能力で済ませる。ここの場合は他保護能力を使用する。

他保護は、基礎能力の片方だが、他の人間を護る力がある。その範囲に居る限り、人間もその他の知性体も命は護られる。しかし、他保護モードの時は、攻撃力が全く無い。これは敵も味方も同様である。その範囲の半径は10米である。

祥生は、隣部屋の床に穴をあけ、高官の側に寄る。そして、直ぐに顔認証を行った。間違いはない、高官当人だ。
「逃げますよ。これを羽織って下さい。」
「私は助かるのか?」
「その積りです。私の側を離れない限り、命は保証します。」
祥生は、逃げる方向を定めたが、別方向の基礎壁を抜いて置く。そして、逃げる方の基礎壁を拔く。
「なんだお前は?」
破った壁の先に兵士が居た。祥生は黙って、その足を刈る。そいつは地に這う。
「曲者だ、皆んな出て来い。」
わらわらと敵兵が出て来た。祥生は保護膜を展開する。その膜に実態は無いのだが、祥生の他保護範囲内に、黒い層を造る。他保護範囲の限界近くに、光の遮断層を造るのだが、祥生の能力を、遮断層の力と誤魔化せる。
他保護は、人間を傷付ける事は出来ないが、押し除ける事は出来る。
「もう少しですので頑張って下さい。」
「分かった。頑張る。」
敵は、無茶苦茶、銃を撃って来たのだが、祥生達には届いていない。
祥生が他保護モードを発動すれば、その範囲に来た瞬間、弾は消滅する。火花も散らない。敵から見れば、弾は当たっていない。
「抜けましたね?  今日はついて居ます。いつもは、もっと戦闘になるのですが。」
「助かったのか?」
「もう大丈夫でしょう。助かると思います。」
「あんなに撃たれているのに、何故当たらないのだ?」
「周りに張った黒い膜のお陰です。私達の特殊服も機能が有ります。」
そのまま雑木林の中を、組織のアジトへ向かう。それから十数分歩いて、組織のアジトに辿り着いた。
「この人の確認をお願いします。」
組織の担当者は、ある機械を取り出し、その人の指を当てる。
「大丈夫です。指紋認証を行いました。」
「あ、服は返して貰いますね?  グループの、備品ですので。」
祥生は、その様に言ったが、服には何の機能も無い。組織の人間にも、バラせないないので、回収をして置く。
その組織は、直ぐにアジトを畳むと言う。その車に祥生も便乗した。


 A-4  彩華が原因の喧嘩

「山雅さん、又休んだわね?」
「ちょっと用事が有ってね。」
「何か、やばい雰囲気なんだけど、大丈夫なの?」
「まあ、身体に異常は無い。」
彩華は、もう一つ納得出来ない顔をしている。
「ふーん、大丈夫なら良いんだけど。今度の日曜日、時間は取れる?」
「日曜なら取れるよ。」
彩華は、妹と買い物をする。ついでにお茶を飲みたいと、妹に頼まれた。
どうせ、お茶を飲むのなら、祥生を紹介したいと、彩華は思った。
「ついでに、妹を紹介するわね。」
「妹の歳は幾つだったっけ?」
「私より二学年下。今は中学二年生。」
次の日曜日、祥生は街の繁華街に出た。彩華と、街の喫茶店で待合わせをしている。
「おはよう、早かったわね?」
「まあ、何とか。」
「紹介するわね。この子が妹の彩菜。」
「あっ、写真のお兄さんだ!」
彩華の妹は、祥生の顔を見るなり、そう叫んだ。
「彩菜、いらない事は言わないの!」
「だって、前から写真が有ったもん。」
彩華と祥生は、中学校時代からの友達である。写真が有っても不思議では無い。まぁ、二人の関係は、微妙なところに有る。
「姉妹共、雰囲気が良く似てるね?」
「私、写真以外でも、お兄さんを知ってるわよ。」
「何処かで会ったかな?」
「二度程、喧嘩を見たもの。」
確かに祥生は喧嘩が多い。相手の思惑通りに動かないので、喧嘩になる。
三人は、しばらく雑談をして喫茶店を出た。彩華達が買い物に行くと言うので、祥生も付き合っている。その途中、数人の少年達とすれ違った。
「おい、彩華じゃないか?」
一人の少年が、彩華に声を掛けた。彩華は、きょとんとしている。
「誰だったっけ?」
「中学の時に、声を掛けただろうが?」
彩華は忘れて居たのだが、中学二年の頃、友達に紹介された。付き合いたいとの話だったが、彩華の好みではない。彩華は断わり、そのまま忘れて居た。
「そうだっけ。会った様な気もするんだけど?」
「そんな事は、どうでも良い。ちょっと付き合え。」
「付き合えないわよ。買い物の途中だし。」
「うるさい。愚図々々言わずに、俺達と来い。」
取り巻きらしい奴が、彩華の手を掴んだ。その時、妹の彩菜が動いた。
「お姉ちゃんに、何をするのよ?」
そう言うなり、その腕を捻る。そして浮き足を払う。そいつは、頭から地に落ちた。
「ぎやっ。」
「何だ、この女は?」
男の一人が、彩菜に向かう。それを彩華が防ぐ。彩華は、向かって来た男に、背負いを掛けた。
「ぐっうー。」
彩華も彩菜も、特殊な戦闘術を習っている。それは柔闘術と言い、古武術の一種で有る。武道に心得の無い者は、相手にならない。祥生は黙って、それを眺めていた。三人程を倒され、男達は恐怖した。奴等は、倒れた奴を助け起こして、路地の奥に消えた。
祥生は、彩華と彩菜の二人に、人には無い気配を感じた。
「伝染ってしまったのか?」
祥生には、妙な能力が有った。それは、他人に伝染る事が有る。
祥生の場合は、父親から伝染った。ある程度の精神的な繋がりで、感応するらしいのだ。彩華と彩菜には、同じ匂いがする。
彩華には、中学の頃に伝染っている。本人には言って居ないのだが、祥生の観察では、そうなっている。それが彩菜にも伝染った。
伝染ったと表現をすると、病気の様な感じを受けるが、病気では無い。
後日、彩華に説明して見よう。その反応を見てから考える。
「山雅さんも働きなさいよ。」
「うん、あまり喧嘩は好きでは無いんだけど。」
「嘘だよ彩菜、山雅さんに喧嘩は付き物だよ。」
「彩菜ちゃんも強いな?  真面目に柔闘術をやってるね?」
「私は真面目だよ。勉強も真面目にしてるよ。」
「それは頼もしいな。今後共よろしくね?」
その後、彩華の買物を付き合い、祥生は本屋に向かった。


 A-5  能力の制限

翌日の放課後、彩華と祥生は、お茶を飲んでいる。
「山雅さん、あいつ等に絡まれたって言ってたね?」
「あいつ等には、本屋へ行く途中で絡まれた。」
この前に絡まれた時は、話が理解出来なかった。今回やっと納得できた。
あの男達は、彩華が欲しかったので有る。しかし、望みは薄い。
「山雅さん、気を付けてね?  私のお陰で苦労をさせるけど。」
「気にしなくて良い。僕は慣れているから。」
「そうだよね。山雅さんは、喧嘩の経験が多そうだからね?」
「僕達の喧嘩は、攻撃が制限されるから、懲りてくれないんだよな?」
「どう言う事なのよ。意味が分からない。」
そうだった、まだ彩華には話していなかった。
口に出してしまった以上、説明するしか無いのだが、どう説明すれば良いのか? やむを得ず、祥生は説明を試みた。祥生の能力の機能と、その能力が感染する事を話した。
「その能力が付くと、こちらの命は護られるが、相手の命も取れない。」
殴っても蹴っても打撃力が制限される。つまり、相手に致命傷は無い。
大怪我をする程の打撃が出来ない。それでも、ある程度の攻撃は出来るので、逃げ道の掃除ぐらいは出来る。
「そんな事になっているのか?  感染ったと言われたから、病気に掛かったのかと思った。」
「いや、病気ではない。むしろ、毒もウイルスも、殆んど効かない。」
「妹の彩菜はどうかな?」
「多分伝染っている。雰囲気が彩華と似ていた。もう少し観察する。」
「気を付けて置くわ。」
この能力は、種族保存が原点に有り、人間を殺す事は出来ない。攻撃しても、衝撃が自動的に緩和される。この手の能力が有れば、敵味方の双方に大怪我は無い。
「だから、喧嘩の相手に気を使う必要は無い。自然に制限される。」
「投げても驚かすだけになるのか?  それが自分の生命の代償かな?」
「そうとも言えるな?  他人保護の場合は、完全に制限される。」
「他人保護って?」
「他人の命を護る能力。」
この場合、半径10米の範囲迄護れる。これは、一度調べる必要が有る。伝染らない場合も有る訳で、能力が有るか無いかは重要なのである。
「そうか、それは調べて置く必要が有るわね?」
「一番困るのは、有る積りの能力が無かった時だ。」
「どうなるのよ?」
「護る積りが、護れない事になる。」
他保護を持った積もりで、それが無かったら、保護するべき人が怪我をする。場合によっては、死に至る。
これは、非常に困った事態になる。早急に調べて置かねばならない。
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